シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

文字の大きさ
66 / 262
獣人の国・オーギュスト国からの使節団〜ニャンコ王配殿下の焼きたて手作りパン

ネコの王子様

しおりを挟む
 
 ひととせもやがて暮れる。
 ハァッと鉛色の空を仰ぎながら吐いた息が白い。
 ここよりずっと北にあるシャルロットの母国ほど雪も積もらず寒くはないとは言え、とても冷える真っ昼間。
 フードが付いたポンチョ型のマントを深く羽織り、手袋をつけてクロウと共に庭を歩いていた。

 シャルロットが編んだ緑色の小さい犬用のセーターと靴下を身に付けたチワワのクロウは嬉しそうに庭を駆け回ってる。

 料理は得意だが、手芸や編み物はやや苦手だったシャルロット。
 刺繍を教えるお城の家庭教師に教わって、習作にクロウのセーターと靴下を編んだのだ。

「やっぱり先生が作るものより雑よね」

「そんなことないよ!可愛いよ」

 なんとか形になったものの、見栄えが悪い。
 それでもクロウは嬉しそうだった。

 急に編み物を始めたのも、先日のビオラからの妊娠報告がきっかけだった。

「シャリーお兄様がまさか超スピード婚に出来ちゃった婚なんて……。今頃、書簡が実家に届いた頃かしら?お兄様とお父様と爺やが腰を抜かしてひっくり返ってるわ」

 シャルロットとグレース皇子の婚約式が終わった後、父母と一緒にさっさと帰国してしまった右王シャリー。
   ビオラの妊娠もまだ知らないだろう。

 前世の世界では割とあった事だが、この世界では異例だろう。
 そもそも身分が高いほど恋愛結婚自体が少ないのだ。

 シャルロットとグレースの結婚に際しても婚約に至るまでに半年かけており、結婚式はグレース皇子が成人を迎える春に行われる予定だ。

「産まれて来る赤ちゃんもきっと男の子で双子よ。靴下と帽子とお包みを編んで贈りたいのよね。私の国は冬が長いから…。今から取り掛かれば、私でも完成できるわ」

 シャルロットは意気込んでいた。

「あっ、母さん、父さん」


 庭園を出たところで私服姿のユーシンと出会った。
 腕には野菜を手にしている。

「ユーシン、どうしたの?」

 騎士団は新年恒例の長期休暇期間らしい。

「今日は第二騎士団で新年会をやるんだよ。毎年恒例の餃子パーティー!母さん達も来る?」

 *

 シャルロットとクロウはユーシンの後に続いて第二騎士団の食堂へやってきた。
 みんなラフな私服姿で、昼間なのに酒を飲んでいる者までいる。
 とても賑やかだった。

「小さい餃子ね、可愛いわ」

 アヴィやリッキー達、若い騎士らが総出で餃子を包んでいる。

「真珠餃子っていう中国の餃子だよ、スープに入れて食べるんだ。前世は仕事で中国に長期滞在してたんだ。下宿先では春節に毎年食べてたっすよ」

 ユーシンは言った。

「まあ、そうなの。水餃子なんて初めてだわ」

「本場は水餃子が主流すよ。材料も超シンプルに刻んだキャベツにひき肉だけ!第二騎士団のみんな餃子が大好きなんですよ!」

「まさか、この世界で中華料理が食べられるなんて思ってなかったわ」

 ユーシンは厨房でスープを作っていた。
 そんなユーシンの隣で、シャルロットは鍋を見つめていた。

 食堂では騎士達が和気藹々とカードゲームをしている。

 トランプをしているようだ。この世界では“プレイングカード”という名称らしい。
 ゲームのルールは知らないが、使用しているカードは前世のトランプと変わりはなかった。

「せっかくだから賞品をつけたいな」

 コハン団長が腕を組み考え始めた。
 そしてなにかを閃いた。

「勝者には“シャルルさんとの年末デート権”なんてどうだ!?なぁ、シャルルさん」

「ええ!?私?」

「グレース皇子に殺されちゃいますよ?」

「皇子なら賓客対応でいないし」

「わぁーい、シャルルさんとデート!」

 ガヤガヤと騒がしくなる食堂。
 騎士達は皆喜んでいる。
 その中でクロウはキャンキャン吠えて抗議した。

「シャルロットは私の奥さんなの!勝手に賞品にしないでっ」

「チワワは黙ってろ~」


(……ちょうど城下町に出たかったし、今日は第1騎士団もお休みで護衛を頼めなかったから、ちょうどいいかな?)

 シャルロットはのんきに考えてオッケーを出した。

「ビリの野郎は一週間一人で風呂場と厠掃除当番だ!よーし、やるぞ!」

 男達の真剣勝負が始まった。
 呆然してるシャルロットに、ユーシンが出来立ての温かい餃子スープを差し出した。

「どうぞ、召し上がれ」

「ありがとう!」

 スープには餃子が二つ入ってた。

「新年に食べる餃子はスープに入った餃子の数で運勢を占うんです。一つなら順風満帆、二つならおめでたい事が起きる、三、六、九つでさらに出世する、四つは金運上昇、五つなら豊作って意味があるんっすよ」

「まあ、幸先が良いわね」

 シャルロットはスープを食べた。

「ふう~、あったまるわ~、鶏肉のお出汁が効いてて美味しい!餃子もモチモチしてて食感がいいわ」

 向こうではカードゲームに熱中する騎士達。
 食堂の端っこでシャルロットはユーシンと二人はまったりと餃子を食べていた。


 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

若返った老騎士の食道楽~英雄は銀狼と共に自由気ままな旅をする~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
あるところに、数百年周期で現れる魔王がいた。 人族から生まれ、闇に魅入られし者、妖魔を統べる魔王と呼ばれる存在。 度々現れては、人々を恐怖のどん底に貶めてきた。 此度、その魔王との戦いに終止符を打った男がいた。 名をシグルド卿といい、六十歳を迎えた老人の男だ。 元平民にも関わらず、爵位を得て史上初の将軍にまで上り詰めた英雄である。 しかし、魔王と一騎討ちの末に相打ちになった……と世間では言われていた。 当の本人は実は生きており、しかも若返っていた。 そして自分が生きていることが知られると、色々と面倒なことになると悟った。 それにどうせなら、自由の身になって世界を旅したいと。 これは役目を終えた英雄が旅をし、様々な人と出会い、美味い物を食べていく物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。

処理中です...