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獣人の国・オーギュスト国からの使節団〜ニャンコ王配殿下の焼きたて手作りパン
ネコの王子様
しおりを挟むひととせもやがて暮れる。
ハァッと鉛色の空を仰ぎながら吐いた息が白い。
ここよりずっと北にあるシャルロットの母国ほど雪も積もらず寒くはないとは言え、とても冷える真っ昼間。
フードが付いたポンチョ型のマントを深く羽織り、手袋をつけてクロウと共に庭を歩いていた。
シャルロットが編んだ緑色の小さい犬用のセーターと靴下を身に付けたチワワのクロウは嬉しそうに庭を駆け回ってる。
料理は得意だが、手芸や編み物はやや苦手だったシャルロット。
刺繍を教えるお城の家庭教師に教わって、習作にクロウのセーターと靴下を編んだのだ。
「やっぱり先生が作るものより雑よね」
「そんなことないよ!可愛いよ」
なんとか形になったものの、見栄えが悪い。
それでもクロウは嬉しそうだった。
急に編み物を始めたのも、先日のビオラからの妊娠報告がきっかけだった。
「シャリーお兄様がまさか超スピード婚に出来ちゃった婚なんて……。今頃、書簡が実家に届いた頃かしら?お兄様とお父様と爺やが腰を抜かしてひっくり返ってるわ」
シャルロットとグレース皇子の婚約式が終わった後、父母と一緒にさっさと帰国してしまった右王シャリー。
ビオラの妊娠もまだ知らないだろう。
前世の世界では割とあった事だが、この世界では異例だろう。
そもそも身分が高いほど恋愛結婚自体が少ないのだ。
シャルロットとグレースの結婚に際しても婚約に至るまでに半年かけており、結婚式はグレース皇子が成人を迎える春に行われる予定だ。
「産まれて来る赤ちゃんもきっと男の子で双子よ。靴下と帽子とお包みを編んで贈りたいのよね。私の国は冬が長いから…。今から取り掛かれば、私でも完成できるわ」
シャルロットは意気込んでいた。
「あっ、母さん、父さん」
庭園を出たところで私服姿のユーシンと出会った。
腕には野菜を手にしている。
「ユーシン、どうしたの?」
騎士団は新年恒例の長期休暇期間らしい。
「今日は第二騎士団で新年会をやるんだよ。毎年恒例の餃子パーティー!母さん達も来る?」
*
シャルロットとクロウはユーシンの後に続いて第二騎士団の食堂へやってきた。
みんなラフな私服姿で、昼間なのに酒を飲んでいる者までいる。
とても賑やかだった。
「小さい餃子ね、可愛いわ」
アヴィやリッキー達、若い騎士らが総出で餃子を包んでいる。
「真珠餃子っていう中国の餃子だよ、スープに入れて食べるんだ。前世は仕事で中国に長期滞在してたんだ。下宿先では春節に毎年食べてたっすよ」
ユーシンは言った。
「まあ、そうなの。水餃子なんて初めてだわ」
「本場は水餃子が主流すよ。材料も超シンプルに刻んだキャベツにひき肉だけ!第二騎士団のみんな餃子が大好きなんですよ!」
「まさか、この世界で中華料理が食べられるなんて思ってなかったわ」
ユーシンは厨房でスープを作っていた。
そんなユーシンの隣で、シャルロットは鍋を見つめていた。
食堂では騎士達が和気藹々とカードゲームをしている。
トランプをしているようだ。この世界では“プレイングカード”という名称らしい。
ゲームのルールは知らないが、使用しているカードは前世のトランプと変わりはなかった。
「せっかくだから賞品をつけたいな」
コハン団長が腕を組み考え始めた。
そしてなにかを閃いた。
「勝者には“シャルルさんとの年末デート権”なんてどうだ!?なぁ、シャルルさん」
「ええ!?私?」
「グレース皇子に殺されちゃいますよ?」
「皇子なら賓客対応でいないし」
「わぁーい、シャルルさんとデート!」
ガヤガヤと騒がしくなる食堂。
騎士達は皆喜んでいる。
その中でクロウはキャンキャン吠えて抗議した。
「シャルロットは私の奥さんなの!勝手に賞品にしないでっ」
「チワワは黙ってろ~」
(……ちょうど城下町に出たかったし、今日は第1騎士団もお休みで護衛を頼めなかったから、ちょうどいいかな?)
シャルロットはのんきに考えてオッケーを出した。
「ビリの野郎は一週間一人で風呂場と厠掃除当番だ!よーし、やるぞ!」
男達の真剣勝負が始まった。
呆然してるシャルロットに、ユーシンが出来立ての温かい餃子スープを差し出した。
「どうぞ、召し上がれ」
「ありがとう!」
スープには餃子が二つ入ってた。
「新年に食べる餃子はスープに入った餃子の数で運勢を占うんです。一つなら順風満帆、二つならおめでたい事が起きる、三、六、九つでさらに出世する、四つは金運上昇、五つなら豊作って意味があるんっすよ」
「まあ、幸先が良いわね」
シャルロットはスープを食べた。
「ふう~、あったまるわ~、鶏肉のお出汁が効いてて美味しい!餃子もモチモチしてて食感がいいわ」
向こうではカードゲームに熱中する騎士達。
食堂の端っこでシャルロットはユーシンと二人はまったりと餃子を食べていた。
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