シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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獣人の国・オーギュスト国からの使節団〜ニャンコ王配殿下の焼きたて手作りパン

侵入者

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 シャルロットの私室の扉がノックされた。
 入って来たのは侍女のリディだ。

「シャルロット様、湯浴みのお時間です」

 シャルロットの私室内にも小さなシャワールームはあるのだが、お風呂好きのシャルロットのためにグレース皇子が居城内の大浴場を改築してくれた。
 シャルロットは専らその大浴場を利用していた。

「では、時間になりましたらお迎えに来ますね」

「ええ、お願いね」

 いつものようにリディが着替えや諸々の準備をしてくれた。
 シャルロットは脱衣所で一人残された。

 シャルロットは昔から一人で風呂に入るのだが、クライシア大国の侍女は風呂の中まで入って来て赤ん坊のごとく世話してくれる。
   何でもかんでもいたせりつくせりで、それに慣れなくて侍女はリディだけに減らしてもらった。
 リディは侍女として有能だし、シャルロットと女友達や姉妹のような感覚で付き合ってくれるから好きだ。

「ふぅ、気持ちいい」

 ちょっと熱めのお湯に浸かってひと息ついたシャルロット。

 クライシア大国の郊外に温泉街はあるようだが今は使われておらず、この国の人たちは風呂には入るようだがあくまでも身体を清めるためだけの行為で、普段は水風呂だったりカラスの行水らしい。
 しばらくお湯に浸かり、温まったところで浴槽から出た。
 布一枚を身体に巻いて脱衣所に入ると、ガタンッと突然物音がした。
 目の前には白うさぎがいた。

「…キャロルさん!?」

 白うさぎは観念して、ぽふんっと滑稽な効果音と共に変化を解いた。
 そこには顔を真っ赤にして目を泳がせている騎士服姿のキャロルがいた。
 スリップ姿のシャルロットに動揺していた。

「申し訳ございません!!来るタイミングを間違えました」

 小声だ。

「どうしてここに?」

「ひっ、姫様のワンピースを貸していただけませんか?」

「えっ?」

「…オーギュスト国の者が姫様の誘拐計画を実行しようとしています、すでにこの浴場の外で刺客が控えております。ここを出たら姫様を連れ去るつもりです」

「ええ!?」

 オーギュスト国の者……

「私なら姫様と背や体格もあまり変わらないので…私が姫様の代わりに拐われます!犯人を泳がせ敵のアジトを特定し、首謀者諸共まとめて引っ捕らえるつもりです」

「そんなっ…それではキャロルさんが危ないわ」

「大丈夫です。これはグレース皇子の作戦なんですよ?」

「グレース様が?」

 騎士服を脱ぎ、シャルロットのワンピースを着たキャロルがパチンと指を鳴らすとシャルロットのような長い髪が生えて来た。魔法らしい。
 もともと小柄で中世的な顔の美少年、流石だわ、どころからどう見ても美姫。田舎臭さが抜けず所帯染みた私よりも気品があってお姫様っぽいわ。シャルロットは感心していた。

「姫様も早く服をお召しになってください。この部屋に結界を張りました。アダムが後から迎えに来ますから、それまで絶対外に出ないでくださいね」

「ええ……」

 変装したキャロルは振り返ってニッコリ笑うと脱衣所を出て行った。
 一人で取り残された脱衣所。
 キャロルが立ち去った後も動けずにいた。
 濡れた長い髪がすっかり冷えている。

「全く、使えない騎士ね、結界なんで無駄よ」

 突然女の声が頭上から聞こえた。
 そして、ストンッとシャルロットの目の前にキツネが舞い降りた。

「!?」

 そしてキツネはエスニックな民族衣装を着た浅黒い肌に真っ赤な口紅を引いた、巻き毛の綺麗な女性に姿を変えた。
 女はシャルロットの腕を力強く引っ張っり、手錠の形をした魔道具を腕にはめて拘束した。
 そして小瓶を胸から取り出した。

「飲みなさい。大丈夫よ、毒じゃないわ。少し眠ってもらうだけ。害は無いわ。貴女に危害を加えるつもりはないの、おとなしくついてきてもらうわよ」

 シャルロットは女を睨んだ。

「飲むわけないでしょ!貴女は誰なの?何が目的なの?」

 女は抵抗するシャルロットの顎を掴み無理やり口を開けようとしている。

「やめてっ…」

 必死に暴れる。

 ガシッ

 シャルロットの顎を掴んでいた腕が何かに引っ張られるように離れていた。
 シャルロットに覆いかぶさる女の背後にはアルハンゲル王配が居た。

「なっ……!王配殿下!?」

「あっ……アル?」

「ヒィ……痛い痛い痛い」

 アルハンゲル王配はキツネの女の腕を無言で強く掴むと関節技を決めた。
 痛がり床に伏せる女とシャルロットの間に割り込み、シャルロットに自分の着ていた大きな外套を被せると、そのまま彼女を抱き上げて脱衣所を走って飛び出した。

「姫様!?」

 途中でアダムに遭遇した。
 アルハンゲル王配はシャルロットを抱き上げたまま、アダムと目を合わせる。

「この屋敷内にも奴らは侵入しているようです、姫をもっと安全な場所に隔離してください」

「あのっ……キャロルさんは!?」

「連れて行かれました。グレース皇子と左王様が後を追っております」

「え!?お兄様も?」

 普段は非常に冷静で淡白な性格の左王だが、双子の兄の右王同様シスコンの気がある。
 昔オリヴィア小国で友好国との親睦パーティーが行われた時、シャルロットにちょっかい出した友好国の王子を半殺しにしたという噂もある、真偽は不明で冗談だとは思うがやりかねない人だった。
 グレース様やお兄様よりも誘拐犯が心配だわ。

 アルハンゲル王配はシャルロットの部屋のソファーの上に彼女を降ろした。
 シャルロットの部屋の前でアダムは警備をしている。

「外に出てるから早く着替えろ」

 風呂上がりの布一枚巻いた身体にアルハンゲル王配の外套一枚だったわ、とシャルロットは思い出し、ぎゅっと身を縮めた。

「……誘拐計画なんて、やっぱりオーギュスト国の人だったの?」

「私が指示したのではないぞ」

「……そんなの見たらわかりますわ。貴方って私に『子を産め』だの言った時も本心から言ってる風には見えなかったもの。心ここに在らずというか……。もしかして、あの言葉も誰かに言わされていたのかしら」

 クスクスと苦笑するシャルロット。
 アルハンゲル王配はニッと嗜虐的な笑みを浮かべ、ソファーの背もたれにシャルロットを追いやった。

 近付いてくる精悍な男の顔。
 そしてシャルロットの顎に手を添えてクイッと顔を上げた。

「今なら本気でお前を孕ませてみたいと思うぞ」

 シャルロットは一瞬目を見張った後、呆れたような白けた目で彼を見ていた。

「それはそれは…ドン引きですわ」

 苦笑混じりに言った。
 アルハンゲル王配はジッとシャルロットの目を見ながら、手を真下で動かしていた。

 ガチャンッと音を立ててシャルロットの手首を拘束していた魔道具が外れた。
 アルハンゲル王配はスッとシャルロットから身を剥がし、扉に向かって歩き始めた。

「毎度毎度表現がドストレート過ぎるわ、もっと紳士らしくアプローチできませんの?ちっとも女の子の心には響きませんわよ」

「……面倒だな、それなら折檻して調教する方が早いだろ」

「私を折檻でもしたら幻狼のクロウとタンザナイトの勇者の通り名を持つお兄様が黙ってないわ。オーギュスト国を滅ぼしますよ」

「それは困るな」

 そう言いながらニヤッと不敵に笑ってる。

「あの……助けていただきありがとうございます」

「ああ」

 バタンとシャルロットだけを部屋に残し、扉は閉まった。
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