83 / 262
火の精霊ウェスタと素敵な社員食堂〜封印を解かれた幻狼グレイとシャルロットの暗殺計画?
女の闘い?それからピロシキとパン会議(イラスト有り)
しおりを挟む「午前中の勉強の時間が押しちゃったから、もうこんな時間になっちゃったわ」
「あっ、姫様、走っちゃ危ないですよ」
シャルロットは侍女服に着替えると居城を出て庭園の中を小走りしていた。その後を護衛の騎士のキャロルが続く。
お昼から乙女椿宮でユハたちと食堂の打ち合わせ会議があるのだ。
「あら?シャルロット様」
ガゼボの前を通り掛かると甲高い女性の声に呼び止められた。
振り返るとガゼボで三人の貴族の令嬢たちがお茶を飲んでいた。皆、髪を巻いて綺麗にセットしたり、アラモードで高そうな派手めのドレスを着て指や耳や首には派手な宝飾品。
たまに参加するサロンや晩餐会で何度か喋ったことがあった。
歳はシャルロットとそう変わらないだろう。
「あら、アラン様がた、お久しぶりですわ」
シャルロットは礼儀正しく頭を下げた。
アランは伯爵家の令嬢だ。レッドヘアーの縦ロール、すらっとした長身のスレンダー美人で貴族の令嬢の中で所謂インフルエンサーまたはファッションリーダーとして有名で人気もある。
「その薄っぺらい侍女服がとても様になっていましたので一瞬誰だかわかりませんでしたわよ、おほほ」
「まあ、ありがとうございます」
あからさまな嫌味だがシャルロットは笑って受け流した。
何度か顔を合わせてはいるが、アランたちはシャルロットが気に食わないようだ。
「聞きましたわよ。使用人たちの食堂を作る計画をなさってるんですって?わたくしはオリヴィア小国から皇子の婚約者がいらっしゃると聞いていたんですが、何かの聞き間違いだったのかしら?もしかして王は侍女を雇ったのかしら」
「まあ、侍女を雇う手配は王ではなく侍女長の仕事ですわ。あと、私がグレース皇子の婚約者ですわよ。社交界で名を馳せていて情報通なアラン様が知らないはずありませんわよね」
シャルロットはあくまで笑顔で応対した。
アランはお淑やかな笑顔を崩して、グッと唇を噛んでシャルロットを睨んだ。
「私、お転婆娘って呼ばれていますの。毎日のんびりと優雅にお茶を楽しんでいられるような性分じゃないんです。とにかく何か有意義なことをして常に身体を動かしていたくって。結構充実していて楽しいですわよ?グレース様も応援してくれていますの。アラン様もいかが?」
「アラン様じゃなくて、このような気品もプライドもない見窄らしい田舎の姫がグレース皇子の婚約者なんてっ……不釣り合いですわっ……」
アランの取り巻きの令嬢がカッとなりの椅子から立った。
それから手に持っていたティーカップをシャルロットに向けて大きく振った。入っていた熱い紅茶をシャルロットに向けてぶっかけた。
騎士のキャロルが咄嗟にシャルロットの肩に手を伸ばし、自分の方に抱き寄せた。
紅茶は虚しく地面に溢れ落ち、シミとなって広がった。
「お前たち、姫様になんてことを……」
キャロルが声をあげた。
「全く…、気品もプライドもないのはどっちよ」
そこに、亜麻色のショートボブヘアに侍女服を着た少女がズカズカと、ガゼボに続くレンガの小道を闊歩して現れた。
「あら、これはリリース様?フッ……リリース様までなんていう格好なのかしら?グレース皇子に婚約を破棄されてショックで自棄になったの?」
侮辱の笑みを浮かべたアランに怯むことなくリリースは強気に睨んだ。
「勘違いしないで、グレース皇子はあたしから振ったの!貴女こそ?グレース皇子に相手にされないからって、彼女に八つ当たり?取り巻き引き連れてイジメですか?見っともないわね!」
挑発的にリリースは笑った。アランは押し黙ったままプルプルと震えている。
シャルロットは慌ててリリースの腕を引っ張った。
「お茶の時間を邪魔してごめんあそばせ。私たちは退散いたしますわ。それでは行きましょう」
シャルロットはリリースを連れて足早に庭園を出た。
「あなたがシャルロット様ね?」
「ええ、あなた、リリース様……えっとグレース様の元婚約者様……」
「そうよ、昔の話だけどね。誤解しないで!あたし、グレース皇子みたいな男はいくら美形で皇子でも大っっ嫌いだから!ユハに頼まれてシャルロット様を迎えに来たの。あたしも社員食堂で働くことになったのよ。よろしくね!」
小さい手のひらを差し出され、シャルロットは笑って握り返した。
「よろしくお願いします。それと、さっきはありがとう。庇ってくれたわね」
「気にしないで。あたし、あの女嫌いなの。あたしがグレース皇子と婚約していた時も散々絡んできて嫌がらせして来たのよ。あなたもヘラヘラ笑ってないで気をつけなさい」
「え、ええ」
前世で四十年余り生きて女の世界の厳しさもドロドロとしたものも、酸いも甘いも嫌ってほど思い知っているわ。
あんな威嚇程度ではメンタル折れないわ。
シャルロットは苦笑いした。
「よかった。外国のお姫様って聞いていたからどんな世間知らずの箱入り娘か、高飛車でワガママなお姫さまかって想像してたんですけど、あの女豹相手に飄々としていられる令嬢なんて早々いないわよ。あなたのことは好きになりそう!」
「嬉しいわ。あの、リリースってお呼びしてもいいかしら?あなたも私のこと、シャルロットって呼んでちょうだい」
「良いわよ!シャルロット」
少女二人は顔を見合わせて笑った。
*
「あ!お姫ちゃん、やっと来た」
「遅れてごめんなさい……」
乙女椿宮にはユハがいた。
火の精霊ウェスタは珍しく不在のようだ。
そして暖炉の前の二人掛けの長椅子には長身の男が足を組んで書類片手に座っていた。
「アル!」
シャルロットはびっくりして声を出した。
オーギュスト国に帰国していたはずの紺色のスリーピースのスーツ姿のアルハンゲルがそこにいたのだ。
「久しぶりですね」
フッと精悍な顔を和らげ笑う。
「アルは城仕えのパン職人にジョブチェンジしたんだよ!」
ユハが説明してくれた。
「え!?王配のお仕事は?」
「ちゃんと引き継いできた。ヴェルが成人して王に即位するまでは白竜の琥珀の監督のもと官僚たちがサポートする。私は対外的には他国に亡命したことになっているが」
「まあ、そうなの」
アルハンゲルは「座れ」と長椅子の空いたスペースをポンポンと叩いた。
リリースやキャロルも席についていて、狭い部屋の数少ない椅子は全て埋まっている。仕方なくシャルロットはアルハンゲルの隣に腰を掛けた。
「試作してみたんだ、食べるか」
「あ、ピロシキね」
「美味いか?」
「具は俺っちが作ったんだよ~!日本のピロシキみたいな中華風じゃなくて挽肉とキノコと玉ねぎを刻んだガパオ風~、油で揚げると時間が経つと美味しくないから、本番風に薄皮にしてオーブンで焼いたの。テイクアウトに最適でしょう!」
ユハはペラペラと自慢げに話した。
「おいしいわ、それにこれなら作業しながら片手でも食べられるわね」
「でも、小麦粉は国内では不作だし輸入物は高価なんでしょう?ピロシキも小麦粉が必要なんでしょ?あたしたち貴族の間なら不自由なく食べられるけど、使用人の分の小麦粉は高くつくわ」
リリースは言う。
「米粉を使うのはどうかしら?米だけではグルテンがなくて小麦粉のようには膨らまないですし、小麦粉のかさを増す方法ですが経費は抑えられるでしょう」
オリヴィア小国では、関税が高く付きこの世界では高級品である小麦粉よりも安く手に入るお米を庶民たちは日常的に食べている。
粉末状にすると小麦粉と同じようにパンやお菓子にも応用できる。
「私の国で作ってるお米を輸入して小麦粉の代わりに使うのはどうかしら?クライシア大国がうちに攻め込んできた時に関税を下げさせられたのよね。その分安く入手できると思うわ」
「それは良いアイディアね。庶民が食べてる黒パンもまあ食感はイマイチだけど、原料の栄養価は高いって異国の本で読んだわ。メニューに取り入れても良いんじゃないかしら?」
「めっちゃ良いね!バターとか卵なら安く手に入るし、それならこの前アルが作ってたブリオッシュもコスパ最強じゃん!」
「今この国はソレイユ国から小麦粉を輸入しているんですよね。あの国はここ数年不作が続いているし、法改正で穀物の価格が値上がり内乱も続いている。輸入先を隣の大陸のペレー公国に変えてはどうだ?クライシア大国とペレー国は経済連携協定を結んでるから関税が免除されますし、ペレー国の小麦粉は質は落ちるが、ソレイユ国の小麦粉の半分以下の価格で黒パンとコストも変わらないだろう」
四人のメニュー会議は日が暮れるまで続いた。
アルハンゲルは話の内容をまとめながら、白紙の上にペンを滑らせ財務官へ提出する書類を書いていた。
シャルロットはそれを隣で眺めていた。
「さて、騎士団の夕食の支度があるから俺っち帰るね」
ユハが元気に椅子を立った。
リリースも椅子から立ち上がって二人して屋敷を出て行く。
アルハンゲルと二人で部屋に取り残されたシャルロットも椅子から立つ。
「アルは帰らないの?」
「俺もお前と同じ居城に部屋がある、行き先は同じだから送ろう」
アルハンゲルは書類の束を整えた。
辞したとはいえ元王配だけあって使用人として再就職したのにVIP扱いなのね、シャルロットはぼんやり考えていた。
「え まだ書類の整理があるんでしょ?いいわよ、キャロルさんが隣の部屋で控えてるし、送ってもらいますから。それでは、また明日……」
シャルロットは部屋の扉を開けた。
するといつの間にかまたアルハンゲルに背後を取られていた。
シャルロットが部屋を出て行かないように制してるようだ。
「あの?何か?」
無言で真上からジッと観察されるように見られていて視線が痛かった。
猫に捕らえられたネズミってきっとこんな気分なのだろう。
「送ってやる」
「ですから、ノーサンキューですわ」
すっとアルハンゲルの手がシャルロットの口元に伸びてきた。
これが顎クイか。
顔を強制的に上げられ顔面をジッと凝視されている。
「なんですか?」
「……おもしろい顔だな、と」
「侮辱ですか!?」
怒ってやろうと口を開けたところで急に背後から肩に手が伸びてきて、そのまま後ろに引っ張られた。
「きゃっ!?え?グレース様?」
グレース皇子だ。
しかも何故か怒った顔をしてアルハンゲルを睨んでいた。
「姫を迎えに来ました、姫は俺が送ります」
語気を強めてアルハンゲルに言った。
「そうですか、それではよろしくお願いします。私はまだ仕事が残っていますので」
アルハンゲルは外面用の笑顔を見せて、礼儀正しく会釈をし、そのまま扉を閉めた。
閉じた扉を見つめ、シャルロットは目を点にしていた。
「俺も詰め所から帰るところだったんだ。外で出会したユハから姫がここにいると聞いてな。ウェスタも不在だそうだから立ち寄ったんだ」
「そうだったの!でも、居城と宮殿って離れているから……遠回りでは?」
「いい、姫と一緒にいたいんだ」
「そ、そう……」
優しい笑顔で見つめられて、シャルロットは顔を赤らめた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
若返った老騎士の食道楽~英雄は銀狼と共に自由気ままな旅をする~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
あるところに、数百年周期で現れる魔王がいた。
人族から生まれ、闇に魅入られし者、妖魔を統べる魔王と呼ばれる存在。
度々現れては、人々を恐怖のどん底に貶めてきた。
此度、その魔王との戦いに終止符を打った男がいた。
名をシグルド卿といい、六十歳を迎えた老人の男だ。
元平民にも関わらず、爵位を得て史上初の将軍にまで上り詰めた英雄である。
しかし、魔王と一騎討ちの末に相打ちになった……と世間では言われていた。
当の本人は実は生きており、しかも若返っていた。
そして自分が生きていることが知られると、色々と面倒なことになると悟った。
それにどうせなら、自由の身になって世界を旅したいと。
これは役目を終えた英雄が旅をし、様々な人と出会い、美味い物を食べていく物語。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。
希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。
手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。
「このまま死ぬのかな……」
そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。
そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。
試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
