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火の精霊ウェスタと素敵な社員食堂〜封印を解かれた幻狼グレイとシャルロットの暗殺計画?
守りたいもの
しおりを挟む早朝、今朝はグレース皇子と朝食を取る日だ。
本殿・月守のグレース皇子の私室を訪れると露骨にむくれたグレース皇子が朝の紅茶を飲みながら不機嫌な様子で待っていた。
執事たちが冷や汗をかきながら忙しく朝食の準備をしている。
クロウはグレース皇子の足元に座り大あくびをしていたが、部屋に入ってきたシャルロットに気付くと尻尾を振って飛びついてきた。
「お前たちは下がって良いぞ」
グレース皇子の一声で執事たちは足早に退散した。
「グレース様、お早うございます」
「おはよう……」
未だしかめっ面だ。シャルロットの顔を見ようともしない。
「グレース様、何を怒っていらっしゃるの?」
「……」
「言ってくれないとわかりませんわ」
「………」
ピリピリとした空気にクロウは気まずそうに耳と尻尾を垂らしていた。
二人の間に入り仲裁するように割り込み、不安げにクゥーンクゥーンと甘えた鳴き声を出す。
黙ってばかりのグレース皇子にシャルロットもムッとなり、座っていた椅子から立った。
「怒ってる方と食事しても美味しくありませんわ、帰ります」
「ひ、姫っ……」
グレース様はハッとして、部屋を出ようとしたシャルロットの腕を掴んだ。
さっきまでしかめっ面だったのに眉をハの字にして口を大きく開けていた。
「……だって……、あの日……、朝 起きたら姫がいなかったじゃないか!」
「え?それで怒っていらっしゃったの?」
グレース皇子は顔を真っ赤にしていた。
「こんな事で怒るなど……男らしくないとは自覚している……ただ、朝目が覚めた時、姫がいなくて寂しかったんだ……」
「……グレース様。ごめんなさい」
「シャルロットが謝ることないよ~」
クロウは人の姿に変化し、二人の間の席に座った。
「ごめん、姫」
「も~グレースは怒りん坊さんなんだから!仲直りしたなら早くご飯食べよ~」
クロウは穏やかに笑ってる。
二人が仲直りしてくれて喜んでいる様子だった。
グレース皇子も穏やかに笑いながら紅茶を口に含んだ。
「姫は今日も食堂の仕事か?」
「ええ、内装の作業が終わったの。午前中はお勉強もないし、来週のプレオープンに向けて打ち合わせですわ。グレース様は?」
「この後 父上に呼ばれている。それからお義兄様と剣の稽古だ」
和やかな雰囲気で朝食の時間はあっという間に過ぎた。
*
乙女椿宮ーー食堂へ向かう途中。
いつもは使用人以外あまり人気のない本殿や城の中を多くの騎士や兵士がウロウロしている。
ここ数日この調子だった。
「ねえ、アダムさん、最近騒々しいわよね、何かあったの?」
「あ……、その、封印されていた先代の王の幻狼が消えたんです」
「え?」
「私ども騎士や兵士たちで城内外を捜索しているのですが…まだ見つかっておりません」
あの先代の王や王妃を殺したっていう……。
「見慣れない幻狼が居ても危ないから決して近寄ってはいけませんよ、姫様」
「え、ええ。わかりました……。今のところ、見てないわ」
脳裏にふと銀色の狼の姿が浮かんだが、すぐに消えた。
シャルロットはそれを特に気に留めていないようだった。
*
「な、何これ……」
乙女椿宮に着いてシャルロットは愕然とした、
屋敷の外壁や窓が広い範囲で泥に塗れている。
「お姫ちゃーん、おはよう」
「ユハ、アル、リリース……これは一体どういうこと?」
屋敷の中から出てきた三人に駆け寄って問い質した。
リリースはため息をつきながら説明してくれた。
「知らないわよ。あたしたちも今来たらこのザマだもの。誰かが故意にやったものよ」
「ど、どうして……」
「んー、まあ、俺らのことが目障りって思ってる派閥もあるからねえ、証拠はないけど」
「屋敷の中はウェスタに魔法で施錠してもらってたから無事だ」
「よかった…、今日は外壁の掃除をしましょう。嘆いていても仕方ないわ」
「任せて!シャルロット」
幻狼クロウは尻尾を振りながら汚れた壁に向かって水の魔法をかけた。
まるで高圧洗浄機のように勢いよく汚れた壁に水が放たれる、以前よりピカピカになったかもしれない。
「すごいわ!ありがとう、クロウ」
シャルロットに褒められてクロウは嬉しそうに尻尾を高速で振って頭を撫でて欲しそうに額をシャルロットの脚にグリグリと押し付けた。
「でも、不用心だよな~。うーん、食堂にわざわざ護衛を付ける予算もないし……、あ、いいこと思いついた」
ユハは大きな独り言をつぶやいた。
一人でニコニコ笑って何かを企んでいるようだ。
*
「………姫が?…ですか?」
銀の間で父である王と、その後ろで護衛をする親衛隊と向かい合っていたグレース皇子は呆然としていた。
先程、父より手渡された書類にはシャルロットの悪事を暴く内容が数値のデータと共に箇条書きされてあった。
「それは絶対にあり得ません!何かの間違いです!」
グレース皇子はすぐに断言した。
その目は真っ直ぐ王を見据え、力強い目をしていた。
「お前は姫を信じるのだな?」
「当然です。父……いえ、陛下は姫を疑っているのですか?」
「……その書類がデタラメだというならば、貴族や官僚たちが全員文句も言わず納得するような証拠はあるのか?」
「それは……」
「………」
王は目を伏せて沈黙した後、また息子であるグレース皇子の目を見てこう言った。
「グレースは姫を守りたいか?」
「俺は姫を信じるし、守ります。何があっても」
「グレース、何も剣が強いだけでは守るべきものは守れんよ」
穏やかな目と、我が子を諭すような優しい声色。
威厳のある険しい王の顔ではない、久しぶりに見る優しい父親の顔をしていた。
「お前にも守りたいと思えるような人が出来るとは、子の成長は早いものだな」
「お父様……」
「………私は敢えて手は貸さない、口も出さない。グレース、お前の手で必ず姫を守ってみせろ」
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