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オーギュスト国へご訪問〜猫神様の祟り!?もふもふパンデミック大パニック
希望の新薬・新たな問題
しおりを挟む「……ん」
ソファーの上で二度寝をして目が覚めたらもう外は明るくなっていた。
今何時だろう?慌てて飛び起きると、シャルロットのお腹の上でロシアンブルーの成猫が丸まって眠っていた。
向こうのソファーではマンチカンの子猫がすやすや眠ってる。
シャルロットはびっくりして猫を持ち上げるとブンブンと激しく揺らした。
「あ……っ、アル!?アルも猫になっちゃってるわ!」
「……揺らすんじゃない。自分で獣化したんだ」
目を覚ましたロシアンブルーの猫は不機嫌そうな顔をした。
シャルロットはハッとした顔をして落ち着いた。
アルハンゲルが言うには、獣人は眠っている時に無意識に獣化してしまうことがあるそうだ。
「ご、ごめんなさい。びっくりしちゃって……。も、もう。心臓に悪いわ!」
アルハンゲルはシャルロットの膝の上に座り、まったりとマイペースにぺろぺろと身体を舐めグルーミングを始めた。
こうして見ると本当に普通の猫のようだ。でも猫の姿にはなんだか癒される。
ふと、太陽の光が差し込む図書館の上げ下げ窓に視線を移すと、いつの間にか二匹のスズメが入り込んでいた。
スズメたちはこちらをジッと見ていた。
「……?」
シャルロットが首を傾げていると、むくりとアルハンゲルは身体を起こしソファーから飛び降り上げ下げ窓へ向かって駆け出した。
華麗に窓台に飛び乗ると、スズメに襲い掛かる。
「チュン チュン」
鈍臭いスズメ達はすぐに捕まってしまい、ジタバタ暴れ鳴いた。
人間の男が鳥の鳴き声を真似ているような下手くそで奇妙な鳴き声。
アルハンゲルはがぶっとスズメ一匹を口に咥えてシャルロットの元へとやってきた。
辛うじて逃げ切ったスズメ一匹は必死に窓の隙間から外へと飛び立つ。
「アル、ダメよ、そんなことしちゃ!離してあげて」
「悪い、猫の本能だ……」
アルがボトッとスズメをシャルロットの手のひらに落とした。
毛はボサボサで翼と細い脚を怪我していてグッタリとして気を失っていた。
*
「シャルロットってばそんな姿でどこに行ってたの?あなたのウサギの騎士がパニック起こしてたわよ」
宮殿のゲストルームへ戻ると怒り顔のリリースが着替えをしていた。
広い豪華なゲストルームではシャルロット、リリース、ウェスタと幻狼グレイが泊まっていた。
「ごめんなさい、図書館で調べ物していたの」
「それで、それは何?スズメ?」
「怪我をしてるみたいなの、治るまでお世話してあげてもいいかしら?」
シャルロットは荷物の中から清潔なハンカチを取り出し四つ折りにした。
部屋にあったお椀の形をしたココナッツシェルの中にハンカチを敷いて簡単なベッドを作り、その中にスズメを寝かせた。
幻狼のグレイは興味津々にスズメを凝視している。
口を大きく開こうとしたところをシャルロットに止められた。
「グレイ、食べちゃダメですわよ?」
「うん。シャルロットがダメって言うなら、食べない」
シャルロットは寝間着姿からお仕着せに着替えると髪を結い上げて、リリースと共に部屋を出た。
「……ぐっ」
幸い死んだフリはバレていないようだ。
スズメは痛む身体を無理矢理に起こした。脚や翼を怪我していて飛べない。
それにおかしいのだ。
踏ん張っても、踏ん張っても、“変化の魔法”が解けない。
怪我の影響か?いや、そんなはずはない……。
公爵家の中でもこのリタの魔力は飛び抜けて高い、魔人が通うアカデミーでもトップの魔力を誇る。
魔人は魔法で鳥に化けることができる。
その変化の魔法なんて魔力の不安定な魔人の子供でも簡単にできる初歩的な魔法だ。
それなのに魔法が解けないなんて……。
あの図書館の前で突風に巻き込まれた。
命からがら開いていた窓の中へ侵入し避難したかと思えば、今度は凶暴な猫に襲われ……とんだ厄日だ。
「リタ兄さん!大丈夫か?」
ゲストルームの窓の外にスズメ姿の弟が居た。
「大丈夫だ!それより、変化の魔法が……!」
「兄さんも解けないのか!?」
「……今この国で起きている獣化から戻れない病と関係あるのか?」
「知らないけど……、俺は情報を集めてくる!兄さんもここから逃げるか?」
「いや、この翼じゃ飛べないし……。いい機会だ。ユハとシャルロット姫の密接な関係を暴いてやる!スキャンダルを押さえて、そしてあいつを当主候補の座から降ろしてやるさ」
スズメは悪い顔をした。
コクリと弟スズメは頷くと、また空高く羽ばたいた。
「本当に申し訳ございません。今は食材が足りていないんです。問屋からの食料も国民達に全て回してしまっていて……」
朝餉の席でシャルロットは深く頭を下げた。
紅国からの賓客であるフクロウ姿の鳳太子、それぞれ獣化してしまった付き人たちは初対面にも関わらずとても感じの良い人ばかりであった。
「国の非常時です。どうか民達を優先してください。でも昨夜の晩餐会の食事といい、今日の朝餉も、とても豪華で美味しそうではないですか」
落ち着く中性的な美声。
フクロウはテーブルの上に立ち、皿の上のチキンのフリッターや山菜のピラフにキノコのバターソテーやバターロールを啄ばみながら食べていた。
宮殿内にあった限られた食料で作ったものだ。
「ほんとにごめんなさい!鳳太子!鳳太子まで獣化が解けなくなっちゃうし……どうお詫びすれば良いか……」
ヴェルは必死に謝った。
「気にしないでください、ヴェル殿下。私たちの国同士は五百年以上も親交のある友好国ではありませんか。どうか気など遣わないでください」
初めて会ったが、本当に良い人そうだ。
シャルロットはフクロウの姿を見て安心したように笑った。
「ぐえ……」
朝の食事を終えてリリースと共に厨房へ戻る途中、廊下で大きな犬が気分が悪そうに伏せ寝していた。
周りにはオーギュスト国の騎士達が呆れたような顔をして立っている。
あの犬は……コハン団長だ。
気付いたシャルロットは彼らに声を掛けた。
「あの……どうかしました?」
「あ、シャルロット姫様!ええと、うちの兄が二日酔いで吐きそうなんですって。犬の姿で酒なんか飲むからですよ!まったく」
周りの騎士達はコハン団長の兄弟たちのようだ。
「まあ……」
「ほら、二日酔いのお薬もらってきたよ。それから栄養剤も」
騎士の一人が大きな犬の口をガバッと開け、粉末の薬を口の中に投入した。
薬を流し込むように、犬は与えられた水をゴクゴク飲んだ。
「あ!これね、西大陸で最近流行ってる栄養剤なんだ。姫様やリリース様もどうですか?」
「栄養剤?」
「船に乗って長距離を移動しているとどうしても食事が偏るんで、この薬で栄養を補うんだそうです。疲れを取ったり感染症や壊血症の予防にもなるんだとか!西大陸は医術が発展してますからね。ヴェル殿下が最近騎士や兵士の間にも導入してくれたんだ」
「まぁ……サプリメントのようなものね?」
シャルロットは分けてもらった栄養剤を飲んでみた。
「あ、甘いわ」
「何これ……不味い……」
甘みを強く感じたシャルロットとは違い、リリースには苦味が強く感じたようだ。顔を歪めながら薬をなんとか飲み込んだ。
「苦いですか?元の薬がとてつもなく苦いので甘味を付ける薬草で甘くしてるそうですよ」
「この世界のお薬ってどれもすごく苦いものね……」
薬の副作用だろうか?胸の辺りがじわじわと鈍く痛み出す。
シャルロットは自分の重たい胸元を摩った。
ボフン!
突然弾けるような音がして、目の前の犬がたちまち人間の姿に変わった。
「ま……まあ!コハンさん!元に戻っていらっしゃるわ」
コハン本人も酷く驚いていた。
「え!まじか!」
嬉しそうに叫んで立ち上がった。
「もしかして……この栄養剤が病の特効薬なのか?」
「あっ、……遠征へ行っていた騎士や兵士の方達が発症しなかったのも、この栄養剤を飲んでいたから?…」
皆は信じられないと言いたげな表情をして黙り込んでいた。
「姫様~!」
ぴょんぴょんと廊下を跳ねながら白うさぎのキャロルがシャルロットを追ってやって来た。
大柄の騎士達は白うさぎを取り囲み、ずいっと薬の入った小さな包みを白うさぎに差し出した。
白うさぎは怯えていた。
「な!なんだ!あんたら……」
「お前も飲んでみろ!」
「ハァ?」
抵抗する白うさぎを騎士達は捕まえて、無理やり口に薬を流し込む。
白うさぎは無理やり水を飲まされてもがいていた。
「ゲホ!ゲホ!おえぇ~」
たちまち白うさぎは人間の姿へと変化した。
キャロルは床にへたり込み、むせた。
「なんだ!今何を飲ませた!なんだ?このくそ不味い薬は……?動物虐待だ!」
「キャロルさん、人間に戻ってるわよ?」
「え!?あ……!」
やはり、この栄養剤が治療薬なのだ。
「ねえ、薬はもっとあるの?これを街の人たちにも飲ませたら……」
「い、いや……、この前の遠征で試験的に導入した薬なんだ。大半はもう消費してしまったからもう無いよ」
「購入することは?」
「西大陸の行商人は三ヶ月に一度しかこちらにやってきませんし。出回ったばかりの貴重な新薬だからお値段もそれなりで……とても国民達の分を賄うのは……」
「そ、そんな!…………」
せっかく特効薬が見つかったのに、またしても問題が発生した。
「ねえ、この薬の成分表はあるの?」
リリースは何かを閃いたようだ。
「リリース?」
シャルロットが不思議そうに彼女の横顔を見つめる。
「諦めるのは早いわ!使われている薬草がこの国の山でも採れるかもしれないじゃない!もしくは近い成分の薬草とか!無ければ作るしかないわ!」
「そういえば…リリースって薬草やスパイスの効用に詳しかったわね」
「あの、今すぐヴェル殿下達を集めていただけるかしら?」
シャルロットは騎士達に呼びかけた。
騎士達は慌ただしく廊下を走り出した。
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