シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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奪われたお城と皇子の愛を取り戻せ!?〜シャルロットの幸せウエディングパレード

新たな幻狼ミモザ

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 クライシア大国に帰国して1ヶ月、季節は秋になっていた。
 クライシア大国へやって来て二度目の秋だ。

 この頃から、シャルロットとグレース皇子の結婚式へ向けての準備が駆け足で進められていた。
 今年の初夏を予定していたのだが、東大陸での騒動があり延期となっていた。

 早朝から3着のウエディングドレスを試着しては脱いでを繰り返していたシャルロットはかなり疲弊していた。
 お城の応接間のソファーでグレース皇子とリリースが睨み合っている。

「そっちの白くて細身のデザインがいい、シンプルな花の刺繍のやつだ!」

 グレース皇子は声を荒げた。
 リリースは負けじと更に声を張る。

「こっちの薄紅色のフレアなドレスが可愛いわ!」

「露出が多すぎる衣装で人前に出させられるわけないだろ!シャルロットは皇子妃になるんだ!もっと聡明で清楚なデザインが……」

「そっちは古くさくて地味じゃないの!センスが無いんだからアンタは黙ってなさい!」

 2人は小一時間ほどシャルロットが着るドレス選びで揉めていた。
 城仕えの仕立て屋は困り果てていたし、クロウは能天気にヘラヘラと笑っていた。

「シャルロットは何を着ても可愛いよ~~」

 シャルロットは苦笑していた。
 そしてグレース皇子とリリースの前に立つと大きな声で言った。

「私のドレスです、私が選びますわ!」

 シャルロットの一声に、2人は押し黙った。
 そして仕立て屋に声を掛ける。

「あの、お願いしたいデザインがあるの。大丈夫かしら?」

「ええ、もちろんですよ!姫様」

「えっと、このドレスに少し手を加えられないかしら?」

 シャルロットは数あるドレスの試作品の中から、上品な光沢のある美しいAラインのウエディングドレスを選んだ。

「金糸で、ここのスカート部分に大きく星と太陽の刺繍を入れたいの。使わないドレスは私個人のお金で全て買い取るわ。普段使い用のドレスやワンピースにリメイクしていただけないかしら」

「姫、そのくらい俺が出す」

「いいの、食堂で働いた分のお給料が手付かずで残ってるのよ」

 ユーシンーー陽太の太陽と、エステルの星。
 2人の我が子の象徴をどうしても入れたかった。

「結婚式は明帝国からエステルも来てくれるし、喜んでくれるよ!転移魔法も使えるくらい魔法の腕も上がったって連絡くれたの」

 クロウは言った。

「まあ!本当?嬉しいわ~!」

「あ、あのーー皇子、姫様、謁見の依頼でございます」

 グレース皇子の執事や侍女ではなく、宰相の補佐官がわざわざ声を掛けにやって来た。
 グレース皇子は立ち上がった。

「ーーああ、イーター伯爵夫妻か」

「ええ、ただ今 銀の間に到着し、陛下と……」

 シャルロットはハッとした顔をすると、すぐさま試着のウエディングドレスを着たまま部屋を走って飛び出した。
 歩きにくいドレスの裾を気に留めることもなく夢中で廊下を走った。
 廊下に控えていた護衛のキャロルがギョッとした顔をしながらも、すぐに後を追ってきた。

「ひ、姫様?」

 シャルロットは息を切らして銀の間の中に入室した。
 銀の間にはクライシア王とコボルト、そしてイーター伯爵夫妻が居た。
 2人ともシャルロットと同じ金髪碧眼をしていた。

 そこでシャルロットは我に返り、勝手に銀の間に押し入ってしまった無礼をまず王に詫びた。
 そしてイーター伯爵の妻であるマルヌ伯爵夫人に駆け寄り、笑顔でハグをした。

「マリヤ!会いたかったわ!」

「こらこら、シャルロット。クライシア王の前ですわよ」

「あ……も、申し訳ございません。陛下」

「良い、親戚同士、久しぶりの再会なんだろう?コボルト、茶を出してやれ」

 隣のソレイユ国で今夏、民による革命が起きたーー。
 ソレイユ国で王を務めていたアルタと、その妻で王妃のマリヤは処刑を恐れてクライシア大国へ亡命してきた。
 クライシア王は彼らにイーター伯爵という爵位を与え、南の領地のお屋敷を貸し出した。

 マリヤの父はかつてのソレイユ国の王で、シャルロットの実家の大公爵家とは血縁関係があり遠い親戚関係にある。
   そして、マリヤはソレイユ国のお姫様だった。

 シャルロットが小さい頃にソレイユ国の宮殿のパーティーへ参加した際には、よくお喋りをしたり遊んでもらったものだ。
 賢くて大人っぽくて温和な女性で聡明で、シャルロットは彼女が大好きだった。

 マリヤは両親が革命により処刑された後に数年間投獄されマリヤの弟王子のルエは獄中で虐待による衰弱死、マリヤは数年後に釈放された後に現在の夫と政略結婚、紆余曲折あり今ここにいる。

「マリヤ、心配していたのよ!?」

「あんなに小さかったシャルロットがすっかり大きくなっちゃって。結婚おめでとう」

 かつてのソレイユ国の王政が崩壊した後、皇帝となったナブリオーネがこの大陸の国々を攻めて勢力を大きくしていた。
 クライシア大国がそれに対抗するために大陸内の様々な国と同盟を結び、当時最強だったナブリオーネ政権をあっけなく壊滅させたのは歴史的な出来事だった。

 その後任として、マリヤの夫がソレイユ国の新しい王の座についたのだが、暴政により再び暴動が起きてしまい亡命することとなったーー。

「ミッシー侯爵にそなた達の世話は頼んである。屋敷の手配が済むまで、しばらくこの城に滞在すると良い」

「重ね重ねの温情、感謝いたします……レイメイ様」

 夫婦は深々と頭を下げた。
 シャルロットも一緒に頭を下げた。

「シャルロット姫、早く着替えたまえ、そなたのウエディングドレスは当日まで楽しみにしておったのに」

 陛下は笑っていた。

「申し訳ございません……」

(ウエディングドレスを着ていたの、忘れてたわ)

 シャルロットの顔は真っ赤だった。
 扉の向こうでグレース皇子がこちらを覗いて、クスクスと笑っている。
 ますますシャルロットは恥ずかしくなった。


「美味しい…」

 昼餉にと、ユハが特別に作ってくれたビーフシチューやパンをイーター伯爵に提供した。
 そこにシャルロットはグレース皇子とクロウを連れて同席していた。

「ああ、本当に」

 2人とも食事が気に入ってくれたようだ。

「故郷の味に似ているわ」

 マリヤは呟いた。
 ソレイユ国の前代の王と王妃、かつての宮殿の豪華な食事に比べれば大分質素なものだろう。
 それでも心から美味しいと言って、食べているのがわかってシャルロットはホッとした。

 シャルロットは皿の中を見つめ少し躊躇った後で口を開く。

「あのね、マリヤ。私、このお城の中に食堂を作ったのよ」

「食堂?」

「ええ、使用人達が利用する食堂ですわ。きちんと食べていただいて、健康的にお城の中で働けるようにと思って作ったの」

「へえ……、使用人のためにわざわざそこまでするなんて、あんまり無いわよね」

 ソレイユ国を始め、ほとんどの国は身分の差が激しい。
 それが当たり前の世界だった。

「朝、議会を覗かせてもらったのだが……この国の皇帝は変わった皇帝だよな、自ら皇帝の権利や帝国主義を捨てて、立憲君主制を推進するなど……、最近では革新派の貴族達も彼に倣い自主的に特権などを放棄しているそうじゃないか」

 イーター伯爵はポークステーキにナイフを入れながらポツリと呟いた。

「レイメイは賢王って呼ばれてるけど、レイメイの考えが絶対正しいってもんじゃ無いよ~、貴族がいなくなって平等になったところで新しい格差が出てくるだけだもん。政治に正解なんてないんだよ」

 クロウはムシャムシャとステーキを頬張った。

「……そうだな」

 イーター伯爵は虚ろな目でため息をついた。

「私も前王の兄のような愚王にはなるまいと思っていたが、いざ王座につけばうまくいかないことばかりだったな。それならば貴国のような体制が……」

「……あなた!何を弱気になってるの!?ソレイユ王家を再び……、再びソレイユ国を取り戻すと……!あの時 2人で誓ったではありませんか。あんな腐った平民共に明け渡したままではいけません!……」

「……ま、マリヤ……」

 おとなしいマリヤが声を荒げた。
 唇を噛み、年の割には若く綺麗な顔は悲しみや憎悪で歪んでいる。
 イーター伯爵は困ったような顔で彼女をなだめていた。

 シャルロットやグレース皇子は驚いたが、無理もない。
 革命のためとはいえーーマリヤは平民達の手により家族を皆殺しにされ、自身も投獄され虐げられていたのだ。憎しみを持っていても仕方がない。

「ま、マリヤ……?」

 不安げな目で見つめるシャルロットの声で我に返ったマリヤは穏やかに笑った。

「ごめんなさい、食事が不味くなってしまうわね。このお話はやめにしましょう」

「え……、ええ……」

 *

「グレイ~、たまには城を出てデートしようぜっ」

 城の中庭で日向ぼっこをしていたグレイの周りをフクシアはクルクルと回っていた。
 グレイはフクシアを無視したまま目を閉じて芝生の上に横たわる。

「グレイ~?」

「お前はいつになったら岩山へ帰るんだ?」

「いいじゃん、姫様もこっちにいてもいいよって言ってくれたぜ」

 番の幻狼にちょこまかと後を付けられていたグレイは辟易していた。
 怒鳴ってやろうと身体を起こすと、突然中庭に突風が吹いた。

「ぎゃ!」

 フクシアは叫ぶ。
 魔法の気配を感じたグレイはキョロキョロと辺りを見渡した。

「…………」

 背後を振り返ると、そこにはミモザ色の毛をした幻狼が立ってこちらを凝視していた。
 こっちを見つめる鋭い目は黄金に輝いている。

「だ、誰だ?お前っ」

 岩山の幻狼の群れで普段は生活しているフクシアも見たことがない幻狼だった。

「俺の名前はミモザ、幻狼だ」
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