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温泉街ハロゲートへ〜シャルロットと騎士団の極楽☆温泉旅行
クロウと永遠の誓いー精霊薔薇の祝福
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翌朝。
温泉街近くの丘の上に楽しそうなクロウの笑い声が響いていた。
人型のクロウはシャルロットの手を引っ張りながら丘へ登る。
シャルロットは息を切らしながら彼の後ろを頑張って早歩きしていた。
「クロウ、ねえ、ちょっと……」
「うふふ~」
緩やかな丘だったが、クロウのペースについていくのは大変だった。
丘の上には礼拝堂のような小さな建物があって、その周りにはガラス細工で造られたような薔薇が咲き乱れる広い花畑があった。
「まあ……綺麗……」
シャルロットは笑顔になる。
「精霊薔薇だよ、大地の魔力を吸い上げて咲くの」
「すごく素敵だわ!ねえ、あの建物は何なの?」
「あれはねえ~、大昔この国が帝国で建国したばかりのころにね、皇帝に仕えていた幻狼が創ったものだよ。初代皇帝はここで結婚式をしたの。精霊たちが2人を祝福をして薔薇が咲いたんだ~」
「へえ……結婚式……」
クロウはシャルロットの肩を抱いて、幸せそうに礼拝堂を見上げて笑う。
シャルロットは彼の肩に寄り掛かり、同じように芸術的な外観の礼拝堂を見つめていた。
太陽の柔らかい光が鈍色の空から微かに射し込む、皮膚に当たる風は冷たいが心地良い。
「ふふ」
シャルロットは突然笑った。
クロウは不思議そうに首を傾ける。
「前世で、私たちが結婚した時ーー。あなたは学生でお金がなくって、田舎にある小さな教会で二人だけで結婚式を挙げたのよね。レンタカーを借りて教会まで行って、途中で道を何度も間違えて一時間も遅刻しちゃって……」
シャルロットはクスクスと笑い続ける。
「でも、待ってた牧師さんが良い人で笑って許してくれて。式を始めようとしたらあなたのお腹が大きく鳴っちゃって……サンドウィッチをもらって式の途中で食べたわね、ふふ、……それから、役所へ行く途中で婚姻届が突風に飛ばされちゃうし……追いかけていたら近所の恐い犬の尻尾を踏んじゃって……ふふふ」
前世のことを思い出して笑い出したシャルロット。
「ん、もう!そんなことまだ覚えてたの?シャルロット、それは忘れて」
恥ずかしそうに顔を赤らめたクロウがまたおかしくて笑えた。
クロウはシャルロットを横抱きにすると、ガラスの薔薇の花畑の中に連れて行く。
その真ん中に腰を下ろすと、薔薇を一本一本手折って行く。
「ガラスのようだけど普通の薔薇なのね」
「うん、そうだよ。魔法のお花なの」
クロウは器用に細長い手指を動かして、ガラスの薔薇で花かんむりを作ってくれた。
出来上がった冠をシャルロットの頭に乗せる。
「わあ~」
「小ちゃい時、よく作ったよね。薔薇じゃなくてシロツメグサでさ」
「懐かしいわね」
クロウは愛おしそうな瞳でシャルロットを見つめ、白い額にキスをした。
「ねえ……シャルロット。私ね。『包括者』になろうと思うんだ」
「包括者……?」
急に真剣な顔をして、どうしたんだろう?と、シャルロットはクロウの顔を見つめた。
「精霊の偉い人だよ!あのね~、精霊には階級があるの。幻狼ってもともと高位精霊でしょ?それよりも、もっとすんごいの。コボルトとか白竜の琥珀が包括者って言うランクの精霊なんだよ」
「クロウはどうして包括者になりたいの?」
「……気が早い話だけどね、ーーシャルロットがいつか死んじゃっても、またどこかの世界で生まれ変わったシャルロットに会いたいに行きたいの。包括者は世界を渡り歩けるから……それができるの」
「……え?」
悲しげな瞳で見つめられ、シャルロットはドキッとした。
シャルロットの手を握ったまま、クロウは俯いた。
「ーー私は、精霊だから……死ぬことができないの。コボルトはもう五百年も生きてるしーーグレイやフクシアなんて二百年は生きてるんだよ。でも、人間のシャルロットの命は有限でしょ?」
「……クロウ」
「もう離れ離れになるのはヤダよ……」
クロウは前世で死んでから幻狼として生まれ変わって数十年間、長い年月を老いることも死ぬこともなく生きていた。
人間は死んでも延々と世界を変えて生まれ変わることができる。
精霊には死という概念こそなく何千年も生きることができるが、魔力や生命エネルギーが尽きれば消滅する。
そして精霊から何かに生まれ変わることはなくーー消滅すれば永遠に無に帰してしまう。
「……でも、今度生まれ変わるとして、私に記憶が残ってるとは限らないわ…」
こんな奇跡のような事が二度三度起こるはずもない。
「私のことをシャルロットが忘れててもいいもん。また二十回でも三十回でも、百万回でも君に愛を告げてーー絶対に好きになってもらうもん」
「ふふ、あなたならやりそうね」
シャルロットが笑うとクロウは真面目な顔をしてシャルロットを精霊薔薇の上に押し倒した。
「ねえシャルロット、また生まれ変わっても私の奥さんになってくれる?」
「うん、もちろんよ」
頷くシャルロットは、今にも泣きそうな顔のクロウを安心させるように優しくキスをした。
「愛してるわ、クロウ。むかしも、これからもずっとよ」
恥ずかしくて普段はなかなか言えないけれど……、ちゃんと言葉にして伝えたかった。
ぷかぷかと宙にシャボン玉が浮いていた。シャルロットの身体に触れた薔薇の花びらは弾けて光る泡となり、鈍色の寒々しい空へと舞い上がる。
「…精霊薔薇の花畑で愛を誓ったカップルはね~永遠に結ばれるんだって。この辺の人たちの言い伝えだよ」
クロウはシャルロットを組み敷いたまま、ニコニコ笑った。
無邪気そうに見えて、黒い笑みを浮かべるクロウにシャルロットは困ったように笑いかえす。
「あら、そんな願掛けなくても……私達なら大丈夫よね」
シャルロットはクロウの頰に手のひらを当て、フニフニと皮膚の感触を確かめた。
「ウン!そうだよねー!ねえ~!シャルロット~だいしゅき~」
クロウは額や頬、唇に何度もチュッチュと唇を押し付けキスの嵐、シャルロットはこそばゆくて大笑いした。
空にのぼる精霊薔薇の泡が神秘的で綺麗。
どこからか白い蝶まで集まってヒラヒラ舞う姿が紙吹雪のよう、秋風がカランカランと礼拝堂の屋根の鐘を鳴らしーー。
「……あっ!そうだわ!」
シャルロットは飛び起きた。
「ふえ?どうしたの?シャルロット~?」
「ここって、王家が管理してるのよね?」
「そうだよ~」
「ここにあるじゃない!とても素敵な観光スポットが!」
「ほえ?」
ーー恋人や夫婦で旅行をするのが貴族やエスター国の富豪の中で流行ってるって聞いていた。
シャルロットは立ち上がると花畑を出た。
そして辺りをウロついた。
礼拝堂と精霊薔薇のある丘を降りたところには小さなお屋敷がある、別荘のようだ。
シャルロット達が宿泊してる施設まで徒歩で片道二十分くらいだろうか。
お屋敷の脇からあの美しい宮殿のような施設を見下ろせた。
「ねえ、クロウ。ここにチャペルを造るのはどうかしら?」
「チャペル?」
この世界の結婚式はかなりシンプルなパーティーが主流。
国にもよるが、大体的に祝うのは王族や公爵家と言った身分が高い階級の家くらいだろう。
結納を祝う酒の席というものはあるが、大半が書類のやりとりで終わってしまう場合が多い。
だから華やかで特別感溢れる王族や高貴な身分のカップル達の結婚式に憧れる令嬢も少なくない。
「アクセスも良いし、景色も良いし、近くには大きな宿泊施設もあるわ!フラーのお陰で街中に花が咲いて景観もよくなったし、最適じゃない?」
クロウと手を繋ぎながら、良い案が浮かんで無邪気にはしゃぐシャルロット。
「帰ったらグレース様に提案しましょう?」
シャルロットはガラスの薔薇をいくつか手折ると白いハンカチで包んだ。
「精霊薔薇……グレース様にも見せてあげよう」
「ウン、お仕事で来れなかったもんねえ」
シャルロットクロウと手を繋ぎ、ニコニコと笑いながら丘を下った。
温泉街近くの丘の上に楽しそうなクロウの笑い声が響いていた。
人型のクロウはシャルロットの手を引っ張りながら丘へ登る。
シャルロットは息を切らしながら彼の後ろを頑張って早歩きしていた。
「クロウ、ねえ、ちょっと……」
「うふふ~」
緩やかな丘だったが、クロウのペースについていくのは大変だった。
丘の上には礼拝堂のような小さな建物があって、その周りにはガラス細工で造られたような薔薇が咲き乱れる広い花畑があった。
「まあ……綺麗……」
シャルロットは笑顔になる。
「精霊薔薇だよ、大地の魔力を吸い上げて咲くの」
「すごく素敵だわ!ねえ、あの建物は何なの?」
「あれはねえ~、大昔この国が帝国で建国したばかりのころにね、皇帝に仕えていた幻狼が創ったものだよ。初代皇帝はここで結婚式をしたの。精霊たちが2人を祝福をして薔薇が咲いたんだ~」
「へえ……結婚式……」
クロウはシャルロットの肩を抱いて、幸せそうに礼拝堂を見上げて笑う。
シャルロットは彼の肩に寄り掛かり、同じように芸術的な外観の礼拝堂を見つめていた。
太陽の柔らかい光が鈍色の空から微かに射し込む、皮膚に当たる風は冷たいが心地良い。
「ふふ」
シャルロットは突然笑った。
クロウは不思議そうに首を傾ける。
「前世で、私たちが結婚した時ーー。あなたは学生でお金がなくって、田舎にある小さな教会で二人だけで結婚式を挙げたのよね。レンタカーを借りて教会まで行って、途中で道を何度も間違えて一時間も遅刻しちゃって……」
シャルロットはクスクスと笑い続ける。
「でも、待ってた牧師さんが良い人で笑って許してくれて。式を始めようとしたらあなたのお腹が大きく鳴っちゃって……サンドウィッチをもらって式の途中で食べたわね、ふふ、……それから、役所へ行く途中で婚姻届が突風に飛ばされちゃうし……追いかけていたら近所の恐い犬の尻尾を踏んじゃって……ふふふ」
前世のことを思い出して笑い出したシャルロット。
「ん、もう!そんなことまだ覚えてたの?シャルロット、それは忘れて」
恥ずかしそうに顔を赤らめたクロウがまたおかしくて笑えた。
クロウはシャルロットを横抱きにすると、ガラスの薔薇の花畑の中に連れて行く。
その真ん中に腰を下ろすと、薔薇を一本一本手折って行く。
「ガラスのようだけど普通の薔薇なのね」
「うん、そうだよ。魔法のお花なの」
クロウは器用に細長い手指を動かして、ガラスの薔薇で花かんむりを作ってくれた。
出来上がった冠をシャルロットの頭に乗せる。
「わあ~」
「小ちゃい時、よく作ったよね。薔薇じゃなくてシロツメグサでさ」
「懐かしいわね」
クロウは愛おしそうな瞳でシャルロットを見つめ、白い額にキスをした。
「ねえ……シャルロット。私ね。『包括者』になろうと思うんだ」
「包括者……?」
急に真剣な顔をして、どうしたんだろう?と、シャルロットはクロウの顔を見つめた。
「精霊の偉い人だよ!あのね~、精霊には階級があるの。幻狼ってもともと高位精霊でしょ?それよりも、もっとすんごいの。コボルトとか白竜の琥珀が包括者って言うランクの精霊なんだよ」
「クロウはどうして包括者になりたいの?」
「……気が早い話だけどね、ーーシャルロットがいつか死んじゃっても、またどこかの世界で生まれ変わったシャルロットに会いたいに行きたいの。包括者は世界を渡り歩けるから……それができるの」
「……え?」
悲しげな瞳で見つめられ、シャルロットはドキッとした。
シャルロットの手を握ったまま、クロウは俯いた。
「ーー私は、精霊だから……死ぬことができないの。コボルトはもう五百年も生きてるしーーグレイやフクシアなんて二百年は生きてるんだよ。でも、人間のシャルロットの命は有限でしょ?」
「……クロウ」
「もう離れ離れになるのはヤダよ……」
クロウは前世で死んでから幻狼として生まれ変わって数十年間、長い年月を老いることも死ぬこともなく生きていた。
人間は死んでも延々と世界を変えて生まれ変わることができる。
精霊には死という概念こそなく何千年も生きることができるが、魔力や生命エネルギーが尽きれば消滅する。
そして精霊から何かに生まれ変わることはなくーー消滅すれば永遠に無に帰してしまう。
「……でも、今度生まれ変わるとして、私に記憶が残ってるとは限らないわ…」
こんな奇跡のような事が二度三度起こるはずもない。
「私のことをシャルロットが忘れててもいいもん。また二十回でも三十回でも、百万回でも君に愛を告げてーー絶対に好きになってもらうもん」
「ふふ、あなたならやりそうね」
シャルロットが笑うとクロウは真面目な顔をしてシャルロットを精霊薔薇の上に押し倒した。
「ねえシャルロット、また生まれ変わっても私の奥さんになってくれる?」
「うん、もちろんよ」
頷くシャルロットは、今にも泣きそうな顔のクロウを安心させるように優しくキスをした。
「愛してるわ、クロウ。むかしも、これからもずっとよ」
恥ずかしくて普段はなかなか言えないけれど……、ちゃんと言葉にして伝えたかった。
ぷかぷかと宙にシャボン玉が浮いていた。シャルロットの身体に触れた薔薇の花びらは弾けて光る泡となり、鈍色の寒々しい空へと舞い上がる。
「…精霊薔薇の花畑で愛を誓ったカップルはね~永遠に結ばれるんだって。この辺の人たちの言い伝えだよ」
クロウはシャルロットを組み敷いたまま、ニコニコ笑った。
無邪気そうに見えて、黒い笑みを浮かべるクロウにシャルロットは困ったように笑いかえす。
「あら、そんな願掛けなくても……私達なら大丈夫よね」
シャルロットはクロウの頰に手のひらを当て、フニフニと皮膚の感触を確かめた。
「ウン!そうだよねー!ねえ~!シャルロット~だいしゅき~」
クロウは額や頬、唇に何度もチュッチュと唇を押し付けキスの嵐、シャルロットはこそばゆくて大笑いした。
空にのぼる精霊薔薇の泡が神秘的で綺麗。
どこからか白い蝶まで集まってヒラヒラ舞う姿が紙吹雪のよう、秋風がカランカランと礼拝堂の屋根の鐘を鳴らしーー。
「……あっ!そうだわ!」
シャルロットは飛び起きた。
「ふえ?どうしたの?シャルロット~?」
「ここって、王家が管理してるのよね?」
「そうだよ~」
「ここにあるじゃない!とても素敵な観光スポットが!」
「ほえ?」
ーー恋人や夫婦で旅行をするのが貴族やエスター国の富豪の中で流行ってるって聞いていた。
シャルロットは立ち上がると花畑を出た。
そして辺りをウロついた。
礼拝堂と精霊薔薇のある丘を降りたところには小さなお屋敷がある、別荘のようだ。
シャルロット達が宿泊してる施設まで徒歩で片道二十分くらいだろうか。
お屋敷の脇からあの美しい宮殿のような施設を見下ろせた。
「ねえ、クロウ。ここにチャペルを造るのはどうかしら?」
「チャペル?」
この世界の結婚式はかなりシンプルなパーティーが主流。
国にもよるが、大体的に祝うのは王族や公爵家と言った身分が高い階級の家くらいだろう。
結納を祝う酒の席というものはあるが、大半が書類のやりとりで終わってしまう場合が多い。
だから華やかで特別感溢れる王族や高貴な身分のカップル達の結婚式に憧れる令嬢も少なくない。
「アクセスも良いし、景色も良いし、近くには大きな宿泊施設もあるわ!フラーのお陰で街中に花が咲いて景観もよくなったし、最適じゃない?」
クロウと手を繋ぎながら、良い案が浮かんで無邪気にはしゃぐシャルロット。
「帰ったらグレース様に提案しましょう?」
シャルロットはガラスの薔薇をいくつか手折ると白いハンカチで包んだ。
「精霊薔薇……グレース様にも見せてあげよう」
「ウン、お仕事で来れなかったもんねえ」
シャルロットクロウと手を繋ぎ、ニコニコと笑いながら丘を下った。
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