シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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奪われたお城と皇子の愛を取り戻せ!?〜シャルロットの幸せウエディングパレード

精霊ガチャ?籠目の魔法陣

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「あははははっ!夢見たいね!これが王族の風呂かあ!」

 虚ろな目の侍女達は無言でただレイナの湯浴みに付き添っていた。
 意識は魔法でコントロールされており、使用人達は誰もが生きる屍のようだ。

 本殿の月守ーー王族のプライベートな空間を我が物顔で使用していたレイナはとても気分が良かった。
 こんな事をしていても誰からも咎められない。
 この城の中に限っての話だが、ここはもう全ての者がレイナの思いのままに動くのだ。

 湯から上がると、すぐさま待機していた侍女らがレイナを取り囲み濡れた体や髪を吹き始めた。
 そして高価なシルクのワンピースに着替える。

 朝一番に仕立て屋に持って来させたものだ。
 それからダイヤがはめ込まれたピンヒール、黒真珠のイヤリング、指輪はダイヤモンドか……ちょっと地味だわ。急な呼び出しだったからロクなモノ持って来なかったわ。

 仕立て屋はレイナの顔や城の異様な光景を見るなり異常さを感じたのか顔が引き攣っていた。

 着飾って真っ赤な紅を引いてグレース皇子の部屋にそのまま直行した。
 グレース皇子は虚ろな目をして窓の向こうを見つめたまま、ベッドの上に座り微動だにしない。

「グレース様~」

 グレース皇子には更に特殊な魔法をかけた。
 彼がレイナのことを愛するように…。魔術師にとってもまだ開発途上な魔法ではあったが、致し方ない。

 時間が経過するほど魅了の魔法の効果が薄れている?

 グレース皇子は冷めた目でレイナを見ていた。
 こんな手を使わずとも男ならば誰でも すぐ自分に夢中になってくれると思い込んでいたレイナは不満そうな顔をしながら、2秒後には表情を変え微笑し、グレース皇子の隣に座る。

 腕に絡みついたレイナの手を、グレース皇子は払った。

「ぐっ……」

 頭が痛んでいるようだ。苦しみだした。

「魔法に逆らうから苦しむのよ。感情のままに、身を委ねなさい。貴方はあたしを愛しているの」

「………!…違……」

 グレース皇子は苦しみながらも魔法に抵抗した。
 魔法に頭を支配されないように、何度もシャルロットの顔を思い浮かべていた。

(シャルロット姫……どこにいるんだ?無事でいるだろうか……!?)

*

 城からさほど遠くない場所に公爵邸はあった。
 後ろに見える山も含め、広大な土地と立派な屋敷と庭を所有しているようだ。
 公爵家に仕える騎士団も居て、使用人の数も多い。

 事情はすでにユハが話してくれていたようだ。真夜中なのに、レイター公爵と公爵夫人がわざわざ出迎えてくれた。

「急に邪魔をして悪かったな、しばし匿ってもらうぞ」

「はは、兄上が勝手なのは昔からでしょう。シャルロット姫様も大変でしたね、どうぞ奥へ。ゆっくりしていってください」

 レイター公爵は王の実弟らしい。
 城で話している姿もたまに見かけていたが、それよりもずっとフランクに兄弟らしく会話している。

「公爵様は魔法には掛かってないの?」

 シャルロットは疑問に思った。
 宰相でさえ魔法にかかって人が変わっていたのに、レイター公爵の様子はいつもと変わらない。

「ああ、うちの者は全員無事だな。ただ、城に勤めていた三男は魔法にかかっているようだ……。恐らく魔法が発せられた時に城に出入りしていた人がかかってしまったのだろう。私は領地の視察で上二人の息子達と王都を出ていたからなあ」

「アズさん?アズさんも魔法に……?」

「ああ、私が何を言っても通じん。洗脳されているようだ…。今は兄上がーー陛下が姫と共に逃亡したという噂が広がっている。城外に住んでいる貴族らは皆 この騒動に首を捻っているよ」

 アズはユハの兄で、お城で事務官をしている。

「街の人たちは無事だったもんね。ってことは~、魔鉱石はお城の中にあるってこと?」

 クロウは声を出しながら考え込んでいた。

「城の中ったって……無駄にバカでかいからな、どこにあるのか探すのは大変だな」

 クロウの隣でゲーテ王子はため息をつく。

「魔術師はさほど魔力は強くない。大きい魔法ほど粗雑な仕上がりになる。それが解けないように彼らなりに細工はしてあるようだが……。魔術師が何人取り掛かったって、国を丸ごと洗脳してしまうような威力もないだろう」

 コボルトは言うと、王も頷いた。

 公爵夫人に淹れてもらった紅茶を飲むと心が落ち着いてきた……、シャルロットは眉尻を上げて何かを決意したように立ち上がる。

「私が……っ!グレース様や、お城の人たちに掛かった魔法を解くわ!」

 シャルロットは宣言した。
 大広間に居た王や幻狼、公爵夫婦に騎士らの視線は彼女に集まる。

「姫様、魔法を解くだなんて……どうやって?」

「私の作った御守りを持ってると魔法にかからなかったのよね?たくさん作って、みんなに配れば……!」

「あれは……魔法から身を守ることはできるが、一度掛かった魔法を解く力はない」

 あくまで予防する効果しかないようだ。
 シャルロットはがっかりしたように肩を落とす。

「……そ、そっか……」

 良いアイディアだと思ったのに、駄目だった。
 それでもシャルロットは諦めない。

 みんなを救いたい。
 グレース様の心を取り戻したい……!

 何とか頭をひねって思い付いたのは、

「“籠目の魔法陣”………!昔 お祖母様から教えてもらったの。魔法陣を書いてお祈りをすれば精霊が力を貸してくれるんですって。ソレイユ国の王家の血筋は精霊王と契約しているから、精霊を召喚できる力があるんだって!」

 ただの作り物のお伽話だと思っていた。
 純粋無垢だった幼児の頃は、祖母の話を信じていて地面に魔法陣を書いて遊んでいた。
 もちろん その時は何も起きなかったが……。

(精霊竹の御守りも効果があったし……もしかすれば!)

 藁にもすがる思いだった。

「大半の精霊は精霊王と契約しているからな。喚び出されればそれに応える義務がある」

 コボルトはシャルロットに向かってそう言った。
 クロウやウェスタも頷いた。

 *

 公爵家の屋敷、庭園前の広場にシャルロットは棒切れを一本持ちながら、満月を背に立っていた。
 騎士や幻狼達は静かに彼女を取り囲み固唾を飲んで見守っている。

 シャルロットは祖母から教えてもらった魔法陣をゆっくりと思い出しながら地面にさらさらと書いていく。
 月に照らされた地に六芒星を大きく一筆書き、その六辺に精霊文字を一文字ずつ書いていく……。
 精霊文字の意味までは憶えて居ないが、確かこんな字だったとシャルロットはおぼろげな記憶を頼りに書き出した。

「ふう……、書けたわ!」

 シャルロットは満足げに笑った。
 そして魔法陣の前で手を合わせ、目を瞑ると精霊王に呼び掛ける。

「精霊王さま、精霊王さま、どうか力を貸してーー」

 あれは古から伝わる精霊の召喚術だーー、傍観していたコボルトは思い出していた。

 魔法陣は上手く書けている、手順もきちんと踏んでいる、ーーだが何も起きない。
 シャルロットはため息をつく。

「シャルロット姫、精霊との契約には血が必要だ」

 王は、落ち込んでいるシャルロットに向かって声を掛けた。

「血?……」

 シャルロットはゴクリと唾を飲むと、自分の人差し指をガブリと思い切り噛んだ。
 皮膚が裂けて、ポタポタと血が魔法陣の上に滴る。

 すると魔法陣や周辺が真っ赤に妖しく光り、地が大きく揺れたーー。

「うっ……!」

 精霊達は強大な魔力に圧されて、後退り目を細めた。
 シャルロットは呆然と立ったままだ……。

「成功したの!?」

 魔法陣から何かが飛び出した。
 黒い人影が目の前に現れ、仁王立ちしていた。

 真っ黒な癖毛に尖った耳、浅黒い肌と白く光る八重歯、シャルロットと同じ青い宝石のような瞳の大男だった。
 獣毛素材の全身を覆うような黒い外套を羽織っている。


「……アイツは……魔王か?」

 コボルトはボソッと呟いた。

「ま、魔王様?」



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