シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

文字の大きさ
238 / 262
恐怖のアンデットライン農園へ!首無し騎士と拗らせ女神のアイスクリームパーラー

彼女は拗らせ女神?OR変質者?

しおりを挟む
 シャルロット達が到着してから数時間後、夜になり、辺りがすっかり真っ暗になった。

「遅いわね……」

 コーヒーハウスで出会ったエリザ夫婦が遅れてやってくる予定だったのだが、約束の時間を過ぎてもなかなか現れなかった。
 シャルロットはしきりに時計や窓の外に目をやり、落ち着かない様子でいた。

「ねえ、ゲーテ、グレイ。屋敷の外へ出たいんだけど良いかしら?エリザさん達、もしかしたら迷子になっちゃったんじゃないかしら?探しに行きたいの……」

 同じ部屋でくつろいでいたゲーテとグレイに声を掛け、シャルロットはゲーテの馬に乗せてもらって門の外へ出た。
 キャロルも同伴し、エリザ夫婦が乗ってくるはずの馬車を探した。

「真っ暗で何も見えないわ……」

「灯をともしましょう」

 キャロルは光の魔法で夜道を照らした。
 赤ちゃん幻狼スノウは、みんなとのお散歩が楽しいのか、誰よりも先頭を我れ先にと小走りしてはしゃいでいた。
 グレイは我が子がはぐれないように、後ろを黙って歩いた。

「暗くなるとやっぱ不気味だなあ~。ゴーストでも本当に出てきそうだ」

 ゲーテが呟くと、キャロルは顔を真っ青にして馬の上でプルプル震えた。

「変なこと言わないでください!本当に出てきたらどうするんですか!?」

「うふふ、そういえばキャロルさんって幽霊が苦手だったわね」

「にっ……苦手じゃありません!びっくりするだけです」

 しばらく進んだところで、突然男性の悲鳴が聞こえた。
 驚いて悲鳴がした方向へ向かうと、馬車が道の真ん中に停まっており、青年が何者かに襲われているところだった。

 人影だが全身を黒い靄が覆い、目は真っ赤にギラギラと光ってる。
 まるで恐ろしい鬼のような……。

「エッ……?」

 あれはエリザの夫だ。
 馬車の中には赤子を抱いたエリザ、馬車の陰には馬子が怯えながら腰を抜かしている……。

「エリザさん……!」

 シャルロットは驚いて叫ぶ。
 騎士キャロルとゲーテは直ぐに馬から降りて、助けに入る。

 青年を襲う人影に向かって剣を振るうが、相手は軽やかにそれを避けるとキックで反撃してきた。

「な……!」

「んもう~!レディーに暴力を振るうなんて~!紳士のすることじゃないわ!」

 突然女性の声がして、地響きがした。
 キャロルは大きな揺れに足を取られ、その場で尻餅をついた。

「……え?」

 黒い靄が消えると、人影が姿を現した。

「ええ?」

 甘いデザインの可愛いワンピースを着て、ヘッドドレスを頭に付けた銀髪の長身美人ーー。
 彼女はプンスカ怒っていた。

「なによ~、もう、ちょっとイケメンを見つけたから声を掛けただけじゃないの。っていうか!きゃ~!あんたもなかなかの美少年ね~」

「ヒィ~!来るな~!」

「へえ~ウサギの獣人なのね~かわいいわぁ~」

 彼女は、今度はキャロルに襲い掛かる。
 キャロルは恐怖のあまりウサギの姿に獣化して、耳を垂らしてプルプル震えた。

「そこまでだ」

 鼻息を荒くしてウサギに迫る謎の女性と絶体絶命のウサギの間に、突然大剣が飛んできた。
 そして草陰から出てきたのはーー。

「お兄様……?」

 シャルロットは目を見張った。
 助けに入ったのは自身の兄で、オリヴィア小国の左王シーズだった。

「……え?あ、あなたは……」

 銀髪の女性は左王の顔を見て言葉を失くした。
 左王は放心状態のウサギを回収すると、女性の腕を掴み、容赦なく思い切り捻った。

「……お、お兄様…!女性に乱暴はダメよ」

「お前だな。夜な夜な徘徊して、村の若い男共に襲い掛かる痴女っていうのはーー」

 左王は女性を取り押さえて、淡々と述べた。
 女性は無抵抗だった。

「村人に頼まれたのだ。変質者退治を」

「失礼ねっ、変質者でも痴女でもないわっ」

 女性は左王の腕を払い、足技をかける。
 左王は眉ひとつ動かさず、地に着いた彼女の足首を蹴飛ばす。
 バランスを崩した彼女は横転しかけるが、左王は彼女の腰に手を回し支えた。

 左王の腕の中で、彼の整った顔に見惚れた彼女は目をトロンとさせ顔を真っ赤にさせる。
 さっきまでの鬼のような形相が一変、乙女のような顔になる。

「う……うそ……、あなた……っ、タンザナイトの勇者様……?」

「そうだが?俺には変態の知り合いなんか居ないが…」

「私です……いつだったかしら……?ソレイユ国の傭兵をしていたあなたと、戦争でサシで戦ったじゃない!女騎士だった私は、あの時あなたに負けて、あなたの剣に貫かれて絶命したのよ?」

「……女騎士……?ああ……」

 左王は目を大きく見開いた。

「……ああ!奇跡だわ!私、あの時あなたに生まれて初めて恋をしたの……、命だけじゃなく心まで奪われたの……!そんな人、あなただけだったわ!ああ!会いたかった!」

「……」

 女性は舞い上がっていたーー。
 そして左王の胸に飛び込むと、大きな声で叫んだ。

「ここで再会できたのは運命なのよ!好きです……!私と、結婚してェ!…」

「断る」

 秒速だった。
 左王は顔色を変えることなくバッサリとーー即答で、断った。

「………え、ええ?」

 愕然とする女性。
 森の静寂を裂くように、野犬の遠吠えが響いていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

若返った老騎士の食道楽~英雄は銀狼と共に自由気ままな旅をする~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
あるところに、数百年周期で現れる魔王がいた。 人族から生まれ、闇に魅入られし者、妖魔を統べる魔王と呼ばれる存在。 度々現れては、人々を恐怖のどん底に貶めてきた。 此度、その魔王との戦いに終止符を打った男がいた。 名をシグルド卿といい、六十歳を迎えた老人の男だ。 元平民にも関わらず、爵位を得て史上初の将軍にまで上り詰めた英雄である。 しかし、魔王と一騎討ちの末に相打ちになった……と世間では言われていた。 当の本人は実は生きており、しかも若返っていた。 そして自分が生きていることが知られると、色々と面倒なことになると悟った。 それにどうせなら、自由の身になって世界を旅したいと。 これは役目を終えた英雄が旅をし、様々な人と出会い、美味い物を食べていく物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。

処理中です...