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第二章 黒の主、混沌の街に立つ
31:カスタムの本領発揮
しおりを挟む■エメリー 多肢族(四腕二足) 女
■18歳 セイヤの奴隷(侍女長)
「ご主人様、ここが【黒屋敷】になるのですね」
これほどの豪邸を即金で買われたご主人様にそう言います。
「えっ、いや、あれはだな、俺が【黒の主】とか言われてるしお前たちの侍女服も黒と白が基調だしはやく家欲しいなーとか家族のような関係性だとか組織はつまりファミリーだよなーとかつまりそういう――」
なぜかしどろもどろでしたが、私たちのクラン・集まりを一つの家、家族のように考えて下さる事に嬉しく思いました。
てっきり『黒』がお好きでこの家も黒く塗るのかと思いましたがしないそうです。
ご主人様愛用の服は『喪服』と呼ばれる服装で、なんでも葬儀などの席で着る服なのだそうです。
こんな立派な御召し物を「滅多に着るもんじゃない」というのですからご主人様の元いらした世界ではやはり貴族のような生活だったのでしょう。
フロロは暮らしていた部屋を引き払いこちらに引っ越すという事で、すでに向かいました。
荷物はあまりないそうで一人で問題ないとの事です。
その間に屋敷の中を見て、色々と確認しています。
三階建ての白く清潔感のある屋敷。屋根は赤茶色の建材が使われています。
玄関ホールは二階までの吹き抜け。広々として開放感があります。
ここに絨毯を敷いたり、天井から下ろすような照明魔道具にしたほうが見栄えが良いかもしれません。
一階は食堂や浴場、応接室、サロン、娯楽室、パーティー用ホールなどもあります。
二階は使用人用の食堂や水場、私室などが並びます。玄関ホールのせいで『凹』こんな形ですね。
三階はご主人様用の主寝室と副寝室、隣には書斎、他は私室です。主寝室からは玄関側のバルコニーに出ることができます。
ご主人様はお風呂を見て「よし!」と仰っていたので満足頂けたのでしょう。
まるで水棲の種族が泳げるようなお風呂です。
私たちの私室も一部屋ずつ与えて頂きまして、皆そろって三階になりました。
奴隷一人に一部屋与えるという事にご主人様の優しさが感じられます。
そうして屋敷を見ていると、ご主人様が「あああっ!!!」と声をあげました。
何事かと思い皆で集まりました。
「すまん、ちょっと想定外のことが起こった」
想定外? と首を傾げると、ご主人様は空中を見つめ手を動かしています。
私たちには見えませんが、これは<カスタム>スキルを使っている証拠です。
いつもこうして私たちを<カスタム>して下さいます。
「どうやら家が『俺の持ち物』と判断されたらしい。つまり家の<カスタム>ができる」
「家の<カスタム>……ですか?」
これまで<アイテムカスタム>では侍女服の防御力上昇効果の他、靴の履き心地や軽さ、滑りにくさなど、かなり細かい<カスタム>が出来るとお聞きしました。
家も同じように出来るという事でしょうか。
「簡単に言えば部屋を増やしたり、通路を広げたりできる。リフォームって言うよりリビルドの域だな、こりゃ。ただしCPは装備品の比じゃないくらい使う」
「なんと……!」
「つまりこんな大きな家じゃなくても良かったんだ。余計な買い物したわー。……いや、二階建てがいきなり三階建てになればさすがに目立つか。じゃあこの箱の大きさで正解かも……」
ご主人様のスキルの規格外さに改めて驚かされます。
聞けば家具などの設置物は無理でも、照明設備といった家に付随する機能であれば付けられるとの事。
燭台はだめで、壁に埋め込まれた照明ならば良いと。
それもご主人様にしか理解できない元の世界で使っていらっしゃったような設備が付けられると言うのです。
元いらした世界の道具や住まいとはどういったものなのか、非常に興味があります。
とは言えCPが異常にかかるらしく……
「風呂場の改造は決定だ。ジェットバスとサウナは付けよう。ああっ! ウォッシュ付きトイレがある! 最優先だ! 各階に二つずつ付けよう! でもCP超使う! どうしよう!」
何やらお一人で興奮していらっしゃいますが、我々にはよく分かりません。
とりあえず落ち着いてCPをどう使うのか考えて頂いたほうが良いでしょう。
いくらスタンピードや山賊退治をしてCPが豊富にあると言っても限りがあるのですから。
「……だよな。フロロの強化もしたいし非常用でとっておきたいってのもある。家の改造は相談しながら徐々にやるか。でもトイレはすぐにやる! 一か所だけでもつける!」
そこまでトイレに拘りがあるとは……。
その時はご主人様のお考えが分かりませんでした。
驚きと恥ずかしさの後、感動に打ち震えるのはそのあとすぐの事でした。
「これはなんと言う……!」
「ピューって! ジャーって!」
「なるほどご主人様が拘るわけですね」
「なんかムズムズする……」
これを経験してしまうと他でトイレを使えなくなりそうです。
お好きなお風呂よりこれを優先させたのも分かります。
どういう仕組みなのか全く分かりませんが……。
その後フロロが引っ越してきて、買い置きした夕食を皆で食べながら相談となりました。
もちろん<インベントリ>で熱々です。
フロロに色々と説明しながらですので時間はかかりますが。
「はぁ~、なるほどご主人様はやはり並外れた御方だったか。とんでもない力をお持ちだ」
「なにかと便利だろ」
「便利というだけでは済まされないぞ。僕の能力を上げ、装備の価値を上げ、スキルを使えるようにし、家まで自由自在。その<カスタム>だけで規格外なのに、<インベントリ>という時間経過なしの無限収納能力も規格外だ。これは我の奴隷契約の際に制限をかけてもらわないと、どこぞの輩に催眠でもかけられたらお終いだ」
やはりフロロもご主人様の能力を危険視しています。
ご主人様自体が危険ではなく、その能力を知った輩に利用されるかもしれないと。
もし私たちの誰かが拉致され、秘密を話すようなことがあれば確実に狙われるでしょう。
ですので、私たちの奴隷契約にはご主人様に関する秘密を許可なく話すことは禁じられています。
これで万が一催眠をかけられても契約魔法により口外できません。
最初、そうした事を抜きで契約しようとしたのでイブキと私でお止めしたのです……。
「ともかく、明日【ティサリーン商館】に行ってフロロとまずは契約しよう。で、考えたんだけど、その時一緒に使用人の奴隷買ったほうがいいのか? これだけ大きい屋敷だと俺たちだけで管理するの大変だろ」
確かにこの規模の屋敷ですと、十人規模の使用人と専属料理人がいてもおかしくありません。
しかし選ばせて頂いておいて恐縮ですが、この屋敷を買うのに相当のお金を使ったはずです。
奴隷を何人も買うとなるとかなりの金額になると思います。
「まずは生活する上で必要なものを買いそろえてからの方が宜しいのではないでしょうか」
「ベッドや備え付けの家具がありますけど、逆を言えば他はないですしね」
「食器や調理器具が欲しいです」
「装備品の依頼もするのでは? それにも金額がかかりましょう」
「うん、じゃあとりあえず奴隷商はフロロとの契約だけにしよう。それから各区画の商業組合に行って地図を買いつつ、色々と買い物だな」
「我も案内するぞ。十年も住んでいたのだから大体は分かる」
「頼りにしてるよ」
翌日、侍女服に身を包んだフロロと共に【ティサリーン商館】へ行き、正式な奴隷契約を結びました。
さすがは大店と言いますか、広く清潔感のある店内と気品ある女主人。
奴隷契約で女神様の紋様が出た際には驚かれましたが、それでも最初から最後までちゃんとした対応でした。
使用人の奴隷を買うのならばこの商館で買うのが良いかもしれません。
その足で南東区へと向かいます。
「ミーティア、南東区は樹界国領らしいけど行っても大丈夫なのか?」
「はい。国外追放と言っても国に籍を置けないだけで、今はすでに中央区住まい。樹界国に住んでいるわけではありません。ましてやカオテッドは他国と繋がった街ですから、時折南東区に足を踏み入れるのも問題ないでしょう」
「いや、それもそうだが有名人が『日陰の樹人』となって樹界国領に入るんだ。騒がれたらミーティアが気まずくなるのでは、とな」
「どうでしょう。罪人自体は珍しいものではありません。『日陰の樹人』となって暮らす人も少なからず居るでしょう。と言いますか風貌の変わった私を見て気付いたフーリンデさんがすごいと思います。いくら間近で見た事があってもそうそう気付けるものではないかと」
「そうか。ならいいんだ」
「ふふっ、お気遣いありがとうございます、ご主人様。しかし騒がれるのはご主人様の方が多いと思いますのでお気を付け下さい」
「それこそいつもの事だな」
そう言ってご主人様は笑っていらっしゃいました。
ご自分が注目され謗られるお立場なのに、ミーティアを心配なさっています。
私はイブキと目で語り合いました。不逞の輩から絶対に守ろうと。
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