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第四章 黒の主、オークション会場に立つ
77:死にたがりの三眼
しおりを挟む■アネモネ 多眼族 女
■17歳 三眼
私は本当に「死にたい」のだろうか。
どこかで「生」に惹かれているのではないか。
そう考える事が時々ある。
多眼族という種族は元を辿ればエクスマギア魔導王国の領土に起源を持つとされる。
当然、導珠族と同様に魔法に偏った性質を持つ。
特徴的なのはやはり″眼″だろう。
多い者だと六眼や八眼の者もいて、私のような三眼などは数だけは多いが素質は低いとされている。
眼の数が多ければ魔法に長け、少なければ弱い。そんな大まかな印象だ。
私の実家は貴族も相手にしている大店の商家だった。
貴族にほど近く、しかし貴族ではない、裕福な平民といった所。
貴族で″三眼″となれば落ちこぼれ同然だが、平民である以上、通常はそこまで酷い扱いは受けない。
もっとも両親は貴族かぶれの平民であった為、産まれた時に三眼であった事に残念がってはいたようだが。
しかし実際は、両親は私を残念がるどころか嫌厭していた。
毛嫌い、いや、恐れていたと言っても良いだろう。
なにせ私の額の″眼″は『魔眼』だったのだから。
―――魔眼。
瞳に魔法陣を宿した眼。
それは多眼族にとっては『呪われた存在』と呼ぶべき者。
″眼″に魔力を集め、″眼″で優劣をつける多眼族にだけ現れる稀有な存在だ。
百人に一人とも千人に一人とも言われるそれは、過去幾度となく多眼族の中に現れた。
魔眼の種類は様々で、【麻痺】【遠視】【暗視】【視線のみでの魔法発動】など個人によって異なる。
酷いものだと【即死】や【石化】といった場合もあり、幼い子供が意図せずに魔眼を発動させた事による事故が過去に多くあったという。
だからこそ『呪われた存在』として多眼族の中では嫌厭される。
私の場合は【看破】の魔眼だった。
物の真贋を見抜くそれは商家としては非常に有用だろう。
売り買いする商品に偽物が混じる事がなく、商談しても相手の嘘を見抜ける。
だからこそ両親も私を育てたのだと思う。
ただ、有能な子供を育て上げ、稼業を盛り立てたいというのは普通の種族の場合だ。
私の両親は多眼族であるが故、魔眼持ちの子供を嫌厭する。
魔眼持ちの呪われた娘。
しかし商売には使えるから育てよう。
本当ならば顔も合わせたくないが仕方ない。
そう考えているのが幼い頃から分かってしまっていたのだ。
「まぁ、アネモネは本当に優秀ね~」
「かわいい娘だ、将来が楽しみだな」
そう言った声が全て嘘だと分かるのだ。
両親の褒め言葉が、ただのお世辞だと。
ただでさえ大店の商家など詐欺まがいの嘘が日常化しているもの。
日頃から嘘にまみれた生活に私は耐えきれなかった。
毛嫌いはしていても育てなければいけない。
だから褒めるし、学校にも通わせた。そういう事なのだろうが……
「アネモネちゃんかわいい~!」
「頭良いよね~、うらやましい~!」
嘘、嘘、嘘。
学校へ行っても周りは嘘つきだらけ。
せっかく入学金を出したのに不登校となった娘に両親はさらに幻滅した。
誰からも嫌われ、誰からも必要とされない。
毛嫌いされる呪われた存在。
私は人ではなく嘘を見抜くただの道具なのだ。
そして私は自殺を試みた。
しかし死にきれなかった。
計三度の自殺を試みたが、どれも失敗した。
両親はさすがに三度目で全てを諦めたらしい。
利用価値があるからと魔眼持ちでも無理して育てたというのに、勝手に死のうとしている娘。
そんな私にいい加減見切りをつけた。
「お前は自分をなんだと思っているんだ!」
呪われた道具ですよね。
「なんのために今まで育てて来たと思ってる!」
道具を利用したかっただけですよね。
「どれほど私たちが愛情を込めてきたか! お前は分かっていない!」
はい、嘘。
私は父の知り合いの奴隷商人に売られた。
名目は借金奴隷。
実家が裕福なのにおかしな話だ。
しかし奴隷になろうが、どこに売られようが関係ない。
私はもう死んだも同じ。
どうせ誰からも必要とされず、誰からも毛嫌いされる。
一人で死んでいくだけの呪われた存在なのだから。
さて、いつ死のうか。
しかし奴隷となれば自殺も難しい。
ああ、神はなぜ楽に死なせてくれないのか。
私に何を望むというのか。
いや、神など居ないのかもしれない。
私ごときに神などいるはずがない。
そんな事を思いながら奴隷商の馬車で送られた先は、【混沌の街 カオテッド】だった。
そこで私は出会う事になる。
「俺は『女神の使徒』なんかじゃない」
……嘘……だと?
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