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第四章 黒の主、オークション会場に立つ
79:内容の濃い報告会
しおりを挟む■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
「―――というわけなんです」
「こわっ!」
いやもう、保護=侍女として雇う=奴隷っていうのは突っ込まんよ。
エメリーから侍女教育受けてるって聞いた段階で「あっ(察し)」だったし。
【ゾリュトゥア教団】ってのがそこまでとは思わなかったわ。
マジなカルト教団じゃねえか。
山賊やら闇組織よりよっぽど怖い。
「あー、とりあえず保護は確定。【ゾリュトゥア教団】は絡んで来たら潰すように、みんなよろしく」
『はい』「ありがとうございますっ!」
出来れば積極的に潰したいくらいだけどな。
俺が被害を受けたわけじゃないのに乗り込むわけにもいかんし。
カルト教団って悪意を持ってやってるわけじゃない連中が多いのが厄介なんだよなー。
本心から善意のつもりで、結果的に悪事を働いてるから。
非常に相手にしづらい。
「一応聞くけど、本当にドルチェは俺の奴隷になるのか? 保護するだけでもいいぞ?」
「是非よろしくお願いしますっ!」
「お、おう。じゃあ契約は明日でいいかな」
「はいっ!」
なんでそんなノリノリなんだよ。
真っすぐすぎてどことなくポルを彷彿とさせるんだが。
エメリーの教育の賜物か?
ちなみにスタイルが良く美人な顔つきだから二〇歳くらいかなーと思ったらなんと十四歳らしい。
サリュ、ネネ、ポルの一歳年下。まじか。
もう種族で成長が違いすぎて見た目は当てにならない。改めてそう思った。
まあ、それはそれとして全員が集合しているうちに報告会をせねばなるまい。
樹界国で起きたあれこれを皆に話し、情報を共有する。
王都に行くまでの樹界国の現状。
陛下と王妃様の救出、神殿強襲、王城に乗り込み兄王討伐、神樹へ行って【天庸】との戦い、そしてその後。
かなり濃密な報告になった。
「大司教は淫魔族と結託、王は幽魔族に取り憑かれていたと……」
「魔族の暗躍が過ぎるな。宰相も絡んでいるのかもしれん」
「樹人族以外の集落の人たちが可哀想です……」
「これはポルも売られるわけだのう」
「んで、その【天庸】ってのは結局なんなんだ? どのくらい強いんだ?」
「ミーティアさんが苦戦するほどの相手ですか……」
「私ももっと強くならないとっ!」
「ミーティアさんがもらった神器が見たいのですが! 是非!」
発言はエ・イ・サ・フ・ツ・ヒ・テ・ジの順だ。多いな。
ドルチェはだんまり聞いているだけ。
知らない事だから仕方ない。
ジイナはミーティアから『神樹の長弓』を見せてもらい感動していた。
弓は鍛冶屋の領分じゃないだろうに、分かるもんなんだろうか。
ちなみに樹界国からの帰りがけに試し撃ちはしている。
これがとんでもない代物で、矢は魔力で生成するらしく、魔力を<カスタム>しているミーティアにとってはほぼ無限に撃ち放題。
しかも攻撃力というか貫通力というか威力がとんでもない。
オークまとめて数体貫いた時は笑った。
そんな長弓を見て、ジイナは喜悦の表情を浮かべている。
ミーティア、早く取り上げたほうがいいぞ。延々見るから。
【天庸】という組織についても共有した。
逃がした女が居る以上、こっちを狙って来るかもしれないからな。
ミーティアの存在はバレてるんだし。消したいかもしれん。
分かってるのは、組織の名前と、神樹の素材を欲していた事と、不自然な強さを有していたことくらい。
その不自然な強さってのが俺の<カスタム>と似てるんだよなぁ。
「まさかその【天庸】にも<カスタム>のスキルを持ったものが?」
「いやエメリー、多分それはない。これは女神が数千のスキルの中からランダムにとったスキルだ。仮に俺以外の転生者がいたとしてスキルを与えるにしても、同じスキルを与えるとは思えん」
それを聞いた皆は「やはりご主人様は選ばれし者……」とか「女神の使徒様……」とか言っているが無視だ。
ドルチェは初めて聞くらしく「???」となっている。
あとでエメリーにでも聞いておいてくれ。
「なんにせよ、最低でもあの力量のやつがあと九人は居ると思ったほうが良い」
「ええ、私も自分の未熟さを痛感しました。ご主人様の<カスタム>に甘え、戦闘技術が低いままだと。よろしければもっと迷宮に潜ろうかと思います」
<カスタム>に甘えてるのは俺も同じなんだけどな。
レベルアップは図るに越したことはない。
数名はミーティアと同じように喜び勇んでやる気を見せている。
ジイナはなぜ虚空を見つめているんだ? なぜフロロは慰めているんだ?
で、居残り組の報告も聞いた。
ドルチェが言ってた連続殺人がどうとか【宵闇の森】がどうこうとか。
どうもエメリー、サリュ、ヒイノ、ティナの四人で迷宮に入ったら十二人もの集団に襲われたらしい。
んで、返り討ち。まぁそれは当然だろうな。
しかし捕らえた連中が有名なベテランパーティーだったらしく組合が混乱。
取り調べの結果、そいつらが迷宮で連続殺人をしており、なおかつ【宵闇の森】という闇組織に属していたと。
で、その【宵闇の森】って誰だよと聞いたらミーティアが知ってた。
「樹界国でずっと噂されていた闇組織です。国の裏側を牛耳っていたとも言われています。これは助けたお父様からお聞きしたのですが、私の生存を知ったお姉様が【宵闇の森】に殺害命令を出したらしいです。もしかしたらそのせいでエメリーさんたちが襲われたのかもしれません。私のせいで……申し訳ありません」
「いえ、問題ありませんよ。むしろおかげで連続殺人犯を捕らえることが出来たのだから上々でしょう。ねぇティナ」
「はいっ! でもすごく弱かったです、もうちょっと強い方が……」
「こらティナ! そういう事言うんじゃありません!」
「ハハハッ! ミーティア、みんなそう言ってるんだ。気に病むことはないだろ。むしろミーティアが囮になって連中を引きずり出したのなら、よくやったと言いたい」
「皆さん……ありがとうございます……」
しかし、俺たちが十二人も捕まえたとなると、樹界国に居るであろう【宵闇の森】の連中から狙われるかもしれないな。
やっぱりレベル上げと、あとは屋敷の警備も大事だな。
ほかに何か報告はないかと聞いたらツェンが手を上げた。
珍しいな。酒か?
「こないだイブキと買い出しに行ったんだが、その時……」
「おい、ツェン! その話は報告するまでもないだろう!」
「んなわけあるか! ここはカオテッドだぞ? あいつらが迷宮に来る可能性が高いだろうが! かち合う事を考えろ!」
「しかし……!」
「あのなぁイブキ。お前はエメリーたちの剣となり盾となるっつったよなぁ。あの様で守り切れると思ってんのか? 不安要素しかねえよ」
「ぐっ……!」
なんだなんだ、喧嘩とか初めてだから困るんだが。
し、しかし主人としてはビシッと決めなくてはいけないな。うん。よし。
「イブキ、話せ」
「……は……はい。完全に私事なのですが……先日、故郷の集落にいた男を見かけました。ラセツという男です。その者が鳥人族の男と二人歩いていました」
「その知り合いの男がどうした?」
「……その男……ラセツは――――私の角を折った男です」
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