162 / 421
第七章 黒の主、【天庸】に向かい立つ
156:大地へと叩き落すは剣か術か
しおりを挟む◎北東区(魔導国領):第七席 人蛇族クナvsネネ、ドルチェ
■ネネ 闇朧族 女
■15歳 セイヤの奴隷
「<気配消却>」
ドルチェはまだ到着しない。でも私はさっさと殺るよ。
とりあえずあの人蛇族は放っておいて、ワイバーンだ。
今も衛兵団っぽい人たちと戦闘中。いや、蹂躙され中。
「くそっ! なんだこのワイバーンは!」
「デカさと言い、強さと言い普通じゃねえぞ!」
混乱する衛兵はどうやらワイバーンにとってもカモらしい。
降下しては襲って、また上昇を繰り返している。
それは私にとっても好機だ。衛兵に感謝。
破壊された建物にススッと昇り、降下してくるワイバーンに向けて飛びかかる。
「<毒撃>」
「ギャアアウ!!!」
背中に飛び乗ると同時に首の根元に突き刺した。
ん? 反応が鈍い。何度も<毒撃>でザクザクやる。
いくらワイバーンの鱗が硬いって言っても、私のダガーは【炎岩竜の鱗】製のドラゴンダガー。
皮膚を貫くのなんて容易い。だから何度も突き刺す。
飛んで暴れるワイバーンに<カスタム>されたステータスを頼りにしがみつき、何度もザクザクやる。
……よし、毒った。オッケ。
でもまだザクザクやる。もうどうせなら首を落とす勢いでザクザクやる。
「お、おい! ワイバーンが何か暴れてるぞ!?」
「背中に誰か乗ってないか?」
「は? いや、全然見えないが……」
<気配消却>使うと意識から外れるらしい。相当注視するか高い察知能力がないと存在に気付かないとか。
まあ、これも<カスタム>されてるおかげなんだけど。
なるべくあの人蛇族に気付かれないうちに殺したい。
お、やっとドルチェ到着。がんば。
「はあっ、はあっ、そ、そこの【天庸】の人! 私が相手しますよっ!」
「ん? ほうほう、其方は【黒の主】のメイドか? まさかここに出張ってくるとは運が良い。てっきり妾は戦えんものだと勘繰っていたからのぅ」
「私は【黒屋敷】の侍女、ドルチェって言いますっ! 貴女は誰ですか!? 何席の人ですかっ!?」
「……なんか調子の狂う娘だのぅ。妾は第七席のクナだ。これで満足か? さっさと殺るぞ」
言うや否や、クナって人はドルチェの身長より大きな鉈を横薙ぎに振ってきた。
片手で軽々と。まるで短剣を振るうように。
―――ガキィィィィン!!!
「くぅっ!」
「ほお、さすがは噂に聞きし【黒の主】のメイドよ。ドルチェと言ったか、なかなかやるのう!」
「これでも防御力だけならクランで一番って言われてるんですっ! 全然効かないですよっ!」
「はははっ! そうかそうか! ならばどんどん行くとしよう! ほれほれ!」
……なんで自分から情報を公開していくのか。
……あとでドルチェはお仕置きしよう。
でもあれ、本当に強いなー。ドルチェもいつまで防げるか分かんない。
さっさとワイバーン倒さないとまずいね。もっとザクザクしよう。
それまではドルチェ、がんば。
◎北西区(鉱王国領):第八席 鬼人族ラセツvsイブキ、ジイナ
■ジイナ 鉱人族 女
■19歳 セイヤの奴隷
「おいおい、せっかく弱くしてやったのにむしろ強くなってんじゃねえか! やっぱりてめえも【黒の主】の強化を受けてやがんのか!」
「さあな。貴様が弱くなったのではないか、ラセツ?」
「ちっ! 角折れが調子づきやがって……! その剣だって普通じゃねえよな! 【黒の主】のメイドはミスリル武器じゃなかったのか!?」
「情報が古いな。組合員が武器を新調したって不思議じゃないだろうに」
魔剣と特大剣、ガンガンと打ち合いながら器用に会話してる。
どうやらイブキさんも頭に血が上って、などという事はないようだ。一安心。
まだお互い全力ではないにしろ、ちゃんと戦えているのは、やはりトロールキングとの戦闘訓練が大きいのかもしれない。
レベルアップや<カスタム>もそうだが、イブキさんの自信になっているのだろうと思う。
しかしラセツがどんな奥の手を隠しているのかも読めない以上、私も早く駆けつける体勢を整えるべきだ。
さっさとワイバーンを倒さないと。
「魔法部隊、撃ちこめーっ! 降りてきた所がチャンスだぞ!」
「わ、分かってはいますが! こちらの被害が……!」
北西区の衛兵団も戦っている。さすがにラセツ相手にはすでにやられたらしいが、ワイバーンと戦っている部隊はまだ残っているようだ。
でも、やはり苦戦はしているらしい。
撃ってる魔法も弱いし、下りてきた所に剣や槍で攻撃しても、その武器はおそらく鋼鉄製だ。ミスリルでさえない。当然だけど。
これでは大してダメージが入らないだろう。
私もそれに交じって下りてきた所を叩くか……いや、やっぱりあれを試してみよう。
愛用の【鉱砕の魔法槌】、その柄尻にはリング状のアタッチメントを付けてある。機能を損なわない最低限の改造だ。
そこにエメリーさん用に作成したミスリルの鎖をカチャリと接続。
鎖を持って、ぐるぐると回れば、なんと私の【鉱砕の魔法槌】が対空用投擲武器に早変わり!
これぞご主人様直伝! ハンマー投げだ!
「お、おい! 【黒屋敷】のメイドか……?」
「何やってんだ、ぐるぐる回って……!」
「なんか危険な匂いがする……引けえっ! 退却だ! 退却しろーっ!」
ぐるぐる……うわっ、あ、これ、やばい、すごい、遠心力がっ!
―――ビューーーーン! ドゴオオン!!!
「ギュアアアアア!!!」
「おおっ! やった! ワイバーンを打ち落としたぞ!」
「あのメイド大丈夫か!? ハンマーと一緒に吹き飛んだぞ!?」
「ハンマーの重さを利用して自分も飛び込んだのか! さすがは【黒屋敷】だな!」
いたたたた……ワイバーンと一緒に吹き飛んだ身体をどうにか持ち上げる。
失敗した……手を離すタイミングを完全に見失った……ワイバーンに当たってラッキーだった……。
あー気持ち悪い。まだぐるぐるしてる。おえっ。
と、とりあえずワイバーンにとどめをささないと。
ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン!
「ギュアアアアアアア……」
「ひ、ひでえ……容赦ねえな……」
「あの恐ろしかったワイバーンが……」
「さ、さすがは【黒屋敷】……だな……」
ふう、これで大丈夫かな。
あとは衛兵さんたちに任せて、私はイブキさんの所に行かないと……おえっ。
◎南東区(樹界国領):第九席 樹人族リリーシュvsミーティア、ポル
■ポル 菌人族 女
■15歳 セイヤの奴隷
「ふっ! はあっ!」
「ちいっ! また腕を上げてるじゃない。どうなってんのよ、貴女たちは」
ミーティア様とリリーシュという人は、短剣同士で素早い攻防を繰り広げています。
一度戦っている者同士、余計な探りもないようです。
でも、市街地戦の上に接近戦だから……ミーティア様、弓が使えなくて大変そうです。
逆にミーティア様がワイバーンを相手取ったほうが一撃で終わると思うのですが……もう遅いですね。
私があの人と一対一なんて多分無理ですし、私は私で頑張るです! ふんす!
南東区の衛兵さんたちは樹人族の人がやはり多いらしく、風魔法と弓矢で遠距離攻撃してるみたいです。
でもあんまり効果がないのか、ワイバーンは上昇降下を繰り返し、次々に衛兵さんたちを倒し、また建物を破壊していきます。
それでも逃げずに攻撃しているのは偉いと思います。
「私も参加するですっ! 一緒にワイバーンを倒すですっ!」
「おおっ? メイド……【黒屋敷】か!? 南東区にまで救援に来てくれるとは!」
「助かる! ……しかし、菌人族とは……大丈夫なのか?」
「何言ってんだ! 来てくれただけでも感謝しろ! それに【黒屋敷】だぞ!? Sランクだぞ!?」
「そ、そうだよな! ……しかし、手にしている武器は……なんだあの禍々しい……杖? 鍬?」
「鍬なわけないだろ! いい加減にしろ! 戦場に農工具を持ちだすヤツがいるか!」
「そ、そうだよな! ……しかし」
なんかごちゃごちゃ言ってますけど、参戦しちゃって大丈夫ですよね?
よーし、とりあえず空のワイバーンを皆さんと攻撃しないと。
「氷の嵐! 岩の槍! 氷の槍!」
「ギュアアアア!!!」
「す、すげえ! なんだあの行使速度! あの威力! 半端じゃねえぞ!」
「さすが【黒屋敷】……! これが非戦闘系種族の菌人族とは思えん……!」
「ほら見ろ! やっぱり杖じゃないか、あれ!」
おっ、結構いいダメージ入ったみたいです。
よろけて落ちてきますね! チャンスです!
一気に大ダメージを与えるです!
「そぉい! そぉい! そぉい! そぉい!」
「ギュアアアアアアア!!!」
「す、すげえ! なんだあの攻撃! ワイバーンを耕してるぜ!」
「さすが【黒屋敷】……! これがさっき魔法を撃っていたメイドとは思えん……!」
「ほら見ろ! やっぱり鍬じゃないか、あれ!」
騒いでないで手伝ってくれないんですかね、衛兵さんたち……。
私一人じゃ大変なんですけど……。
11
あなたにおすすめの小説
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
異世界帰りの英雄は理不尽な現代でそこそこ無双する〜やりすぎはいかんよ、やりすぎは〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
<これからは「週一投稿(できれば毎週土曜日9:00)」または「不定期投稿」となります>
「異世界から元の世界に戻るとレベルはリセットされる」⋯⋯そう女神に告げられるも「それでも元の世界で自分の人生を取り戻したい」と言って一から出直すつもりで元の世界に戻った結城タケル。
死ぬ前の時間軸——5年前の高校2年生の、あの事故現場に戻ったタケル。そこはダンジョンのある現代。タケルはダンジョン探索者《シーカー》になるべくダンジョン養成講座を受け、初心者養成ダンジョンに入る。
レベル1ではスライム1匹にさえ苦戦するという貧弱さであるにも関わらず、最悪なことに2匹のゴブリンに遭遇するタケル。
絶望の中、タケルは「どうにかしなければ⋯⋯」と必死の中、ステータスをおもむろに開く。それはただの悪あがきのようなものだったが、
「え?、何だ⋯⋯これ?」
これは、異世界に転移し魔王を倒した勇者が、ダンジョンのある現代に戻っていろいろとやらかしていく物語である。
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ?
――――それ、オレなんだわ……。
昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。
そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。
妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる