カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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第十章 黒の主、黒屋敷に立つ

229:獣帝国のSランク

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■ガブリオル 獅人族ライオネル 男
■39歳 Sランククラン【赤き爪痕レッドスカー】クラマス


 ボロウリッツ獣帝国、帝都ディン=ボロウ。
 その中でも力を誇示するように一際大きい王城の一室に俺は呼ばれた。
 まるでこの世の贅を集めたような煌びやかな部屋だ。


 対面の中央には横幅がありすぎる巨漢の豚人族トンポーロ
 皇帝ドドメキウス・ボロウリッツその人。

 その隣には狸人族ラスクゥルのモロモフ宰相。
 逆隣には鼠人族ラートムのチューリヒ公爵もいる。
 錚々たる顔ぶれと言って良いだろう。


「ガブリオルよ、貴様を呼んだのは他でもない」


 皇帝がだるんだるんの頬を揺らし、くぐもった声で話す。
 聞き取りにくい声を何とか聴いた所、どうやら内容はカオテッド大迷宮に関しての事らしい。

 なんでもチューリヒ公爵がカオテッドに買い付け・・・・に赴いた際、何かしらの事件に巻き込まれ怪我を負ったと。
 公爵は大層ご立腹で皇帝の話を遮り、まくし立てる。


「あの基人族ヒュームさえ居なければこんな事にはならなかったのだ! 私の邪魔をしなければ! そもそも基人族ヒュームごときがなぜカオテッドに居る!? 迷宮組合員だと!? 冗談も休み休み言えというのだ!」


 全く話が見えないまま愚痴を聞くはめになったが、どうやらカオテッドには基人族ヒュームの迷宮組合員が居るらしい。
 それだけでも「はぁ?」という感じだが、どうもそいつは高ランクなばかりか、金も持っているらしく、さらにはメイドを侍らせているのだとか。

 そんな基人族ヒュームが居るわけねーだろ、とは口に出せない。
 皇帝や宰相の話でもそれが真実であると窺える。


 じゃあ俺……いや俺のクランへの話とは何なのかと。
 Sランクの俺らがカオテッドに行く事で、その基人族ヒュームよりも強い事を示せと、そういう事なのかと思った。

 が、どうも様子がおかしい。


「その基人族ヒューム……【黒屋敷】というクランの【黒の主】というヤツだが、今はSランクになっているそうだ」

「なっ! 基人族ヒュームがSランクですか!?」


 宰相の言葉に思わず声を荒げた。
 迷宮組合員のSランクというのは数々の迷宮を制覇するなど、人並み外れた功績を上げなければ決してなれないものだ。

 俺らだって国内の迷宮をまわり、国の後ろ盾を受け、国内の組合支部に賄賂を贈り、ようやく五年前にSランクになれたのだ。
 そこまでやって何とか、という所。

 決して基人族ヒュームごときがなれる地位ではない。
 カオテッドに迷宮組合本部があるのだから、本部長の目も光っているだろう。賄賂等も無理だ。
 その状況下でSランクになれるなど……。


「しかも魔導王国を席巻していた【天庸】という犯罪者組織。これがカオテッドに襲撃した際には、その迎撃も行い、カオテッドを救ったらしい。これはカオテッド南西区長のリリーダル男爵の言だがな」

「リリーダルのヤツめ! あの生真面目馬鹿は実直すぎて視野が狭すぎる! 広い視野を持てばそれが偽りだと分かるだろうに! 基人族ヒュームのクランにそんな真似が出来るはずなかろう!」


 宰相の言葉に公爵が突っかかる。
 どうもその男爵と公爵は相性が悪いらしい。


「というわけで、ガブリオル。貴様にやってもらいたい事の一つは、その基人族ヒュームの調査だ。迷宮組合員としてカオテッドで活動し、そこでヤツらの情報を仕入れてこい」

「はっ」

「もう一つは……これだ」


 机の上に置かれたのは、真っ黒の金属のようにも見える……木片?


「黒曜樹という。アダマンタイト鉱石以上に価値のある木材だ。これがカオテッド大迷宮で採取できるらしい」

「それを持ち帰れ、と?」

「それもそうだが存在を確認するのが先だ。本当に黒曜樹の採取が出来る迷宮なのか、とな」


 なるほど。実際に潜って、その採取場所を確認して来いって事か。
 相手が大迷宮であれば確かに俺らクラスじゃないと探索も出来まい。
 依頼としては納得だ。


「カオテッドの価値自体は十年前から騒がれていた。大河の中心に突如出来た大地、その中心にある大迷宮、魔物も採取物も豊富にあるとな。そこへ来て黒曜樹が採取できるとなれば、さらにその価値は増す」


 宰相はニヤリとした笑みを浮かべたまま、話を続ける。
 隣の皇帝はブフフフとくぐもった笑いをしたままだ。


「やはり―――カオテッドは我が国の領土とすべき、というわけだ」

「ブフフ、共同統治など生ぬるいわ。あそこの金は余のものだからな」


 攻め込む気か……!
 カオテッドを獣帝国の領土とすべく、大迷宮を含めた全てを独占すると……!


「その為にも街唯一のSランククランである【黒屋敷】が邪魔なのだ。その為の調査だ」

「なるほど」

「ヤツに奪われた【魔剣イフリート】を取り戻さねばならん! あれは私のものだ!」


 公爵が吠える。その基人族ヒュームのクランには魔剣まであるという事か。
 本当にSランク相当の力があり、魔剣を持っているとなれば、確かに強敵だ。
 獣帝国が攻め入る際に障害となるのは想像に難くない。

 ……基人族ヒュームにそんな力があるとは俺には思えないが。


 何はともあれ、皇帝の依頼は理解した。
 カオテッドで迷宮組合員として活動し、【黒屋敷】とかいうクランを探り、黒曜樹の採取場所を確認すると。

 あの大迷宮は組合の本部でもあるから避けていた所ではある。
 しかし直に獣帝国が支配するとなれば、俺たちが先に動いていても問題あるまい。
 大迷宮に興味がないわけでもないしな。


 そうして王城を出た俺はクランメンバーに伝え、早速カオテッドに向けて出立した。
 【赤き爪痕レッドスカー】、総勢十八名。
 馬車三台に乗り込み、街道を駆けていく。

 さて、とりあえずはホームを構えるか。
 どうせカオテッドを獣帝国が占拠するのであれば、今のうちに豪邸でも手に入れておきたい所だ。
 そこを拠点とし、情報収集から始める。

 となれば中央区か?
 南西区のなんとか男爵には逆に接触しない方がいいだろう。公爵との兼ね合いもある。
 皇帝の依頼を話すわけにもいかない。ならばやはり無視だな。ホームは中央区にしよう。


 そんな事を考えつつ、馬車は一路北へ。
 目指すは【混沌の街カオテッド】だ。


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