死にたがりな魔王と研究職勇者

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神話と魔王

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ルイードが食事を摂り始めてからというもの、何故か勇者はルイードの部屋に自分の食事も運ばせ、一緒に食事を摂っている。


そして黙々と食べるルイードに対して勇者は毎度質問をしたり、食事に口を出してくるのだ。



「もう食べないのか?これもうまいから食べてみろ。魔の森にはない食べ物だと思うぞ。」



そう言って今も少しの食事で終わろうとしたルイードの皿に新たに食べ物を乗せてくる。
乗せられた食べ物は確かに魔の森では見たことのない果物のような食べ物だった。
不本意だが少し興味が湧き、フォークで刺して香りを嗅いでみる。


酸味のあるような爽やかな香りがする食べ物だった。
魔の森にある食べ物は光を遮る森が広がっていることや、魔素が満ちていることが影響しているのか、果物の数は少なく、そして味も薄い味が多い。それを気にしたことはなかったが、目の前にある食べ物は食べてみたいと思わせる香りをしている。
迷いつつも一口食べてみると、匂いから想像できない甘味があり、酸っぱさも相まって何個でも食べられそうであった。
勇者が向かいにいることを忘れ、皿に乗せられた分は全てじっくり味わいながら食べてしまった。


その様子を見て勇者は向かいで微笑んでいたが、ルイードは気付くことはなかった。


そして、食事を終えるとルイードに書斎から持ってきた本をいくつか渡し、勇者は研究施設へと向かった。
勇者はルイードの様子見として館で数日間を過ごしていたが、研究が進まないと研究員から嘆かれ、ルイードの状態も落ち着いたということで昨日からまた研究施設へと出勤している。
ルイードは体調が戻るまでは研究施設には行かなくていいようだ。


勇者が今日持ってきたのは、以前からルイードが読んでいる物語の続きと、人間国に伝わる神話の本であった。
神話に興味が湧き、そちらから手に取る。


神話の出だしは1人の神様がこの地に降り立つところからであった。



神様は後に創造神アージェスと呼ばれる神様で、ある時この地に生まれた。

どのように生まれたのかは書かれていない。
神様はそこでまず大地を創造した。

そこで一人で生活を送るうちに、独りが寂しくなり、自分に似た生き物をつくろうと思い立った。

しかし、何度やっても自分と同じ生き物を創造することはできなかった。
そこで生まれたのは動物であった。動物は神様の心を慰めはするが、意思の疎通は難しかった。

そこで神は動物に魔力を与えた。
すると魔獣が生まれるようになった。魔獣の中には意思が通わせられるものもおり、神様は喜んだ。寂しさは軽減されたが、自分より当たり前だが早く死んでしまう生き物に悲しさが募るばかりであった。

何百年と経つうちに魔獣にも変化が生まれてきた。知能が高いものが生まれたのである。
神様との対等な会話も可能になり、神様は喜んだ。

そこから数千年さらに経つと二足歩行が可能となり、自分に近い存在が生まれるようになった。
それが今存在している人間と魔族である。
それからは神様は自分と同じように考え、生きる人間や魔族と暮らすようになり、心の平穏を得られるようになったのだった。


という話が一冊にまとめられていた。
ルイードは一気に神話を読み終えた。この神話は魔族にも同じように伝わってはいるが、内容が所々異なっている。
なぜ、同じ神の話なのに内容が異なっているのか。
疑問に思うが、神話とはどこかでさまざまな脚色が混ざるものなのだろうと見当をつけ、物語の本を手に取った。


コンコン


読み始めようというところでノックが鳴った。

相変わらず返答をしないルイードに言わずもがな返答を待たず入ってきたのは執事のコンラッドであった。



「昼食をお待ちしました」



そう言ってテーブルに食事を用意していく。
もうそんな時間か。
先程勇者と食べたと思っていたのだが、読書をしているうちに時間が経過していたらしい。


食事を用意したら部屋を出ていくと思っていたため、再度本に目を落とすが、一向に退室の声がかからないのを疑問に思い、本から顔を上げる。


するとコンラッドはじっとこちらを見ていた。

その様子になぜ退室しないのかと問おうか迷っているとコンラッドの方から話しだした。


「あなたが食事を摂るところを確認するようシオン様より申し付けられておりますので、こちらで控えさせていただきます」
 

そう言うと何気ない表情で扉の横に移動し、どうぞとテーブルの方を指し示してくる。


勇者は自身で監視するだけではなく部下にも自分がいない間ルイードの食事を監視させることにしたらしい。まあ、またあのような状態になっては研究が進まないからだろうが・・・

ルイードは本の続きが気になったが、そのままずっと見られてるのは居心地が良くないとため息をつくと、仕方なくテーブルにつき、食事を食べ出した。
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