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二章
【約束-3】
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敷地の奥に向かう途中で修一は考えていた。
(この人達はどうしてアドレスのことを……。そもそもなんでタイミング良く僕のところに現れたんだ……?)
沙羅が横目で修一を見ながら笑みを浮かべる。
「あら、疑問に思う? 都合良く私達が現れたから。でも少し前から私達はあなたに目をつけてたのよ」
修一の考えを見透かしたような沙羅の言葉に、修一は不安を隠せなかった。
「――疑問。確かにおかしい。どうして僕の居場所がわかったんですか? あとをつけられてたようには感じなかったし、あなたの会話から考えると、ここに来たのは僕に対して接触するのがちょうど良いみたいな」
沙羅は少し間を取り言った。
「さっきのあたし達の会話聞いてた? 探知機であなたの居場所はわかってたのよ」
修一は池内の言葉を思い出した。
「探知機……。そういえば、あなた達が言ってた」
修一はそう言ってから、さらに不安に駆られた。
「それじゃ、僕に発信器かなにか付けて。いや……違う、スマホだ! 僕のスマホからの電波を……」
沙羅は頷いた。
「その通りよ。それもさっき話してたじゃない。人の話はしっかり聞いてないと後で理解に苦しむわよ」
「だからタイミング良く、こんな時間にこの場所に。辺りも暗くて人通りがまるで無くて都合が良いからですか?」
「そうよ」
「もしかして、アドレスを消すために?」
「当たりよ」
沙羅は素っ気なく答えるだけだ。修一はことの成り行きを悟った。
「この場所で良いわね。そのブロックに座りながら大事な話をしましょう」
沙羅が修一を促し座る。修一も腰を下ろした。
「それで、なにを聞きたいんだったかしら?」
一息ついてから沙羅が言った。
「このアドレスはなんなんです?」
「いきなり核心に迫るわね」
「それはそうですよ。このアドレスを手に入れてから二ヶ月は経つけど、今だって不思議で……」
修一は身を乗り出し言った。
「フフ、魔法かなにかみたいに思えるのかしら?」
沙羅は笑いながら修一を見る。
「まさか! 子供じゃあるまいし。だけど、確かに僕は変わった」
「それで災いでも起きたかしら?」
そこで沙羅は落ち着き訊いた。
「災い? いや、起きたのは心の変化です。生まれ変われた。不思議な出来事だ。アドレスで変わるなんて……」
沙羅は深く息を吐き修一を見て言う。
「それが、そもそもおかしいのよね。あなたを見てどうして災いが起きたはずなのにマトモな人間なんだろうって思ってたのよ」
「なにがおかしいんですか? それに災いって一体?」
「いや、災いの話はいいわ」
「それじゃ、なにがおかしいんですか? あなたはアドレスの謎を知ってるんですよね?」
修一は感情をあらわし言った。
「知ってるわよ。そして、わたしはあなたに起こった、その変化ってことがおかしいって言ってるのよ」
それを聞き修一は困惑する。
「心に変化が起こる力をアドレスは持ってるんですよね? あなたの方が色々詳しいんじゃないですか?」
「そうね。でも、あなたの言う変化なんか本来プログラムされてないのよ」
「プログラム?」
修一はわけがわからなかった。
「ええ。そして災いしか起こらないはずなのに……」
「プログラム? 災いしか起きない? このアドレスは一体……」
修一は混乱していた。
沙羅は深く考え、修一を見据えてハッキリした口調で言う。
「その特殊なアドレスはあるコンピュータープログラムをアドレスに変換したモノよ」
「なんだって?」
「まぁ、あなたが言うように不思議な力を持ってるプログラム。それ以上は秘密。この時点で話過ぎだけどね。でも仕方ないわ、あなたの持ってるアドレスのプログラムを取り返すためなんだから」
「あなた達はなにをしようとしてるんです?」
修一は沙羅を怪しむような顔を向け言った。
「教えられるわけがないでしょ!」
沙羅はハッキリと返す。
「それじゃ、そのプログラムを作ったのは誰ですか?」
「作ったのは我が社の優秀なプログラマー達よ。もうこれ以上は話せないわね」
修一は混乱しながらも頭を落ち着かせ冷静を保とうとしている。
「さあ、あなたのスマホを渡しなさい。無事にことを済ませたいなら大人しく言うこと聞いてちょうだい」
「いや……」
「どうしたのかしら? 早くしてちょうだい」
沙羅は手を差し出して言った。
「嫌です」
修一はボソリと言った。
「なんですって?」
沙羅は目を見開いて言った。
修一は黙り込み考えを巡らせ、自分の気持ちのままに沙羅の言葉には従わなかった。
「まだ理解出来ないし、それにこのままスマホを渡しても無事に終わる気がしません!」
修一はキッパリと言った。
「あらあら、私、信用されてないのね。素直に渡せば無事に終わるのよ」
「無事に終わってもそのプログラムの謎が一生わからなくなる!」
修一は口調を強くして言う。
「プログラムのことはあなたが深く知ることじゃないのよ!」
沙羅は言い返す。
「でも、さっきの説明だけじゃ納得出来ない!」
修一は一歩も引き下がらなかった。
「納得? あなたはただのワガママを言ってることに気づいてるのかしら?」
「ワガママだって構わないです。もっと詳しく教えてくれなきゃ渡せない」
修一は頑として言った。
「私を怒らせても良いことはないのよ。あなた達のことなんかどうにでもなるんだから。ただ私は暴力的な解決は望んでないのよ」
修一はそれを聞いて嫌な気分にとらわれた。
「それなのに荒木って人を連れてくるんですね」
「もう良いじゃない! 早く渡してちょうだい!」
沙羅は手を修一に突き出す。
「だから嫌です」
自分でも頑固な人間だなと思うが修一は従わなかった。
(ちょっと前の自分じゃ相手の意見に反抗することもなく、ただ受け入れるだけの人間だった。だからこそ変わるキッカケになったアドレスのプログラムに対する追及を失いたくない……)
「もう……ウンザリよ……」
沙羅はため息を吐き宙を見ながら呟いた。
「さあ、教えてください! プログラムの謎を」
「私はあなたの意見に従わないのよ。わかってる?」
そう言ってから沙羅はみんながいる方を見ながら言う。
「荒木、命令よ! 力ずくで構わないわ、交渉決裂よ!」
聞こえた沙羅の言葉に反応し、荒木はニヤリと笑みを浮かべる。
「聞いたかクソガキども」
「ざけんなよ、クソ野郎!」
それを聞いた村野はもう黙ってる気はなかった。
「それじゃ、第二ラウンドだなガキ」
荒木はヤル気満々で村野に迫る。それを見ている修一はただ見ているわけにもいかず、声を張り上げ二人に向かって叫ぶ。
「やめてくれ二人とも! 村野逃げてくれ! オカマ達もだ!」
「たく、平和主義なガキだぜ」
荒木が言った。
「それが修一の良いところなんだ。お前や俺と違ってな」
村野が修一の方を見ながら言った。
「そうよ優しい人よ。修一さんとは今日初めて知り合ったけど、それはわかるわ」
「そうよぉ、いい人だわぁ。でも村野ちゃんも優しい人よ」
オカマの二人が村野に言う。それを聞いて村野は少し間を置いてから二人に言った。
「俺は良い奴じゃねぇよ。お前らは俺が今までしてきたことを知らないだけだぜ」
村野の顔に影が映る。顔を上げ荒木を睨み言葉を続ける。
「俺はお前みたいな奴と同類だぜ」
「そうかい。パッパと片付けちまうか、お前ら三人ともな」
二人は戦闘体勢に入った。
「池内さん、すぐ終わるんで休んでて大丈夫ですよ」
「そうか。あまり暴力は気が進まないが沙羅さんの命令なら仕方ない。それでは私は沙羅さんの方に行く。結局のところ彼をどうにかしなければ解決しない」
池内は踵を返し沙羅の方に向かおうとする。
「でも池内さん。あのガキを締め上げりゃ話は早いんじゃないですかい?」
池内は振り返り足を止めた。
「それはそうだが、お前に楽しみを与えたんだろう」
それを聞き荒木は不気味な笑みを浮かべた。
「なるほど。それゃ来たかいがあるってもんだ!」
池内は沙羅と修一のいる場所に向かっていった。
「お前らおかしんじゃねぇのか? それに話が見えてこねぇ。いきなり来てスマホやアドレスがどうとか、それが修一に関係してんのも全然わからねぇ」
「てめぇらクソガキどもが考えることでも気にすることでもねぇんだよ。さっきから言ってんだろうが」
「考えるわよ!」
「気にするに決まってんじゃないのよぉ!」
オカマ達が言った。
「今からなにも気になんなくしてやるよ!」
そう言って荒木は村野に接近した。
「やっぱ、やるしかねぇか!」
村野は荒木に飛びつき膝蹴りを脇腹にぶつける。
「おっと、さっきと変わらずパターンが一緒だなぁ。お前上手いケンカの仕方知らねぇだろ?」
続く拳を払いのけ、荒木は村野の太ももを思いっきり蹴った。
「ちっ……っ野郎」
村野はよろめく。そのスキを逃さず荒木の蹴りが反対の太ももを襲う。それを見てオカマ達は黙ってはいなかった。
「ちょっと村野さん、大丈夫?」
「あんた、村野ちゃんの脚ばっか狙ってなんなのよぉ?」
「教えてやろうかぁ」
荒木の拳が村野の顔面に食い込んだ。続けて脇腹、また顔とラッシュを浴びせる。
「ゴハッ!」
村野も抵抗するが空しく荒木にかわされ、当たりはしてもダメージが見受けられない。
「そらっ! もう二、三発食らっとけや!」
さらに村野の両足を蹴りまくる。
「ちょっと!」
「村野ちゃん!」
オカマ達が村野に駆け寄ろうとするが村野が制止した。
「来るなお前ら! 邪魔すんな!」
「ちょっと村野さん! もうやめましょうよ!」
「そうよぉ、もう嫌よぉ! せめて三人で闘いましょう」
「ダメだ、それじゃ卑怯だぜ!」
村野の表情は決意に満ちている。それを見てかオカマ達はなにも言い返せなかった。
「たくましいじゃねぇか! 好きだぜ、そういう奴は。だがよ、いくら威勢が良くてもやられっぱなしじゃ所詮はキレイごとだな」
「俺は今までケンカで負けたこと無かったんだけどな……」
そう言うと、村野は脚に力が入らなくなったのか膝を落とし地面に尻餅をついた。
「もういいわ。立たなくて……」
蒼太の目に涙が浮かぶ。
「そうよぉ……もうやめましょうよぉ……」
紅太も同じように涙を浮かべる。
「もう諦めな。そのまんま座ってりゃあ、お前にはなにもしねぇでいてやるよ」
荒木は村野を見下ろしながら言った。
「二人にも、修一にも手を出すんじゃねぇ」
それを見ていた修一は叫ぶ。
「村野! オカマ達も逃げてくれ! もうやめてくれ!」
修一はみんなのところに行こうとしていたが、池内が来て沙羅と二人で修一の行く手を阻んでいた。
「邪魔だ! どいてくれよ!」
修一は感情をあらわにし口調も変わっていた。走り出す修一の前に池内が立ち塞がる。
「だからさっきから言っているだろう。君のスマホさえ渡してくれたらこれ以上は被害も無く、君達は帰れるじゃないか」
池内が修一の肩を掴みながら言った。
「わかってるよ! そんなこと!」
修一はプログラムの謎に対する気持ちと友達がやられている現実に対する気持ちで心が葛藤していた。
「わかってるってわかってないわよ。あなたは全然」
「出来ればアドレスは手放したくないよ! それに僕を変えてくれたそのプログラムの謎を知りたい! それに……それに……」
修一は途中で言葉をきった。
「それはコチラからしたら、ただのワガママなんだ」
池内は呆れ気味に言った。
「それはさっきから私も言ってるわ。彼はワガママなのよ。本当に参ったわね」
沙羅は首をかしげる。
「とりあえずどいてくれよ!」
修一は自分の意見は聞き入れられないだろうとわかっていた。だが、友達が傷つきながらも従うわけにはいかなかった。アドレスや友達に対する気持ちの葛藤の中でも一番に修一の頭にあったのは彩のことだった。
(彩……)
「あのオカマの二人も痛い目に合うんだよ。もちろん、さらにワガママが続くなら君もだ」
「わかってるよ!」
「わかってるって言葉はもういいわ。私達が聞きたいのはイエスかノーかよ。それでしか受け入れないわ。人間は時に重要な選択肢に迫られる時が必ず来るの。今が大事な時なんじゃないかしら? このままじゃアドレスを無くして友達が傷ついて結局はなにも残らないのよ」
沙羅の言う言葉は全ての的をえていた。
「そのとおりだ。自分のワガママと比べるまでもないじゃないか」
沙羅の言葉を促すように池内が言ったが修一の頭には届いていなかった。
修一は思い出していた。
〔彩が罪を償い終わって刑務所から出てきたら彩にメールを送るから。僕はアドレスを変えないから! 二人の繋がりのこのアドレスで送るから! 約束だ!〕
修一の頭の中はあの日のことで一杯だった。
(このままじゃ彩との約束は守れなくなる。でもどうしたら)
(この人達はどうしてアドレスのことを……。そもそもなんでタイミング良く僕のところに現れたんだ……?)
沙羅が横目で修一を見ながら笑みを浮かべる。
「あら、疑問に思う? 都合良く私達が現れたから。でも少し前から私達はあなたに目をつけてたのよ」
修一の考えを見透かしたような沙羅の言葉に、修一は不安を隠せなかった。
「――疑問。確かにおかしい。どうして僕の居場所がわかったんですか? あとをつけられてたようには感じなかったし、あなたの会話から考えると、ここに来たのは僕に対して接触するのがちょうど良いみたいな」
沙羅は少し間を取り言った。
「さっきのあたし達の会話聞いてた? 探知機であなたの居場所はわかってたのよ」
修一は池内の言葉を思い出した。
「探知機……。そういえば、あなた達が言ってた」
修一はそう言ってから、さらに不安に駆られた。
「それじゃ、僕に発信器かなにか付けて。いや……違う、スマホだ! 僕のスマホからの電波を……」
沙羅は頷いた。
「その通りよ。それもさっき話してたじゃない。人の話はしっかり聞いてないと後で理解に苦しむわよ」
「だからタイミング良く、こんな時間にこの場所に。辺りも暗くて人通りがまるで無くて都合が良いからですか?」
「そうよ」
「もしかして、アドレスを消すために?」
「当たりよ」
沙羅は素っ気なく答えるだけだ。修一はことの成り行きを悟った。
「この場所で良いわね。そのブロックに座りながら大事な話をしましょう」
沙羅が修一を促し座る。修一も腰を下ろした。
「それで、なにを聞きたいんだったかしら?」
一息ついてから沙羅が言った。
「このアドレスはなんなんです?」
「いきなり核心に迫るわね」
「それはそうですよ。このアドレスを手に入れてから二ヶ月は経つけど、今だって不思議で……」
修一は身を乗り出し言った。
「フフ、魔法かなにかみたいに思えるのかしら?」
沙羅は笑いながら修一を見る。
「まさか! 子供じゃあるまいし。だけど、確かに僕は変わった」
「それで災いでも起きたかしら?」
そこで沙羅は落ち着き訊いた。
「災い? いや、起きたのは心の変化です。生まれ変われた。不思議な出来事だ。アドレスで変わるなんて……」
沙羅は深く息を吐き修一を見て言う。
「それが、そもそもおかしいのよね。あなたを見てどうして災いが起きたはずなのにマトモな人間なんだろうって思ってたのよ」
「なにがおかしいんですか? それに災いって一体?」
「いや、災いの話はいいわ」
「それじゃ、なにがおかしいんですか? あなたはアドレスの謎を知ってるんですよね?」
修一は感情をあらわし言った。
「知ってるわよ。そして、わたしはあなたに起こった、その変化ってことがおかしいって言ってるのよ」
それを聞き修一は困惑する。
「心に変化が起こる力をアドレスは持ってるんですよね? あなたの方が色々詳しいんじゃないですか?」
「そうね。でも、あなたの言う変化なんか本来プログラムされてないのよ」
「プログラム?」
修一はわけがわからなかった。
「ええ。そして災いしか起こらないはずなのに……」
「プログラム? 災いしか起きない? このアドレスは一体……」
修一は混乱していた。
沙羅は深く考え、修一を見据えてハッキリした口調で言う。
「その特殊なアドレスはあるコンピュータープログラムをアドレスに変換したモノよ」
「なんだって?」
「まぁ、あなたが言うように不思議な力を持ってるプログラム。それ以上は秘密。この時点で話過ぎだけどね。でも仕方ないわ、あなたの持ってるアドレスのプログラムを取り返すためなんだから」
「あなた達はなにをしようとしてるんです?」
修一は沙羅を怪しむような顔を向け言った。
「教えられるわけがないでしょ!」
沙羅はハッキリと返す。
「それじゃ、そのプログラムを作ったのは誰ですか?」
「作ったのは我が社の優秀なプログラマー達よ。もうこれ以上は話せないわね」
修一は混乱しながらも頭を落ち着かせ冷静を保とうとしている。
「さあ、あなたのスマホを渡しなさい。無事にことを済ませたいなら大人しく言うこと聞いてちょうだい」
「いや……」
「どうしたのかしら? 早くしてちょうだい」
沙羅は手を差し出して言った。
「嫌です」
修一はボソリと言った。
「なんですって?」
沙羅は目を見開いて言った。
修一は黙り込み考えを巡らせ、自分の気持ちのままに沙羅の言葉には従わなかった。
「まだ理解出来ないし、それにこのままスマホを渡しても無事に終わる気がしません!」
修一はキッパリと言った。
「あらあら、私、信用されてないのね。素直に渡せば無事に終わるのよ」
「無事に終わってもそのプログラムの謎が一生わからなくなる!」
修一は口調を強くして言う。
「プログラムのことはあなたが深く知ることじゃないのよ!」
沙羅は言い返す。
「でも、さっきの説明だけじゃ納得出来ない!」
修一は一歩も引き下がらなかった。
「納得? あなたはただのワガママを言ってることに気づいてるのかしら?」
「ワガママだって構わないです。もっと詳しく教えてくれなきゃ渡せない」
修一は頑として言った。
「私を怒らせても良いことはないのよ。あなた達のことなんかどうにでもなるんだから。ただ私は暴力的な解決は望んでないのよ」
修一はそれを聞いて嫌な気分にとらわれた。
「それなのに荒木って人を連れてくるんですね」
「もう良いじゃない! 早く渡してちょうだい!」
沙羅は手を修一に突き出す。
「だから嫌です」
自分でも頑固な人間だなと思うが修一は従わなかった。
(ちょっと前の自分じゃ相手の意見に反抗することもなく、ただ受け入れるだけの人間だった。だからこそ変わるキッカケになったアドレスのプログラムに対する追及を失いたくない……)
「もう……ウンザリよ……」
沙羅はため息を吐き宙を見ながら呟いた。
「さあ、教えてください! プログラムの謎を」
「私はあなたの意見に従わないのよ。わかってる?」
そう言ってから沙羅はみんながいる方を見ながら言う。
「荒木、命令よ! 力ずくで構わないわ、交渉決裂よ!」
聞こえた沙羅の言葉に反応し、荒木はニヤリと笑みを浮かべる。
「聞いたかクソガキども」
「ざけんなよ、クソ野郎!」
それを聞いた村野はもう黙ってる気はなかった。
「それじゃ、第二ラウンドだなガキ」
荒木はヤル気満々で村野に迫る。それを見ている修一はただ見ているわけにもいかず、声を張り上げ二人に向かって叫ぶ。
「やめてくれ二人とも! 村野逃げてくれ! オカマ達もだ!」
「たく、平和主義なガキだぜ」
荒木が言った。
「それが修一の良いところなんだ。お前や俺と違ってな」
村野が修一の方を見ながら言った。
「そうよ優しい人よ。修一さんとは今日初めて知り合ったけど、それはわかるわ」
「そうよぉ、いい人だわぁ。でも村野ちゃんも優しい人よ」
オカマの二人が村野に言う。それを聞いて村野は少し間を置いてから二人に言った。
「俺は良い奴じゃねぇよ。お前らは俺が今までしてきたことを知らないだけだぜ」
村野の顔に影が映る。顔を上げ荒木を睨み言葉を続ける。
「俺はお前みたいな奴と同類だぜ」
「そうかい。パッパと片付けちまうか、お前ら三人ともな」
二人は戦闘体勢に入った。
「池内さん、すぐ終わるんで休んでて大丈夫ですよ」
「そうか。あまり暴力は気が進まないが沙羅さんの命令なら仕方ない。それでは私は沙羅さんの方に行く。結局のところ彼をどうにかしなければ解決しない」
池内は踵を返し沙羅の方に向かおうとする。
「でも池内さん。あのガキを締め上げりゃ話は早いんじゃないですかい?」
池内は振り返り足を止めた。
「それはそうだが、お前に楽しみを与えたんだろう」
それを聞き荒木は不気味な笑みを浮かべた。
「なるほど。それゃ来たかいがあるってもんだ!」
池内は沙羅と修一のいる場所に向かっていった。
「お前らおかしんじゃねぇのか? それに話が見えてこねぇ。いきなり来てスマホやアドレスがどうとか、それが修一に関係してんのも全然わからねぇ」
「てめぇらクソガキどもが考えることでも気にすることでもねぇんだよ。さっきから言ってんだろうが」
「考えるわよ!」
「気にするに決まってんじゃないのよぉ!」
オカマ達が言った。
「今からなにも気になんなくしてやるよ!」
そう言って荒木は村野に接近した。
「やっぱ、やるしかねぇか!」
村野は荒木に飛びつき膝蹴りを脇腹にぶつける。
「おっと、さっきと変わらずパターンが一緒だなぁ。お前上手いケンカの仕方知らねぇだろ?」
続く拳を払いのけ、荒木は村野の太ももを思いっきり蹴った。
「ちっ……っ野郎」
村野はよろめく。そのスキを逃さず荒木の蹴りが反対の太ももを襲う。それを見てオカマ達は黙ってはいなかった。
「ちょっと村野さん、大丈夫?」
「あんた、村野ちゃんの脚ばっか狙ってなんなのよぉ?」
「教えてやろうかぁ」
荒木の拳が村野の顔面に食い込んだ。続けて脇腹、また顔とラッシュを浴びせる。
「ゴハッ!」
村野も抵抗するが空しく荒木にかわされ、当たりはしてもダメージが見受けられない。
「そらっ! もう二、三発食らっとけや!」
さらに村野の両足を蹴りまくる。
「ちょっと!」
「村野ちゃん!」
オカマ達が村野に駆け寄ろうとするが村野が制止した。
「来るなお前ら! 邪魔すんな!」
「ちょっと村野さん! もうやめましょうよ!」
「そうよぉ、もう嫌よぉ! せめて三人で闘いましょう」
「ダメだ、それじゃ卑怯だぜ!」
村野の表情は決意に満ちている。それを見てかオカマ達はなにも言い返せなかった。
「たくましいじゃねぇか! 好きだぜ、そういう奴は。だがよ、いくら威勢が良くてもやられっぱなしじゃ所詮はキレイごとだな」
「俺は今までケンカで負けたこと無かったんだけどな……」
そう言うと、村野は脚に力が入らなくなったのか膝を落とし地面に尻餅をついた。
「もういいわ。立たなくて……」
蒼太の目に涙が浮かぶ。
「そうよぉ……もうやめましょうよぉ……」
紅太も同じように涙を浮かべる。
「もう諦めな。そのまんま座ってりゃあ、お前にはなにもしねぇでいてやるよ」
荒木は村野を見下ろしながら言った。
「二人にも、修一にも手を出すんじゃねぇ」
それを見ていた修一は叫ぶ。
「村野! オカマ達も逃げてくれ! もうやめてくれ!」
修一はみんなのところに行こうとしていたが、池内が来て沙羅と二人で修一の行く手を阻んでいた。
「邪魔だ! どいてくれよ!」
修一は感情をあらわにし口調も変わっていた。走り出す修一の前に池内が立ち塞がる。
「だからさっきから言っているだろう。君のスマホさえ渡してくれたらこれ以上は被害も無く、君達は帰れるじゃないか」
池内が修一の肩を掴みながら言った。
「わかってるよ! そんなこと!」
修一はプログラムの謎に対する気持ちと友達がやられている現実に対する気持ちで心が葛藤していた。
「わかってるってわかってないわよ。あなたは全然」
「出来ればアドレスは手放したくないよ! それに僕を変えてくれたそのプログラムの謎を知りたい! それに……それに……」
修一は途中で言葉をきった。
「それはコチラからしたら、ただのワガママなんだ」
池内は呆れ気味に言った。
「それはさっきから私も言ってるわ。彼はワガママなのよ。本当に参ったわね」
沙羅は首をかしげる。
「とりあえずどいてくれよ!」
修一は自分の意見は聞き入れられないだろうとわかっていた。だが、友達が傷つきながらも従うわけにはいかなかった。アドレスや友達に対する気持ちの葛藤の中でも一番に修一の頭にあったのは彩のことだった。
(彩……)
「あのオカマの二人も痛い目に合うんだよ。もちろん、さらにワガママが続くなら君もだ」
「わかってるよ!」
「わかってるって言葉はもういいわ。私達が聞きたいのはイエスかノーかよ。それでしか受け入れないわ。人間は時に重要な選択肢に迫られる時が必ず来るの。今が大事な時なんじゃないかしら? このままじゃアドレスを無くして友達が傷ついて結局はなにも残らないのよ」
沙羅の言う言葉は全ての的をえていた。
「そのとおりだ。自分のワガママと比べるまでもないじゃないか」
沙羅の言葉を促すように池内が言ったが修一の頭には届いていなかった。
修一は思い出していた。
〔彩が罪を償い終わって刑務所から出てきたら彩にメールを送るから。僕はアドレスを変えないから! 二人の繋がりのこのアドレスで送るから! 約束だ!〕
修一の頭の中はあの日のことで一杯だった。
(このままじゃ彩との約束は守れなくなる。でもどうしたら)
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