夢の惑ひ~悪党ばっかり~

右京之介

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夢の惑ひ~悪党ばっかり~

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         「夢の惑ひ~悪党ばっかり~」
         
                           右京之介

 夕方の三時半。北区中学校の通学路は帰宅を急ぐ中学生で溢れていた。
 そこへ一台の古い黒ワゴン車が静かに近づいて来て、中学生に交じって歩いていた一人の女性のすぐ横に止まった。子供が手を取り合った絵が描かれている通学路標識のちょうど下のあたりである。
 ゆっくりスライドして開いたドアの隙間から黒いベレー帽に、黒いサングラスに、黒いジャンパーを着た黒づくめの男が顔を出して、何かを尋ねるように女性へ声をかけた。
 呼び止められて立ち止まった女性はその男の話をしばらく聞いた後、車内を一度頷くと、躊躇なくワゴン車に乗り込んだ。運転席にはもう一人の黒づくめの男が座っていた。
 スライドドアはすばやく閉められ、ワゴン車は来たときとは逆に猛スピードをあげて走り去った。
 あたりには白い排気ガスだけが薄く残った。その間、わずか十五秒のできごとだった。
 歩いていた生徒たちは誰もこのことを気に止めなかった。なぜなら、そのワゴン車の車体の後部に大きな赤い字で“ドラマの撮影中です。ご協力をお願いします”と書かれた紙が貼り付けてあったからだ。
 それを読んだ生徒たちは誰もが撮影の邪魔をしないように、ワゴン車から離れた所を、気を使って声もあげず、静かに通り過ぎて行った。その中の何人かは横目でチラチラと見て、知ってる俳優ではないかとチェックをしたが、帽子をかぶり、サングラスをしていたため、二人の黒づくめの男の顔は分からなかった。しかし、どうやらイケメン俳優ではなさそうな雰囲気だったので、そのまま通り過ぎた。
 その後、撮影のことは帰路の話題には上がらなかった。
 この場所から駅へ百メートルほどの所では、北区小学校の生徒たちが募金活動を行っていた。
 先日起きた台風被害者支援の募金である。五人の生徒がお手製の募金箱を抱えて、等間隔に並び、大きな声で道行く人たちに声をかけていた。募金箱を持っていない生徒も数十人いて、台風の被害状況や支援内容を、募金箱を抱えている生徒に負けないくらいの大きな声で説明し、人々に募金を促していた。
「募金のご協力をお願いしまーす」
 通行人は募金を訴える小さな小学生の大きな声に呼び止められていたため、近くで女性が黒ワゴン車に乗せられるところを見ていたのは、すぐそばを歩いていた数人の中学生だけだった。
 こうした運も重なり、二人の男による女性の誘拐は白昼堂々と、何者からも邪魔されることなく行われた。

 黒いワゴン車は三十分ほど走ったところで、もはや稼働していない古ぼけた工場に到着すると、敷地内にある、これまた古ぼけたガレージの前に止まった。
 黒づくめの男がワゴン車から降りて、シャッターを手で上げ、ワゴン車を中へ導いて入れると、ふたたび、シャッターを手で下ろした。電動式シャッターなどという文明の利器は取り付けられてなかった。
 工場の中は、壁際の棚にちょっとした工具類が置かれているくらいで、がらんとしていて、たった一つしかない窓から入る光は、窓が曇っていることもあって弱々しく、灯りといえば今にも消えそうな蛍光灯が天井で数本またたいているだけだった。LEDなどという文明の利器は取り付けられてなかった。
 その天井からは何本かのチェーンが垂れていて、あたりには油やゴムのニオイが漂っている。かつては自動車修理の工場だったようだ。
 一人の中年の男が穴だらけのソファーに座って待っていた。両手を背もたれに乗せ、足を大きく広げている。待ちくたびれたのか、元々だらしがないのか、全身をダラリとさせている。ガタイはよく、色は黒く、頭は鉢巻を巻けば似合いそうな短髪で、鋭い眼光をして睨みを利かせている。
 この男こそは、二人の誘拐実行犯からアニキと呼ばれている人物であり、名を万房五十郎(まんぼう ごじゅうろう)と言った。その名の通り、昭和五十年生まれの四十七歳であり、名付け親である亡父のセンスは変わっていた。
 
 閉鎖した工場を見つけたアニキは、しばらくここをアジトとして使うことに決め、一か月分の家賃を払うと、管理会社に頼んで、電気や水道などのライフラインをつないでもらい、それまで住処としてたウィ-クリーマンションから引越して来た。
 ガレージの真ん中に止まった黒いワゴン車から、先ほどの二人の黒づくめの男が下りてきた。この男たちの名前はそれぞれ、ロコとモコと言う。ノッポなのがロコ。太っちょがモコ。さっき女性に声をかけたのがロコで、運転していたのがモコだ。
 ロコモコといっても、ハワイとは何の関係もない。アメリカ人でもない。彫りの深さなどない、のっぺりとした顔の、れっきとした中年日本人なのだが、アニキが呼びやすいからと、気まぐれでそう名付けた。アニキの名付けのセンスの悪さは父親譲りだった。
 ロコが車の後部に貼ってある“ドラマの撮影中です。ご協力をお願いします”と書かれた紙を剥がして丸めると、油のシミが残る床に投げ捨てて、長い足で蹴飛ばした。紙は隅の方まで転がって行った。 
 ロコとモコはガレージ内の暗さに辟易し、サングラスをはずして、こちらへ歩いて来るアニキを見た。
「おう、ご苦労だった。ロコモコ!」アニキが近づいてきて声をかける。「さっそく、金づるの娘にお目にかかるとするか。――ドアを開けてくれ!」
「はい、ただいま!」
 ロコがドアを一気にスライドさせた。
 とたん、アニキの全身は硬直した。
「誰だ、このオバハンは!?」

 アニキはすさまじい形相でロコとモコを睨み付けた。
 全身から怒りが溢れ出ている。
「誰だと聞いてるんだ!」
 太っちょモコが恐る恐る言う。
「はい、美鈴さんですが……」
「はあ? お前はバカか! 俺が誘拐を頼んだのは社長令嬢の女子中学生だぞ。こいつはどう見ても、五十のババアじゃねえか!」
 アニキが手を伸ばして、ノッポのロコの頭をひっぱたく。ロコの黒いベレー帽が飛んで、ハゲ頭があらわになる。続けて、太っちょモコの頭もひっぱたく。ベレー帽が飛んで、モコモコの髪があらわになる。あまりの痛みに二人はしゃがみ込んだ。
「でも……」ロコがハゲ頭にベレー帽をかぶり直し、しゃがんだままアニキを見上げて言い訳をする。「美鈴さんですかと名前を訊いたら、そうだと言われまして……」
「おそらく偶然通りかかった同じ名前か、似たような名前のババアだろうが」
「でも、アニキ……」モコがロコに加勢する。「この写真の通りの女ですよ」とスマホを操作して、画面をアニキに向ける。そこにはアニキから転送された一枚の写真が載っていた。
 北区中学校の通学路を歩く二人の女性が写っている。アニキが盗撮したものだ。
 手前は体の大きなオバサン。奥には北区中学の制服を着た女子中学生が歩いている。
「お前らはバカか! ターゲットは奥に写ってる可憐な女子中学生に決まってるだろうが! 手前の可憐の欠片もないデカいババアを誘拐してどうするんだ! お前ら、何のためにドラマ撮影に見せかけて……」アニキは隅の方に丸まって転がってる貼り紙を見る。「わざとらしく、いかにも悪者に見える黒づくめの格好をさせたと思ってるんだ。その衣装をドン・キホーテのパーティグッズコーナーで一式揃えるのは高かったんだぞ。夕方の三時半に通学路を歩く下校途中の女子中学生を連れてくるんだよ。それが……、連れてきたのが……、アラフィフのババアかよ!」

 そのとき、暗がりのワゴン車の中から女性がのそりと出てきて、ドンと地面に降り立った。三人の男を合体させたくらいの重量があり、血走った大きな目を向けてくる。化粧は厚く、髪はボサボサだ。色褪せた青いワンピースを着ている。
「おい、三人のガキども!」大きな声がガレージ内にワンワン反響する。振動で窓が揺れ、蛍光灯が一本消えた。「さっきから聞いてりゃ、オバハンだの、ババアだの、アラフィフだの、失礼にも程があるじゃないか! まあ、アラフィフは当たっているがな」
 その迫力にさすがのアニキも一歩後退する。
 ロコとモコはそろって縮こまり、再びズルズルとしゃがみ込む。
「いや、すまなかった。さらってくる相手を間違えたんだ」アニキが渋々言い訳をする。
「ふん、そんなことだと思ったわ」女は両足を踏ん張り、太い腕を組んで、アニキを睨みつけている。「あたしの名前は秋山みすず。さっき聞いたところでは、同じ“美鈴さん”という女子中学生が標的のようだったな。偶然、あたしと同じ名前だったというわけだ」吐き捨てるように言う。「だがな、中学校の通学路だからといって、中学生だけが歩いてるとは限らんだろう。オバハンもオッサンもイヌもネコも杓子も歩いとるわ!」
 声の衝撃で二本目の蛍光灯が消えた。元々薄暗かった工場内がますます暗くなった。
「しかし、この二人はお母さんが交通事故に遭ったから病院まで乗せてあげると言ったはずなんだが」アニキは申し訳なさそうにそう言って、ロコとモコを睨みつけた。
 オバサンが怖くて抱き合っていたロコとモコは、二人揃ってウンウン頷く。恐ろしさで声が出せない。確かにそう言いましたと言いたいらしい。
「あたしの母親は八十二歳だ。五年前から自宅で寝たきりの生活を送ってる。家で寝たきりの人間が、外で交通事故に遭うわけないだろうが!」
「家に車が飛び込んでくるかもしれませんよ」モコが震えながらアホなことを言う。
「うちは区営住宅の三階だ。車が飛び込んでくるわけないわ!」
「最近ではドローンというものがありまして……」モコが続けるが、
「ボケッ! 窓を突き破って入ってくるか!」アニキがモコをブン殴る。
 モコのベレー帽がまた飛んで行く。ロコが拾ってあげて、モコモコの頭に乗せてあげた。
 アニキがふたたびオバサンに訊く。
「だったら、あんた、人違いと分かって、何でここまで付いて来たんだ? あの時間帯なら周りに中学生がたくさん歩いていたから、悲鳴の一つでも挙げりゃ、こいつらマヌケだから、隙を見て、逃げることもできたぜ」
「ふん、何で付いて来たかって? そんなもん、面白そうだったからに決まってるだろうが。――あたしも仲間に入れてもらうからな。さもないと、お前らの悪行を世間にバラすぞ。明日の朝刊に写真入りで載せてやるぞ。ネットで拡散してやるぞ。――いいのか?」

 アラフィフのオバハン、秋山みすずに脅迫されたアニキは、ビッグボスに訊いてくると言って、ガレージの隅にある小さな事務所スペースに入って行った。薄暗く電気がついている。といっても、固定電話は通じていないため、自分のスマホで話し始める。
「ビッグボスって誰だ? あのアニキがリーダー格じゃないのか?」みすずがロコとモコに訊く。
「いいえ、アニキの上にまだいるようです」モコが答える。
「いるようですって何だ。知らないのか?」
「はい、俺たちはネットの闇の掲示板で雇われた者でして、お互いの素性なんかはよく知らないんですが、何でも上の人は業界の有名人らしくて」
「業界というのは誘拐業界のことか? そんなものが日本に存在するのか? 南米の間違いじゃないのか」
「さあ、よく分からないまま来たもので」
「その掲示板には誘拐犯募集中と書いてあったのか?」
「いえ、簡単にできて大儲けできるアホみたいな仕事と書いてあったものですから」
「二人して信じたのか? バカか。お前らは揃って、いい年した中年のオッサンだろうよ。そんな楽して簡単に稼げる仕事なんかないと分からなかったのか?」
「でも、この世のどこかにあるんじゃないかと……」
「そんなもんがあったら、世の中、みんな大金持ちだろうが。そんなもん、ないから苦労するんよ、あたしみたいにな。あんたらみたいなボンクラを雇ったアニキも苦労するわな。今頃、ビッグボスとやらに怒られてるんじゃないのか」
「そうかもしれません。ビッグボスは何だかとても怖い人で、名前を聞けば誰もが知ってる有名人らしいです」
「じゃあ、政治家か何かか? 政治家が誘拐業界の理事長でもやってんのか?」
「どうなんでしょ。よく分かりません」
「まあ、悪い奴はどこにでもいるわ。そういう奴らはなかなか表には出て来ないもんだ」
 みすずは呆れ果てて、ポシェットからタバコを取り出すと、百円ライターで火をつけた。

 アニキが三人のところに戻って来た。
「秋山みすずさんよ、ビッグボスの許可が下りたから、今後は四人で行動しようと思う。よろしく頼むわ」アニキが手を差し出してくる。
 みすずはタバコを左手に持ち替えて、とんでもない力で握手を返す。
 アニキの顔が歪んだ。歪んだままの顔でアニキが話す。
「な、仲間に入れたから、俺たちのことをネットで拡散するのは止めてくれよ」
「ああ、ありゃ、冗談だ。あたしはネットのことなんか分からん。心配するな。それよりもな……」タバコを床に落として踏みつける。「もう一人、仲間に入れてくれるかな。今、連絡を取ってみるから」
 みすずはアニキの返事も聞かずに少し離れた所に移動すると、スマホを取り出してボソボソと話し出した。アニキは怪力で握られて力が抜けた手首をブンブン振っている。
 すぐに話はついたようで、みすずが戻って来た。
「あたしの寝たきりの母親のヘルパーさんなんだが、仲間に入れてくれよ」
「ヘルパーさんを!?」アニキが素っ頓狂な声を出す。
「ああ。金に困ってるわけじゃないんだ。社会見学ということで、一つ、頼むわ」
「社会見学? 犯罪社会の見学をか!?」アニキがまた素っ頓狂な声を出す。
「ビッグボスの許可を取ってくれよ」みすずは当たり前のように言う。
「まあ、一人くらい増えてもいいだろ。俺が許可をする」
「おお、悪いなあ」みすずはうれしそうだ。そして、二本目のタバコに火をつけた。
「じゃあ、俺とロコモコ、あんたにヘルパーさんを入れて、全員で五人の誘拐チームだな。
各自、秘密厳守ということで頼むわ」アニキが念を押す。
 みすずはタバコの煙を天井に向けて、うまそうに吐き出す。承知したという意味らしい。
 ロコモコも頷く。こちらは仲間が増えてうれしそうだ。
「では、仲間が増えたお祝いに」みすずがアニキにタバコをすすめるが、
「いや、俺は吸わないんだ。この二人もな」ロコモコを指差す。
「そうかい。そりゃ、健康でいいわ。でもな、あたしみたいなヘビースモーカーでも長生きする奴はするし、吸わない奴でも肺炎で早死にすることもある。時の運だわな」
「日頃の行いかね」アニキが言う。
「日頃の行いで寿命が決まるんなら、あたしは小学生で死んでるわよ」
 そう言って、みすずは二本目のタバコを床に落として踏み消した。
「あんた、悪党だな」アニキが呆れる。
「あんたに言われたくないね。――さてと、そのヘルパーさんだがな、今こちらに向かってるから、すぐに合流できるよ」
 みすずが大きな体を揺らして、うれしそうに言った。
「よしっ、全員が揃ったら、また作戦を立て直して、誘拐を決行するぞ!」
 アニキがこぶしを振り上げて宣言した。「おう!」「おう!」ロコとモコも追随する。
 そのとき、突然、みすずが床で消したはずのタバコの火が燃え上がった。今頃になって、床にこぼれていた油に引火したようだ。四人は消火器を持ってバタバタとガレージ内を走り回り、やっとのことで消し止めた。どうやら、大事には至らなかったようだ。
 みすずは、今さらながら、三人がここでタバコを吸わない理由が分かった。
「だったら、最初から教えろよ!」オバサンが吠える。
「あそこに書いてあるから」アニキが壁を指差す。
 そこには火気厳禁と書かれた金属板が貼り付けてあった。
「あたしは四字熟語が苦手なんだよ!」三本目の蛍光灯が切れた。
 
 ガレージのシャッターが外からガンガン叩かれていた。いつから叩かれているのか、ボヤ騒ぎとオバサンの大声で、全員があたふたしていたため、音が聞こえなかったようだ。
 激しく連打する音は止みそうにない。
「あんた、まさか……」アニキがみすずを疑いの目で見る。
「警察にチクッたと思うか? そんなわけないだろ。あたしはずっとみんなと一緒にいただろう。電話はヘルパーさんに一本かけただけだ。警察に通報するヒマはないし、誰かに助けを求めるヒマもないし、伝書鳩を飛ばすヒマもなかったぞ。それに、警察に言ったら、あたしも仲間として連行されるんだぞ。この年で留置場は勘弁だよ」
「ああ、そうだな。おい、ロコとモコ、見てこい。警察だったら大声をあげろ!」
 ロコとモコが競い合うように入り口へ走って行く。
 後ろからアニキがレンチとペンチを投げつけた。
 ――カラン、カラン。
「手ぶらで行く奴がいるか! それを武器として使え!」
 ロコとモコは足元に転がって来たレンチとペンチを拾い上げ、中腰になって、恐る恐る入り口に近づいて行く。
「いざというときは、ガレージ内に武器となる物がたくさん転がっている。チェーンで縛り上げて、油をぶっかけて、火あぶりにしてやることもできるぜ」
「それに俺たちにはアニキと無敵のアラフィフオバハンも付いてる」
 ロコとモコはお互い、ポジティブにそう言い合いながら、歩いて行く。
 その声は大き過ぎて、工場内に響く。
「誰が無敵のアラフィフオバハンじゃ!」とアラフィフオバハンが怒鳴る。

 ロコがしゃがんで、シャッターを少し引き上げ、外を伺った。
 細い足が二本見えた。
「アニキ、女が一人、立ってます!」しゃがんだまま、首だけこちらを向けて叫ぶ。
「女? こんな工場に何の用だ。回覧板なら隣に持って行くように言え!」
 モコが首だけ外に出して確認する。
「アニキ! 回覧板は持ってませんが、学生カバンを持ってます」
「何だと!」アニキも入り口へ向かって歩き出すが、
「あたしが呼んだヘルパーさんだ」みすずが言った。「入れてやってくれ」
 モコがシャッターを上まで引き上げると、制服姿の女子中学生が立っていた。

「初めまして、聖純中学校二年生の天宮舞と申します。よろしくお願いいたします」
 体の正面に両手で通学カバンを下げたまま頭を下げる。ツヤのある長い黒髪が揺れる。
「いや……」「まあ……」「こちらこそ……」
 アニキもロコもモコも、ヘルパーさんとやらが、思いがけずかわいい女子中学生だったため、驚きのあまりうまく話せず、口をモゴモゴさせる。
「社会見学だと聞いておりますが」アニキがなぜか敬語で尋ねる。
「はい。夏休みの職業体験のテーマとしてふさわしいと思いまして、お世話になることにいたしました」
「みすずさんよ、あんた、電話でどういう説明をしたんだ?」オバサンを振り返る。
「中学生を誘拐して身代金をせしめるという職業があるんだが、面白そうだから見に来てみるかい? と言ったんだがね」みすずは平然と話す。

 アニキは穴の開いたソファーに座る天宮舞を不思議そうに見下ろしている。
 隣ではみすずがニヤニヤしながら立っている。タバコはもう吸っていない。もう引火はこりごりだから、しばらく我慢している。
「このお嬢さんがあんたの八十二歳になる母親のヘルパーさんをしているのか?」
「そうだよ。社会見学のために週に三回、うちに来てくれてるんだが、そりゃもう、働く、働く。掃除をして、買い物をして、食事を作って、食べさせて、話し相手になって、シモの世話までしてくれる。食べさせるときは体を起こしながらだから、一苦労なんだよ。グーンと起き上がる電動式のベッドがあればいいだけどねえ。しかも、これだけ働いてくれてるのに、学校の成績は優秀なんだ。令和の時代にこんな娘はいないよ。ねえ、舞ちゃん」
 天宮舞がソファーから立ち上がった。
「みすずさん、言い過ぎですよ。ちょっとお手伝いをしているだけですから。それにボランティアではなくて、ちゃんとお給料もいただいてますから」
「そんな大した給料を上げてないでしょ」
「あっ、そうだ。これをみすずさんに……」
 舞がカバンの中から小さな袋を取り出した。
 アニキとロコモコが目で追う。
「ああこれかい。これはあたしの血圧の薬さ。持ってくるのを忘れたのさ。急にあんた達に誘拐されたものでね」
「お母さんはいつもと変わらず、ちゃんとご飯を召し上がりました」舞が報告する。
「いつも悪いね。電動式ベッドじゃないから食べさせるのが大変なんだよねえ。でも、舞ちゃんが作った料理は食べてくれるんだわ」みすずはアニキを見ながら言う。
「娘のあんたの料理は食べないのか?」アニキが訊く。
「ああ、マズいしな。作ってる本人がマズいって言うんだからマズいさ。誘拐計画がうまく行ったら、アニキにもご馳走してやるよ」
「いらねえよ」
「遠慮すんなよ」
「俺はグルメなんだ」
「胃袋に入ったら同じだよ」
 二人の掛け合いが終わりそうにないところで、舞が強引に割り込んできた。
「そんなことより、アニキ。誘拐のターゲットにしたもう一人の“美鈴さん”の写真を見せてもらえますか?」
 いきなり名前を出されて、目玉が二倍になるくらい驚くアニキ。
 みすずが今までの経過を電話で簡単に説明していたとはいえ、天宮舞のこの言動の変わり方はどうだ。
 立派な職業である介護ヘルパーさんの仕事から、底辺の職業である誘拐の仕事に転職するって何だよ。しかも、女子中学生だってよ。――もっとも、誘拐は職業ではないがな。
「いや、まあ、写真は見せますけど、舞さんは本当に俺たちの仕事に首を突っ込むのですか?」
「はい、もちろんです。覚悟を決めてここに来ましたから!」
「ほう!」
 アニキは感動して、ロコとモコに言う。
「お前ら、聞いたか! ちょっとは舞さんを見習ったらどうだ。お前たちには覚悟もヘッタクレもないだろ!」
 ロコとモコはシュンとなる。
 覚悟の「か」の字も、ヘッタクレの「へ」の字もなかったからだ。
 舞はそんな二人を見て励ましてあげる。
「ロコさん、モコさん、五人でがんばりましょうよ!」
「へえ、ありがとうございます!」「へえ、ありがとうございます!」
 中年オヤジのロコとモコは女子中学生にペコペコする。
「というわけで、アニキ。私も仲間に入れてくださいね。みなさんのことは知ってしまいましたよ。私を雇わないのなら、みなさんの悪行をネットで拡散してしまいますよ。よろしいですか?」かわいい顔で恐ろしいことを言う。
「いや、待ってください。分かりました。仲間と認めましょう」アニキは折れる。
「ありがとうございます!」舞がペコリと頭を下げた。サラサラヘアがスルリと滑る。
 この年頃の子は、みすずのオバハンと違って、ネットには詳しい。拡散なんてお手の物だろう。本当にやられたら、誘拐の計画も俺の人生も終わりだ。――ああ、怖いよう。

 生まれて初めて女子中学生に脅されたアニキはさっそくスマホを取り出して、舞に誘拐のターゲットにしている“美鈴さん”の写真を見せた。自分が盗撮したものだ。
 デカいみすずに隠れるようにして歩く小柄な美鈴が写っている。
「この奥に歩いてる子だよ」アニキが指差す。
「ああ、やっぱり!」舞が声をあげる。
「どうしたのですか?」アニキが訊く。
「この子は私のクラスメイトの“富士美鈴さん”ですよ!」
 舞がうれしそうに言った。

 偶然にも誘拐のターゲットが仲間のクラスメイトだったとは。
 運がいいのか、悪いのか。
「美鈴と聞いて、そうじゃないかと思いました」舞が言う。
「ほう、それはどうしてですか?」アニキが訊く。
 このターゲットはアニキがネット上をあちこち探し回り、やっと思いで見つけてきたカモだ。なぜ、この子をカモにしたのか。自分の判断は正しかったのかを、カモの身近にいる舞に訊いてみたいと思った。
「この子は絶好のカモだからです!」
 舞の口からカモという言葉が飛びだして、アニキは驚く。
 今、俺が心の中で思っていたカモという言葉を偶然にも使われるとは。どう見ても純情可憐で真面目を絵に描いたような女子中学生だ。生まれてこの方、悪いことなどしたことがないし、思ったことさえないような子がカモだなんて言うか? いったい、世の中はどうなってるんだ。俺が間違っているのか。この子がおかしいのか。
 ロコモコを見ると、目を白黒させていた。
 ああ、やっぱり。俺の方が正しい。この子が変わっているんだ。
 みすずのオバハンの影響を受けたのか。生まれつきなのか。
 今まで出会ったことのない人種に、アニキもロコもモコもうろたえている。
「この子の父親は悪徳金融屋さんなんです」
 社長令嬢に変わりはないが……。
「悪徳と断定していいのですか?」アニキが相変わらず敬語で訊く。
「はい、もちろんです。法定金利をはるかに超える利息で貸し出して、過酷な取り立てをしているので、地元では有名な悪徳会社なのです。いつか天罰が下るのではないか言われてます。その罰を下すのが、天ではなく私たちだなんて、感激です!」
「感激……ですか?」アニキは不思議そうな目で舞を見つめる。
「はい。この子をシメることができるなんて光栄です!」舞の目は輝く。
「シメる……ですか。お嬢さんがあまりそんな言葉は使わない方がいいですよ」
「では、やっつけるとか、張り倒すとか、ぶっ飛ばすとか、ですか? アニキなら何と言いますか?」
「まあ、あの、お父さんが悪徳でも、娘であるこの子に罪はないわけですから……」
「でも、この子は最悪なんですよ。そんな親の威光を笠に着て、学校でもやりたい放題なんですよ。わがままで、威張り散らすし、上級生さえもパシリに使うし、先生もほとほと困っているのです。――アニキ! 正義の名のもとに成敗をしてやりましょう! 父親もろとも、目に物見せてやりましょう!」
 舞は「おう!」と片手を突き上げた。
 消えていた三本の蛍光灯が驚いて再点灯した。

「三日後の放課後、私が美鈴を誘い出して、一緒に下校します。ロコさんとモコさんはそこを狙ってください。時間と場所は……」舞が計画を説明する。
「夕方の三時半に通学路でいいだろ」みすずが言う。「場所は通学路標識の下さ。あたしを誘拐した時間と場所なら間違えないだろ。同じことをやればいいんだからさ。どうだい、ロコくんとモコくん」
「はあ、がんばります」「はあ、がんばります」
 力なく答えるが、アニキに睨みつけられて、姿勢を正す。
「よしっ、これで決まりだな」アニキが言う。「三日間、しっかり準備してから、本物の美鈴さんをさらうぜ!」
「アニキ、待ってください」舞が言う。「私も一緒にさらってください」
「二人共ということですか?」
「はい。美鈴は勝ち気で物怖じしないような性格ですから、車に引きずり込むときも、言うことを聞かなかったり、暴れたり、大声を出したりするかもしれません。そんな時は、私がなだめて、大人しくさせますから」
「おお、それはいい考えですね」アニキは感心する。
「はい。私は途中で解放してもらえばいいです」
「分かったか、ロコモコ。二人いっぺんにかっさらって、舞さんだけを途中で下すんだ」
「はい、分かりました」「分かりました」
「みすずさんから何かあるかい?」アニキが訊く。
「“ドラマの撮影中です”という貼り紙はいいアイデアだから、また使おうや。あれで周りを歩いてた生徒を騙せたからな。あの紙は丸めて捨てただろう。あたしが新しいのを書いてやるよ」
 ロコとモコは目を合わせて喜んでいた。
 舞とみすずの加入で誘拐計画がどんどん加速し始めたからだ。
 アニキの行き当たりばったりの作戦は杜撰すぎた。

 三日後。しっかり下調べをして準備を整えた夕方の三時半。
 帰宅を急ぐ中学生で溢れている北区中学校の通学路。
 そこへ一台の黒いワゴン車が静かに近づいて来て、歩いていた二人の女子学生の横に止まった。ちょうど、通学路標識の下である。
 スライドしたドアの隙間から黒いベレー帽に、黒いジャンパーに、黒いサングラスをした黒づくめの男が顔を出した。モコである。運転手はロコが務めている。前回とは逆の組み合わせである。
 モコは何かを尋ねるように女性たちへ声をかけた。
 呼び止められた女性の一人、富士美鈴は無視して通り過ぎようとした。しかし、もう一人の女性、天宮舞が引き留めて、車の中を覗く。
「今、何と言われましたか?」わざとらしく大きな声でモコに尋ねる。
「富士美鈴さんのお母さんが事故に遭われました。すぐにこの車で病院へお送りします」
「そんなのウソだよ。舞、行こうよ」美鈴は無視して歩き出す。
 舞はふたたび、わざと大きな声を出す。
「美鈴のお母さんの名前は分かりますか?」
「富士アヤメ様です!」モコが大きな声で答える。
 美鈴の足が止まった。
「二時五十分頃、ヴェルサイユ・ダンススクールの帰り、ご友人の新橋あずさ様と歩いておられるときに、車が突っ込んで来て、ケガをなされたのです。お母様が着ておられたお洋服も持っておられたバッグもシャネルです」
 ワゴン車を通り過ぎていた美鈴が戻ってくる。
 すかさず、舞が声をかける。「美鈴、大変だよ。本当みたいだよ」
 モコが続ける。
「私はダンススクールの関係者です。お母様の命に別状はありませんが、搬送先の郡上病院まで、娘さんをお連れするように言われて、ここで待っておりました」
「美鈴、本当だってば。乗ろうよ!」舞が急かす。
「さあ、お乗りください!」モコも急かす。
 母親の事故を信じた美鈴は青ざめた表情でワゴン車に乗り込んだ。後ろから舞も彼女を押すようにして乗り込む。
 ――よし、うまくいった!
 舞は心の中でほくそ笑む。
 舞とモコのやり取りは、三日間、何回も繰り返して練習した想定問答集の通りであった。 
 今回も、周りを歩いていた生徒たちは誰もこの誘拐劇のことを気に止めなかった。なぜなら、ワゴン車の車体の後部に大きく赤くヘタクソな字で“ドラマのさつえいちゅうです。ごきょうりょくをおねがいします”と書かれた紙が貼ってあったからだ。

 今から二十分前。
「おい、オバハン! なんで貼り紙を平仮名で書くんだよ!」アニキが怒った。
「漢字を忘れちまったんだよ! 贅沢を言いなさんな。平仮名だと近くで募金活動をやってる小学生にも読めるからいいだろ」
 みすずは開き直った。
 仕方なくアニキはワゴン車の後ろにこの貼り紙を張り付けたのであった。もう一度書くのも面倒だったからである。
 そして、その貼り紙は効果を発揮して、他の生徒たちは気にも留めずに、ワゴン車を早足で追い抜いて行ったのである。
 さらに、この日も小学生による台風被害者支援の募金活動が近くで行われており、多くの人たちは小さな五人組による「募金のご協力をお願いしまーす」というかわいい声に気を取られ、黒ワゴン車に二人の女性が乗せられるところを見ていなかった。
 こうして、今度こそ本物の美鈴の誘拐は成功したのである。
 
 美鈴の母の行動パターンは、舞がこの三日間で美鈴本人から何とか聞き出したことである。ダンススクールにはシャネルの服を着て、シャネルのバッグを持って行くことも。
 気が動転していたのか、美鈴はそんなことも気づかず、ワゴン車に乗り込んだ。
 先ほど、モコがダンススクールの関係者だと言ったときには笑いそうになった。太っちょモコはどう見てもダンスができそうな体型ではなかったからだ。しかし、これも想定問答集に書いてある通りだった。
 なぜ、前回と違って、ロコとモコの役が入れ替わったかというと、ロコが直前になって、セリフが覚えられないと言い出したからである。仕方なく、運転手役を務めたのである。
 ちなみに想定問答集は舞が作成した。
 それをのぞき見したアニキが呆れて、「舞さんは本当に中学生ですか?」と訊いて来た。
 とんでもない悪党だと言いたかったらしい。
 悪党に悪党と言われることは名誉なことなのか、不名誉なことなのか。
 悪党からすると名誉なことなのだろうが、善良な市民からすると不名誉なことなのだろうと舞は思った。つまりは、不名誉なことなのである。舞に自分が悪党という自覚はない。

 二人はワゴン車に乗せられたが、いつまでたっても病院に着かず、途中で目隠しをされたことで、美鈴はやっと騙されたと気づいたらしく、車内で暴れ出した。
 窓をゴツンゴツンと叩き、シートを足でバシバシと蹴飛ばす。さらに、大きな声でギャーギャーと文句を言い出した。
「ちょっと、私をどこへ連れて行くんだよ! 下ろせよ、モコモコ頭の野郎!」 
 舞も彼女に合わせて文句を言う。黙っていたら仲間だとバレてしまうからだ。
「そうだ、そうだ、美鈴の言う通りだ。すぐに車から下ろして、私たちを解放しなさい!」
 あまりにもわざとらしいため、自分でも笑いそうなる。 
しかし……。
「大人しくしてないと、ぶっ殺すぞ。大人しくしてりゃ、家族の元へ帰してやるからな」
モコに低い声で脅されて、二人して黙り込んだ。
 このセリフも、低い声を出すことも、舞の想定問答集の通りであった。
「美鈴。黙ってないと殺されて、山に埋められるみたいだよ」
 舞がうまくなだめる。ここも想定問答集通りである。
 美鈴は観念したのか、大人しくなった。
「大人しくしてたら、家に帰してくれると言ってるから、この人を信じようよ」
「分かった。静かにしてる」
「私たちはもう騒ぎませんので、ぶっ殺すのはやめてください」舞はモコを見る。
「ああ、まあ、分かってくれたらいいんだ」モコが笑いをこらえながら答える。舞の棒読みのようなセリフとクサい芝居がおかしかったからだ。
 やがて、舞の目隠しだけが外された。
 外したところで、目隠しをされたままの美鈴には見えないのだから平気だった。
 モコが声を出さず、舞にウィンクを送って来た。
 何をやってんだか、モコモコ頭のモコは。
 モコのウィンクはヘタッピだと舞は思った。
 しばらくして、モコが口を開いた。また低い声だ。
「ここから二人は別々の場所に移動してもらう。キミは別の車に移ってくれ」と美鈴にも聞こえるように、わざとらしく舞に言い、「キミはこのまま静かにしておいてくれ」と美鈴の肩をトンと叩いた。
「ねえ、舞。今はどの辺りを走ってるの?」美鈴が心配そうに訊いてくる。
「今はね。教……」わっ、危ない。「じゃなくて、目隠しされてるから分かんないよ」
 あやうく、教会の前を通っていると言いそうになった。
 舞は目隠しをされてる美鈴を見る。後ろの席で縮こまっている。
「ねえ、美鈴。お母さんが事故なんてウソだったみたいね」
「そうだよね。目隠しなんかされるわけないものね」
「きっと、私たちは誘拐されたんだよ」
「私もそう思う」
「たぶん、身代金を要求されるんだよ。でも、美鈴の家はお金持ちだから、お父さんがちゃんと払ってくれるはずだよ。だから、大人しくしてないとダメだよ」
 美鈴が暴れたら誘拐がうまくいかなくなるため、静かにしているように念を押しておく。
「うん、分かってる。でも、なんで舞も誘拐されたの? 舞の家は特に裕福じゃないでしょ」
「えっ、まあ中流家庭だけど」
 美鈴を睨みつけてやる。
 確かに、腐るほどお金があるほどのお金持ちではないが、逆さにして吊るしても鼻血も出ないような極貧でもない。真ん中くらいだ。
「でも、今から別々の場所に連れて行かれるみたいだけど、美鈴、がんばろうね」
「ありがとう。舞もがんばってね」
「この人たちが言うことをちゃんと聞くんだよ。きっと、お父さんがお金を用意してくれてるからね。信じて助けが来るのを待つんだよ。お金はまたお父さんに稼いでもらったらいいよ。でも、殺されたら終わりだからね。アイスも食べられなくなるからね」
 先ほど、ギャーギャーと騒いでいた美鈴も静かになった。
 人質である美鈴をなだめ、大人しくさせて、誘拐犯に従わせるという私の役目はうまくいった。これでロコもモコも、素直になった美鈴の扱いに困ることもないだろう。もちろん、目隠しをされたままの美鈴に、私の役目はバレてない。
 そもそも、人質同士がこんなにベラベラとおしゃべりできるわけない。モコも黙ってくれていたのだが、少し考えれば分かることだ。おそらく、誘拐されたショックで、美鈴の頭も働かないのだろう。
 しばらく走ったところで、舞だけが下されたのだが、当然、乗り換え用の車など用意されてなくて、このまま歩いて家に帰る。
 スライドドアを閉める寸前、モコが舞に親指を立てて、声を出さずニヤッと笑った。
 すべて、舞が作成した想定問答集通りに事が運んだからうれしいのだろう。
 舞もモコに親指を立てた。
「イエ……」
 あっ、危ない。おもわず、イエーイと言いそうになった。美鈴に聞かれたらヤバい。
 お互いに、お役目ご苦労さんといったところだった。
 その後、一人になった人質の美鈴は一団がアジトにしているガレージに運ばれた。ガレージは人質が数日間は過ごせるようにちゃんと掃除をして、食料も整え、羽毛布団も用意してあった。みすずのオバハンが中心になって揃えたものだった。

 夕方、四時二十分。アジトに人質が運ばれてきたところで、アニキは外の公衆電話から美鈴の母に電話をかけた。自分のスマホを使うと、こちらの情報が知られるので危険だからである。電話番号は美鈴に聞いた。
 電話に出たのは、事故になんか巻き込まれていない母の富士アヤメである。
 アニキは一気にまくしたてる。
「お母さん、一回しか言わないからよく聞くんだ。お嬢さんの美鈴さんは俺たちが預かった。警察に通報したら命の保証はない。明日までに現金で一億円を用意しろ。新札はダメだ。旧札で用意しろ。お札の番号は控えるな。お札に色を付けたり、発信機を仕込んだり、小細工をしたら、娘の命はないと思え。受け取りの日時と方法はまた連絡する。娘さんは元気だ。そちらが変な動きをしない限りはな」
 アニキは定番のセリフを言って、返事も待たず、一方的に電話を切った。セリフが書かれたメモを折りたたんでポケットにしまう。このメモを作ったのも舞だ。要点を押さえた無駄のないセリフだった。舞の現代国語の成績はいいらしい。

 昨日、身代金をいくらにするかを仲間五人で話し合った。三十億と言い出したのはロコだ。いや、二十億だと値切って来たのはモコだ。お前らはセコいと五十億に値上げをしてきたのはみすずだ。三人の間でかんかんがくがくの議論が巻き起こる中、どうやって収束させようかとアニキが悩んでいた時に、現実を見ないとダメですよと諫めたのは舞だった。
 舞は一億円を主張した。
 金融会社だからといっても、所有しているお金は会社のもので、個人の自由にはならない。銀行からも簡単に下りるものではない。すぐに現金として用意できるのは一億円くらいだろう。彼らは間違いなく警察へ連絡するはずだ。大金を用意するには時間が必要だが、その間に警察も捜査態勢を整えるはず。
 いろいろな準備が整えられる前に、短期間で用意されたお金を、短時間で奪い取ることが誘拐犯罪にとっては一番大事なことである。そう考えると一億円くらいが妥当ではないか。
それに、人間、そんなに欲をかいてはならない。何事もほどほどにしておくことが大事。そうすると、また次への意欲も沸いてくる。それが人生というものではないか。
舞はみんなの前でそう説明したのである。
 そして、身代金は一億円に決定した。
 アニキはぼやく。
 まったく、ロクでもない女子中学生がいたもんだ。
「舞さんは俺よりも悪党ですね」と言ったら、
「アニキは日本中の女子中学生が、揃いも揃って、正直で、まっすぐで、純粋で、汚れを知らないで、毎日を懸命に生きているとお考えですか?」と反対に聞かれ、返す言葉がなかった。
 今どきの子供はこんなものか。俺が時代遅れなのか。俺が世間知らずなのか。ロコモコに訊こうと思ったが、二人そろってのマヌケな面を見てやめた。まともな答えが返ってくるわけがない。俺が分からないのだから、あいつらに分かるはずはない。あんな臨時雇いはどうでもいい。
 ただ、舞さんは日本一悪い女子中学生であり、これからも逆らわないでおこうと決めた。
 
 アニキは身代金を要求する電話を無事に終えると、電話ボックスから出て、きれいな夜空を見上げた。
 ――ふう、これで山を一つ越えたな。
 今頃は人質の美鈴をみすずとロコモコが面倒を見ていることだろう。今夜のメニューは女子中学生が好きそうなジェノベーゼだとかいうスパゲッティだかパスタだかに決めたのだが、果たして、あいつらにそんなもんが作れるのか? 簡単に作れる唐揚げでいいじゃないかと言ったのだが、せっかくの人質なので丁重に接待したいと、よく分からないことを、ロコとモコが言い出したのだ。そして、料理はみすずが作ると言い出した。
 あんたの料理はクソまずくて、お母さんも喰わないんじゃないのかと言ったが、最近の若い子の口には奇跡的に合うかもしれないじゃないかと反論されて、任せることにした。だったら、勝手にすればいいと言って外に出てきた。
 みすずのオバハンといい、ロコといい、モコといい、俺の誘拐チームにはマトモな奴が揃ってない。まあ、リーダーの俺の徳分が足りないんだろうな。
 アジトにクラスメイトの舞さんがいて、美鈴の相手をしてくれればいいのだが、顔を見られてはマズい。一緒に誘拐されて、別の場所で人質になっているという設定だからだ。
 舞さんは介護ヘルパーとして、みすずのお母さんのお世話に行っている頃だろう。
 誘拐の計画は順調に進んでいる。大金を手に入れるのももうすぐだ。手に入ったら、チームは速攻で解散だ。俺はどこかへ旅に出る。ロコとモコの行く末なんか知らない。みすずのオバハンと舞さんはいつもの日常に戻ればいい。
 
 二段ベッドの下に寝ころんでいる弟が、二段ベッドの上に寝ころんでいる兄に声をかけた。
「兄ちゃん、これ見てよ」二段ベッドの上に手を伸ばし、スマホを差し出す。
「何だ?」兄が画面を覗き込む。
 しかし、兄が読み終えるのが待てずに、弟はしゃべり出す。
「車の品評会があるんだって!」
「品評会って何だ?」
「コンテストみたいなもんだよ。賞金が出るらしいよ」
「いつ、どこでだ?」
 兄弟は自慢の車を共同で所持している。お互いの給料の大半を車の購入とその後の改造に費やし、今や、誰にも負けないくらいの「ヤバい車」に仕上がっていた。自慢のドレスアップカーである。
 ドレスアップカーというのは、エンジンを触らずに外観だけを変えた車のことである。エンジンを強化したところで、日本には制限速度がある。ぶっ飛ばせるわけない。だから、見た目の勝負である。
 エアロパーツを付けまくった俺たちの「ヤバい車」は村で評判である。 
 俺たちの車以外はみんな軽トラと耕運機なんだけど。
「明日、大通りでだよ」弟が教えてあげる。
「大通りって、どういうことだよ?」
 兄はスマホの画面を読むのが面倒になって、直接、弟に訊いている。
 兄ちゃんは活字を見ると頭が痛くなるんだ。だから動画しか見ないんだ。
「大通りにコインパーキングがたくさん並んでるじゃん。そこに車を入れてコンテストをやるらしいよ」
「そりゃ、すげえな。コンテストの主催者からすると会場を借りなくてもいいし、安上がりじゃんか。あの辺はコインパーキングがたくさんあるから、いっぱい集まるんじゃないのか」
「それと道端にもお金を入れて停めるスペースがあるから、そこに停めてもいいんだって」
「へえ。そりゃいいな。優勝賞金はいくらだ?」
「三十万円だって!」
「マジかよ! よしっ、コンテストに参加するぞ。さっそく洗車に行こう。今日は奮発して手洗い洗車を頼もうや!」
 いつもはトロい兄ちゃんだけど、車のこととなると猛スピードで体が動くし、いつもはケチな兄ちゃんだけど、車のこととなると、いくらでもお金をかけるんだ。
 兄弟は二段ベッドから起き出して、近くのガソリンスタンドへ向かった。店員さんに手洗い洗車をして、ワックスがけをしてもらうためだ。
 最近は雨続きだったから、青空駐車している自慢の「ヤバい車」は汚れていた。

 夕方五時。警視庁に娘が誘拐されたという110番通報が入った。その情報はすぐに警視庁特殊事件捜査係へ知らされた。

「誘拐の事案」
 ・日時:七月十日。午後三時半頃。
 ・場所:北区中学校の通学路。
 ・被害者:北区中学校二年生の富士美鈴。
 ・加害者:不明。
 ・目的:身代金の強奪。

 通報をしてきたのは富士アヤメと名乗る女性だった。聞き覚えのない声の男性から電話があり、
「お嬢さんの美鈴さんは俺たちが預かった。明日までに一億円を用意するように」と言われたという。また、警察に連絡をしたら娘の命はないとも言われたと、泣きながら説明したらしい。
 さっそく、富士美鈴という中学生の素性を調べたところ、大手金融会社フセイ金融の社長令嬢だと判明した。
 捜査係を率いるのは定年間際の岩鏡警部である。富士美鈴の自宅へは変装した捜査員を数人向かわせた。その中には中年間際の打水刑事もいた。
 受け取りの日時と方法はまた連絡すると言って来たため、スマホを持った母親に打水刑事を張り付かせている。

 岩鏡警部は急遽新設された対策本部室でホワイトボードに張り付けた北区の地図を睨んでいた。富士美鈴の家は郊外の静かな住宅街の一軒家である。打水からの報告によると、かなりの豪邸らしい。地元では有名な大手企業の創業者の家なのだから当然であろう。
 犯人は声からして男性だ。娘は“俺たち”が預かったと言ったことから複数犯と思われる。一億円は旧札で用意して、番号は控えないように指示されたという。父親も仕事を切り上げて家に帰って来ていて、身代金一億円は今夜中に用意すると言っているらしい。打水が金の出所を訊いてみたが、教えてくれないという。しかし、必ず、金は用意するから、娘は確実に取り返してほしいと言われていた。

 午後八時。犯人から母親のスマホに連絡が入った。打水刑事からの報告によると、今回も公衆電話からで、声の主は前回と同じようだったという。明日の身代金の受け渡しの時間と場所と方法を一方的に話し、電話を切ろうとしたので、母親が娘は元気にしているのかと訊いたら、今夜はジェノベーゼを食べさせて、羽毛布団で寝てもらうから心配しないようにと言って切れたという。
「打水、人質の声なんかは聞こえなかったのか?」岩鏡警部が電話をかけてきた打水に訊く。
「はい、お母さんは何も聞こえなかったと言ってます」
「なんといっても、人質の安全確保が優先だからな」
「はい。それは十分に承知してますし、こちらにいる者たちにもしつこく言って聞かせてます」
「ところで、ジェノベーゼとは何だ?」
「それがさっぱり分かりません」
「そうか。まあ、夕食のメニューはいいとして、犯人が言ってきた明日の身代金の受け渡しの時間と場所と方法を教えてくれ」
 誘拐が成功する確率は低い。人質を誘拐して、身代金を要求するところまでは何とかできる。問題は金の受け渡しである。どこで、どういう方法で行うのか、古今東西の歴代誘拐犯人が知恵を絞って考えては、失敗を繰り返している。今回の誘拐犯もそれくらいは分かっているはずだ。
 それでも、やってくるとはどういうことか?
 絶対に捕まらない良いアイデアでも思いついたのか?

「受け渡しは午後二時に北区中学校の通学路の通学路標識が立っている所です」
「午後二時? 午後二時と言えば、人が活発に活動している時間帯だぞ。ふらふら歩いてる人はおらんだろ。それに通学路といっても、あのあたりは人通りが多いだろ。通学の時間帯か夕方じゃないのか。その方がたくさん人もいて、金の受け渡しもしやすいぞ」
「いえ、確かに二時に通学路でと言われたそうです」 
「そうか。では、受け渡し方法はどうするんだ?」
「まず、身代金を運ぶ人物を指定してきました。富士美鈴のクラスメイトの天宮舞という子です」
「クラスメイト? 中学生に運ばせるのか?」
「はい、お母さんはそう言われたそうで、天宮舞という子とは特に仲がいいというわけではないのですが、確かに実在しているそうで、なぜ、その子が選ばれたのかは分からないそうです」
「中学生にやらせるとは、とんでもない悪党じゃないか。――いや、分かった。天宮舞という子に連絡を取ってみるが、受け渡しは女性警官にやらせるぞ」
「それが警部、無理なんです」
「なぜだ!?」
「北区中学校の制服を着て来いと言われたそうです」
「うちの署で一番小柄な女性警官は誰だ?」
「大林巡査ですが、それでも百五十五センチくらいですよ」
「近隣の署でもいいから百四十センチくらいの警官はいないのか?」
「警部。うちの県では女性警官採用の基準は身長百五十センチ以上です」
「大林巡査に中学生の制服を着せたらどうだ?」
「彼女は四十三歳ですよ」
「アラフォーに制服を着せると、昭和の日活ロマンポルノになってしまうか。無理だな」
「それと、現金一億円は一つの袋に入れて持たせるようにとの指示です。
「一億円だと十キロあるぞ。それを女子中学生に持たせるのか」
「その後のことは明日また連絡すると言って一方的に切られたそうです。最後まで、人質の安否確認はできなかったようです」
 母親に張り付いている打水刑事が残念そうに言った。

 翌日。警視庁特殊事件捜査係。
 約束通り、父親は身代金一億円を旧札の現金で用意した。今、捜査員たちが集まる対策本部室のテーブルの上に置かれている。できるだけ重量を減らすために軽い布製のエコバッグに詰めてある。それでも十キロ以上はある。犯人の要求通り、発信機を仕込むといった小細工はしていない。この一億円を運ぶ大役を任されたのは富士美鈴のクラスメイトの天宮舞である。今、いかつく大柄な捜査員に囲まれて、制服に包まれた小さな体をより小さくしている。
「天宮舞さん。こんなことになって申し訳ない」岩鏡は頭を下げる。「犯人がなぜかキミを指名してきた。この身代金を運ぶように要求してきたのだよ。しかし、キミの安全は我々が命に代えてでも守り抜く。それは安心していただきたい」
 舞はじっと岩鏡の目を見て答える。
「はい。分かっています。美鈴ちゃんは大事なお友達です。お友達が無事に帰って来られるように、私も精一杯、がんばります。みなさんのことは信じてます。私は与えられたこの役目をしっかり果たして、笑顔で美鈴ちゃんと再会したいと思います!」
 舞は悲壮感を感じさせることなく、全身に力を込めて、やる気を見せる。その方が健気に見えるだろうと思ったからである。
 案の定、捜査員たちは大きく頷き、中には涙ぐんでいる男もいる。
 へっ、警察官を騙すなんてチョロいもんだね。
 舞は心の中で爆笑している。
 当然、舞と犯人グループがグルだとは気づかれていない。いくら警視庁のベテラン捜査員でも、誘拐犯のグループの中に女子中学生がいるとは思わないだろう。

 午後一時半。受け渡しの三十分前。
 誘拐現場付近で聞き込みを続けていた捜査員から岩鏡警部に連絡が入った。
「目撃者が見つかりました! 昨日の夕方三時半頃に通学路を散歩していた老人から聞いたのですが、不審な黒いワゴン車が止まって、二人の女子生徒を乗せて行ったそうです」
「二人? だったら、家の人が迎えに来たんじゃないのか? 誘拐の案件とは別だろう」
「しかし、二人のうちの一人は乗るのを嫌がっていたそうです」
「結局は乗ったんだな。うーん、どうなんだろうなあ。犯人は富士美鈴を誘拐したと言って、身代金を要求してきたんだ。もう一人いるなんて、聞いてないぞ。――分かった。とりあえず、情報は現場に伝える」
 すでに受け渡し現場には多数の捜査員が張り込んでいる。スーツ姿やジャージ姿、作業員などに変装し、どこから調達したのか、歩道をホウキで掃除している捜査員もいた。
 岩鏡は現場にいる捜査員へ、いっせいに連絡をした。
「誘拐当日、不審な車が目撃されていた。黒のワゴン車だ。今回も同じ車両を使用する可能性がある。黒のワゴンを見つけ次第、職質しろ」
 すぐに返事が戻って来た。
「警部、あたりは黒のワゴン車だらけです!」
「どういうことだ?」
「なんでも、この通りで車のコンテストがあるそうです。それが偶然にも黒色のワゴン車が対象らしくて、コインパーキングや道路端のパーキングも黒ワゴンだらけです」
「だったら、全部職質してしまえ!」
「それが……、おそらく、七、八十台は集まってます」
「何だと! どれでもいいから、コンテストの主催者がどこにいるのか訊いてくれ」
 ――数分後、連絡が来た。
「警部、主催者はどこにいるのか分かりません。ネットの掲示板でコンテストの告知があって、時間と場所と三十万円の優勝賞金のことが書かれていただけだそうです」
「――罠だ。おそらく、その中に犯人が紛れているはずだ。時間がない。片端から職質しろ!」
「警部! 黒ワゴンがいっせいに動き出しました。西へ向かってます。ネット上で指示でも出されたのではないでしょうか!」
「何だと! 早く追いかけろ!」
 ネットの掲示板には、コンテストの最終会場として、西にあるスーパーの駐車場を指定してきたのである。すべての黒ワゴン車が競うように駐車場へ向かう。優勝賞金三十万円に釣られて、派手でピカピカのドレスアップカーの団体が走り抜けていく。
 それを見届けたアニキは、主催者のフリをして書き込んでいた掲示板の画面を閉じると、スマホをポケットに入れ、何食わぬ顔をして移動を始めた。 
 遠くに一億円入りのバッグを持って立つ天宮舞の姿が見えた。

 警部が現場の捜査員と連絡を取り合っていたころ、一人の女性が現場近辺を大声でわめきながら歩いていた。その大きな体の年配女性は変装して張り込んでいる捜査員を見つけると、「あんたはこんな所で何をしているのか!?」「実に怪しい」「ストーカーかい?」「あっちへ行け!」「ここに変な奴がいますよー!」などと難癖を付けて、散らしていく。
 歩道をホウキで掃除している人物がいた。どう見ても掃除をしている普通のオジサンなのだが、「誰の許可を得て、ここを掃いてるんだ?」
「私はシルバーセンターから派遣されて来てるのですが」
「あんた、シルバーにしては若いな。まだ五十代だろうが!」
 清掃オジサンに変装している刑事も追いやってしまった。
 つづいてコンビニの前に座り込んでいる二人組に近づく。
「あんたら、こんなところで何をやってんだ!?」と大声で怒鳴る。「街の不良か?」
 二十代と思われるジーンズ姿のラフな格好をした男性が小さな声で、
「警察です。ここで張り込んでます。ご協力をお願いします」と言った。
「えええっー! 警察! 張り込み! すごいじゃん!」
「ち、ちょっと声が大きいです」
「あたしは渡哲也の大ファンでねえ、亡くなって残念だわ。あんたたち、渡さんみたいなサングラスはかけないのかい」
「すいません。静かにお願いしますよ」
「なんだって!? 渡さんみたいなショットガンは持ってないのかい?」
「犯人に気づかれるから静かに……」
「あたしは耳が遠いのよ! もう一回、言ってくれる!?」
「ですから……」
「ああ? 一回じゃ聞こえないから、四、五回言ってくれるかい!? 舘ひろしはどこに隠れているんだい?」
 おそらく捜査員ではない人物も含まれていただろうが、このオバサンの迫力と気味の悪さに、あたりにいた人たちがすごすごと退散して行く。やがて、身代金の受け渡し場所である通学路標識の付近は誰もいなくなってしまった。
 もちろん、このオバサンは誘拐団の一員の秋山みすずであった。アニキにどんな方法を使ってもいいので、現場から邪魔者を蹴散らすように言われていたのである。みすずは単純にデカい声とデカい体を使って、それをやってのけたのである。
 捜査員はやむをえず、受け渡し現場から遠ざかった。犯人に張り込みを気付かれてはいけないからだ。母親は警察に連絡をしたら美鈴の命はないと言われている。だが、少しでも近づくと、さっきのオバサンが大声を上げながら、血相を変えて走ってくるから始末が悪い。まるで、なわばりを守ろうとする野性のカバである。

 しかし、今度は少し離れたところで、男同士のケンカが始まった。怒鳴り合い、殴り合う姿にやじ馬が群がり、声援を送り出す。興奮した連中が空き缶やペットボトルを投げ出す。
 捜査員も身分を隠しているとはいえ、警察官である。止めに入らざるを得ない。いろいろな物が飛び交う中、ケンカをしている二人に近づくと、脱兎のごとく逃げ出した。
 それを見たやじ馬も興味をなくし、散り散りになっていなくなる。
 残ったのは、カバオバサンこと秋山みすずだけだった。
 ケンカをしていたのは誘拐団のロコとモコである。もちろん、ケンカのフリだけだった。ロコモコは走って現場から離れると、少し遠い場所にあるコインパーキングに停めてあった黒ワゴン車に乗り込んだ。当初から使っている、ナンバーを付け替えた盗難車だ。アニキがどこからか調達したらしい。
 ここでしばらく待機をすることになっている。時間が来たら、ここを離れる予定だ。それまでに警察官が来たら、ワゴン車を放って、走って逃げるつもりだった。
「アニキ、大丈夫かなあ」ロコが心配そうに言う。
「アニキのことだからうまくやってくれるだろ」モコが答える。
 二人の会話を離れたところを移動しているアニキがイヤホンで聞いている。ワゴン車には盗聴器が仕掛けてあった。それにしても、二人の声はとても鮮明に聞こえてくる。
 それもそのはずだ。ロコとモコは車内で見つけた盗聴器を口元に近づけて鮮明に聞こえるように話していたからだった。
 
 午後二時。受け渡しの時間。アニキはロコとモコの会話を聞いて、ニヤニヤしながら、目的の場所に向かう。マヌケな連中だとはいえ、自分のことを信用してくれているようで気分がいい。
 途中で警察官が検問をしていたが、黒いワゴン車が対象だったので、アニキの乗った自転車は素通りできた。西へ向かう黒いワゴン車の大群の間をすり抜けてアニキの自転車は疾走して行く。
 やがて、すぐ近くに天宮舞の姿が見えて来た。
 舞はあたりを見渡す。みすずとロコモコのおかげで捜査員は追いやられて、近くにいない。目の前でアニキの自転車が止まった。お互い目を合わせると、周りから見えないようにニヤリとする。舞が身代金の入ったエコバッグを差し出す。アニキはエコバッグを背負っていたデリバリーバッグに突っ込むと猛スピードで走り出した。
 ウーバーイーツの配達員の格好をしたアニキが身代金を背負って、遠ざかって行く。西へ向かう黒ワゴン車の群れの中に、アニキの自転車はうまく紛れ込んだ。
 この群れの中には車大好き兄弟がピカピカに磨き上げた「ヤバい車」で参加していた。
「兄ちゃん、すごい数の車だね」
「そうだな。でもな、俺たちが優勝だ。俺たちの給料のほとんどを注ぎ込んでドレスアップしたんだからな」
「そうだよね。七千円もかけて手洗い洗車をしたんだもんね」
「見てみなよ、周りと比べても、俺たちの車が一番輝いてるぜ!」
「絶対、優勝だっぺ!」
 アニキはそんな兄弟のことなど知らない。賞金三十万円に騙される方が悪いと思っている。もうすぐ走れば、このコンテストが真っ赤なウソだということに気づくだろう。
 ロコとモコは予定通り、黒ワゴン車を離れた。
 ワゴン車の後部座席には目隠しと猿ぐつわをされた富士美鈴が転がされていた。
 
 誘拐団がアジトにしている古びたガレージ。
 秋山みすずは寝たきりの母が待つ家に帰り、天宮舞も警察の事情聴取を簡単に受けてから自宅に帰った。おそらく人質の美鈴も発見されて、無事に保護されているだろう。
 ここに集まっているのはアニキとロコとモコの三人だけである。
 テーブルの上には奪い取った一億円の身代金が山のように積み上げられていた。
「ロコ、モコ、ありがとよ!」アニキがニコニコしながら言う。「マヌケなお前たちだったが、よく働いてくれた。おかげでこの宝の山よ」と言って、ロコに右手を差し出す。
 その右手にロコは手錠をはめた。その端を左手でしっかり握る。
「おい、ロコ。何のマネだ。冗談はやめろ」アニキが睨み付ける。「分け前が不満なら、もう一度、話し合おうや」
 分け前はアニキが四千万円、ロコとモコが三千万円ずつだ。
「いいえ、冗談ではないですし、話し合いは不要です」ロコは右手をふところに入れる。
「ロコ、ふところに拳銃を隠し持ってるフリをしても無駄だ。ドラマではよく見るがな、実際、本物の拳銃なんかそう簡単に手に入らないぜ」
「拳銃ではないです」
「じゃあ、そこに隠してるのは何だ?」
 ロコはふところからゆっくり右手を抜いて、アニキの目の前に差し出した。
 “警視庁別働特別班:中谷吉郎”と記載されている警察手帳だった。写真は確かにロコだ。
「おい、冗談だろ。なあ、モコ」アニキはモコの方を見る。
 モコも右手を差し出す。持っている警察手帳には“警視庁別働特別班:宿木幸太郎”と記載されていた。こちらにもモコのクソ真面目な顔の写真が貼り付けてある。
「おい、ウソだろ。お前たちのようなマヌケが警官なわけないだろ。俺がネットで募集した
ヤバい仕事に応募してきたんじゃないか!」手錠をされた右手に力が入る。
「そうです」ロコこと中谷が余裕を見せながら答える。
「潜入捜査なんかやってもいいのか!?」
「悪党を退治するためなら、潜入くらいしますし、マヌケのフリもします」中谷は顔に笑いさえ浮かべている。
 マヌケと聞いて、モコこと宿木も笑う。アニキの前では、さんざんマヌケなフリをしてきたからだ。ロコはハゲ頭のままだが、モコはモコモコのかつらを外して、短髪の頭になった。
「最初の誘拐はわざと間違えたな?」アニキがブスッとして尋ねる。
「女子中学生を誘拐するわけにはいきませんから、たまたま歩いていた秋山みすずさんを連れてきました。別人だとしてすぐに解放されるはずが、あのオバサンが仲間に入れてくれと言い出して、事態はあらぬ方向に転がったということです」
 ロコが今までと違って、ハキハキとしゃべる。これが本来のロコなのだろう。
「お前たち二人には、受け渡しの時にケンカをして、張り込んでいる捜査員を引き付けろと言っておいたはずだ」
「はい、その通り、ケンカのフリをして、引き付けておきましたよ。うまく行ったでしょう」
「他の捜査員はお前たちのことを知ってたのか?」
「いいえ、誰も知りません。そもそも、我々は別働隊なので普段から顔は知られてません」「それよりもアニキ」モコが話し出す。「いや、万房五十郎さん。一つ、分からないことがあります」
「何だ?」アニキはもう観念したのか手の力を緩めている。
「アニキのビッグボスが誰なのかが、いくら調べても分かりません」
「ああ、ビッグボスか。そんなもん、いない。俺の上にも権力者がいると思わせておいた方が、お前たちも従うと思って、電話をしているフリなんかをしていたんだ」
「ああ、そうだったのですか」モコは苦笑いをする。逆にまんまと騙されたからだ。
「いつでも捕まえることができたのに、ビッグボスも一緒に捕まえてやろうと思って、俺を泳がせていたわけか。苦労して捕まえたのに、俺みたいな小物で残念だったな」
「いいえ、小物でも悪党ですから」
「ふん。警察にまんまと騙されるとは、俺も焼きが回ったな」
「しかし、私たちのことは信用してなかったでしょう。ワゴン車の中に盗聴器が仕掛けられてましたから」
「ああ、それも気づいていたのか。――ここにいるのは、お前たち二人だけじゃないんだろ」
「もちろんですよ」ロコが答えたとたん、派手な音を立ててシャッターが上がり、警官がなだれ込んで来た。アニキはとっさに裏口を見たが、そちらにもたくさんの警官の顔が見えた。
「お察しの通り、総動員をかけてますよ」
 アニキの顔に諦めの表情が浮かんだ。

「六百万円をどこへやった?」
「だから、知らないって、さっきから百回くらい言ってるだろ」
 岩鏡警部の質問にアニキこと万房五十郎はいい加減、辟易してきた。先ほどから同じ質問を何度も繰り返されては、同じ答えを返しているからだ。
 俺がロコモコと名付けた二人の警察官にはあれ以来、会ってない。また、どこかに潜入して捜査をしているのかもしれない。取り調べは別の人間――岩鏡と打水が行っている。岩鏡がまた同じ質問をしてきた。
「富士美鈴の父親は確かに一億円を用意してエコバッグに詰めたと言っている。それをお前がまんまと奪った。しかし、戻って来たバッグの金を数えてみると、九千四百万円しかない。六百万円、足らないんだ」と机を叩く。
 昔ながらの刑事のやり方は騒音がする。耳も頭も痛くなる。
 打水刑事も偉そうに言ってくる。
「お前がどこかに隠したとしか考えられないんだよ!」
 二人で取り調べをするときは、一人がうるさく言って、もう一人がなだめる役のはずだが、こいつらは二人揃ってうるさい。だから、昭和の刑事は嫌いなんだ。俺も昭和だけど。
「だから、俺は知らないって。ロコモコ……じゃなくて、中谷さんと宿木さんに訊いてみろよ」
「誰だ、そいつらは?」
 ――何?
 別動隊だから、岩鏡と打水のことは知らないのか。
 それとも、あの二人の存在を隠しているのか。
 まあ、そうだろうな。潜入捜査をやって、一般人を誘拐したことまでバレたら大問題だからな。俺みたいな悪党に弱みを握られるわけにはいかない。だから、とぼけてるのだろう。
 岩鏡のいかつい顔を見つめるが、真実は読み取れない。
「お前の黒い盗難車も調べた。エンジンを分解してまでな。臨時で借りた工場内も、お前が以前、根城としていたウィークリーマンションまで調べた。お前がネットで扇動して集めた黒ワゴン車の集団も防犯カメラの映像から解析して、一台ずつ調べた。だが、六百万円の行方は分からない」
「扇動したわけじゃない。奴らが三十万円の賞金に目をくらませて、勝手に集まって来たんだ」
「いや、身代金の受け渡し時をカモフラージュするために、お前がネットの掲示板を使って集めたんだ」
「どうとでも言え。それにしても、黒ワゴン車を五十台も調べるとは立派な心掛けだな」
「七十七台だ!」
「ほう、そんな集まっていたのか。世の中、煩悩の固まりのような連中が多いな」
「お前が言うな。――で、六百万円をどこへやった?」

 娘の命がかかっているのだから、父親はちゃんと要求通り、一億円を準備しただろう。一番上だけ本物で、残りは新聞紙ということはない。なにしろ、大手金融会社フセイ金融の経営者だけあって、現金はある。小細工をする必要はない。
 俺が奪った後は、アジトのテーブルの上に積み上げるまで身代金には触れていない。
 ――となると。
 銀行のロゴマークが入った帯封で束ねられた百万円が百個だ。その中から六百万円分、つまり六個を、誰にも見られずに抜くことができる人物は一人しかいない。
 ――天宮舞だ。日本一悪い女子中学生だ。
 俺に渡す前に六個の札束を抜いて、制服のポケットに入れればいいだけのことだ。おそらく、それ以上入れると制服がパンパンに膨れ上がり、目立ってしまう。だから、六個までだったのだろう。
 ロコモコこと中谷と宿木は、なぜだか分からないが、天宮舞が俺の仲間だとは言ってないようだし、秋山みすずの存在も教えてないようだ。警察からすると、まんまと身代金を奪い取られた舞であり、さんざん張り込みの邪魔をされたみすずのはずだが。
 中谷と宿木は二人を庇って、俺にすべての罪を擦り付けるつもりかもしれない。
 だとしたら、とんでもない悪党じゃないか。
 俺が白状しなければ、天宮舞が疑われることはない。誘拐犯の指示に従って身代金の運搬をさせられたかわいそうな女子中学生のままである。
 しかし、天宮舞には分かっていたのだろう。俺が女子中学生を警察に売るようなマネはしないことを。――その通りだ。俺は悪党だが外道ではない。
 あの子はそんな俺の性質を見抜いて、六百万円分を抜き取ったのだ。
 だが、動機が分からない。何に使うというのか? 
 家族のことはよく知らないが、金に困っているようには見えなかった。
 六百万円を必要とする女子中学生なんかいるのか?

 ・不明金の残高:六百万円。

 天宮舞はいつもの通学路を歩いていた。やがて、北区小学校の生徒たちが募金活動を行っている場所が見えてきた。先日から行われている台風被害者支援のための募金である。 
 五人の男子生徒がそれぞれお手製の募金箱を抱えて、募金を訴えていた。
「募金のご協力をお願いしまーす」
 他の生徒たちも大きくかわいい声で、道行く人へ呼びかけている。
 舞は肩にかけた大きめのポシェットから五つの封筒を取り出すと、足を速めて、五人の募金箱の中に次々と投函していった。
 ――ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ。
 すべてを入れ終えると、足早にその場を立ち去った。五人の生徒は驚いた。ほとんどの募金は十円や百円の硬貨であり、たまに千円札を入れてくれる人がいるくらいで、お札が一枚入るだけで喚声をあげていたからだ。
 ――今の音はなんだ?
「これ、札束じゃない!?」一番手前にいて、最初に募金をしてもらった男の子が叫んだ。
 他の四人も口々に驚きの声を上げた。
「ボクの箱にも入れてくれたよ!」「ボクの箱にも!」「この音は絶対札束だよ!」「そうだよ、すごい音がしたもん!」
 横一列で並んでいた五人の生徒たちは興奮のあまり、大声で騒ぎ出した。
 それを見て、付き添いの先生がやって来た。
「どうした。何を騒いでるんだ?」
「先生! これを見てください!」一人の生徒が募金箱の投入口を見せる。
「なんだ?」先生が片目で覗き込んでみると、分厚い封筒に入ったお札が見えた。
「お姉さんがみんなの募金箱に入れてくれたんだよ!」
「お姉さんはどこにいるんだ?」
 先生と生徒は通りを見渡す。
 そのときすでに天宮舞の姿はなかった。

 ・不明金の残高:六百万円―五百万円=百万円。

「おいしいですか?」舞がみすずの母に訊く。
「ああ、おいしいよ。いつもの通りだね。舞ちゃんが作った料理はおいしいね」
 八十二歳になる母が答える。
「あたしの料理はマズいからな。自分でも喰えねえくらいにな」娘であるみすずがブツクサ言う。「料理本でも買ってくるかな」
「あんた、五十過ぎてんのに、料理の勉強を始めるのかね」母が茶化す。
「人間はいくつになっても勉強が必要なんだよ、なあ、舞ちゃん」心にもないことを言う。舞が母の口元にスプーンで煮物を運んであげる。
「これもおいしいねえ。ああ、食べるとき、楽でいいわ」母はベッドを見る。
 今まで、食事をするときは、寝たきりの母の体を起こし、背中に枕やクッションを置いた体勢で、食べさせていた。しかし、この電動リクライニングベッドなら背中の部分がせり上がり、とても楽に食事ができる。また、低反発マットレスのため体が気持ちよかった。
「みすず、こんな高そうなベッドをどうやって買ったんだい?」母は食べながら娘に訊く。
「もらったんだよ。世の中、悪い人ばかりじゃない。いい人もいるんだ」
「そうかい。よくお礼を言っといてよ」

 ・不明金の残高:百万円―二十五万円=七十五万円。

 警視庁特殊事件捜査係。
 午前中、差出人が不明の小さな小包が特殊事件捜査係に送られてきた。正確には差出人の住所も氏名も出鱈目だったのである。
「岩鏡警部。金属探知機およびレントゲン検査でも異常が見当たりませんでしたので、開封をいたしました」
 危険物の可能性もあったので、調べてもらっていたのだが、結果が出たので、打水刑事が知らせに来てくれた。
「中身は何だった?」
「サマージャンボ宝くじが二千五百枚入ってました」
「何だそれは。嫌がらせでハズレくじを送り付けてきたがったのか?」
「いいえ。それがまだ当選発表前でして、一週間後に発表があります」
「はあ? 盗聴器だとか、発信機だとかは入ってなかったのか?」
「はい。念入りに調べましたが、宝くじ以外、何も入ってませんでした」
「いったい、どういうことだ? まあ、しょうがない。落とし物として処理してもらって、送り主が現れなければ、われわれの物だ。それまで保管しておいてくれ」

 ・不明金の残高:七十五万円―七十五万円=0円。

 一週間後。打水刑事が部屋に飛び込んできた。
「岩鏡警部! 二千五百枚のジャンボ宝くじの番号をすべて調べ終えました」
「どうせ末等の三百円が二百五十枚当たっていただけだろう」
「いえ、それ以外に高額当選が一枚当たってました」
「何だと! いくらだ!?」 
岩鏡警部のデカい声が署内に響き渡った。                     
                         
                         (了)
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