いっこめ

詩 縁詩

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第一子

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「結婚は53歳ですね」

慣れた手つきでタロットカードを捲った占い師はそう言った。
いくら今結婚願望がないからといってもさすがに、その歳まで願望がないとは限らないはずだ。もしかして、いよいよ老後怖くなって結婚を決めるのだろうか。

53、という数字を聞いて考えを巡らせたが笑うしか出来なかった。笑っておく、は私の常套手段だ。占い師は「現状が続けば、の話ですからね」と穏やかな口調、そして涼やかに見つめていた。

現状。現状、私に恋人がいない、だから結婚はまだ先ということですね。それは当たり前のことか。何をショック受けているのか、思い上がりも大概にしろ、と納得してみた。

どうやって他人を好きになれるのか。性欲は欲であり、愛ではない、そこに情が備わっていない。世の中、自分の欲を愛だと勘違いしている人は大勢いると思う。傍迷惑な押し付けだ。こんなこと考えを持っていることを見抜いたのなら、とてもよく当たる占い師だと周りに勧めようじゃあないか。


53歳ならもう子供は難しい。自分は何も生み出すことができないのか、と思ったら虚しくて悔しくて、周りが羨ましくなった。だから、私も私から何かを生み出してみたくなった。我が子をお披露目する気持ちを味わおうではないか。
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