【完結】恋人から試し行動され続けるけど僕の愛は揺らがない。

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バカバカしい噂話



    お互いの本音を言い合い、恋人として強い絆を深められてから二週間が経った。
    騎士団の仕事の一つである王宮の敷地内見回りを終え、青く澄んだ空を赤とんぼの群れが飛んでいくのを見上げながら、騎士団の本拠地へと戻る。隣にはもちろん愛する恋人も一緒だった。

    今日の晩御飯はチキンの煮込みソテーにしようかなんて話しながら騎士団長の部屋に見回りを終えた報告に向かっていると、廊下をパタパタと忙しなく走る音が前から聞こえてきた。

「いたいた!ウォーレン!」
「どうしたんだい、ダン」
「すぐに騎士団長室に来いって団長がお呼びだ!」
「ちょうど今行くところだったよ。何か火急の出来事があったのか?」
「いや、俺はただウォーレンを探してこいと言われただけだから何も知らん。ごめんな」
「それはご苦労様。では先を急ぐよ」
「ちょっと待った!ウォーレンだけで来いって。だからロナは俺とここから帰るぞ」
「え…?でも僕も見回りの報告に行く義務が…」
「団長直々の命令なんだよ。ロナは団長室に来るなって」

    僕は来るな、とはどういうことだろうと内心首を傾げながら、向かっていた方向とは反対方向に身体を向けた。

「…?命令ならもちろん従うよ。それじゃあウォーレン、僕は先に寮に帰ってるね」
「あぁ、気を付けて真っ直ぐ帰るんだよ」
「心配なら俺が送ってこうか?」
「必要ない。ロナ、一人で帰れるね?」
「もちろん。それじゃ、ダンもありがとう。またね」

    ウォーレンに手をふったのになぜかダンに手を振り返されるのを横目に踵を返す。何かザワザワとした、さざ波のような嫌な予感を感じつつ、それを振り払うように足早に歩き出した。

    最近、カーティス様からのお誘いがめっきりないおかげなのか、ウォーレンの精神は安定していた。
    どうやら王太子派閥と第二王子派閥が本格的に不穏な動きをし始めたという情報を得たらしく、しばらく蘭の宮及びカーティス様の周辺は危険らしい。
    僕は騎士としても学友としても近くで命をお守りするのが役目だと思っているが、カーティス様の命令で僕は護衛にも蘭の宮周辺の警備にもつかせないよう言い渡されていると騎士団長から聞かされた。

    第一騎士団の中にも二つの派閥に近しい者がいる可能性もあるため、信頼たりえる少人数にしか知らされていない内密の話だ。
    一応表向きはこの前の不審者騒ぎがあったため蘭の宮周辺の警備を強化しているとされているが、実際はカーティス様の命が狙われた時のために極秘作戦が作られようとしている。
    ウォーレンはその一員に抜擢されているため、僕にもおおまかな情報は下りてくるが、ウォーレンと共にカーティス様をお守りする任務につきたかったのが本音だ。

    ウォーレンが騎士団長に至急一人で来いと呼び出されたのもカーティス様関連の話だと思うが、なぜか全然違うような予感もあって寮に着いてからも心は落ち着かなかった。

    晩御飯の支度をしてウォーレンの帰りを待っていると、いつもより一時間ほど遅く帰ってきた愛しい恋人。おかえりのハグをして軽くキスを交わす間、ウォーレンは至っていつも通りだった。
    しばらく注意深く観察していたが特におかしなところはなく、いつも通り優しくて甘くて愛を惜しみ無く伝えてくるウォーレン。僕の嫌な予感は杞憂だったかと、その時は安心していた。

***

    それからさらに一週間ほど経った頃、騎士団内で妙な噂が流れ始めた。僕は噂話に疎く、あまり大人数の会話に自分から入っていくことはしないため、噂の内容が恋人のことだと気付くのに遅れた。

「ウォーレンとアーバント家のセリーヌ嬢が婚約したらしい」

    最初それを耳にしたときは、誰かの何かの冗談かと思った。前までの僕なら不安になっていただろうが、今の僕はウォーレンに心から愛されていると自負しているため何を馬鹿なことを、とあまり気にとめていなかった。
    だからその噂話を耳にしてもウォーレンに聞くこともなく、普段と変わらないウォーレンの姿にやっぱり噂は噂のままだなと内心笑ったのだ。

    カーティス様絡みの件で呼び出されることが多くなったウォーレンと騎士団で共に仕事をしたり訓練をする時間が少なくなっても、この時の僕はまだ悠長にしていた。

    最近会えていないカーティス様はお元気だろうかと気にかけながら自分の仕事を終え、遅くなるというウォーレンより先に寮へと向かう。
    秋が終わり、外の冷たい空気は真近に迫った冬の到来を感じさせた。羽織ったコートの襟を持ち上げて首もとを温めながら歩いていると、背後から馬車の蹄と車輪の回る音が近付いてきた。
    その馬車は僕を追い越していくのかと思いきや、僕の横で止まる。見覚えのある紋章と馬車の形に、一目でアーバント家の馬車だと分かった。

「ご機嫌麗しゅう、ロナ様」

    馬車のカーテンを開けて顔を覗かせたのはやはりセリーヌ・アーバントご令嬢。

「…ロナ・バイアットがご挨拶申し上げます。アーバント様、申し訳ありませんが本日、ウォーレンはまだ職務中でして一緒ではないのです」
「それは存じ上げておりますわ。今日はあなたに用があるのよ」
「僕、ですか…?」
「ええ、あなたにお聞きしたいことがありまして。こんな場所ではなんですから、馬車にお乗り頂けるかしら?」

    そう言われて何が目的なのか分からず躊躇う。ご令嬢と共に馬車に乗ったことなどないし、どこに連れていかれるかも分からないまま、乗り込むわけにはいかない。

「そんなに怯えることないでしょう?外は寒いですし、我が家の客間で温かい紅茶を飲みながらお話しましょう。ウォーレン様の帰りは遅くなりますから」

    いつもの僕なら絶対に了承しなかった。しかし、なぜ彼女がウォーレンの帰りが遅くなることを知っているんだという気持ちが、僕の身体をつき動かす。

「かしこまりました。ではお邪魔させて頂きます」
「嬉しいですわ。さ、どうぞ」

    何の害もなさそうな優雅な微笑みを向けられているが、化粧を施されたパッチリとした瞳の奥は笑っているようには見えない。
    どこか敵視されているような居心地悪い気分のまま、僕は馬車に揺られながら早速自分の選択を後悔したのだった。

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