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彼女は多分、僕の書く小説にしか興味が無い
しおりを挟む「ねぇ、新しい小説まだ出来ないの?」
そう言いながら隣の席の小池さんは話しかけてくる。
僕が小説を書いていることを何の偏見もなく話しかけてきてくれる数少ない人だ。
まぁ、見た目はいわゆるギャルと呼ばれるやつだけど。
「ウチ、君の次の小説楽しみにしてるんだけど。そろそろ次の小説出してくれないとウチ死んじゃうよ」
そう彼女は僕の作品のファンでもある。
別に商業作家でも何でもない僕の数少ない内の1人のファン。
「君ってなんでそんなに次の作品を出すのが遅いの?なんかこだわりでもあるの?それともただの遅筆家?」
「うーん、こだわりというか何と言うか……やっぱり小説というのは時間をかけた方が良い作品が出来ると思っているから。別にそう思わない人もいると思うけど僕はそう思ってる。あと僕は別に遅筆家ってわけじゃないけどね」
「えっ!それだったらすぐに出してよ。ウチ、ホントに待ってるんだから~、読者を待たせるのってどうかと思うけど?」
「それは本当にごめん。だけどせっかく数少ないファンである小池さんに読んでもらうんだ。それだったらクオリティの高いものを提供したいじゃない?」
「へぇー、そう言うもんなんだ」
「そう言うもんだよ」
「ふーん、分かった。待つよ」
そう言って小池さんは手を頬に当てて僕のタイピング音を聞きながら待つ。
別に僕と小池さんはラノベとかでよくある甘い関係なんかじゃない。
ただの書き手とファンという関係だ。
僕もこれ以上進みたいとは思わない。
彼女もそれを望んでいないだろう。
だからこの心地よい関係が好きなんだ。
*********
それから十数分後。
僕は新作の短編を書き上げる。
「フゥ―、出来たー」
「えっ!出来た!ならさっそく読ませて!」
「はいはい、どうぞ」
「ありがとう!」
僕は小池さんにパソコンを渡す。
小池さんは目をキラキラしながら画面をスクロールさせ、僕の小説を読んでいく。
いつもこの時は恥ずかしい。
何てったって、目の前でファンに読んでもらうのだ。
ファンからしたらすごく嬉しいことかもしれないけど、やっぱり慣れない。
「うん!すごく面白い!」
「え、もう読み終わったの。結構な分量があったと思うけど」
「いやー、面白くてパパッと読み終わっちゃったよ。やっぱり君の作品は面白いね!」
「あ、ありがとう」
面と向かってこうやってお礼を言われるのもやっぱり慣れない。
「特にね、ここの描写がさ……」
それから小池さんは目をキラキラさせながら、僕の作品の分析を始める。
彼女は書き手にとって心の苦しくなることも言うけど、こんな感じで感想とかも真っすぐ言ってくれる。
こんなストレートな言い方だからこそ、僕は嫌にならないのだろう。
むしろ気持ちが良いし、素直に気持ちを受け取れる。
「……っていう感じで良いかなと思った」
「ホント小池さんの感想は参考になるよ」
「ううん、こっちこそ君の面白い話が読めたから良かったよ」
「そう言ってもらえて小説家冥利に尽きますな。ホント僕のファンでいてくれてありがとう」
「フフッ、そう言ってもらえてこっちこそ嬉しいよ。それじゃあ、次の作品楽しみにしてるからね、先生?」
そう微笑みながら彼女は教室を出ていく。
「君というファンのために僕はずっと小説を書き続けよう」
僕は彼女の後姿を見ながらいつも通りそんなことを思うのだった。
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