彼女は多分、僕の書く小説にしか興味が無い

御厨カイト

文字の大きさ
1 / 1

彼女は多分、僕の書く小説にしか興味が無い

しおりを挟む

「ねぇ、新しい小説まだ出来ないの?」

そう言いながら隣の席の小池さんは話しかけてくる。
僕が小説を書いていることを何の偏見もなく話しかけてきてくれる数少ない人だ。
まぁ、見た目はいわゆるギャルと呼ばれるやつだけど。

「ウチ、君の次の小説楽しみにしてるんだけど。そろそろ次の小説出してくれないとウチ死んじゃうよ」

そう彼女は僕の作品のファンでもある。
別に商業作家でも何でもない僕の数少ない内の1人のファン。

「君ってなんでそんなに次の作品を出すのが遅いの?なんかこだわりでもあるの?それともただの遅筆家?」

「うーん、こだわりというか何と言うか……やっぱり小説というのは時間をかけた方が良い作品が出来ると思っているから。別にそう思わない人もいると思うけど僕はそう思ってる。あと僕は別に遅筆家ってわけじゃないけどね」

「えっ!それだったらすぐに出してよ。ウチ、ホントに待ってるんだから~、読者を待たせるのってどうかと思うけど?」

「それは本当にごめん。だけどせっかく数少ないファンである小池さんに読んでもらうんだ。それだったらクオリティの高いものを提供したいじゃない?」

「へぇー、そう言うもんなんだ」

「そう言うもんだよ」

「ふーん、分かった。待つよ」

そう言って小池さんは手を頬に当てて僕のタイピング音を聞きながら待つ。


別に僕と小池さんはラノベとかでよくある甘い関係なんかじゃない。
ただの書き手とファンという関係だ。
僕もこれ以上進みたいとは思わない。
彼女もそれを望んでいないだろう。
だからこの心地よい関係が好きなんだ。


*********


それから十数分後。

僕は新作の短編を書き上げる。

「フゥ―、出来たー」

「えっ!出来た!ならさっそく読ませて!」

「はいはい、どうぞ」

「ありがとう!」

僕は小池さんにパソコンを渡す。
小池さんは目をキラキラしながら画面をスクロールさせ、僕の小説を読んでいく。

いつもこの時は恥ずかしい。
何てったって、目の前でファンに読んでもらうのだ。
ファンからしたらすごく嬉しいことかもしれないけど、やっぱり慣れない。

「うん!すごく面白い!」

「え、もう読み終わったの。結構な分量があったと思うけど」

「いやー、面白くてパパッと読み終わっちゃったよ。やっぱり君の作品は面白いね!」

「あ、ありがとう」

面と向かってこうやってお礼を言われるのもやっぱり慣れない。

「特にね、ここの描写がさ……」

それから小池さんは目をキラキラさせながら、僕の作品の分析を始める。


彼女は書き手にとって心の苦しくなることも言うけど、こんな感じで感想とかも真っすぐ言ってくれる。
こんなストレートな言い方だからこそ、僕は嫌にならないのだろう。
むしろ気持ちが良いし、素直に気持ちを受け取れる。

「……っていう感じで良いかなと思った」

「ホント小池さんの感想は参考になるよ」

「ううん、こっちこそ君の面白い話が読めたから良かったよ」

「そう言ってもらえて小説家冥利に尽きますな。ホント僕のファンでいてくれてありがとう」

「フフッ、そう言ってもらえてこっちこそ嬉しいよ。それじゃあ、次の作品楽しみにしてるからね、先生?」

そう微笑みながら彼女は教室を出ていく。


「君というファンのために僕はずっと小説を書き続けよう」

僕は彼女の後姿を見ながらいつも通りそんなことを思うのだった。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?

さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。 しかしあっさりと玉砕。 クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。 しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。 そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが…… 病み上がりなんで、こんなのです。 プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。

久野真一
青春
 羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。  そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。  彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―  「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。  幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、  ある意味ラブレターのような代物で―  彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。  全三話構成です。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

処理中です...