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通常運行な博士と助手の話

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「ただいま帰りました~、ふぅ、疲れた~」


僕と博士しかいない研究室では、今日は僕の少し疲れた声が響く。


「おぉ、お帰り!お疲れだよ~!」

「いやー、本当に疲れましたよ。まさか、あんな遠くまで買い出しに行かされるとは思ってもいませんでしたからね」

「それはすまないね。どうしても欲しいものが近くになかったのだよ」

「……じゃあ博士が行けばよかったじゃないですか……って、まぁ、いいですけど」


そう言いながら、僕は持っていた荷物を下ろす。


「あっ、そうだ助手君、お風呂にするかい?ご飯にするかい?」

「いきなりどうしたんですか?博士らしくないですね。」

「いや、少し読んでいた漫画に影響されてね。言ってみたかったんだ」

「あ、そうですか……」

「それで?どっちにするかい?」

「そうですね……それじゃあ、お腹が空いているのでご飯で」

「おぉ、それは奇遇だ、私もお腹が空いていたところだ。よし、それじゃあ、さっそく作ってくれ」

「……はっ?作ってないんですか?」

「そりゃそうだろう。私が料理できると思っているのかね!」

「いや、そんなことでドヤ顔されても困るんですが……という事はあのセリフは言いたかっただけなんですね……」

「あぁ、そうさ!あのセリフを言いたかっただけで別に実際にやるとは言っていないからな」


爽やかな笑顔でそう言い切る博士。
そうサッパリと言われる怒る気力も湧いてこない。

はぁ、まぁいつも通りだな。


「はぁー、分かりました。それじゃあ、今からご飯の用意をしますから、博士はお風呂にでも先に入ってきてください」

「いや、お風呂も沸かしていないぞ」

「……本当に言いたかった”だけ”なんだな……なんかそのまま待っていられるのも癪に障るので調理の手伝いをしてください」

「これ、断っちゃ――」

「ダメです」

「……分かったよ。手伝うよ。今日は何を作るつもりなんだい?」

「それは冷蔵庫の中身によります。でも、確か秋刀魚があったはずですから、塩焼きにでもしましょうかね」

「了解!」


そうして、僕はただセリフが言いたかっただけで何もしていないお馬鹿さんと、一緒に晩御飯の用意をしていくのだった。






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