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「ヒェッ…なんだあの剣幕…見た事もねえ美人だが。」

「あぁ?ありゃ漆黒姫くろひめじゃねえか。ホラ、あの髪だよ髪。」

「あぁ、あの…。つったってよぉ…あの先は教会じゃねえか?」

「だな…。どうしたんだろうな。」


うるさいな!俺だってすごい顔してる事は分かってるんだよ!


「「ヒェッ!」」


思わず振り返ってでも睨みつけた、その先で縮こまる男二人。
男二人が息をのみ黙ったのを確認しまたずんずんと先を急ぐ。ヒール履いてるから実際はコツコツヒール音がレンガで整備された道に響く訳だけれども。何故か両脇に皆が避けて立っているから歩きやすい。それを良いことにまた歩くスピードを上げる。

何故皆が避けているのか、そんな事はどうでもいい。今はそれよりも、あの神様バカに聞き出さなきゃいけない事があるんだ、俺には。

急いでたどり着いたその先に見えてくるのは大きな教会。創造神を崇め奉るそれはこの国の主要宗教だ。
バン!と音を立てて扉を開く…わけにはいかないので、扉前で深呼吸。久々に大股で歩いたお陰でちょっと足がじんじんしている。
軋む音を立てながらゆっくりと中へ開く大扉。
その奥には吹き抜けの大きな空間が広がっていた。


「こんにちは、本日はお祈りを?」

「ええ、できれば個人でお願いしたいのですが。」

「それはそれは、どうやらお悩みがあるご様子。個人部屋をお貸し致しましょう。こちらへどうぞ。」

「ありがとうございます、神官様。」


受付係のような役割の神官へ声を掛け、個人部屋へ。皆でやる祈りは所謂元の世界のような礼拝を想像してもらえば良い。けどそれだと何が起こるか分からないから、個人的な悩みや集団が嫌な人が使用する個人部屋へと案内して貰っているんだ。
何しろ1番大事な事を俺に説明していない奴だからな。転移…いや転生か…?面倒だから転生でいいや。そこからついこの前まであった信頼と感謝は吹き飛んでいる。
地獄の、アルファの居ない満たされることの無い地獄の発情期を終えて。おかげで体重5キロは減ってる。

手を胸の前で組み、祈る姿勢で。
考える事は一つのみ。
聞いてないんですけど神様!!!アホ!!

アホ、アホ、何してくれてるんだ!
罵る、とまではいかずとも徐々に怒りが増して増して力が入りすぎて手がぶるぶる震えて来た。
だが数分のうちに手から力が抜けてきて、フラフラし始め、すぅ…とフラフラした原因が意識が遠のいていた事だと気付いて目を開けた時。
そこにはばさぁ、と目の前いっぱいに広がる金髪。もといそれは土下座しているあの美形、神様バカだった。


「ごめんなさあーーーい!!!」

「ず、ずみまぜん。」


横にはあの赤髪がまた顔の原型を留めずにいた。


「お前も頭下げんかい!」

「げふっ。」


ごす、ともござぁ、とも取れないなんとも痛そうな音を立てて再び、今度は二人(二神?)揃って下げられる頭。また目の前いっぱいに舞う金髪。
だがまあそんな事は知らんしどうでもいい。


さあ、訳を、たっぷり、話してもらおう。


このオメガで、しかもその中でも希少種で訳ありの俺が、
一年に一回しか来ない貴重な発情期、その7日間を1人で、まさかの1人で耐え凌ぐ事になった理由を。

そして転移させられた世界でアルファが居ないその理由を!
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