角持ち奴隷少女の使用人。

四つ目

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19、看病。

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「不覚です」
「あっそ」

自室のベッドに転がりながら現状の不服を呟く女に、そっけなく男は返事をする。
視線は手元の本のままであり、まともに返事をする気は無いのが伺える。

「大体なんで貴方が私の部屋に居るんですか。セクハラですか。訴えますよ」
「お前なんぞ、もう見飽きたわ」
「良し解りました、後日出るところ出てやりますからね」
「良いから大人しく寝てろ」
「むう・・・」

女はあのテロ事件の帰宅後、少女が泣き止んだのを見届けたところで意識を失った。
次に目が覚めた時は、翌日の朝、自室のベッドの上だった。
女が男に文句を言う理由は、単純に照れ隠しだ。
不覚を見せ、かつ男に面倒見させているのが恥ずかしい。
勿論男は全てわかった上で返事をしている。

「お前、そういう所昔から変わらないよな」
「煩いですね、いいから出て行ってください」
「お前が寝たらな」

男も女も普段のような言い合いは出来ていなかった。
女は今、ベッドから起き上がる事が出来ない。
上体を起こす事すら、自力では出来ない状態になっている。
そのせいかどうかは解らないが、言葉にまるで覇気がない。普段の力強さをかけらも感じない。
男も普段のように真っ向からの言い合いをする気は起きなかった。

「・・・昔から変わらないのはお前もだろう」

女は男に対し、主人に対する喋り方を止める。
男はそこでやっと、女の目を向けた。

「そーでもねーよ」
「・・・怒ってるのか?」
「なんでだよ」

男は本を閉じ、ため息を付きながら女を見る。その目はとても優し気だ。
女は男を睨みながら唸るが、男はそれすら笑って流す。

「いいから寝てろ、姉貴」
「・・・ふん」

女は男の服の裾を掴み、脹れながらそっぽを向く。その行動すら辛いというのに。
男は女の行動にまたため息を付きながら、本を読むのを再開する。
暫くして、女が寝息を立て始めた。男はその後しばらく様子を見てから部屋を出て行く。

「・・・頼むから、撃たせないでくれよ、姉貴」

男の呟きに応えるものは、誰も居なかった。








「ん・・・」

女が目を覚ました時、隣には少女がいた。男と似たような体勢で、本を読んでいた。
少女は女が目を覚ました事に気が付くと、わたわたと本を閉じ、傍に置いてあった水の入ったグラスを差しだす。

「あ、ああ、ありがとう」

女は少女に礼を言ってグラスを受け取ろうとするが、腕は上がるもの、上体が起こせなかった。
少女はそれに気が付き、グラスを置いて女を抱き起す。

「すまない。ありがとう」

女は少女に礼を言い、その時の女の顔を見た少女は面食らった。
始めてみる、女の柔らかい笑顔。
鋭い目と険しい顔しか今まで見た事が無かった少女には驚きだった。

「どうした?」

少女は女の問いかけで呆けていたことに気が付き、フルフルと首を振ってグラスを差しだす。
女はそれを受け取ると、ゆっくりと口に含んだ。
その様子を、少女は心配そうに見つめる。

少女にとって女は怖い人物ではあるが、尊敬している人物でもあり、一番頼りになる人物でもある。
そんな人が弱っている様子は、少女にとってたまらなく心配だった。

「そんな顔をするな。大丈夫だ。しばらくすれば治る」

少女の心配そうな顔に気が付き、笑顔で少女の頭を撫でる女。
弱っているせいか、いつものような表情になる様子がない。
ただ、それが一層少女の心配を増やすことになるのだが。
少女の眉は完全に八の字になっている。

「・・・優しいな、お前は。本当に優しい」

少女の角を撫でながら女は呟く。自分にもある、その角を。

「お前は、私とは違うのかもしれないな」

女の呟きの意味が良く解らず、少女は目をぱちくりさせながら首を傾げる。
その意味が解る人間は、この屋敷には3人しかいない。
過去を知る者。女と男、そして庭師の老爺の三人だけ。

「何でもない。助かったよ」

女は少女から手を放してグラスを返す。
そのまままた寝転がろうと思うが、少女がそれを止める。
女がどうかしたのかと様子を見ていると、少女は水の入った桶とタオルを用意していた。
少女はタオルを水につけ、絞ると女の前で構える。

「・・・もしかして体を拭こうとか、そういう事か?」

女の言葉にコクコクと頷く少女。彼女にこういう事をしてあげたらいいよと言われ、当然のように実行する物だと思っていたため説明が成っていなかった。
女は苦笑しながら少女を見つめ、服をはだけようとする。

「く、上手く動かん」

腕が上がらず上手く服が脱げない女に気が付き、それも手伝う少女。
少女は女の服を脱がすと背中から拭いて行く。
せっせと拭くその様子に、思わず苦笑が漏れる女。
この少女は、本当に何事にも一生懸命だなと。








「ありがとう。すっきりした。もう少し寝るよ」

体を拭き終わり、衣服も着直して、女は横になる。
少女はコクコクと頷くと、女の手を握り、笑顔で横に座る。

「・・・別にほおっておいて良いんだぞ」

女の言葉にフルフルと首を振り、ここに居る意思を示す少女。

「・・そうか」

女は力の入らない手に力を籠め、少女の手を握り返す。
そのまま少女の手の温かさを感じながら眠りについた。





その後トイレに行きたいが、女がしっかりと手を握っていて、起こす事も出来ずにもじもじしながら我慢している少女が居た。
男が様子を見に来て、女を起こしたので何とか事なきを得たのだった。
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