角持ち奴隷少女の使用人。

四つ目

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104、困った二人。

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少年は久々に困っていた。
ここ最近は仕事も色々任されるようになり、この屋敷に居るのも楽しくなってきて、前程戻れるかどうかなども気にしなくなっている。
むしろこのままこの屋敷で就職も悪くない。そう思っていた。そんな少年が一体何を悩むのか。

「・・・あの、おはようございます」

少年が声をかけた人物は、その声で少年だと確認すると振り向いてペコリと頭を下げる。
だがそれ以上の反応は見せず、パタパタと走ってその場から去って行った。
その人物とは少女であり、最近少女は少年に対して前の様に接しなくなっている。

「また逃げられた・・・僕、何かしたかなぁ」

原因と言える事は間違いなく先日の事なのだが、少年は何が何だかわからず困っている。
そもそもつい先日までは何だか恨めしそうに見つめられ、今は目線を余り合わせもせずにどこかに逃げられる。
無自覚ながらも好意を持っている少女にそんな態度をとられ、少年はとても落ち込んでいた。

「ついこの間まで、柱の陰からじっと見つめられてたのに・・・逃げられるならあっちの方が良いよ」

あの時の少女の目が何か恨めしい物だというのは解っているが、それでも逃げられる今よりはそちらの方が心地が良かったらしい。
その独り言をもし誰かが聞いていればまた揶揄いの種になっていただろうが、幸いな事に珍しく誰にも聞かれていなかった。





そして少女はと言うと、逃げてしまった事に落ち込んでいた。
通路の隅で膝を抱え、自分の情けなさに悲しくなって丸まっている。
何時か女が壁に埋まっていた時に似ていて、偶々通りかかった男は声をかけるかかけまいか物凄く悩んでいた。

「え、えーと、どうした、何か有ったのか?」

悩んだ結果見て見ぬふりは出来なかった様で、結局男は声をかけた。
少女はびくっとしながら振り向き、少し悩む様子を見せてからフルフルと首を振る。

「そ、そうか、いや、何も無いなら良いんだが・・・本当に大丈夫か? 何か有ったんじゃないのか?」

少女の返事はどう見ても何も無いという様子ではなく、男は心配になりながら訊ねる。
だがそれでも少女はフルフルと首を振るので、それ以上何も言えなくなってしまう。
困った様子でポリポリと頭をかき、とりあえず少女の頭を撫でる事にした様だ。

苦し紛れな慰めだたが、効果は有ったようで少女はニヘラっと笑顔を見せる。
一応笑う余裕は有るんだなと言う事を確認して息を吐き、暫く撫でてから男はその場を離れた。

少女はそんな男の後ろ姿を見送り、一人になるとまた少し気分が落ち込んで来た様だ。
それでも先程の様に蹲る様子ではなく、ぽてぽてとどこかに向かい始める。
向かった先には少年の下であり、仕事をしている少年を隠れてじーっと見つめはじめた。

だがその視線は恨めしいという物ではなく、何だか恥ずかしいという気持ちが有る様だ。
少女は今迄少年の事を守らなければと思っていた。
端的に言ってしまえば可愛い後輩ぐらいのつもりでいた。

だが実際は少年の方が仕事としては少女より有能であり、一人前として扱われている。
少女はその事を知って以降、そんな自分が恥ずかしくて少年にどう接すれば良いのか解らなくなっていたのだ。

「あ、どうされたんで―――」

少女の存在に気が付いた少年は声をかけようとしたが、気が付かれたと思った少女はビクッと跳ね上がり、パタパタと慌てて逃げ出した。
振り向き様に少し上げた手がとても物悲しい。
声をかけた瞬間無意識に笑顔になっていたのに、瞬く間に悲しげな顔になっていく少年。

「・・・なんか、僕、泣きそうになって来た」

少女は少女で自分の感情を上手く制御出来ておらず困っており、少女の反応に困って泣きそうになっている少年。
そんな二人の様子に気が付いている使用人達は、微笑ましく見守りながら適度に少年を慰めるのだった。
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