角持ち奴隷少女の使用人。

四つ目

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130、異常事態。

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ある日の朝、少女は早朝に庭に出て、大きな動作で深呼吸をしていた。
冷たい空気を肺に入れ、はふーっと吐き出して運動を始める。

まだまだ朝の空気は冷たく感じるが、段々暖かくなってきたような気がする少女は、今年はどんな野菜を植えようかとワクワクしながら体を動かす。
冬でも植えられる物は有るし、ハウスも有るので夏野菜も作れない事はない。
けどやはり自然な環境で作られた季節の野菜は、少女にとってはまた違うのだろう。

後は単純に規模の違いも有りはする。
ハウスはそこまで数が多くないので、複数種類を大量に作るなら春から秋にかけてが良い。
それに今年は今迄の失敗を糧にして、時期をずらしながら作る予定だ。

特に去年は畑を広げ過ぎて、供給過多になっていた。
複眼が必死になりながら消費していたので、少女は少し負い目を感じていたのだ。
屋敷に住む人間がそれなりに多く、皆そこそこ量を食べる事で何とかなってはいた。
それでも一時期一気に収穫し、複眼が大変な様子だった事を理解している。

今年もまた老爺と相談しながら頑張るぞと、ふんすと気合を入れる少女であった。
そんな少女の背後に落ちる影。
はて誰だろうと思い少女が振り向くと、そこにはとてもにこやかな笑顔で立つ友人の姿が。

「やあお嬢さん、朝から元気だね」

背後に音もなく現れた友人をぽけっとした顔で見つめ、数秒固まる少女。
どうやら予想外過ぎて思考が止まってしまったらしい。
だが暫くして目の前の居る人物を脳が理解し、ピャッと変な悲鳴を上げながら後ずさり、焦ったせいで自分で自分の足を絡め、そのままゴロゴロと転がっていく少女。

「あらら、大丈夫かい?」

友人はクスクスと笑いながら、ワタワタと起き上がる少女に手を差し伸べる。
だが少女はその手にまた驚き、折角起き上がったのにまたコロンと倒れた。
さながら小動物がごとき動きに友人はクスクスと笑うが、その背後に迫る者が居た。

「貴様、一体、何を、している」

ゆらりと幽鬼の様に友人の背後に現れ、殺気を感じる目で友人を見つめる見る女。
その心情を表すかのように単語単語で区切りながら、どすの効いた声が庭に響く。
友人に女の顏は見えていないが、振り向かずともどんな顔をしているのかはっきり解っていた。

「やあ、今日も君はいつも通り美しぐべっ!」

だがそんな事はいつも通りと言わんばかりに笑顔で振り向くと、女のボディーブローによって最後まで言葉を発せずに沈む友人。
意識を断ち切るような攻撃ではなく、痛みが強く残る攻撃に友人は悶え苦しんでいる。

「毎回毎回予告も無く早朝に現れるだけならまだしも、我が家の可愛い使用人の一人にちょっかいをかけるなど、法が許そうとも私が許しませんよ」

堂々と凄まじい事を言う女である。
だが実際少女に何かが有れば、法なぞ無視してやらかしそうではあるが。
当の少女はというとその間にワタワタしながらも起き上がり、友人を大きく迂回して女の背後にひしっとしがみつく。

どうやら少女はまだ友人が苦手な様である。原因は完全に女のせいだが友人も多少は悪い。
なにせ少女が苦手であろう事が解っていてずいっと近づいて行くし、先程の様な事もやる。
何より何度殴られようが女が怒る事をするので、少女はどうにも苦手であった。


ただその本質は、無意識な嫉妬と独占欲。
少女は無意識のうちに、友人が女にとって特別な一人だと感じ取っていた。

女は普段叱る事は有っても怒る事は少ない。
たとえ怒っても、ここ迄感情露わにするのは基本的には男相手の時だけだ。
それに少なくとも友人が来ると、女の調子が何処か何時もと違うのは確かな事。

大好きな人を取られるかもしれない、という可愛い嫉妬。
少女がいつまでも友人になれないのは、本人も理解していないそんな感情のせいだ。
とはいえ本人は良く解っていないので、やっぱり何でか苦手な感じという状態だが。

「ぐふっ・・・グッ・・・今日は、中々、強烈だね・・・」
「喋る余裕がありましたら。もう少し強めでも良かったかもしれませんね」
「ふ、ふふ、君の不器用な愛情は嫌いじゃないが、もう少しかげぶふっ!」
「煩い。気持ち悪い。そのまま庭の肥やしになってしまえ」

女は無表情でまだ倒れ伏している友人の腹を踏みつけ、更にぐりぐりと体重を乗せる。
少女は流石にやり過ぎではとオロオロしているが、女は気が付いていない。

「く、黒も良いね。君の静かな雰囲気によくにあがはっ!」
「――――死ね、死んでしまえ変態。本当に死んでしまえ」

友人の発言に一瞬動きを止めた女だったが、意味を理解して女は先程より強めに蹴りを入れる。
今のは一瞬見えた女の下着に対するコメントであり、どう考えても余計な一言である。
だがそれでも言葉を発するのが友人で、そんな友人を殴る蹴るする女。

少女はそこで少し、何だかもやっとした気分になっていた。
どう見ても友人は酷い目にあっていて、女は友人に対して怒っている。
そのはずなのに、何故かどちらも楽しそうにしている様に、本当に何故かそう見えてしまった。

「全く、今日は何の用ですか」
「今日げふっ! ・・・き、聞くなら最後の一撃は危なかったかな。舌を噛む所だった」
「そのままかみ切れば良いのに」
「流石の私でも、それは死ぬからね?」

女がどれだけ辛辣な言葉を発そうが笑顔を崩さない友人。
その事にもモヤモヤが増えていくような気分になりながら、少女は女にしがみつく。
しがみつく力が強くなったのを感じた女が少女の頭を優しく撫でると、少女はそれだけで先程のもやもやが消えて行くようだった。単純である。

「経過報告。ちょっと変化が有ったのと・・・判断に困る事が有ってね」
「・・・解りました。旦那様の部屋に行きましょう」

友人の言葉を聞いた女は雰囲気が変わり、真剣な目を友人に向けた。
だが一つ深呼吸をすると少女に向き直り、また優しく撫でながら口を開く。

「すまんな、今日はもしかしたら余り構ってやれんかもしれん」

そう言って優しく少女を離し、友人と共に男の下へ向かう女。
そんな二人の様子に、少女は首を傾げつつも畑に向かうのだった。
胸の内に有る嫌な心配ともやもやを誤魔化す様に。








「街からは居なくなった、か」

男は友人が持って来た資料を見ながら呟く。
その情報は喜ばしい事なのに、男の表情は暗い。
その理由は単純明快に、もっと面倒な事が起きているからだ。

「ただし、ここの様な田舎町に、複数個所で発見されている。しかも移動手段が解らない。余りに短期間で、短時間で、かなりの距離の有る場所で目撃されている」

男がその資料に目を通していると、友人が問題点を口にした。
少女を捜しているという蝙蝠男。その男の移動速度が異常なのだと。
明らかに公的機関は使っていないし、車だとしても早過ぎる。

「まさか、とは、思うが・・・」
「私もそれは考えたよ。可能性は有るだろうな」

男の嫌な予想だと思いながらの呟きに、友人は同意の言葉を告げる。
そして二人は視線を女に向け、女は蝙蝠男の写真を睨み付けていた。

「もし、そうだとするならば、何が目的だろうと、相手は私がする」

女は蝙蝠男が危険だと、明らかに異常な存在だと感じていた。
である以上そんな存在が少女に近づく事は認められない。
たとえ暴走しかねない可能性が有るとしても、それでも蝙蝠男を全力で排除すると決めた様だ。

「・・・この男、裏の人間達には容赦がないが、一般人には基本手を出していない。警察からも逃げる事は有っても、攻撃して逃げるという事はしていない。まだ荒事になるとは限らないよ」
「ここ迄執拗にあの娘を捜している。それだけで警戒するには十分だ」
「・・・それはそうなんだけどね」

気を遣ったつもりの友人の言葉は女に届かない。
親の仇でも見るかのような眼で写真を見つめ、その顔を脳内に焼き付けている。
見かけたら、その場で排除する気でいる。男と友人はそれを感じ取っていた。

「あの子を思うなら、下手な事はすんなよ。そのせいで逆に見つかるかもしれねえんだし」
「そうそう、もしこの近くで見かけたら即座にあの子を屋敷に隠せば良いだけだしさ」
「・・・そう、ですね。申し訳ありません、少し気が高ぶり過ぎていました」

二人の言葉に素直に頷き、女は少し落ち着いた様子を見せる。
その事にほっとする男と友人だったが、それでも三人とも同じ認識で今回の事を考えていた。
それはこの蝙蝠男が女や少女と同じで、常識の通じない相手の可能性が有る、と。

勿論実際はどうかは解らない。だが、それでも異常性は感じ取れている。
執拗に少女を捜し、警察組織に追われても諦めず、裏組織を潰してでも情報を得ようとする。
手段を選んでいるのか選んでいないのか解らないちぐはぐさも余計に不安をかりたてていた。
一番怖いのはこの訳の分からない移動速度。確実に異常な存在だ。

「もう暫くは、様子見・・・外出禁止かな」
「そうですね、その方が良いでしょう」
「私もこの男の動向は追うつもりだから、変化が有ればすぐに連絡するよ」

三人はその後もそれぞれ案を出し合うが、とにかく現状維持という方針しか出せなかった。
下手に動く方が不味いという判断を下した以上はそれぐらいしか出来る事はない。
その場はそれで解散となり、友人も緊急で来たらしく帰って行った。

「もうすぐ暖かくなるな・・・後で謝っておくか」

男は前に単眼と話した事を思い出しながら、申し訳なさそうに呟いていた。






因みに友人は帰る際にボコボコにされて帰って行った。
見送ってくれた女の腰を抱き寄せようとした際、少し位置が悪く尻を触っていた。
最早故意なのではと思うレベルの友人だが、本人的には本当に無意識らしい。
それを見かけた少年は何故この人はいつも同じ事をするのかと、真剣に悩んでいる様子だ。

「だって隣に素敵な女性が居るんだから仕方がないじゃないか」

等とどう聞いても痴漢の言い訳の様な事をのたまう友人に、この人物に仕えようとしていた少年は少し悲しくなっている。
もう少しやり様が有るのではないかと思う少年だが、何時までたっても少女に慣れない事を棚に上げている、という事に気が付いていない。
とはいえ最近は前よりましになって来た気配は有るが、相変わらず恋愛のれの字の気配も無い少年と少女であった。
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