角持ち奴隷少女の使用人。

四つ目

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144、引っかかるもの。

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ある日の昼下がり、少女が庭で何時も通り珍妙な動きで運動をしていた。
ただ今日は女が傍に居るので所々修正させているのだが、それでも直る様子は無い。
とはいえ明らかにおかしな動きであろうと、そこまで必死に教えないのも直らない理由だろう。
射殺す様な形相で少女を見つめ、内心は凄まじくご機嫌な女であった。

なのでやはり何時も通り何処かおかしな動きのまま、女が傍に居る事で女以上にご機嫌に運動を続ける少女。
猫も楽し気な少女につられているのか、ぶな~と鳴きながら周囲をチマチマ動いている様だ。

ただ女の事が怖いので、女の側には行かない様に気を付けている。
それに余り近づくとバランス感覚の無い少女が倒れて来るので、犬が咥えて適度に離していた。
猫にはそれも楽しいのか離される度に少女の下へぶなぶなと鳴きながら近づいていき、近づく度に犬が咥えて離しと、犬が一匹だけ忙し気な様子だ。世話焼きな犬である。

ただ今日は、何時もと大きく違う出来事が有った。

「あの、先輩、私にも教えて貰えませんか」

単眼が庭にやって来て、女にそんなお願いをしたのだ。
穏やかな単眼の性格を考えると首を傾げる内容だが、少女は仲間が出来ると表情を輝かせる。
単眼が望む理由など特に気にしておらず、一緒に運動という点にしか思考が行っていない様だ。

だが女は単眼の目を見て、すぐにその理由に考えが至った様子を見せる。
そして少し溜め息を吐いてからゆっくりと口を開いた。

「駄目だ」

女が口にしたのは冷たい声音での拒否だった。
少女は女の声音が必要以上に冷たい様子だった事で首を傾げている。
だって少女には女から教え始めたのだ。だから何故単眼には教えてあげないのかが解らない。
ただ少女は二人の様子を心配しながらも、きっと女には何か考えが有るのだと思い口を挟まずに成り行きを見つめる。

そんな動きの止まった少女の足元に猫がすり寄り、緊張感のある空間にぶな~という間の抜けた鳴き声が響く。
少女は空気を読んで猫を抱えてしーっと口元に指を立てたが、猫は首を傾げながらぶな~?と鳴くだけである。犬が賢すぎて忘れそうになるが普通はそんな物だ。
ただ猫は抱き上げられた事でご機嫌になり、小さな鳴き声でぶなぶなと鳴きがなら少女の腕の中に納まった。

「何でですか?」
「理由を言わなければ解らないか?」
「解りません」

女は単眼の頼みを冷たく断ったが、単眼は引き下がらずにその理由を問う。
とはいえ単眼も断られる理由は何となく解っている。解っていて尚食い下がっているのだ。

「お前がやりたい理由は、先日の出来事が理由だろう」
「そうです」

単眼は蝙蝠男が襲撃して来た時に何も出来なかった。
勿論男や女からすればそんな事は無いし、他の者達もそんな風には思っていない。

けど単眼は、単眼自身はそんな風に感じていた。
自分一人だけ、本当に何も出来なかったと。役に立たなかったと。
表面上は普段と変わらず穏やかであったが、単眼はずっとそんな風に負い目を感じていた。
出来事の内容を考えればそんな風に考える必要など無いレベルの事件だったのだが、単眼にはどうしても心に引っかかってしまっていたらしい。

「あれは災害みたいな物だ。こんな事を覚えた所でどうにもならない」
「それでも多少は――――」

単眼は、その言葉の続きを口に出来なかった。
今さっき目の前に居たはずの女が、単眼の背後に回り腰に手を添えていたせいで。
女の額には角が出ており、あの時と同じ化け物の力でやってのけたのだという事が解る。
単眼には一切目で追えなかったし、反応なんて出来る筈もなかった。

「こんな物に、人間が多少鍛えた所でどうにかなると思うか?」
「で、でも、私は種族的には」
「同じ事だ。お前は人間で化け物じゃない。どれだけ鍛えようと相手になどならん」

単眼は馬鹿ではない。それは言われずとも理解出来ている。
あんな動き、こんな動き、人間に出来る筈が無いと。
それでも単眼は悔しかったのだ。自分一人だけ役に立てなかった事が。
むしろ自分一人だけが、足手纏いな事になったのが。

「それでもお前はあの子を守ってくれた。私を守ってくれた。それで十分だ。お前は化け物側に来る必要も、化け物と対峙する必要も無い。優しくて強いお前のままで良い」
「――――っ」

静かだが優しさの含まれた声音で語られた内容に、単眼は思わず涙が零れる。
そんな風に思われているなど単眼は考えていなかった。
だって自分は何も出来ずに倒れ、足だって少女に治して貰ったのだからと。

「お前はあの時自分の身が危ないと解っていて、それでも立ち塞がってくれた。普通はそんな事は出来ん。その時点でお前は強いし、とても心優しい。私はそんなお前のままで居て欲しい」
「う・・・うう・・・ふぎゅ~~~」

女は自分でも意識していないのだろうが、とても優しい笑みで単眼に語っていた。
それが尚の事本心からの言葉なのだと、不器用なこの人がこんな嘘が付けるはずが無いと解り、単眼は変な声を上げながら泣いて女に抱きつく。
女は少し驚いたものの、角を消しながら単眼の頭をポンポンと優しく叩いて迎える。
少女はどうやら解決したような様子にほっとしつつ、でも単眼が一緒に運動してくれないのは残念だな等と考えているのであった。








「あの時一番役に立ってないの、どう考えても僕ですよね」
「いや、あんなのしょうがないって。あの子が気にし過ぎなだけだから。大体あたしも殆ど気絶してただけだし、旦那様が居なかったらどうにもなって無いって」
「そうです、よね?」
「そうそう、あの子は根が真面目で優し過ぎるから気にし過ぎなだけ。先輩だってさっき言ってたじゃない。あんなの災害だって。あれが来たのが屋敷じゃなかったらあたしは即逃げてるよ」
「ですよね・・・ありがとうございます」

その単眼の様子を見ていた少年は余り気にしていなかった事に少し負い目を感じ始めていたが、傍に彼女が居た事で特に後に引きずらないですんだ様だ。
少年も真面目な部類なので、拗らせた人間が増えなかった事に安堵する彼女であった。
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