角持ち奴隷少女の使用人。

四つ目

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152、持ち上げて降ろす。

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少女は以前から、少しだけ不思議だと思っているスポーツが有った。
番組などでそのスポーツが有ると、なぜ皆そこまで必死になっているのか良く解らない様子だ。
少女が不思議に思うそのスポーツ。それは重量挙げである。

この世界の重量挙げは人種別と全人種混合の両方が存在している。
単眼の様な巨躯を持つ種族が有利なので、基本的に混合では大きな種族が勝ち続けている。
ただ稀に小さいけれど怪力な人間なども出て来るので混合は無くならない様だ。

そんな大小様々でムキムキな男女達が必死の様子でバーベルを上げている。
少女はその様子を見て、重い物を持ち上げるだけなら簡単な気がすると感じているらしい。

確かに他のスポーツよりも必要とされる技術が比較的少なめなスポーツではある。
端的に言えば鍛えた肉体で重い物をもち上げる。突き詰めればそれだけの競技。
とはいえ持ち上げる為の技術、という物が有るので一概に簡単とは言えないのだが。

ただ少女にはどうしてもその競技が「持ち上げて降ろすだけ」に見えてしまう。
なにせ少女はその気になれば、大型車を持ち上げられてしまうのだから。
それは角の存在故なのだが、本人的にはそれが普通の事になっている。

なので、競技に使われる程度の重量を持ち上げて降ろす。
ただそれだけの競技の何が楽しいのだろうかと不思議な様だ。
やる方は勿論、見る方も何が楽しいのか解らない。

少女は早く走る事が出来るが、走るのは楽しいから走る競技は理解出来る。
何かを投げたり追いかけたりも楽しいので、そういう事が楽しいのも何となく解る。
けどただ持ち上げて降ろすだけの作業の何が面白いのか。少女にはさっぱり解らなかった。

「どうしたの、変な声出して」

少女は競技を見ながら真剣に考えていたら、みうーという変な呻き声を出していた。
それに気が付いた複眼が少女の視線を辿り、モニターに映る競技に気が付く。

「あー、重量挙げか。あれの楽しさは私には解らないな」

複眼の口から出た何気ない呟きに、少女はぎゅるんと顔を向けてコクコクと勢いよく頷く。
少女の勢いに一瞬びくっとした複眼だが、その行動で何となく唸っていた理由を察した。

「んー・・・多分ちみっこ的には、持ち上げて降ろすだけの何が楽しいの、って感じ?」

複眼の認識のすり合わせの為の確認にも、少女はコクコクと頷く。
解って貰えた事が嬉しいのか、鼻息がフンフンと少々荒いのが微笑ましい。
その様子にクスッと笑いながら複眼はモニターに視線を向ける。

「あの手の競技は・・・人間の限界に挑む競技になるのかな。勿論競うべき他人は居るけど、一番競うべき相手は自分。どこまで行けるのか。何処までやれるのか。そういう競技。私はそういうストイックなのは特に楽しくは無いから、理解出来ないなーって意味なんだけどね」

複眼の説明を聞き、少女はキョトンとした顔をする。
どうやら競い合うは自分、という部分の意味が良く解らなかったらしい。
少女の理解出来てないポやっとした顔を見てまたクスッと笑うと、複眼は説明を変えようと考え始めた。

「んー、そうだな・・・ちみっこは自分が出来ない事が出来る人は凄いなって思う?」

少女は複眼の問いの意味が良く解っていないが、その言葉には取り敢えずコクリと頷く。
実際少女は出来ない事が沢山在り、色々出来る皆を凄いと思っているから。

「ちみっこには簡単にかもしれないけど、あの人達は努力して重い物を持ち上げる為の体を作り上げている。それは出来ない人にとっては凄い事だし、競い合うに十分な競技なんだよ」

複眼の言う事は何となく少女も解って来た。解って来たのだけど少し納得いかない。
それでもあれの何処が楽しいのかがどうしても解らない。
もにゅっとした表情の少女に向けて、複眼は説明を続ける。

「ちみっこは新しい料理覚えた時楽しくなかった?でもそれは私にとっては簡単な料理も多い。それと同じ事だよ。鍛えてこれだけ持ち上げられる様になったから楽しい。けど元から持ち上げられるちみっこには普通の事。競い合う意味も解らない」

少女は複眼の説明を聞きながら、ほへーと声が漏れていた。
確かに少女にとっては凄い事でも、皆にとっては当たり前の事が有る事は良く有る。
例に挙げた料理の腕は複眼の足元にも及ばないのは当然で、更に他の使用人達の方が上手だ。

「あれはね、努力をして理想の自分になろうとし続けた成果を見せる競技。それならちみっこも解るんじゃない? 新しい事が出来た時に褒められたら嬉しいでしょ?」

少女はその説明にほふっと声を漏らしながら、勢い良くコクコクと頷いていた。
成程、これだけ出来るよって見せる競技なんだ、と思うととても納得出来たらしい。
そう思うと何だか選手達に親近感が湧き、ムキムキな皆が可愛く見えて来る少女。
にまーっとしながら頑張れーと選手に応援迄し始めた。

「ふふっ、ちみっこがもし身体能力系の競技に出たら、総なめだろうなぁ」

どこかズレた感性で選手達を応援する少女を微笑ましく思いながら、多分無いだろう可能性を口にして一緒に応援する複眼であった。
因みに身体能力系と限定したのは少女が基本不器用だからだ。さもありなん。
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