角持ち奴隷少女の使用人。

四つ目

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154、虎少年。

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今更説明するまでもないとは思うが、少女の住む地は田舎町だ。
車が無いと生活が不便でな街であり、一応駅は有りはするが本数は少ない上に良く遅れる。

なのでこの街に住む人間以外が電車から降りて来る事はとても少ない。
むしろ町の者達も余り使わないので、そもそも乗る人も降りる人も少ない駅だ。
そんな降りて来る事の少ないはずの駅に、一人の少年が下りて来た。

「ここ、だよね・・・凄いな、山だらけだ」

体に有るのは虎の様な模様だが、ぱっと見は虎柄の猫の様に見える獣人の少年。
一応は虎なのだが、幼さ故か可愛らしく見えるせいだ。
ただ手足や尻尾が少し大きめで、まだまだ大きくなるのであろう事が伺える。
虎少年は山と畑しかない町が逆に珍しいらしく、興味深そうにキョロキョロしていた。

「改札は、どこ、なんだろ・・・自動改札じゃない所なんて始めて来た」

虎少年は今までそれなりに都会に住んでいたらしく、要領が解らずに少し困っていた。
普段ならば当たり前の物がない事に、悪い事などしていないのに不安になっている様だ。
切符を出して無賃乗車では無いですアピールをしつつ、駅員が居そうな建物に向かう。

「おや、少年・・・で良いんだよね。珍しいね、こんな田舎町に。お爺ちゃんかお婆ちゃんでも居るの? でもこの街に虎の人なんか居たかなぁ・・・お婆ちゃん、知ってる?」
「うーん、居なかったと思うけどねぇ・・・でも遠い親戚とかだったら解らないわねぇ」
「養子の子って可能性も有ると思うわよ?」
「でもそれだと私達も少しぐらい聞いてると思うけどねぇ。こんな田舎町なのだし」
「それもそおねぇ」

駅員は近づいて来る虎少年に気が付き、待合小屋から出て声をかけた。
虎少年は制服姿にほっとして近づいて行ったのだが、後ろから老婆達がぞろぞろと一緒に出て来た事に少し驚き足が止まる。
駅員達は虎少年の事など気にせずに世間話を続けるので余計に困惑している様だ。

「ああ、ごめんね少年、切符は貰うねー?」
「ひゃ、ひゃい」

駅員は虎少年が切符を片手に困っている事に気が付き、優しく手を添えながら切符を受け取る。
虎少年は普段無い事に変な声で返事をしてしまい、駅員と老婆達からとても微笑ましい物を見る様にクスクスと笑われてしまった。

「し、失礼します!」
「あっ・・・うーん、可愛くて思わず笑っちゃったけど、失敗だったな」

恥ずかしくなった虎少年は逃げる様にその場を去り、その後ろ姿を見ながら駅員は申し訳ない気持ちで呟く。
だが傍に居る老婆達に「貴方が美人だから恥ずかしがってるだけよ」と言われ、お世辞だと理解しつつも笑顔で返して待合室に戻って行った。
実際女性慣れしてなくて焦ったので、その言葉は間違いではないのだが。






「ここの何処かに、居るのか・・・もう日数があんまりないけど・・・頑張らないと」

虎少年は手の中の端末を見ながら、真剣な表情で呟く。
端末に映るは少女の写真。それも『仕事をする使用人姿の少女』の写真。
持っている事がおかしいはずの写真を手に、虎少年は顔を上げて歩みを進める。

「助けに行くから、今度は僕が助けるから・・・待ってて・・・!」

猫の様な可愛げのあった虎少年の眼が、肉食獣じみた目に変わる。
胸の内にずっと燻っていた悔しさを抱えながら、確かな決意を持って虎少年は向かう。
目的の地はこの田舎町に有るという、他の家より大きめのお屋敷。

何故それを虎少年が知るのか。何故少女の写真を持っているのか。
それはきっと、二人が出会った時に解る事だろう。
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