角持ち奴隷少女の使用人。

四つ目

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158、角が出来た時期。

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暑くもなく寒くもない心地いい陽気が最近は続いている。
もう少しすれば暑い日々が来るだろうが、まだ今は何とも心地良い時期。
となれば少女が睡魔に負けるのは何時もの事。
ただ何時もと違うのは、少女が枕にしている物だろうか。

ポカポカと暖かな日差しの差す庭で胡坐をかいて座る虎少年。
その足の上に寄りかかる様にして少女は寝ており、ついでに猫も一緒になって寝ている。
虎少年は優しい笑みで少女と猫を撫で、ふと後ろから聞こえて来た足音に顔を上げる。

「此方に居まし―――」

やって来たのは少年で、どうやら虎少年を捜していた様だ。
だが虎少年が指を口に当てているのを見て、その膝に居る少女が寝ている事に気が付く。
少年は胸の奥にモヤッとした物が生まれるが、少し目を逸らして自分を誤魔化す。
ただなぜ目を逸らして誤魔化したのかは相変わらず自覚が無い。

「僕をお探しだった様ですね」
「ええ」

虎少年は少女を起こさない様に小さな声で少年に訊ね、同じく小さく返す少年。

「ここで良い話でしたら、聞きますよ」
「・・・じゃあ、お隣失礼します」

少年は二人の隣に座り、その視線は気持ち良く眠る少女に向かう。
無邪気な少女だからなのか、少女に善意を向けるからなのか、虎少年を警戒する気配は無い。
それを確認したせいで、先程誤魔化したはずの嫌な気分がまた鎌首をもたげる。

「貴方は、その子をどうするつもりですか?」

ずっと気になっていたけれど、だけど聞けなかった事を訊ねる少年。
少女は奴隷だ。そう扱われてないとはいえ、奴隷という身分なのは間違いない。
つまりは金銭で取引される可能性のある立場だ。
男が頷く程の金額をもし用意出来るなら・・・少年はそんな事を考えていた。

「・・・正直、解らないんですよね。この子が幸せに暮らしているならそれで良いという自分と、自分で恩を返したい、自分が彼女を笑顔にしてあげたいと思う自分が居るんです」

虎少年が屋敷に長く居る理由は、少女が幸せかどうかを確かめる為だ。
だがそんな物、初日で解ってしまった。解らないはずがなかった。
少女はとても可愛がられており、本人も見ている方が笑顔になる笑顔を良くしている。
あれを見て、この屋敷で過ごす毎日が辛い等と思えるはずがない。

けど、それでも、虎少年はまだここに居る。
少女の傍に自分が居たいという想いが未だ屋敷に留めている。
それは自分が助けてあげたかったという未練と後悔。
そして何よりも、少年とは少し質の違う少女への好意。
自分を助けてくれた憧れへ向ける、ヒーローに向ける様な感情。

「その子は、屋敷に必要な人です」

そんな虎少年に、少年は真っ直ぐな目でそう語った。
短い言葉だったが、とても雄弁な理由。

「・・・うん、そうだと思います。本当に、彼女は望まれてここに居る。望んでここに居る」

少年の言葉に頷き、少女の頭を優しく撫でながら答える虎少年。
その目はとても優しく、けど何処か残念そうな目をしている。
出来れば自分も、その一員に居られれば良かったのに、と。

二人の会話はそれ以上は無かった。
少年は言いたい事を伝えたし、虎少年も反論する事なんて無い。
後はお互いに、只々自分の感情に整理をつけるだけだ。
ただその整理が一番難しく、本人達も自分で理解しきれていない事なのだが。






「なーんか、懐かしいな」

その光景を窓から眺め、苦笑いをしながら口にする男。
男二人に女一人。弟と姉と友人という間柄ではあったが、昔を思い出す光景だと。
ただ男達の関係はあんなに微笑ましい物ではなかったし、男と友人は女に良く殴られていたが。

「ま、俺達の傍に居たのはあんな可愛気の有る女の子じゃなかったが」
「私も旦那様は凄く気持ち悪かったと記憶しています」
「俺もゴリラみたいな女が居たのはよく記憶してるよ」
「まあ、どうやら旦那様は少しばかり脳が不自由に・・・そろそろ痴呆が始まったようですね」

男の言葉に反応して貶しだす女と、笑顔で嫌味を返す男。
二人共口元は嗤っているが目が笑っておらず、暫く無言の時間が続く。

「「あ゛?」」

タイミングを合わせたかのような睨みあいの後に響く打撃音と、崩れ落ちる男。
今日も今日とて女の勝利の様だ。
響く音に虎少年の耳がぴくぴく動いており、またやっているのかと思われている。
まだ来て数日の虎少年に慣れられる程、何度も殴り合いをしているのは如何なものか。

「それで、聞きたい事は聞けたんですか?」
「いっつ・・・あー、成果は無し。少年が見た時には既に角が有ったそうだ」
「成程、であればあの角はその時に出来た物ではないのかもしれませんね」

寝転がる男に本題を口にする女だが、男の答えは期待を裏切るものだった様だ。
見るからに残念だという様子の女。ただ男も同じく残念そうにしている。

少女の角が何時できたのか、何故出来たのか。
出来た理由が女と同じなのか、それとも違うのか。
それらを調べたかった故に虎少年に話を聞かせて貰ったのだが、成果は何一つなかった。
いや、一応その時既に角が有ったという情報は成果かもしれないが。

「本人が全く覚えてないのがなぁ」
「あの子は今でも幼く、当時はもっと幼いでしょう。覚えていないのが普通かもしれません」
「まあ、そりゃ、確かにな・・・」

ただ少女は角を出した時の事を覚えていない。
その事が原因ではないかと二人共思っていはいるが、だからといってどうしようもない。
少女は女より安定しているし、今まで力を使ったのは誰かの為だ。
だからこそ二人は少女の角は何が違うのかを知りたいのだが。

「ま、しょうがない。解らんものは解らん」
「ええ、犯人達に生存者も居ませんし、致し方ないでしょう」
「・・・しっかし、あの少年達はどうすんのかねぇ」
「どうも何も本人達が良く解ってない様子ですし、下手に触れずにいてあげる方が宜しいかと」
「そりゃそうなんだがな・・・微笑まし過ぎるわ」

とはいえ情報の無い事を何時までも悩んでいても仕方ないと、二人は思考を切り替える。
そして視線を三人に戻して、何ともむず痒くなる様な気分で眺める男であった。
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