角持ち奴隷少女の使用人。

四つ目

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212、違和感。

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「ねえねえ、何かあの二人、前と少し違わない?」
「んー?」

彼女が単眼に声をかけ、指を差したその先を素直に見る単眼。
そこにはテーブルに着いている虎少年と、その膝の上に乗る少女の姿が。
そしてその膝の上では猫が丸まっており、とても穏やかな様子だ。

「んー・・・どこが?」

彼女の言う通り二人と一匹を眺める単眼だが、良く解らずに首を傾げた。
何故なら単眼には特に変わった所が有る様に見えなかったからだ。

大きめのカップを両手で持ち、コクコクとゆっくり暖かい飲み物を飲んでいる少女。
ぷはーっと息を吐いてカップから口を離すと、口の端の液体を虎少年が優しく拭いている。
少女は少し照れながらも素直にされるがままであり、拭き終わるとニコーッと笑顔を向け、虎少年もにっこりと笑って返していた。

そしてテーブルに顔を向けると虎少年の手を握り、肉球をプニプニしながら猫を撫で、虎少年は空いた手で少女の頭を優しく撫でている。
ある日の昼下がり、虎少年が来てからは見慣れた光景がそこに有った。

「普段通り、仲の良い二人だと思うけど」
「ええー・・・うーん・・・いや、違うと思うけどなぁ」
「違うって言われても・・・具体的には?」
「具体的に、って、言われると困るんだけど・・・何か、違う気がするんだよなぁ」

単眼はやはり解らずに彼女に訊ね返すが、彼女は具体的には言葉に出来ない様だ。
困った顔で二人を見つめ、うーんうーんと唸りだした。
暫く待つ単眼だったが、これは答えが出るのが遅そうだと彼女を置いて仕事に戻ってしまう。

「・・・あ、そうか、解った」

だが彼女は暫く二人を眺めていて、違和感の正体に気が付く。
少女と虎少年は元々距離感の近い関係ではあった。
初対面での印象や、虎少年の少女に対する想い、そして少女の懐き様もその理由だろう。
そして少女の元々の距離感の無さが一番の要因として、二人は良くくっついている。

ただ、それは少女からの行動。あくまで傍に寄るのは少女の意志。
だから虎少年は少女とくっついていても、どこかに遠慮が有った。
だが今の虎少年は違う。自ら少女との距離を縮めているのだ。

「前にはあんなに顔近くなかったもんね」

少女の口元を拭く時。少女と笑顔で向き合う時。少女の頭を撫でている時。
どの時点でも虎少年の顔が、少女に大分近づいていた。
それは今までの一歩引く感じは一切無く、むしろ踏み込む様子を感じる。
口元を拭いている時など、虎少年の口が少女に額につきそうだった程だ。

「この短期間に何が有ったのか・・・少年のお尻を蹴ってあげないとやっぱ不利かにゃー?」

ただその違和感に気が付いたとしても、彼女はニマッと笑ってそう語るだけ。
もし虎少年を少女が見初めれば、きっと少女はここから居なくなる。
だけどそれでも、少女が幸せならばそれが良い。
可愛い妹分と思うからこそ、本気で少女を想っていると解る虎少年なら良いかとも感じている。

「そうなったらきっと寂しいけど、仕方ないよねぇ・・・先輩は泣くかな」

寂しいけどそれで諦めさせるような事はさせない。
そう考えながら、彼女は少年を探しに向かうのであった。
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