上 下
25 / 31

第二十三話

しおりを挟む
 リオル率いる生徒会が席に着くと、先ほどまで煮え切らない教師達の態度に苛立っていた様子のリリィは水を得た魚のように活き活きしだした。

「殿下、本当なんですっ・・・・・・私、サミール先輩に呼び出されて、図書室に行ったらいきなり押し倒されてぇ」

 ヒロインの、聖歌姫候補の自分を、王子達は助けてくれるに違いない。

 そんなリリィの期待を裏切るように、リオルは神妙な顔つきで考え込む。

「・・・・・・で、殿下っ? 信じてくださらないんですか?」

 若干の焦りを感じつつ、あからさまに悲しげなしょんぼりした声音で被害者ぶってみせるリリィ。

 しかし、リオルの表情筋はピクリともせず、真剣な表情を保ったままで。

「・・・・・・彼が襲われた時には、倉庫が荒れていて、手首に拘束された痕が残っていた。制服のボタンも取れ、壊された髪飾りも発見された。未遂の事件だったが、確実な証拠が残っていたんだ」

 ーーしかし、今回にはそういった証拠が一切ない。

 サミールがリリィを襲ったことを確実に証明する事は出来ない。

 サミールの性格から、か弱い女性を襲うような人間だとは考えられない、この事件には疑問を感じる。

 そう語るリオルに、リリィは思い通りに事が進まない苛立ちのためにかあっと顔を赤らめた。

「証拠証拠って・・・・・・先輩が私を襲ってないっていう証拠もないじゃないですか!!」

 ヒステリックに声を上げるリリィ。だんだんとその本性が明るみになってきた、その時だった。


「ーー証拠なら、ある」


 リオルが入ってきてからずっと黙り込んでいたギルバートが、そう言い放ったのは。

「えっ・・・・・・?」

 当事者であるサミールですら、証拠になるようなものなんて何もないと思っていたのでつい困惑してしまう。

 ギルバートは己の制服のポケットに手を入れると、ややためらいがちに・・・・・・”あるもの”を取り出した。

 ーーそれは、手のひらに収まるくらいの小さな魔法石。

「ギルバート公子、それは・・・・・・?」

「・・・・・・これは、周囲の人間の音や動きを察知すると、それを記録して俺に共有してくれる術式を組んだ魔法石です」

(ーーッ!!)

 ・・・・・・サミールは、それまですっかり忘れていた。

 あの古代魔術資料室にギルバートがしかけた、その魔法石のことを。

 二人でイチャイチャしてる時に人が来たら、すぐに止められるようにとわざわざ彼が用意した魔法石がまさかこんな場面で出てくると思わなかったサミールは、思わず頬を赤らめてしまう。

 ギルバートが魔法石を握りしめ、呪文を唱えると、石が青く発光しだしーー空気中に、サミールの姿が3Dホログラムのように映し出された。

 教師達がそのギルバートの魔法技術の高さに感嘆する一方で、リリィがさぁっ・・・・・・と青ざめていく。

 静かに本を読むサミールの幻影。そこに、リリィがやってきて。

『ねぇ、サミール先輩・・・・・・』

 ーーそれからの会議室内には、センシティブな映像がテレビに流れてしまった時のお茶の間のごとく、地獄のような空気が漂った。

 自ら着衣を乱してサミールに迫るリリィ。

『やめなさい、リリィ嬢!! 何をしているんです!!』

『先輩・・・・・・私、先輩とイイコト、したいな』

 頭を抱える教師達、白い目で幻影とリリィを交互に見やる生徒会メンバー、顔を赤くしたり青くしたりと忙しそうなリリィ。

『誰か助けて!! 襲われてるの!!』

 リリィの幻影が叫んだところで、ギルバートは魔法を止める。

「ーーこれが証拠です」

 終わりを告げるその短い科白が、どれほどその場の者達を脱力させたことか。

 学園の女子生徒が男子を誘惑するシーンを見てしまった教師陣の表情に、疲労がありありと浮かんで見える。

 唇を噛みしめ、怒り、焦燥、絶望、あらゆる感情がごちゃ混ぜになったひどい顔をしていたリリィは、魔法石を奪い取ろうとギルバートに掴みかかった。

「嘘だ・・・・・・嘘だ嘘だッ!! こんなの偽造したに違いない!!」

 狂ったように涙を流しながら、叫び声を上げるリリィ。

「・・・・・・リオル、頼む」

 その手を強く振り払うと、ギルバートはリオルの名を呼んで。

 ーー手に持っていた魔法石を、リオルに投げ渡した。リオルはスマートにそれをキャッチすると、かすかに頷いてみせる。

「・・・・・・俺が使った魔法石は、王家が出している高級品だ。どこでも売っているような安い魔法石なら記録の改ざんもできるだろうが、王家の魔法石はそういう不正が出来ないようになっている。確実な証拠になるはずだ」

「そんな、嘘・・・・・・待ってよ・・・・・・」

「確認してくれ、リオル。王族なら、それがちゃんと王家が出している魔法石なのかどうか、確認できるはずだ」

 そこで完全に、サミールはリオルがこの場に来た理由を察した。

 ギルバートは証拠の記録された魔法石が正規品であることを皆の前で証明して貰うために、リオルにここに来るよう頼んだのだろう。

「やめて、やめてよっ・・・・・・!!」

 床に崩れ落ち、泣きながら髪を掻きむしるリリィ。

 リオルは、魔法石をじっくりと鑑定した後、確かに頷いた。

「ーー間違いなくこれは、王家で出している魔法石だ。サミール公子の無実が証明された。リリィ嬢・・・・・・君には失望したよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【題名変更】並行世界に転生した俺は、もう一度恋をする―クールな元恋人似、ヤンデレな異母弟、一途な幼馴染みの誰かと―

知世
BL
こちらの作品は『俺とお前、信者たち』のifで、短編(会話文が多めの小話)になります。 前作(前世)が未読でも大丈夫な内容を目指すつもりです。 先に『俺』を読んで頂けると、キャラクターの過去やタイプが分かるので、より面白いと思いますが…。 宜しければ『俺』もお願い致します。 あらすじ 二十八歳の奏(かなで)は、八歳年上の彼方(かなた)と、同性婚をする当日、自分に思いを寄せる、異母弟の楓(かえで)に刺し殺されてしまう。 「本当は、彼方と付き合うのも許せなかったけど、我慢していたんだ。…流石に結婚は駄目だよ、兄さん」 「…兄さんは僕のものだ。彼方になんか、渡さない。―ああ、大丈夫だよ。安心して、兄さん。僕もすぐに後を追うから…。ずっと、一緒だよ。ずっと…ずっとね…」 気が付いたら、亡くなったはずの母親が「奏っ!ああ、良かった…!もう大丈夫よ」と涙ぐみながら微笑みかけてくる。 …どうやら、俺は三歳の幼児に転生したみたいだ。 でも、この世界はおかしい。並行世界だけど、異世界…それも、獣人の世界らしい。 …何だここ、天国か? 誰か獣化してくれないかな。ちょっとでいいから、触らしてほしい。 …こほん。 とりあえず。 人生をやり直して、二度と同じ失敗はしない! …彼方には会いたいから、何とかしよう。それと、楓には絶対会わないようにしないと。 ―奏の二度目の人生が、今、始まる。 R18は保険です(直接的な描写はありませんが、性行為を匂わす表現・設定はあります) 暴力的・残酷な表現があります。 奴隷制度がある異世界なので、差別的な表現・言動があります。 ハッピーエンドで、エンディングは四種類用意する予定です(ニ種類増えました) それと、『俺』のifなので、前作(前世)が分かるように、『俺』の公開期間を延長します。 『転生俺』が終わったら、どちらも非公開にするので、日程はまたお知らせします。 拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 宜しくお願い致します。

[完結]病弱を言い訳に使う妹

みちこ
恋愛
病弱を言い訳にしてワガママ放題な妹にもう我慢出来ません 今日こそはざまぁしてみせます

妹に婚約者を結婚間近に奪われ(寝取られ)ました。でも奪ってくれたおかげで私はいま幸せです。

千紫万紅
恋愛
「マリアベル、君とは結婚出来なくなった。君に悪いとは思うが私は本当に愛するリリアンと……君の妹と結婚する」 それは結婚式間近の出来事。 婚約者オズワルドにマリアベルは突然そう言い放たれた。 そんなオズワルドの隣には妹リリアンの姿。 そして妹は勝ち誇ったように、絶望する姉の姿を見て笑っていたのだった。 カクヨム様でも公開を始めました。

「君とは結婚しない」と言った白騎士様が、なぜか聖女ではなく私に求婚してくる件

百門一新
恋愛
シルフィア・マルゼル伯爵令嬢は、転生者だ。どのルートでも聖人のような婚約者、騎士隊長クラウス・エンゼルロイズ伯爵令息に振られる、という残念すぎる『振られ役のモブ』。その日、聖女様たちと戻ってきた婚約者は、やはりシルフィアに「君とは結婚しない」と意思表明した。こうなることはわかっていたが、やるせない気持ちでそれを受け入れてモブ後の人生を生きるべく、婚活を考えるシルフィア。だが、パーティー会場で居合わせたクラウスに、「そんなこと言う資格はないでしょう? 私達は結婚しない、あなたと私は婚約を解消する予定なのだから」と改めて伝えてあげたら、なぜか白騎士様が固まった。 そうしたら手も握ったことがない、自分には興味がない年上の婚約者だった騎士隊長のクラウスが、急に溺愛するようになってきて!? ※ムーン様でも掲載

男主人公の御都合彼女をやらなかった結果

お好み焼き
恋愛
伯爵令嬢のドロテア・ジューンは不意に前世と、そのとき読んだ小説を思い出した。ここは前世で読んだあの青春ファンタジーものの小説の世界に酷似していると。そしてドロテアである自分が男主人公ネイサンの幼馴染み兼ご都合彼女的な存在で、常日頃から身と心を捧げて尽くしても、結局は「お前は幼馴染みだろ!」とかわされ最後は女主人公ティアラと結ばれ自分はこっぴどく捨てられる存在なのを、思い出した。 こうしちゃいれんと、ドロテアは入学式真っ只中で逃げ出し、親を味方につけ、優良物件と婚約などをして原作回避にいそしむのだった(性描写は結婚後)

好きな人に振り向いてもらえないのはつらいこと。

しゃーりん
恋愛
学園の卒業パーティーで傷害事件が起こった。 切り付けたのは令嬢。切り付けられたのも令嬢。だが狙われたのは本当は男だった。 狙われた男エドモンドは自分を庇った令嬢リゼルと傷の責任を取って結婚することになる。 エドモンドは愛する婚約者シモーヌと別れることになり、妻になったリゼルに冷たかった。 リゼルは義母や使用人にも嫌われ、しかも浮気したと誤解されて離婚されてしまう。 離婚したエドモンドのところに元婚約者シモーヌがやってきて……というお話です。 

どう頑張っても死亡ルートしかない悪役令嬢に転生したので、一切頑張らないことにしました

小倉みち
恋愛
 7歳の誕生日、突然雷に打たれ、そのショックで前世を思い出した公爵令嬢のレティシア。  前世では夥しいほどの仕事に追われる社畜だった彼女。  唯一の楽しみだった乙女ゲームの新作を発売日当日に買いに行こうとしたその日、交通事故で命を落としたこと。  そして――。  この世界が、その乙女ゲームの設定とそっくりそのままであり、自分自身が悪役令嬢であるレティシアに転生してしまったことを。  この悪役令嬢、自分に関心のない家族を振り向かせるために、死に物狂いで努力し、第一王子の婚約者という地位を勝ち取った。  しかしその第一王子の心がぽっと出の主人公に奪われ、嫉妬に狂い主人公に毒を盛る。  それがバレてしまい、最終的に死刑に処される役となっている。  しかも、第一王子ではなくどの攻略対象ルートでも、必ず主人公を虐め、処刑されてしまう噛ませ犬的キャラクター。  レティシアは考えた。  どれだけ努力をしても、どれだけ頑張っても、最終的に自分は死んでしまう。  ――ということは。  これから先どんな努力もせず、ただの馬鹿な一般令嬢として生きれば、一切攻略対象と関わらなければ、そもそもその土俵に乗ることさえしなければ。  私はこの恐ろしい世界で、生き残ることが出来るのではないだろうか。

公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!

永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手 ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。 だがしかし フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。 貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。

処理中です...