あの人と。

Haru.

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After Story

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 和やかにお喋り──もちろんゲラゲラ笑ったり大口を開けたりはしないけれど──しながらゆっくりとマスルール様との夕食は進んでいく。

「こちらは王妃のサナ、あちらが宰相のルノーです。神子様の留学を知っている数少ない者達になります。口の硬さは私が保証します」

「よろしくお願いします、神子様」

「お会いできて光栄です」

「こちらこそ、お会いできて嬉しいです。よろしくお願いしますね」

 王妃様はなんだか……マスルール様と似たような雰囲気が。つまりは宰相さんはこの2人に大いに困らされているのだろうなぁ、と……つい憐れみの目で見てしまうのも仕方ないと思うのです。

「陛下、神子様に憐れみの目を向けられているのですが……」

「よかったじゃないか、お前のことをわかってくださっているのだろう」

「私が憐れまれている理由がお分かりなら少しはご自身の行動をお考えください……!」

「無理な相談だな」

「うぅ……」

 かわいそうに……頑張ってね、宰相さん。

「あ、僕も紹介しますね。こちらが僕の夫のダグラスです。後ろにいるのはリディアとラギアス、僕のお世話役と護衛騎士です」

「よろしくお願いしますね。学園には奴隷制度がまだ残っている国からの留学生もいますが、少数とはいえ優秀な獣人も通っています。獣人を護衛として連れてきている生徒も少なくありません。おそらく差別は少ないでしょう」

「よかった……ラギアス、何かあったらすぐに言うんだよ」

「はい」

 ラギアスは学生寮とは別に設けられている宿舎に寝泊まりすることになる。複数の従者を連れて行きたい生徒は別額を支払えばそこの部屋を借りることができるわけです。ラギアスを1人にするのは心配だけど……何かあればすぐに言うようにずっと言い聞かせてきたから大丈夫だと思いたい。

 ちなみにリディアとラギアスを同室にっていう案はアルバスさんが、ね……リディアが別棟に行くって言う案も、アルバスさんが狼の群れにリディアを放り込めるかって……もし何かあればラギアスはリビングにベッドを置いてそこで暮らしてもらおうかな? まぁ先のことをあれこれ考えても仕方ないし何かあればその時に対策を考えましょう!

「そういえば、学園には部活動とかってありますか?」

「ございますよ」

「どんなものがあるのですか?」

「ふふ、それは学園へ行ってのお楽しみとしましょう。クラスメイトへ話しかけるきっかけにもなりますしね」

 たしかに、それもそうかもしれない。だから学園についての情報がかなり少なかったのか……どんな授業があるとかも教えてもらってないからね。色んな人との交流をってことなんだねぇ。

「上手く話しかけられるといいのですけれど……」

「それも経験の内、です。頑張ってくださいね」

「頑張ります」

 友達って呼べる存在も作れたらいいなぁ……まぁ留学期間限定の友達になるんだろうけど…… でも宰相さんのお家通して文通くらいできたらいいなぁ……まぁまだ友達出来るどころか学園に入ってすらいないんだけども。


 その後もゆったりと会話を楽しみつつご飯を食べ終え、デザートまで頂いたらまたローブを着て部屋へ戻った。リディアとラギアスは一回離れて各自ご飯です。リディアは行く前にお茶を入れて行ってくれましたよ。美味しいです。

「みんなの前で自己紹介とかするのかなぁ」

「するだろうな」

「緊張する……」

「神子としてのお披露目よりましだろう?」

「それもそっか」

 確かにそうだ。僕もっと大勢の前で話したことあったよ……なんだか全然いけそうな気がしてきた。あとは名前を言い間違えないように、かな? 僕はユーキ、ユーキ……幸仁じゃなくてユーキ! ユキ、って言っちゃっても緊張して早口になっちゃったって誤魔化せるだろうけど……ヒト、まで言っちゃったらマズイです。頑張ります!

「あーあ、明日からダグとは夫婦だーってアピールできないのかぁ……ブレスレットも外さなきゃだもんね……うぅ、悲しい……」

 僕は留学後にお嫁に行く設定なので既に左手にブレスレットをつけてて、しかもそれが護衛のはずのダグと同じ、なんてどうぞ僕の正体を暴いてくださいって言っているようなものなのです。だからブレスは外しておかなきゃなんだけど……やだなぁ……

「俺も嫌だが仕方ないだろう。代わりに右手にこのブレスをつけておけ。婚約している証になって悪い虫を追い払えるだろう。俺もこっちのブレスをつけておくから」

「……ん、ありがと」

 ダグが渡してくれた新たなブレスを右手首につける。ダグは婚約した時の懐かしのブレスを左手につけておくみたい。ダグったらかっこいいから結婚しててもって思われないか心配です……うぅ、ダグは僕のなんだからね……!

 ぎゅむぎゅむとダグに抱きついてまだ見ぬお邪魔虫さんに牽制です! ダグは渡さないんだから……!

「くく、そんなに心配しなくとも俺はユキのだぞ。可愛い俺のユキ」

「嫉妬させないでね」

「俺の台詞だな。ユキは誰にでも優しいから俺は妬いてばかりだ」

「僕優しくないもん」

「自覚のない善意は本当の優しさだ。それこそユキが優しい証拠だ」

 んー……? 優しくしてあげようって思ってするのと、自然に行動に出るのとじゃ違うってこと? でも僕、そんないいことしてないよ。自分が動きたいように動いてるだけだし。

「そういうユキだから神子に選ばれたのだろうな。心優しい妻をもらえて俺は幸せだ」

「よくわかんないけどダグが幸せならいいや」

 僕にとっての一番はそこなので! ダグが幸せなら万事OKです!


 そんなこんなしているうちにリディアが戻ってきて、すぐにお風呂に入ってマッサージもしてもらったら早めに就寝。明日は今日より忙しいからしっかり寝て体力を回復しておかねばならないのです。

 緊張で寝れるかなぁ、と思っていた僕はダグの温もりであっという間に寝落ちて気がついたらもう次の日。さわやかな朝です。ご飯を済ませたらまたまたローブを着てマスルール様のもとへ。

「おはようございます、マスルール様」

「おはようございます、神子様。よく休めましたか?」

「はい、おかげさまで」

「それはよろしゅうございました。それでは魔法具の方をお渡しいたしましょう。この国にいるうちならば故障したとしても新たなものをお渡しいたします。ただし以前のものとの交換になります」

 マスルール様が差し出して下さった綺麗な箱の中には2つのペンダントと1つのイヤーカフが。シンプルな見た目だけど、それでいて高級そうな雰囲気がにじみ出ている。普通に質のいい装飾品と出されても違和感なんてないとおもうよ。

「神子様にはペンダントとイヤーカフを、伴侶殿にはペンダントを。神子様のお色が1番知られてはなりませんので、念のため2つお渡ししておきます。2つ同時につけるようになさってください。たとえ片方でも壊れたらすぐにおっしゃってください」

「わかりました、ありがとうございます」

「つける前に石に魔力を流してください。そうしてからつけることで、髪や目が違う色に変わります」

 そう言われ、試しにイヤーカフに魔力を流して耳にかけると……わぁ、髪の毛が銀色になりました。まるでダグの髪の毛みたいだよ! 目も変わってるのかな? 何色なんだろう……と思ったらリディアが鏡を渡してくれました。恐る恐る覗いてみるとそこには青色の目の僕がいた。

「うわぁ……銀髪に青い瞳……なんだか変な感じ」

 日本人なのにこの色は違和感がものすごいです。

「銀髪もよく似合っている。綺麗だ」

「そう? ならいいんだけど……やっぱ落ち着かないや」

「だろうな。俺もつけてみよう」

 ダグもペンダントを1つ取り、魔力を流してつけるとダグの綺麗な銀髪は色素の薄い金髪に変わり、目は逆に銀色になった。ダグに鏡を渡してあげると興味深そうに自分の姿を確認し、そのまま鏡をリディアに返して一言。

「落ち着かないな」

「でもダグはもともと持っていた色でもあるから僕ほどではないね」

「確かにな」

 ダグは目と髪の色が逆になっただけといえば逆になっただけだから、まだ違和感が前面に押し出される感じはないけれど、僕はまったく持っていなかった色だからなぁ……慣れるまでに随分と時間がかかりそうです。
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