悪逆の魔法使い

こんぶ2

文字の大きさ
上 下
7 / 18
異界召喚編

第六話 避難

しおりを挟む
「住民の避難か…ならワシにまかせてくれんか?」
 
「ん?」

「大丈夫ですか?」

「まぁ、な…ワシにどれくらいの伝手があると思っとる…それにワシは国王じゃったぞ」

「そーいえば」

「そうですね」 

(息があったな)

「…ふん」

「ま、とにかくだ。戦力は俺の方で何とかする。アロヴァは…」

「バレないようにすればいい…ですよね」

「あぁ。幸いこの国の人口はそこまでだ。それに隣国、ラージ・アディアとは仲がいい。そこに逃げ込めば大丈夫だろう」

「そりゃ大丈夫じゃ。ラージの現国王とワシは超仲良しじゃからな」

「…それは僥倖だな…で、恐らく国は滅んで難民大量発生しちまうんだが…」

「え?闇をどうにかすればいいんじゃないですの?」

「方法は無くはないんだが…それだったらまたイチから国を作った方がはやいかもしれん」

国に現れるであろう、闇。

それを取り去ることは極めて難しいのだ。

今後は国に残り続けることになるだろうが。

「えぇ!」

「闇を消すのはそれくらい難易度が高い…ま、とにかく」

ブラッドは町の方へ目をやる。

「住民の避難が最優先だ…」



とある家の中。その小さな部屋には、毒々しい花瓶や、研究に使ったであろう薬品、空瓶や多くの資料などが散乱している。

その部屋の奥の椅子に彼女は腰掛けていた。

「…ってことだ。協力してくれないか?」

ブラッドは彼女へと協力を呼びかける。

「…はぁ?アンタ本気でいってんの?熾天使王セラフィムキングと、治神ヒーラを倒すって正気じゃないわよ」

「…そんなことは分かっている。リ・アルペ」

「…何急にフルネームで呼び出して…きもいんだけど」

(…どうだろうか……)

「お前には感謝している。いつも付き合ってもらって悪いと思っているよ…」

ブラッドは急にアルペを褒め出す。

「…は、はぁ!?な、何アンタ…急に…バカじゃないの?…」
 
「…アルペ…お前の力が必要なんだよ…」  

「…え、あ、う」

流れが良いぞ…、とブラッドは喜ぶ。

この反耳長族ダークエルフは不意打ちに弱すぎる。この傾向を利用する。

「…頼む…」

ブラッドはアルペに顔を近づける。

「ちょ、ま…わ、わかったから…!」

若干顔を赤らめるアルペ。

リ・アルペ。

ブラッドの知る反耳長族ダークエルフの中では最強にして最高。

見た目は流石はエルフ、美麗と言ったようだ。整った顔だ。
ダークエルフと名はつくものの、別に肌は褐色ではない。

かと言って純白でもないが。

今回、熾天使王セラフィムキング治神ヒーラを倒すにはアルペの力が必ずいる、とブラッドは見立てている。

魔法使いのほぼ頂点に君臨する彼女の力は必要不可欠と考えた。

魔獣、デスベルを一撃で仕留める程だ。

その彼女の中で最も最強たる所以の技は、多くが、怨嗟グラッジ系統の技。

じわじわと蝕み、相手を殺すようなものが多い。
 
「そうだな。よし」

「?」

「今回は大規模戦になる…もっと人を呼ぶ…その中でアルペ、お前は大事な要だからな…頼む…」

「ま、任されたわ…」

(よし……押し切った)

ブラッドはぐっ、と握りこぶしを作った。





「…と言う事だ。お前らにも協力してもらうぞ」

ブラッドは、最高位騎士、五人に対して言う。

王都五騎士エーデルガンド。ブラッドは彼らとで旧知の仲となった。

「…えぇ~、ブラッドさん一人で何とかなるんじゃないすか~?」

王都五騎士エーデルガンドは計五人のメンバーからなる。
筋力のマスキ。
技量のスキラ。
魔法のマアク。
防御のワールズ。
万能のデレウス。
おちゃらけた台詞を吐くのは技量のスキラ。

「ばかやろう。そうやって慢心すると神族にはすぐ負けるぞ」

スキラを注意するのは、隆起した胸を持つ防御の男、ワールズ。

「…へぇ~」

感嘆するのは細身の男、マアク。

「…ま、俺はいいがな。というより、俺が前行ったデスベルの森…もう死んでしまったか…?」

万能の男、デレウスが言う。

「あぁ、流石にもう人の住める環境じゃない。まぁ、想定内だが」

森が死ぬ、とは。

森などという抽象的で、それでいて概念的な物が死ぬというのはありえないあことだ。本来は。石は死なないし、意思も死なない。しかし、一定の条件が満たされれば物質さえ死ぬことがある。そんな事ありえない、と思うかもしれないが、森や海など自然の場所は、マナの量などによって、エネルギーが枯渇し、土地が死ぬことも少なくない。

故に、森が死ぬ。

「良いか?最高位騎士たち…」

「ふむ、デレウスがいいと言うなら我々も良いが」

デレウスの方を向く。

「もちろん良いぞ」

「…よし」

(人員集めはあと少しか。)




多少日数が経った。

およそ、あと7日でここに熾天使王セラフィムキング達が来ることになっている。

しかしそれは、ブラッドがサリヴァから聞いただけの情報で、嘘か真かは全くわからないのだが。


少なくとも──

「…」

街には人っ子一人の気配はない。

店は全て施錠してあり、家々全てに施錠が施されている。

みな、隣国へ避難したようだ。

「流石に元国王…」

やるな、とブラッドは感嘆する。

更には、これを悟らせないようにしたアロヴァの功績も大きい。

…何故神族たちにバレていないと断言出来るのか。

神族達は、非常にせっかちで、それでいて、に激昂し、手がつけられなくなる。


そういった習性のようなものがある。
故に、安心。

バレていればとっくに戦闘が始まっている。


「さて、準備を着々と進めている、か…」

街を歩く。

「ん?」

「お、ブラッドか」

ブラッドは王都五騎士エーデルガンドに出会う。その五騎士の中でも最強の、デレウスとであった。

最高位騎士、エーデルガンド。

最高位騎士とは。

国家の中でも、限りなく優秀とされる騎士の集まりである。

最低条件として、まず術が使えること、これが入る。

エリート中のエリート。
それが、最高位騎士。

騎士の実力はもちろん、魔法や術を使用できて、なおかつ知識も豊富。

そういう輩を言うのだ。最高位騎士と言うのは。

「とはいえ、現国王を裏切るようでなんとも言えない気分になりますがね」

「…サリヴァは気づいていないな」

「ええ。全く。それに、毎晩、遠隔石リモートストーンで話しているようですし」

遠くにいても会話が出来る石。

遠隔石リモートストーン

解明は進んでいるが、それが何から出来ているかさえ分かっていない。

特殊文明機器というものの一つだ。

「…あぁ、俺もその内容は毎晩聞いているからな」


「…」

デレウスは空を見上げる。

「…曇りですね」

曇天だった。

「…雨、降るかもな」

「…」

デレウスは呑気なやつで、案外明るいやつではあるが、戦の時はそうでもないようだ。

「この一週間後…神と戦うなんて…嘘のようだ」

「…俺も初めてだ……」

「ええ」

ブラッドは目の鋭さをよりいっそう増して告げる。

「行くぞ……」
しおりを挟む

処理中です...