21 / 115
第一章
第10話
しおりを挟む前回のあらすじ、戦闘開始。
俺を置いてきぼりにし、とっととスキンヘッドの魔物へ向かってしまったリリー。
そんなわけで俺はただ一人、非力な人間として十数人の男共に襲われようとしていた。
特訓の成果って、俺ただ走ってただけじゃねえかよ!魔物や魔獣よりはマシとは言え、俺が十数人を相手に勝てるわけがないし...
腰の短剣を抜き、リリーのように見様見真似で構えてみるが、足が震えてしまう。そんな中でも、着々と男共は近づいてきている。
特訓の成果... 敵の能力... リリーは確かにそう言った。だがそれどうやって使えと...
思い出すのは走り込みと、リリーからの剣のおもちゃの暴行... 敵の能力は自制心を失わせる能力...まさか?
男共はすでに五メートル程の所まで来ていて後が無い。
「リリー!まさかお前の言いたかった事は... 」
*************
相対するのは、ちんちくりんな少女と、生傷だらけの魔物。
体格差からは容易に勝敗の予想がつくこの戦い。だが、ちんちくりんな少女は相手を見下すように、ゴミを見るような目で魔物を睨み、反対に大男は少したじろいでいるようだった。
そんな中、両者の耳に届く勇者の叫び声。それを聞いたちんちくりんは、表情を一変させる。
「あの馬鹿が... 」
魔物から目を離しはしないが、眉をひそめ、口を半開きにする。
そんな様子を気にも留めず、魔物はリリーに話しかける。
「俺の予想では... 勇者は何かしらの後衛に特化した能力を持っている。昨日率先して庇われたのもその為だ」
魔物が、人間の声と遜色ない声質で話すが、ちんちくりんは動かない。投げナイフを構えたまま魔物の話を聞き続ける。
「もう予想はついているだろうが、俺は四天王の一人。能力は心の大事な場所に鍵をかけること。お仲間はダウンしちまったようだな?」
ちんちくりんはまだ動かず、魔物や周囲を観察しているようだった。
「俺の予想では、杖持ちの女は治療、大剣持ちの女は何かしら物理的な防御ができる能力を持っているな?そして肝心のお前、お前だよ... お前とだけは戦いたくはなかった。なぜなら、お前の持っている能力は...」
再び勇者の叫び声が聞こえ、両者の気がそれる。魔物はいち早く持ち直し、軽く咳払いをすると、話を続ける。
「お前の能力は... 身体能力を上げることだな!」
「... は?」
一瞬の間を挟んだ後、ちんちくりんの先ほどまでの気迫はどこへやら、鋭い睨みは憐れみの目に変わり、顎を前に突き出して、魔物の方へ歩き出す。
「間違いない。昨日の跳躍力、針を止めたあの動き、人間では不可能なはず...」
「時間稼ぎはもう終わりですか?馬鹿馬鹿しい、四天王の質がここまで低いとは。スズへの土産話はどうすればいいって言うんですか?」
何が戦闘開始のゴングとなったのか。本当は両者にしか分からないタイミングがあったのだろう、一瞬にして魔物は立ち上がり、ちんちくりんは走り出す。ただ間の悪いことに、そのゴングとなったのは、ちょうどいいタイミングで鳴った勇者の悲鳴だった。
ちんちくりんが魔物に向かって、二本ナイフを投げる。だが、それを見切っているかのように魔物は加速を止めない。二本のナイフの間をすり抜けるように、魔物の頭が間を通っていった。
それが分かっていたかのように、ちんちくりんは次のナイフに手を伸ばすが、魔物の接近が思ったより早い。慌てて後方に飛ぶが、魔物も床を蹴り手を伸ばす。その瞬間にもう一本ナイフを投げるが、魔物は軽く顔を傾むけ、躱してしまう。距離が詰められてしまった。
「もらったあああっっ!!!」
派手な予備動作を付け、拳を振るおうとする魔物。だがそれがちんちくりんに当たる事は無かった。
ちんちくりんが避けているのではない。魔物が攻撃をやめてしまったのだ。
「なーんてな」
魔物は両腕を曲げ、顔の前に交差させるようにして後ろに伸ばす。気付くと、その魔物の両手には一本ずつ投げナイフが握られていた。
「お前、柱を狙ってナイフを反射させたな?甘すぎる!やかましい音でバレバレなんだよ!」
*************
リリー... 分かったぞ。お前の言いたい事が手に取るように伝わってくるぞ。リリー!お前の言いたかったことは...
「お前の言いたかったことは、逆境を利用して能力を発動させろってことだよな!!」
これだ!これに決まっている!あの特訓とやらも、本当は俺が逆境に耐えても逃げ出さないように、必死に戦おうという気持ちを鍛えるためのものだったんだな。今なら伝わってくる、気合いだ!気合いで能力を使ってこの旅をとっとと終わらせるんだ!!
「うおおおおおおおう!!死ねええええええええ!!!」
目を瞑り、両腕でガッツポーズをし、まるで黄色い光りに包まれているような、そんな気持ちでいた。そんな気持ちでいただけだった。
直感的に分かった。失敗したと。男共の唸り声と足音は鳴りやまなかった。
こうなったらやることはただ一つ。
「う、うわああああ!俺はああああ逃げるぞおおおお!」
俺の初めてのボス戦は、無職達との鬼ごっこから始まった。
*************
魔物のリーチに入ったちんちくりんは顔を俯かせたまま動かない。そんなちんちくりんの姿を見て満足したのか、魔物は二本のナイフを床に落とし、肩の骨を鳴らす。
「勝った!お前さえ始末すれば勇者パーティーなんて全滅だ!!」
たっぷりと時間をかけ、右腕を後ろに振りかぶり、ちんちくりんに向かって下ろす。その拳が、ちんちくりんの顔に当たる寸前、魔物の目にははっきり見えた。そのちんちくりんの余裕の笑みが。
何か嫌な予感がする。だがもう遅い。振り下ろされた拳を途中で止めることは出来ない。
「甘すぎるのはあなたですよ。ナイフを何本投げたのか、覚えていないのですか?」
瞬間、魔物の側頭部に深くナイフが刺さり、魔物は一声も上げずに倒れてしまう。
「最後に投げたナイフが跳ね返ってきたんですよ... って、ああ、人間を模倣しているんでしたら聞こえていませんか。即死でしょうから」
ちんちくりんは片手でナイフを二本抜き、そのままその片手で一本のナイフを宙に投げて遊びながら、もう一本のナイフを魔物の心臓めがけて投げる。すでに魔物はピクリとも動いていなかった。
戦いが終わったので、勇者がこちらを呼ぶ声に反応しようと振り返る。
だが、その行動が、油断が、命取りだった。いきなり足を掴まれる感覚にギョッとして飛び上がろうとするが、ガッシリと掴まれていて途中で引き戻される。ちんちくりんの足を掴んでいるのは、白く、細い手で、それはズレたタイルの隙間から伸びていた。
「初めましてリリーさん」
耳をつんざく、妙に甲高い声。この状況を心の底から楽しんでいるような弾んだ声に、ちんちくりんの手は少し汗ばむ。
「私の名はチャームです。前座は楽しんでいただけましたか?」
「じょ、女性!?タイルの下は空洞でしたか!」
するりと体を滑り込ませるように、上半身だけタイルの隙間から出て来たのは、重くウェーブのかかった、長い黒髪を抱え、肩を露出させた女だった。所々から赤黒い霧が漏れていたことから、正確には人間の女性を模倣した魔物だということが分かる。
「両手で掴みました。はなしませんよ?直に触れれば、鍵のかかる速度は段違いです」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる