勇者(俺)いらなくね?

弱力粉

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第二章(上)

第8話

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前回のあらすじ、死霊が仲間になりたそうにこちらを見ていた。


「アンさん、火傷しないように気をつけてくださいね」

「ふふふ、私もう死んでるけどね」


早速仲良くやっているようなので、とりあえず一段落と俺も夕飯に手をつける。

なにやらステーキに野菜やらがついたもので、ソースがかけてあって美味い。

ん?ステーキ?


「メイ、この肉どうやって持ってきたんだ?夏ほど暑くないとはいえ、腐らないのか?」


なぜか何も言わないメイ。タイランに野菜のおかわりを渡している。


「へっぽこよお、うまい飯が食えるんだからそれで良いだろう?細けえ事気にすんなって」

「まだまだありますので、お肉を焼いてしまいますね」

「おう、俺は後三枚は食うからな!」


なんだか急に怖くなってきたんだが、どこからか調達したのか?


「とりあえず、子供の世話なら精神年齢の近いタイランに任せようかと思いましたが、スズの方に懐きまくっているようですね。腹立たしい」


本音を隠してくださいリリーさん。


「アンよお、それだと前髪が邪魔じゃないか?」


リリーに応えているのか、はたまた脳筋の気まぐれというべきか。

タイランは、乱暴に食器をマットに置き、アンに近づくとアンの髪をいじり出す。そして再びアンの顔が現れたかと思うと... 


「変わってねえじゃねえか!」


てっきり前髪を留めて両目を露わにするのかと思いきや、先程と変わらず隠れたままだった。

代わりに前髪にバッテンの形のヘアピンがつけられたようだ。


「いやあ、俺も前髪を横に分けようかと思ったぜ?でもこれはこれで可愛いだろうへっぽこ?」

「おお、タイランお姉ちゃんありがとう!出来るだけ大事に取っておくよ」


まあだが子供はピュアでいいな、街で会った少年もそうだが、俺を見下すような事も無いし。


「おい、アン今なんだって?」

「ん?大事にするって... 」

「違う、その前だ」

「タイランお姉ちゃん... 」


その瞬間、持っていたフォークを片手でひん曲げるタイラン。きゅっとくちびるを引き締め、涙を流し始める。

ひ... フォークが粘土みたいになってる... 


「メイいぃぃ... メイよおお... 俺にも昔は妹のような存在がいたんだよおおぉぉ...」

「はい、正確には従姉妹でしたと記憶しております」


ぐにゃりと曲がったフォークを投げ出し、泣き上戸のようにメイに絡みつく。ほおずりをされているが、メイは気にしないといった風にタイランそっちのけで肉を焼き、タイランの皿に乗っける。


「あの時の可愛い可愛いメイはどこへやら。今では俺に社交辞令がどうだの、テーブルマナーがどうだのとくだらない事を教えてくれるよなあ... 」


そして泣き続けながら、落としたフォークを両手指で元の形にぐにゃりと戻し、ポケットから取り出したハンカチで拭いて、また肉を食べ始める。


「同じ従姉妹でも、スズ様がいらっしゃったではないですか」

「スズはあよお、俺よりも一つ幼かったのに、あっという間に俺よりも強くなっちまってえよお... そりゃあスズだってめちゃくちゃ可愛いけどよお、んぐ」


は?スズとタイランが従姉妹だと?ということはこのパーティーは従姉妹、姉妹で構成されていたものだったのか... 通りで最初から仲が良いわけだ。


「ふふふ、お姉ちゃん達ってもしかして旅芸人?」

「失礼なことを言いますねこの子娘は。ここにいる脳筋と一緒にしないでください」

「んだとおお!リリーてめえアンに何を吹きこんでやがる」

「タイランお嬢様、食事中に泣いたり叫んだり怒ったりなさるのはお控えください」


騒々しい... 食事くらい静かに取れんのか。


*********


朝だ。目を瞑っていても刺してくる光で分かる。野営のマットは少し固く、王宮のベッドが恋しくなる。走り込みがない分前回よりはマシだが、やはり疲れは取りにくい。

というわけで、またメイあたりに起こされる前に二度寝とシャレ込もう。

だがこんな違和感は何番煎じか、テスト提出後に、名前を書いたか不安になるような、そんな気持ち悪い感覚がそこにある。

こんなに気持ちの悪い状態を放置するわけには行かず、駄目だと分かっていても片目を開けて確認してしまう。

そしてそこにいたものを一言で表すと、化け物だった。

不思議な力で浮いている長い黒髪、真っ赤に充血しつり上がった目に、裂けた口、土色の肌には赤黒い血が塗りたくられていて、俺のすぐ横に寝転がり俺の目を見ていた。


「んぎゃああああぁぁぁ!!」

「ぎゃっはっはあはあああ!やっぱりへっぽこは驚いてくれたよ!」


掛けてあった布を巻き込みながら手足をジタバタさせて後退するが、聞き覚えのある笑い声に耳を傾けさせられる。

そして立ち上がったその化け物はおれを見下ろすと、ゴキゴキという体から鳴らせてはいけない音を鳴らす。

するとその化け物は、あっという間に前髪で目の隠れた白い肌の少女になる。


「へっぽこは脅かしがいがあるよね、んぎゃああああ!だってぎゃははははああ!!」


そこにいた化け物とは、昨日出会った、廃村に住み着いていた死霊の女の子だった。

くそが... どいつもこいつも、まともに起こしてくれるやつはいねえのか。メイは剣を抜くし、リリーはベッドから突き落としてきやがるし。


「アン様、鮮やかな変形ですね」

「そうでしょう!死んでからずっと暇だったから、こればっかり練習してたんだよ!」


爽やかな朝からは程遠い、物騒な話とホラー映画のワンシーン。

死んでから三日しか経っていないのに適応が早すぎるだろ、ノリノリか。そんなもん練習してんじゃねえ。


「勇者様、そろそろパンケーキが焼けますので、ご支度をお願いします。お食事終わりましたらすぐに出発なさる、とリリー様がおっしゃっていました」


ほのかな香ばしい匂いを確認し、音のなる方を見ると、確かに鉄板が火にかけられている。そしてタイランが近くで凝視している。

パンケーキ?


「そういえば、パンケーキに入れるミルクってどうしているんだ?腐ったりとかするんじゃ?」


なぜか何も言わないメイ、少しの間を空けて焚き火に戻ってしまう。


「メイ!生クリームは!?」

「タイランお嬢様、今から牛乳で作るのはとても手間がかかります。また今度にいたしましょう。代わりにジャムと蜂蜜を持ってきております」


砂糖もあるじゃん、なんでもありだな異世界。でもなんかジャムの歴史は長そうだし、ありえる話なのか?


「っちぇえええ、昨日王都で食べておくべきだったな」

「タイランお嬢様、それは二日連続パンケーキになってしまいます」

「俺は一向に構わないぜ!」


能天気な話をバックに、俺も焚き火のそばに座る。するとちょうど焼き上がったようで、二枚のパンケーキが乗った皿をメイに渡される。


「それでは、今日の予定を話しましょうか。南の街まで行くのは確定として、今回は夕暮れ前に着きそうですかね」


おお、イチゴのジャム甘え、生地もふっくらしてるな。


「南の村が崩壊したことを町長に伝えて、屋敷に泊まれないか聞いてみましょう」


蜂蜜は... 蜂蜜だ。虫歯が少し気になる。


「その後は四天王探しですね。ここで起きた地震に、四天王が関わっている可能性が高いですが... アン、生き残りの事は教えてくれないんですね?」

「メイお姉ちゃん、この生地柔らかいね」

「お口に合ったようで何よりです」


ひっ、リリーをあしらうなんて俺には到底真似できねえよ... 

あ、やめてください睨まないで... 


「まあそういうことで、とっとと食べて行きましょうか」


*********


ものすごい勢いでパンケーキは無くなり、荷物を全て荷車に乗せて出発するだけになる。


「どうしましたかアン?置いていきますよ?」


食料の入った袋をはじに寄せるようにして、アンの座る場所を作るリリー。

昨日は睨んでいたけれど優しいな。

アンの方を見ると、俺達に背を向け、一面瓦礫の廃村の方を向いているのが分かる。

リリーの声には反応しないが、少し間を置くと、丈の長いスカートを勢いよく翻し、こちらに元気良く走ってくる。

そしてその勢いのまま荷台に飛び乗り、スズの膝の上に身を収める。

リリーの眉は下がっていた。



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