勇者(俺)いらなくね?

弱力粉

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第二章(下)

第11話

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前回のあらすじ、四天王は倒したが...


後ろに横たわっている二人のことを考えると... 悩んでいる時間なんて無いような気がする。やれば俺の股間が死ぬ可能性があるが、やらねばタイランとメイが死んでしまう。

俺は勇者だ... 勇者として召喚された男なんだ、勇気を出せ... 

無言で歩み寄り、スズの手にそっと触れる。所々擦り傷や切り傷が目立つが、柔らかい、きめ細やかな手だ。


「ひっ... いえ、大丈夫です。続けてください... ん!」


俺よ目をつむれ... 何も考えるな。痛がってる涙目のスズを見るな意識するな。

目をつむった状態から薄っすらとまぶたから力を抜き、二つの少し盛り上がった山の位置を確認する。

ゆっくりだ... ゆっくり動かすんだ。手以外に触れるな、召喚初日のミスを犯すな。


「ふ、ふうう... 」


やった!やったぞ!置いた。俺は置いたぞ!これで全員助かるし、俺の俺も危機にさらされていない!

ところが俺のテンションとは反対にスズの表情は少し冷めていて...


「い、は、はあ... あ、あの勇者様... その、申し上げにくいのですが、直肌に触れていないので能力が発動出来ないのです... ですからその、出来れば中に...」


じ、直肌だとおおおお!?

何ということだ... 俺は馬鹿か。スズが能力を発動させるためには、手が魂に近い直肌に触れていないといけない。そう言ってたじゃないか。

くっそが!公共の場で俺は身動きの取れない女の子の服の中をまさぐり、胸に手を置かないといけないというのか!?

出来ない... そんな俺の俺と、俺が危ない目に晒されることは... 


「勇者様。出来れば少し急いで頂けると... メイさんが... 」


く... 考えるまでもなかった。俺の股間やこの危ない状態、それを二人の命と天秤にかけたら俺が取るべき行動は決まってるじゃないか。

悩んだり、ためらう事自体が間違いなんだ。


「ご、ごめん。今やる... 」


腹の辺りの、破けている所に両指を入れ、服を引き裂く。すると腹が... 

腹が!ある...!

ちげえだろう馬鹿か俺は、腹なんてタイランのそれを何回も見ているじゃないか。何も特別な物ではない、ただの腹だ。

だが... 普段何気無く見ている、女性の付けた宝石も... 鉱石を発掘し、不純物を取り除き、研磨するという長い工程を踏んだ上での宝石と考えるのなら、例えそれが数万円の価値だとしても、それはこの世のどんな物よりも美しいと考えられるのではないだろうか。

当たり前に見ているそれは... 本当は貴重なものなんだ。人間だって、この星だって、宇宙だって... 天文学や進化論をよく知っている訳じゃないが、きっとこれらが生まれる可能性だって、そう高くないはずなんじゃないか?

そう考えると... そんな可能性に巡り会えたことを考えると... この腹は、美しい。


「ぬおおおおおお!!!なんて事だっ!自爆してしまったああああっ!」

「ゆ、勇者様!?」


おおお、俺の俺があ... 波打つ... 

俺の... 俺の戦いは、ここで終わるのか?タイランとメイを助ける手伝いも出来ずに、こんなところで... 

いや!覚悟を決めるんだ俺!リリーは言っていたはずだ、敵が何かを仕掛ける時、被弾を覚悟してやってくるものだと。

タイランはそれをした。全身麻痺に陥る覚悟をしてあのジジイを倒したんだ。それが俺にも出来なくて、なにが勇者だ!俺の俺の痛みを乗り越え、事を成し遂げるんだ!


「俺もお!!被弾を覚悟できる男だ!」


冷や汗が吹き出してくる、涙が自然と零れ落ちてくる、手が震える。だが、俺はやらなければいけないんだ!俺の俺の痛みを覚悟し、スズの手を運ぶんだ!

やっとの思いで山の麓まで少し汚れた白い布をめくり、山の頂上にあった手を麓の肌まで持ってくる。


「んん...! ゆ、勇者様... まだ足りません、あと少しです」


うおお!俺は捲るぞおおおお!

腹と首を同時に括った気分だった。人間、その気になればどんな事でも出来そうだと、そんな昂揚感にも似た何かに包まれていた。

だがその時、俺が山を覆い被す布に手を伸ばした時、そんな俺を幸か不幸か襲ったのは、天使か悪魔か。スズと俺の体の間の、ほんの少しの隙間を通ったそれは、俺のそんな気持ちを少し落ち着かせる。

勢いよく向かってきたそれに、反射的に体を仰け反らせ、尻もちをつく。

石造りの地面に刺さったそれは、見馴れた投げナイフだった。

見上げると、倒れた建物の上からこちらを見下ろしているリリーの姿が映る。


「リリー!助かった、すぐにこっちに降りてスズを... ぐふっ」


言葉の途中でリリーは建物から飛び降り... 勢いをそのまま、空中で横に半回転し、蹴りを俺の頬に喰らわせる。硬いブーツが... 俺の顔にめり込む。

もしかしたら... とんでもない誤解をされているのでは...

「待てリリー!違うんだ、感情を読んでくれ!お前なら分かるはずだ!」

「分かる?分かるですか?ええもちろん分かりますよ。葛藤、勇気、罪悪感、緊張... そして性的興奮!よおく分かりますよ?あなたが何をしていたのか、あなたが何を考えていたのか、よおく分かりますよ?」


な... くそが!感情を読めるだけだからこういう時面倒だ!完全にそういう状況と一致してるじゃねえか!


「リ、リリーさん待ってくだ... 」

「気づき、焦り、不安、怒り... 言い訳はこれで終わりですか?」


な、なんだと... 俺は... 俺はここで終わるのか?こんなところで、まだ四天王の半分しか拝んでないのに、能力すら発動してないっていうのに。こんなところで、こんなことで...

... ち、違う!まだだ、まだ終わっていない!リリーは感情を読める。それをちゃんと利用するんだ!


「リリー!俺は...!」


あ、やばい... ナイフを構えてこっちに来た。


「足掻いている?なんのつもりですか?」


そしてリリーはナイフを振りかぶる。

言ええええ!早く口にしろ!


「俺は!スズを性的に襲っていない!」


反射的につむった目をゆっくり開けると... 至近距離のリリーの顔に、黄色の瞳に目が吸いこまれていく... 

お、思い切り睨まれている... 


「本当のようですね。スズが止めに来ないということは... 脱臼でもしましたか?」

「わ、分かりません... でも動かそうとすると脳が拒否して来ると言いますか... すみませんが、無理やりお願いできますか?」


リリーはナイフをしまい、振り向いてスズの方へ向かう。

よ、良かった... リリーは嘘も見抜けるはずだから、本当の事を言えば通じるんだ...

というか、仲間の手によって命の危機にさらされるとか、どうなってんだ俺の異世界生活。




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