勇者(俺)いらなくね?

弱力粉

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第三章(中)

イケメンから話を聞こう!

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「父上の側近のババアに頼まれてね。元々は、ほんの二週間ほど前から増えすぎた魔獣を狩るだけの仕事だったんだが、少しきな臭くなってきたんだよ」


宿の食堂にて、話を聞いているんだか聞いていないんだか、タイランが口に食べ物を詰めている横で、スズの兄、カズ王子が話をする。ちょうど婚約者の男も起きてきたようで、挨拶をして席に着く。

カズ王子は、隣のスズの頭に右手を伸ばしながら続ける。


「王都に帰ろうとしたら、こんな物を見つけてね」


空いている手でポケットから何かを取り出しテーブルの上に置く。

スズは... カズ王子の手が頭に届く前に手首を掴み、骨を折る勢いで握り潰していた。

これは... 理科室で見る試験管?コルクで蓋がされていて、中には白砂糖のようなキラキラとした白い粉が入っているな。


「お、お兄様、これは?」

「私が見ます」


リリーが試験管に手を伸ばし、コルクの蓋を開ける。


「あ、嗅ぎすぎるとまずいから気を付けてね。これに惑わされるリリーなんて、僕は見たく無いから」


するとリリーはそのコルクを指で弾き飛ばし... カズ王子がそれを笑顔で受け止める。

匂いを嗅ぎすぎるだけで危ないもの?

そんな物をリリーはどうするのかと思いきや、試験管を少し離れた所に持ち、手をあおいでそれを嗅ぐ。そしてその粉を色々な方向から観察したりする。

か、化学実験の時のやつだ...


「何ですかこれは?知らないものですね」

「麻薬だよ」


麻薬!?この世界にもそんな物があるのか?


「はあ... 相当効き目が強いもののようですね。それにしても、なんで試験管なんか持ってたんですか、これは王都の研究室の物ですよね?化学にも興味を持ち始めたんですか?」


すると、カズは笑顔で肩をすくめ、さあねと言った風におどけたポーズを取る。


「とにかく、それをこの町に広めている奴がいるから捕まえてやろうと思ってね。その為に、泣く泣く誕生パーティーを欠席してまで君たちの到着を待っていたんだ... スズ!!成人おめでとう!!」


スズに再度手を伸ばし、抱き着こうと体に腕を巻きつけるが... スズはいまだに片方の手首を握り潰すように掴んでいる。

一つ理解したことがある。このカズ王子という男、重度のシスコンだ。なんだかミシミシという鳴ってはいけない音がしているが、大丈夫だろうか?


「だから協力してほしいと?私達は四天王を討伐しに来たんですよ、今回の四天王に麻薬が絡んでいるとは到底思えません。それなら魔獣の件を探った方が有意義です」


とバッサリ切り捨てると、カズ王子はスズに抱き着いたままニッコリと笑い...


「頼むよリリー、売人を一人捕まえて部屋に拘束しているんだ。情報だけ引き出してくれたらそれでいいからさ」

「くどいですね、それだけしか話すことが無いのなら私達は魔獣の情報を... 」

「勇者君、きみ強いよね」

「...」


は?なんで俺に焦点を当てるんだよ、俺はめちゃくちゃ弱いぞ。


「さぞかし凄い活躍をしてきたんだろうねえ、その活躍した話、聞きたいなあああ?」


スズに掴まれた腕をミシミシ言わせながら、カズは俺にニッコリ笑顔を向けてくる。するとついに、ボキッという大きな音が聞こえて来る。

それでもカズ王子はスズに抱き着いたまま、表情を変えない。

スズはもう片方の腕に右手を伸ばす。


「あなたはスズに、勇者パーティーに不利になることはしませんよね?」

「もちろんだよ、言いふらしたりしない。でも、僕と君の仲なんだから、お願いを聞いてくれたって良いじゃないか」


い、言いふらすってまさか... こいつ俺が弱いっていうのを見抜いて...


「... 本当に良い性格をしていますね。勇者は私についてきてください。メイとスズとタイランは魔獣の調査を... クルミ王子殿下はどうなさいますか?」 

「差し支えなければ、リリーさんに同行させては頂けませんか?」


するとリリーは、よく見ていないと気付けないような速度で、ほんの一瞬の間だけ口角を上げる。

リリー、婚約解消まで持っていくというのは賛成だが、本当にリリー自身になびかせる方向で進めるのか...


「それではまた昼頃にここで会いましょうか、頼みましたよメイ」

「かしこまりました。リリー様」


再び、なにか硬いものがボキッと折れたような音が響く。


*********


「クルミ王子殿下、妹とのご婚約おめでとうございます」

「ありがとうございます。これからよろしくお願いします、カズ王子殿下」


道すがら、二人の王子達は、なにやら優雅に挨拶を交わす。そんな様子を俺たちは真顔で見ていた。


「なあ、あの王子が俺たちの方についてきたのって、スズのお兄さん目当てじゃないのか?」

「うるさいですねへっぽこ、私の能力を忘れましたか?あの王子も婚約者も楽しんではいませんよ。それに... 」


クルミ王子が握手をしようと腕を出すが... カズ王子は動かない。両腕をダランと垂らしたままニコニコしているだけだ。


「あの空気に、王子は耐えられますかね?」

「い、いやあれはさっきスズが骨を... 」


言いかけた所でカズ王子は話題を戻し...


「捕まえた売人を拷問にかけてみたんだけどね、おかしな情報しか吐かないものだから参っちゃって」

「おかしな情報ですか」

「まあ、見てもらった方が早いだろうね。あそこの宿に泊まっているんだ」


ほう、顎を突き出してどこか遠くの方を指しているが、どの建物が宿なのか全く分からん。


「王族のくせに、随分と安っぽい所に泊まっていますね」

「はは、君たちもそうじゃないか」


この世界に高級宿やホテルのような物があるかは分からんが、王都の城の部屋に比べれば、質素な宿に止まっていようだ。


「あれはスズの要望ですよ」

「知っているよ」


するとリリーはカズ王子を睨む。

こらこらリリーさん、カズ王子の感情を読んでください。


「スズさんとリリーさんは姉妹で本当に仲良しですね。私にも兄がいるのですが、あまり仲は良く無く、スズさんとリリーさんの関係が少し羨ましいです」


とクルミ王子が言うが、周囲の空気の温度が少し下がったような雰囲気になり...


「ははは!さすがクルミ王子殿下ですね!私とスズの良好な姉妹関係に気付くとは!」

「はははクルミ王子。私とスズのことはどうお考えですか?私たちも兄妹なのですよ」


途端、リリーとカズ王子の間に挟まれた、俺とクルミ王子の周りの空気が、熱くなったような気がする。

一応リリーとカズ王子は兄妹じゃないか... もう少し仲良くしても...


「やっぱり仲の良さが重要ですからね!会うたびにどこかしらの骨を折られているような男とは比べ物にならないのですよ!」

「あれは照れ隠しだよ、ちんちくりん。スズに相応しいのは、私のような高貴な人間だというのが分かっていないようだ... 」


街中。奇抜な格好をした少女と、豪華な服に包まれた青少年が言い争いのようなものをおっ始めたら周りからどう見られるか、想像に容易いと思う。

そんな時皆ならどうするかわかるよね?そうだよね、何歩か離れて他人のフリだよね。

動揺していたのはクルミ王子も同じだったようで、カズ王子の方を見て、どこか困ったような顔を浮かべる。



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