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失ったものと温もり⑤
しおりを挟む涙を流しながら笑いくしゃくしゃになっているだろう顔を、愛おしそうに撫でられ涙を吸われる。
「そんな可愛く泣かないで。このまま閉じ込めてしまいたくなるから」
ディートハンス様は私を見つめながら、頬にかかった髪を優しく耳へとかけてくれた。
琥珀に光る瞳にヘーゼルが細やかに散り、一つひとつに熱が込められその一つひとつの光に魅入られる。
「ディートハンス様の腕の中なら嬉しいです」
「ミザリア。リア。今夜は私のことだけを考えるといい」
「ふふっ。すぐに頭がいっぱいになりますね」
ディートハンス様に閉じ込められるならば幸せだろうと、この温もりを離したくないのは私のほうだ。
「それよりももっとだ」
顔が近づき頬にディートハンス様の黒髪が触れる。
唇と唇が触れ、熱い吐息とともに名を呼ばれる。
「リア。これからはずっと私がいる。一人にはしない」
「私も、ディートハンス様を一人にしません」
くすぐったくて、温かくて、何より嬉しくて、凄い速さで鳴る心臓が痛いほどだった。
欠けていたものがようやく埋まった安心感に包まれる。
これ以上ないほど、ぴたりと嵌まったそれはどんなことが起こっても二度と外れることはないだろう。
ディートハンス様の顔の角度が変わり、その際にさらさらと触れた髪をくすぐったく思うのと唇が重なるのはほぼ同時だった。
触れ合うような口づけを何度も繰り返し、何度も視線を合わせ名を呼び合う。
互いの存在を確かめ合い、儀式のようなキスはただただ優しく甘い時間だった。
「リア。もっとだ」
その言葉が合図となり、舌が差し込まれる。
日に日にディートハンス様の奥に灯る光は私を焦がすように熱を帯び、優しく私を包みこもうとするたびにさらに燃えさかっていた。
その瞳は、私が欲しいと、もっともっとと告げていた。
それでも常に私を優先するディートハンス様はとても紳士的だ。
少しずつ。慎重に。
私が怖がらないように、だけどしっかりと私の内側へと浸透させ刻みつけるように、確実に奥へとそして範囲も増えていく。
初めは躊躇いがちに私の反応を見ながら動いていた舌も、徐々に頬の内側や、上顎の部分を肉厚の舌が掠め私の反応をさらに引き出そうとする。
「……んっ」
「声、聞かせて。私だけのリアをもっと見せて」
堪えきれずに漏れた声に笑みを刻むと、一層熱い瞳で私を捉える。
ちゅ、と舌を吸い付かれ、知らないところなどなくすようにゆっくりと様々な方向から絡み取られる。
「んっ、あっ」
「リア。かわい」
私のだけのリア、と優しく頭を撫でられ、徐々に遠慮がなくなる舌に翻弄される。
「…………んんっ」
「……っはぁ……」
ディートハンス様の感じ入った声に煽られる。
口内を埋め尽くす舌の存在とその声に身体がしびれるのがわかった。
舌を優しく吸われると、腰に電流が走ったようにぞくぞくした。だけど、徐々にそれだけじゃ足りなくなってくる。
もっともっとと、ディートハンス様の熱が移ったかのように私もディートハンス様を深く感じたくなった。
お返しに真似をして舌を吸うと、ぎゅっと腰に回されていた手が探るように動いた。
つつつと上がって前に回るかと思ったそれは一度ぴたりと止まり、また腰の位置に戻る。
その分、口づけが深くなり、息苦しさを伴うものへと変化した。
口の中が二人の舌でいっぱいになる。その間もディートハンス様の指はときおり動きを見せるけれど、決して背中や腰以外に触れることないまま悔しそうに吐く荒い息が増えていく。
その動作や息遣いにもさらに煽られる。
想われている、大切にされている、それが歓喜となりディートハンス様のことしか考えられなくなる。
「リア。今日は頭の中が私のことでいっぱいになるようにたくさんキスをしよう」
すでにディートハンス様のことしか考えられなくなっているのに、これ以上を望まれているらしい。
それからが長かった。
捕われるというのはこういうことかというくらいしつこくて、触れる吐息、角度、絡み方、目をつぶっていても誰からのものかがわかるくらい身体にも心にも刻みつけられた。
ようやく解放された頃には何も考えられず、それからぽつぽつと話しているうちに睡魔に襲われ、誘われ包まれるようにその腕の中で眠りついた。
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