巻き込まれモブは静かに学園を卒業したい【後日談追加】

橋本彩里(Ayari)

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取り戻した日常4

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 気配が近づき、再び名を呼ばれる。
 
「……ルーシーだよね?」

 かかとを下ろし、そろそろと声が聞こえた方に視線をやってルーシーは驚きに目を見開く。
 今日は青い髪を両サイド編み込みしたラシェルが、ぽかんとした顔でこちらを見ている。

 ――ラシェル様!?

 学園での着崩した姿ではなく、白シャツのボタンを今日はしっかり上まで留めていて、緑のベストに黒に近い焦げ茶色のジャケットにズボンと、すっきりした貴公子然として立っていた。
 横には年齢不詳の美女がいるが、自分たちよりは年上だろう。いつもと雰囲気は違うが、今日も女性とデートで忙しいらしい。

 ――どこに居ても目立つ人よね。

 王子と側近たちは、学園以外のどこにいてもその放つオーラとともに注目を浴びずにはいられないようだ。
 ラシェルが声をかけたことで、ルーシーたちを見る周囲の視線も増える。

 身体のラインが(胸は偽だけど)見える服装と、派手目の化粧のルーシーを上から下へと観察するように見ていたラシェルは、その視線をブライアンに絡めていた腕に止めた。
 なんとなく居心地が悪くて、ルーシーは頼るようにそっとブライアンにくっつきながら、小さくいつものように会釈をした。

「こんにちは。ラシェル様」
「意外なところで会ったね」

 笑みを浮かべる金茶の瞳の奥は、いったい何を考えているのか底の読めない鈍い光りが宿っており、なんとなく気まずく感じた。
 今週末誘われた際には予定があることも告げていたし、ラシェルもほかの女性を連れているのに、後ろめたい気持ちにさせられる。
 
 にこやかな笑顔を浮かべてはいるが、それは取ってつけたようなよく見ていたものより含みがある分、落ちつかない。
 ここ最近話すときに向けられる笑みは、まだマシなほうだったのだと思い知らされるものだった。

「まさか広い王都で出会うなんて、すごい偶然ですね」
「ああ、そうだね」

 じっと逸らされない視線に、ルーシーは弱々しく笑みを浮かべた。
 ラシェルの腕にそっと手を回している女性は、今までラシェルが遊んできた相手とはずいぶん違い落ちついた大人の女性で、興味深そうに自分たちのやり取りを眺めている。

「……えっと、今日はデート日和ですね。その、この後用事がありますので失礼しますね。行こ。ブライアン」

 ブライアンをくいっと引っ張り、その場を離れる。
 背後から突き刺さるほどの視線を感じるが、ラシェルも相手がいるのだから失礼ではないはずだと止めることなく足を進めた。
 状況はわからないが何かあるのだろうかと、ブライアンがこそっと問うように顔を寄せて尋ねてきたので、ルーシーも顔を寄せてこそこそと答える。

「おい、いいのか?」
「うん。まさかこの姿を見破られるとは思わなかったけど、彼もお相手がいるから長く話すのも悪いしね。それよりも、早く行こ」

 どういうわけか、ラシェルに声をかけられてから心臓がどくどくと早鐘を打っている。
 学園の外で会ったことや、あっさりと見破られたこともあって、気構えがなかったため余計に驚いてしまったのだろうか。

 そっと左胸を手で撫で追いやるようにぱっぱっと払うと、ルーシーは気持ちを切り替えてブライアンをぐいぐいと引っ張る。
 その姿を、ラシェルが眉を寄せ苦々しい顔をして見ていたのには気づくことなく、ルーシーはその場を後にした。


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