詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~

橋本彩里(Ayari)

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第一部 第四章 ひっそりとうっかりは紙一重

まだ終わりません②

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 思い出してははぁぁーと溜め息をつく私の代わりに、ルイが説明をしてくれる。

「溺愛がやばいからね。テレゼア公爵家の娘について噂ぐらいはサミュエルも聞いたことあるでしょ?」
「ああ。確か、テレゼア公爵家の長女はとても美しくて、慈愛に満ちた表情で妹を愛でているというやつか」
「それも大概だと思うけど、実際はそんな可愛らしいものじゃないから」

 その後、私に聞こえないようにルイはこそっとほかの三人に言い添えた。
 すると、サミュエルが目を見開き、シモンの表情がすんとなり、あのユーグが眉を上げる。代表して、サミュエルが尋ねる。

「どうやって?」
「それが彼女の怖いところだよねー」

 ルイが困ったように首を傾げながらふふふっと笑う。
 一体、何を言ったのか。知りたいような知りたくないような。
 そこで、何やら勝手に納得したサミュエルが私を見た。

「なるほどな。さすがテレゼア公爵家といったところか。ところで、あの魔力は何だ? さっきも言ったが、テレゼア公爵家の娘について長女の話はたまに聞いていたが、その長女が愛でる大人しい次女としか話は聞いていない。どちらかといえば、平凡な妹でも大切にする長女の美談として語られていると思っていたが」
「そうだよね。外向けはそれで合ってるんじゃないかな?」

 私も噂はそのように認識しているとうんうんと頷くと、ルイが一度私に視線を投じるとふっと息をついた。
 ルイの呆れたような労るような視線に、私は複雑な気持ちになる。

「だが、実際はこうだ」
「こうだとは失礼だからね」
「悪い」

 サミュエルも失礼ではあるけど、そう言い切られるようなことをルイは一体何を言ったのか。

「答えは簡単だよ。エリー自身が目立ちたくなかっただけであって、それも込みで彼女の周囲がそうあることを望んだ結果だよね」
「意味がわからないな」
「まあ、そうだよねぇ」

 そこでルイが嬉しそうにふふふっと笑う。
 ルイ、楽しそうだね。ほんと、何を言ったの?

「エリーの魅力をそう簡単に語られてもね。魔力に関してはサミュエルも気づいていると思うけど、相当なものだよ?」
「あそこまでだと思わなかった。あれは風と水の応用か?」
「エリーならではだよね。今まであまり見せてくれなかったから、これからそういうのもたくさん見られると思うと楽しみだよ」

 何やらルイの機嫌が良い。そして微妙な話題に私は遠い目をした。今日はいろいろあって思考が定まらないしついていけない。
 そんな私にサミュエルが話しかけてくる。

「あれはどうやった?」
「あれとは?」

 ぱちぱちと瞬きを繰り返しサミュエルを見ると、なぜか満足そうに笑うサミュエルがいた。
 彼も彼で楽しそうだけれど、先ほどの会話にどこにおもしろいことあったのだろうか。こっちはかなり大変なのだけど。

「宙に水を浮かせるやつ」
「風で包み込むようなイメージでやってます。溜めた水をそこから出さないように受ける感じです」

 サミュエルには協力してもらったし、教室で披露したので今更隠す気はないので素直に答えると、ふーんとサミュエルが頷きながら質問を続ける。

「そんなこともできるのか。そういえば字を書こうとしていたな」
「それもその応用です」
「ふーん。それにしてもいつ鍛錬した?」
「まあ、いろいろ時間がありましたもので……」

 そこで私は苦笑する。転生を繰り返し何年も鍛錬する時間があったなんて信じてもらえない。
 笑ってごまかせとばかりににっこりと笑みを浮かべると、サミュエルがうっと口を閉ざした。
 よくわらかないけれど、あまり突っ込んでほしくない時は笑顔を浮かべると大抵黙ってくれる。

 セコ技を使っているようで申し訳ないが、こちらも死活問題なので使えるものは使わせてもらおう。
 そう内心にまっとしていると、新たな火種がやってきた。

「私も興味がある」

 そこで普段なら滅多にこちらの話に入ってこない隣席のシモン王子が声を上げた。それから、私を見つめにっこりと微笑む。
 金糸の髪といいこの王子は全てがきらきらしている。

「エリザベス嬢。このたびは大変でしたね」
「いえ。巻き込んでしまい申し訳ありませんでした」

 完璧王子に声かけられたととても驚きながら、さすがに今日はお世話になっているので気持ち的にも邪険にできない。
 しっかり目を見て謝ると、彼の腹心であるユーグはそのことが気に食わないとばかりにじろりと睨むような視線を私に向けた。

 完璧王子に彼を敬愛する友。こちらもなかなか個性的な組み合わせだ。
 まあ、他人事だし、関係ないしと、私は話しかけられたので答えを返したのみ。自分に関係ない人の思惑まで気にしていられない。
 そんなこちらの心境など知らない第一王子は、その美貌に笑みを刻むととても穏やかな声で告げた。

「いえ。大変興味深いものでした。なのでいろいろ詳しく聞きたいですね」

 興味と言いながらその顔は涼しげだ。理知的な瞳は物事を見透かすだけで、自分の感情を一切見せないのだ。

 ──う~ん。やっぱり、わかりにくい王子だ。

 シモンと何度か話したことがあるとはいえ、それは授業の範囲内でプライベートのことなどはまったくない。
 すごく緊張するなと私はわずかに身構えた。


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