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第一部 第四章 ひっそりとうっかりは紙一重
ややこしいのは遠慮します①
シモンが話すと同時にさらに注目を浴びるのを感じてはいるけれど、目の前の第一王子を前にそれどころではなかった。
うーんと首を唸り一度視線を外し、もう一度観察。
──さっぱり何を考えているのかわからない……。
美しい顔立ち、完璧な笑顔。何より理知的な瞳。
この国の第一王子と間近で対峙して、しげしげとその姿を拝見してみたけれど、やっぱりわからないなと考えることを諦めた。
何もかも完璧すぎて、すごく距離を感じる。
ループ事情や中途半端な記憶がある私の場合、王子との距離があればあるほどいいと思うこともあって、話すときはどうしても身構えてしまう。
こういう時はこれしかないと、淑女モードの笑顔をしっかり貼り付けて返した。
「大事になってしまって恥ずかしい限りです。誰の味方でもないシモン殿下方が黙って見守ってくださったことで、ややこしくならずにすみました」
「なるほど」
改めて礼を述べると、そこでぞくりとするほどの凄絶な美しい笑みとともにシモンが頷いた。
それだけの動作だったが、私は思わず横にいるルイの手を掴んだ。
──完璧王子、気が抜けない~。
頷くだけでその眩いほどの美貌を撒き散らすとは、さすが第一王子。主役級の存在だ。
びくびくと警戒していると、ルイが優しく私の手を握り返しシモンとの間に入るように座る角度を変えた。
「シモン、やりすぎだ」
「ああ、ごめん。ルイのお眼鏡にかなった女性はどんな人かなと思ってね」
「あまり遊ばないでくれる?」
「ちょっとね。さっきので興味が湧いた」
「シモンの興味ね。さすがのシモンでもあれはインパクトあった?」
「あの掛け声は忘れられないよ」
──ああ~、それかぁっ!?
やっぱり、あの掛け声をなんとかしなくてはいけないのだろう。
『ほいせぇ』は爆笑されるので、『よいせぇ』のみに最近統一してみたのだけど、それでも耳に残るらしい。
完璧王子に指摘されると、すごくすごーく情けないというか、恥ずかしいというか、でもどうしようもないというか。
「その、忘れていただけたら……」
「あんな可愛らしい掛け声は忘れられないよ。とても面白い試みだと思うけど」
「試みではなくて、癖みたいなものなので。難しい魔法を使うときはそのほうがイメージしやすいというか。やっぱり、あれはあまりよろしくないんですね……。変わる掛け声見つけないと」
これは急務な課題だと、机に視線を投じて真剣に考え出す。
どっこいせぇ? よっこらせぇ? ええ~いなんて何か投げやりな感じだし、とぶつぶつ言っていると、これまでのただただ完璧涼やかなイメージとは異なる穏やかな声でシモンに提案された。
「『それっ』と『いでよ』 はどうかな?」
「まともな感じですね。語尾とか伸びずにできるかしら?」
「慣れたらいけそうだけど。要は頭の中のイメージと繋ぐための言葉なんだよね? 『とりゃあぁ』は?」
「それはさすがに……」
気合が入るとたまに出てしまうそれを言われて、ぎくぅと背筋が伸びた。誤魔化すように苦笑を浮かべると、横でルイがくすりと笑う。
「そう? 悪くないと思うけどね」
淡々とした声で軽く首を捻るシモン王子。どこまで本気で思っているのか。
声は穏やかであるけれど、変わらない表情やその輝くようなコバルトブルーの瞳の奥の光は変わらずどぎまぎしてしまう。
あまり視線を合わせられずにいたがそっとシモンを見ると、変わらない涼しげな表情なのに水色の瞳が鮮やかに煌めいたように見えた。
──もう心臓に悪いよ~。読めないよ~。
何かするたびに、何もしなくても、その金糸のような髪から金粉が舞っているようだ。
なんで、そんなにきんきらなのよっ!!
ルイみたいに可愛げがあったり、サミュエルみたいに単純な男気みたいなのもあってもいいのに、完璧王子の完璧さったらすごい。これぞ物語の王子様で隙がなさすぎる!
意味のわからない勝手な文句を脳内で発生させながら、ひくりと口元を上げて話を戻すことにする。
「そ、うですね。やっぱり短くしていってそのうち無言で使いこなせる方向性にもっていったほうがいいかと思います。でも、風なら風、水なら水と唱えたときもあったのですが、極端になってしまうんですよね。風なら『か』、水なら『み』で、連動ならかみかみ、ふみふみ、ふすふす、とかも考えてやってみたんですけど、いまいち力が練りこまれないというか」
「ぴょんぴょんでもいいかもね」
「ううーん。それは間抜けすぎるというか……」
――……って、えっ??
普通にシモン王子に掛け声の提案されてるっ!? ぴょんぴょんとは何?
あっ、冗談?
理解がついていけず見上げると、穏やかな表情のままこちらを見るシモンと目が合った。
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