2 / 51
はめられた死に戻り前
2.
しおりを挟む「事の重大さを理解していないようだな。罪人が逃げ出さないように捉えろ」
殿下の命令を受けた騎士に乱暴に膝をつくように背中を押され、仰ぐ形でマリアンヌたちを眺める羽目になった。
こうなればどうにもならないのだろう。
今更気づき足掻いたとろで誰も助けてくれないことを、マリアンヌの表情、周囲の反応から嫌でもわかる。
家族は現在、不当に獣人奴隷を斡旋したとの罪状で領地から出ることができない。
ここしばらく奴隷問題は王都を騒がせていたが、その犯人は私たちの仕業だと捜索状を突きつけられたばかりだ。
もちろん、それらに関わっていないので異議申し立てして対応中なのだが、そんな中、私はマリアンヌによって教会の大事な物を盗んだ罪を擦り付けられてしまった。
もしかすると、それもマリアンヌ、もしくは政敵にはめられたのかもしれないとさえこの現状に思う。
「……最悪」
「貴様、自分の罪も認めずそのような態度。これまでのマリアンヌが許してきたことを理解していないのだな」
「私は一切罪を認めません。家族もです。私たちは潔白ですから」
ちょっと現状の思いを口にしただけじゃないか。
それに私には身に覚えのないものばかり。
きっ、と睨みつけるが、相変わらず彼らをしっかり捉えることができず視線が合わない。
取り巻き立ちの髪色から、黒、白銀、赤、青そして殿下は紫と、私は心の中で彼らを呼んでいた。
五人全員の顔には黒い靄がかかっているため、顔の全体像が掴めない。だが、侮蔑を湛え睨みつけられているのは雰囲気でわかる。
私は昔からこの黒い靄が見える。
瘴気のような悪いもので、感覚的に聖なる力で払えるものだと思うが、私にはその力がないので払えない。
これほど真っ黒な人たちは初めてで、マリアンヌに紹介された時にはすでにそうであった。
高ランクの回復魔法が使え、聖女と崇められたマリアンヌが払わないのなら払わない理由があるのだろう。
どのみち私にはどうすることもできないため、口出しする気もない。しても聞いてもらえるとは思えない。
マリアンヌは侯爵令嬢で、子爵家子女の私は権力的にも下だ。
世間の目のため表向き従順にしてはいたが、婚約者を奪われポイ捨てされてから私はマリアンヌを信用していないし、彼女の取り巻きたちが苦手だ。
しかも、世間的にマリアンヌとケビンが浮気したことはなかったことになっている。
マリアンヌはかなりドジなため、その後始末をする役目が私といったところだったが、感謝されこそすれ断罪される謂れはなく、ただただこの状況に失望する。
「厚顔無恥もたいがいにしろ!」
紫の殿下が声を張り上げた。
――厚顔無恥なのは、あなたが庇っているそこの女ですが!?
聞いてくれるなら声を大にして言いたいが、彼女に関して何を言っても理解されない。
怒りを超えた失望をどう処理したらいいのかぐっと拳を握りしめていると、ほかにも、と罪状を並び立てられる。
曰く、嫉妬して聖女を池に突き落とした。
(実際はマリアンヌが調子に乗って勝手に落ちただけ)
曰く、聖女のドレスを羨んで隠した。
(私のドレスを気に入ったからとマリアンヌが奪っていったのだけど?)
曰く、聖女を毒見役にした。
(男性から押し付けられたプレゼントを後で返却しようと置いておいたら、勝手にマリアンヌが食べて勝手に泡を吹いた)
曰く、聖女の悪口を言いふらした。
(していない。むしろ、これだけのことをされて誰にも口外していない私を褒めてほしいくらいだ)
曰く、色目を使って男をたぶらかした。
(潔白!)
曰く、日頃から聖女を妬んでいた。
(どちらかというと呆れていましたが?)
などなど。
朗々と読み上げる内容に心の中で反論していると、改めて聖女と呼ばれる人物の酷さを実感する。
よくもまあ、些細な、しかも自業自得の出来事を私に罪として擦り付けられるものだ。言いがかりがすぎて、開いた口が塞がらない。
――それらの理由が弱いから、今日仕掛けてきたのだろうけれど……
それにまんまと引っかかったというか、押し付けられてしまったわけだ。
まさかここまでするとは思っておらず、ただただ自分の間抜けさとマリアンヌの醜悪さを前に疲れてしまった。
ちらりとマリアンヌに視線をやると、「怖いわ」とか細い声とともに黒の男の後ろに隠れた。だが、その口元はうっすらと笑っている。
彼女のお気に入りは黒だ。ものすごく美形なんだそう。
――悪女ね。これが聖女と崇められて世も末だわ。
よくもまあ、男性陣にその性根がバレないものだ。
マリアンヌにくっついている時点で似た者どうしなのかもしれないが、見ていて情けなくなる。そこにはこの国の王子もいるのだ。
呆れていると、ぐっと背中を押し付けられた。
さっきから私を拘束している騎士は、私に恨みでもあるのだろうかというくらいきつく掴んでくる。
はらり、とミルクティー色の癖のある髪が顔にかかるが、それを払いのけることもできずに私はされるがままだ。
「連れていけ!」
それから有無を言わさず引っ立てられ、塔の中に閉じ込められた。
287
あなたにおすすめの小説
国王一家は堅実です
satomi
恋愛
オスメーモ王国…そこは国王一家は麗しくいつも輝かんばかりのドレスなどを身につけている。
その実態は、国王一家は国民と共に畑を耕したり、国民(子供)に読み書きを教えたり庶民的な生活をしている。
国王には現在愛する妻と双子の男女の子に恵まれ、幸せに生活している。
外部に行くときは着飾るが、領地に戻れば庶民的で非常に無駄遣いをしない王族である。
国庫は大事に。何故か、厨房担当のワーグが王家の子どもたちからの支持を得ている。
【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます
22時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。
エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。
悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。
初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました
山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。
だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。
なろうにも投稿しています。
【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢
美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」
かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。
誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。
そこで彼女はある1人の人物と出会う。
彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。
ーー蜂蜜みたい。
これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。
【完結】ずっとやっていれば良いわ。※暗い復讐、注意。
BBやっこ
恋愛
幼い頃は、誰かに守られたかった。
後妻の連れ子。家も食事も教育も与えられたけど。
新しい兄は最悪だった。
事あるごとにちょっかいをかけ、物を壊し嫌がらせ。
それくらい社交界でよくあるとは、家であって良い事なのか?
本当に嫌。だけどもう我慢しなくて良い
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
私の妹…ではなく弟がいいんですか?!
しがついつか
恋愛
スアマシティで一番の大富豪であるマックス・ローズクラウンには娘が2人と息子が1人いる。
長女のラランナ・ローズクラウンは、ある日婚約者のロミオ・シーサイドから婚約解消についての相談を受けた。
何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。
自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。
彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。
そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。
大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる