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1-something quite unexpected-
36高塚くんがわからない①
しおりを挟むでもなぁ、と思ったのも束の間、あっという間に流されました。
私が高塚くんの本気モードに勝てるわけがない。今回は罪悪感もあったので、『りぃの』とあの独特の呼び方で名を呼ばれて秒で返事することになった。
現在、家から徒歩5分の公園。公園といっても記念公園というもので、遊具があるわけではなく、大きな桜の木が周囲に植えられそのそばにベンチが二つあるだけの小さな公園だ。
さすがに家まで来てもらうのは悪いと思うのと、住所まで知られてしまうのも避けたかったこともあった。
駅まで出ると言ったのだけど、バイクで行くからってことで家の近場で人目につかない場所はと考えてここを指定した。
あと、向かってるって言ったよね? と思ったけど、バイクの保管場所まで向かっているであって嘘はついてないとのこと。やられた。
ベンチに座りぼんやりと木々の合間の夜空を見上げていると、ブヴォォォンとエンジン音とともに一つライトの光に照らされた。眩しくて目を細めると、バイクの音がすぐそばでやみ停止する。
長い足をするりと下ろした高塚くんは、ヘルメットをとると髪をかきあげ左右に首を振った。そこですぐに視線が合う。嬉しそうに口角を上げ、駆け寄りながら確かめるように名を呼ばれた。
「りの!!」
その姿を魅入られるように眺めていたが、莉乃は慌ててベンチから立った。
「こんばんは。迷わなかった?」
「ああ。調べたらすぐわかった。ここまで出てきてくれてありがとう」
「ううん。こっちこそわざわざここまで来てくれてありがとう」
わりと強引に外に出ることを勧めたくせに、まずお礼なんだと思うと笑みが零れた。
そのまま同じようにお礼を告げると、高塚くんがふわっと嬉しそうに笑った。それがあまりにも自然体に見えて、直視しきれずわずかに視線をそらす。
足にぴったりとしたパンツに分厚いライディングシューズが、高塚くんのスタイルの良さを引き立たせ、ヘルメットで押さえつけられ乱した髪が妙に色っぽい。
同級生がバイクを乗り回す姿とかちょっとキュンものだ。むしろギュンってきた。
この人、どこまで胸キュンポイント稼ぐつもりなのか。こんなの、通りすがりの人でも見惚れてしまうレベルだと思う。
「りの」
改めて高塚くんのスペックの高さを見せつけられた気分の中、同時に昨日のことなどここにくる経緯があれこれ浮かんでくる。どっしりと重い気分で佇んでいると、低く硬い声で名を呼ばれた。
「……なに?」
気まずくて上擦った返事をしながら改めて高塚くんを見上げて、ぎょっとする。
いつのまにこんなに近づいていたのか。目と鼻の先に高塚くんの胸元が見えたと思ったら、そのまま腕を伸ばされてガバリと抱きしめられた。
突然の超接近に目を白黒させていると、こつんと頭を寄せた高塚くんが切なげに囁かれ、甘く低い声が耳くすぐる。
「来てくれないかと思った」
「ちょっ、高塚くん」
「俺、この1日生きた心地しなかった」
そのままぐぅっと痛いくらいに抱きしめられ、すぅっと息を吸い込み首の辺りの匂いを嗅がれる。
やめれ。
すんすんっと何度か嗅がれ、「りのの匂いだ」と言われどうしろと? ちょっと変態ちっくな行動ですよ。
どうした、高塚くん!?
休日を誘われたあたりから、噛み合わないことが多すぎる。どうしていいのかわからないことが多すぎるっ!!
首を伸ばし少しでも距離を取ろうとするけれど、すんすんとまだ匂いを嗅がれる。
ぎゅうっと回された腕は外されそうにない。これはダメだ。抵抗は諦めて打開策を探ろうと会話に集中することにする。
「高塚くん、どうしたの? 離して!! 匂いかかがないで」
「嫌だ。りのが足りない」
「意味がわからないよ」
「さっきも言った。りのと連絡がつかなかった1日が地獄のようだった。りのが不足してしんどいっ」
「そんな大げさな」
少し行き違いがあっただけだ。
莉乃が気持ちの整理がつかなかくて放置した時期と被って、高塚くんがやたらと連絡してきたから大事に思えるだけのことだ。それも一週間とか一ヶ月とかではなく、たった1日のこと。
「大げさでもなんでもない。俺はいつもいつももっとりのと一緒にいたいって思ってるのに」
「…………」
なにかいつもと違う。ほんと、高塚くんどうした!?
自分の気持ちもよくわからない状態なのに、高塚くんのこの変化をどう受け止めていいのかわからない。
きゅっと唇を噛み締めると、高塚くんもきゅっと唇を噛み、意を決したように口を引いた。
「──俺がりのに言った最初の言葉を覚えてる?」
「最初の言葉?」
「俺が学校でりのを見つけた日に言った言葉」
「……あぁー、」
覚えてますとも。ある意味ホラーなあの言葉でしょ? 思えば、あれで行動が制限された気もする。
探されてたんだと思うと、相手が勝手にしていたことでも申し訳なさが湧いてくるものだ。そんな相手に、冷たくできるわけがない。
ひとまず話を聞こうってなるよね。しかも相手は人気者だから、ある程度は人柄は保証されてるわけだし。
「俺はあの日からずっとりのを探してた。せっかく転校してもなかなか見つからなくて本当は焦ってた」
「…………」
それっぽいこと言ってたけど答えは教えてくれなくて、いつ出会ったのかいまだに私はわからないままだ。
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