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2-My goddess-【千歳SIDE】
53長い休日③
しおりを挟む好き、なんて簡単に言えるような存在ではない。言って欲しくない。愛しているのだ。
体の細胞がりのが欲しいって訴えている。誰にも触れさせたくなくて、自分だけのものにしていたいと思うほど。
馬鹿みたいに、毎日毎日りののことを考えて、そっけなくてもメールに返事があるだけで喜んで。
毎日触れて逃げないことを確かめないと落ち着かないほど、大事なんだ。
動物が好き、食べ物が好きの同列にあるみたいみたいな単純なものではない。分け与えられるような軽いものではない。
好きって言って好きになってくれるなら言う。大好き、愛してるって言って、同じように返ってくるなら何度でも告げる。
けど、それだけじゃ駄目だ。簡単に言って、自分の想いをりのにも他人に好きなんだと軽い感じで解釈されるのは嫌だ。
だから、言えないし、あと言うにはまだ信用が足りてない。距離がある。
『ふーん。まあ、そういうことにしといてもいいけど』
「俺のことは放っておいて」
『機嫌悪いな。溜まってんじゃないの?』
「だとしても、関係ない」
『まじなんだ? その子のこと』
「はぁ? 想像すんなよ。いないっっつったよな?」
ああ、さっきからずっとイライラもやもや。
『……ああー、わかった』
「何がだよ」
『簡単に話題にだして欲しくないくらいセンがその彼女が本気ってことだろ? わかった。そのことには俺から触れない。これから女も呼ばない。それでいい?』
「……ああ」
何を思ってそう解釈したか知らないが、ちょっと荒れている時に知り合った相手だけあっていろいろ見透かされているようだ。まあ、一緒にいるときに余計な女を呼ばないならそれにこしたことはない。
今もキョウに当たってもしかたがないのに、度量の大きいキョウには甘えてしまう。
千歳は一つ息を吐くと声のボリュームを落とした。
「……ごめん。ちょっとハヤテたちが知らない女連れてきてイライラしてた。前に話していた子のことはそっとしといて欲しい」
『わかってる。センの気持ちが落ち着いたら報告してくれるだろ?』
「多分ね。ま、適当にそっち向かうから」
『ああ』
「じゃあ」
ふぅっと息を吐き、通話を切る。
イライラしていたからって、キョウに当たるなんてどうかしていた。キョウが言ったように溜まっているのかもしれない。
だからといって、その辺の女となんて思わない。喧嘩とかして憂さ晴らしっていうのも手だけど、りのと出会う前は仕方がないとして今はできるだけ綺麗なままでりのに触れたい。
なにせ、俺の女神だから。余計な汚れはつけたくない。
人が行き交いし、今も電車から降りてきた人で溢れている。ふとなんとなく道路の方へと視線をやって、千歳は目を見開いた。
「りぃちゃん。こっち」
「拓真くん!!」
自分より年上の男が手を振り女性を呼ぶ声。そこに駆け寄った女性が、会いたくて会いたくて仕方がないりのだった。
会えるかな、姿だけでもと思って、学生が行き来している店が集まるこの駅にしてみたが、全く予想しなかった形にしんなりと眉根を寄せる。
互いに名前を呼んだあとの声は聞こえないけれど、仲が良さそうに話している。男が、ぽんぽんとりのの頭を撫でると、そっとりのの前髪を整えるように触った。
途端、千歳の腹の奥がぐつぐつと煮えたぎる。
それは俺のものだ。誰にも触らせない。触らせたくないと叫びたくなって、ぎっと口をかみしめた。
千歳の怒りなど関係なく二人は親しげに話し、男が助手席を開け左手を差し伸べると、りのはあっさりと手を乗せて車の中へと入っていった。
しかも、りのは笑っていた。俺がいないなのに、俺がいないところで他の男に……。
エンジン音とともに車が、りのが遠ざかっていく。千歳は自分でも驚くほど気持ちが冷え切っていくのを自覚した。
理性ではわかっている。だけど、ここ最近のくすぶりがその事実を許せなくて、認めたくなくて、『どうして』と思う気持ちが止まらない。
友達と遊んでいるんじゃなかったのか。嘘? りのは嘘をつくような人じゃない。だったら、誰?
どうして、『りぃちゃん』なんて親しげに名前を呼ばせているのか。
男なんていな言っていっていたのに。
そういうのじゃないと頭の隅では思うけれど、二人が出す雰囲気は親しげで、何より、りのが男の名前を『たくまくん』と呼んでいた。
俺にはずっと高塚くんなのに?
結局、ずっと引っかかっている。りのの気持ちを尊重したいと思いながら、強引にことを進めている自覚もあって。
伝えたい想いをどこまで出していいのか、どうすれば信じてもらえるのか。あと、獣のようにりのが欲しいと思う自分を曝け出す勇気もなくて。
ずっと中途半端なことにも気づいている。そんな風にりのを縛って、それでいて絶対りのを逃すつもりもないからタチが悪いのだろう。
高塚くん、とりのが呼んでくれるだけでも、一緒に帰ってくれるだけでも、たまにメールを返してくれるだけでも喜ばないといけないのに……。
それとともに、りのが下の名前で呼んでくれたなら、すぐさま貪りつくす自信もあって、呼んで欲しいのに今はまだ怖がらせたくない気持ちの方が強くて、言葉に出していない自分が悪いのだともわかっている。
だけど……。
りのの私服姿、可愛いかった。
その男のためにそんな可愛い格好しているの? いつもより足見せて。だめだよ、りの。
俺以外の男にそんな笑顔見せて、いっその事閉じ込めてしまいたいと思う。俺だけを見てくれたらどれだけ幸せだろうか。
莉乃への愛しさと嫉妬でどうにかなりそうだ。
千歳はしばらくただりのが去っていた方をぼんやりと眺めていたが、ふらりと足を運びながら、慣れた動作でりのの連絡先を押した。
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