高塚くんの愛はとっても重いらしい

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
55 / 81
2-My goddess-【千歳SIDE】

54りのだけ①

しおりを挟む
 
 千歳はいつもより早めにキョウの店を出て、自宅のマンションへと戻った。

 なんか、情けなくもらしくない反応ばかりしていた気もするが、年上のケントたちとの時間で少しばかり気持ちは落ち着いた、……気がする。
 男と一緒にいるりのを見た状態で連絡をずっと取れないまま一人でいたら、今頃りのの家に押しかけていたかもしれないと思うほど、気持ちが募りすぎて自分でもやばい状態だったと思う。

「はぁー」

 行き場のない思いとともに溜め息をつくと、千歳は鍵とともに財布をテーブルの上に放り出し、スマホだけを手にソファに沈み込む。
 
 りのの姿を見てからこうして帰宅するまでに何度もスマホを確認し、りのに迷惑に思われない程度にしようと思いながらも、起きている時間なら大丈夫かと電話とメールを数度。
 折り返しの電話もなく、メールもなく、徐々にあの男とどっかのホテルにいてとか悪い妄想が止まらなかった。 
 だが、りのは付き合っている相手がいて自分と毎日放課後過ごすような軽い女じゃないと必死に自分に言い聞かせた。

 言い聞かせて、理性ではそうだと思っているが、ただの送り迎えにしても、自分以外の男の存在は気になって仕方がない。
 兄かもって自分の都合のいいように考えたが、『りぃちゃん』っていう呼び方はあまりにもシスコンすぎてなんとなくりのの兄と違うように思う。
 だったら、やっぱりあの男は誰なんだと苛立つ。血縁以外の男がりのの近くにいると思うだけで、心が荒む。

「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ」

 千歳の気持ちは行ったり来たり、期待や不安と忙しなく、自分で自分のことを傷つかないように予防線を張ってあれこれ考えていることには気づいていない。

 今までの千歳なら、女性の気持ちを慮ることもなく、最低限の礼儀をもってそれなりに女性を喜ばせる行動はするが、言われた言葉をそのままに受け止めたあとは自分の気の向くままに動いてきた。
 言い換えれば、自分の気持ちに誰も侵略されるようなことはなく、土足で入ってくるような女は速攻切り捨てたらいいだけで、どれだけ縋られても嫌だったら気持ちは動くこともなく、異性関係で気持ちを乱されたことはない。

 だが、りのに出会ってからは、何もかも初めての心の動きに精一杯で、りのだけが千歳の心を揺さぶる。
 あれこれ考えて、悩んで、結局ただ携帯を手元に置いてなくて何もなかった場合しつこく連絡を残すことになってもと思い、これで終わりだと自分に言い聞かせるように11時におやすみのメールを打った。
 しばらくそのままスマホを片手に待ってみたが、諦めてお風呂に入る。その間に連絡が来ているといいと、いつもより少し長めに入ってみたが、出て髪を拭きながらスマホを確認しても、りのの連絡はなし。

「りの」

 暗い画面に言葉が落ちる。

 寂しい。苦しい。りのを俺だけのものにしたい。
 親しげな男の存在を見ただけで、自分の存在があっという間に脆くなった。今までの経験上、どこか驕っていた自分を自覚する。

 人から見れば順風満帆な千歳だが、なにも苦労しなかったわけではない。それなりに千歳も努力をしてきたし、悩みだってある。
 だけど、大抵、望まなくても手に入る事の方が多く、それはだいたいがどうでもいいものであったけれど、人よりは恵まれていることはしっかりと自覚もしていた。
 自覚した上で、それをしっかり利用して自分の過ごしやすいように周囲に干渉してきた。それがうまくいっていたから、りのに対しても自分が頑張ればどうにかなると思っていたところもあったのだろう。

 それに気づくと、途端に自分が小さな存在だと改めて思う。そもそも相手は女神だ。
 そんな自分が女神に手を伸ばしていいのだろうかと一瞬だけ悩むが、やはり一瞬で。それ以上に欲しい気持ちが、あっという間にそんな感情を上書きする。

 どうしても渇望せずにはいられなくて、結局、捕まえることしか考えられないことを自覚する。
 だいたいが、りのがあんなに可愛いのがいけない。

 そんなりのが自分以外の他の男を虜にしないわけがなくて、やはり側に置いておかなければと焦る気持ちが大きい。
 心が見えないから、わかりやすく身体からなんて悪い男の考えだって湧いてきて、一度考えると興奮で下肢が熱くなるが、大事な大事なりのに同意もなしにそういうことはできないとすぅっと冷める。

 寝付けなくて、布団に潜りながらどれだけマイナスな感情が浮かんでも、逃がす気はないというのは千歳の絶対だった。
 捕まえるのが絶対なのなら、あとはどう捕まえるのかが問題で。

 できることなら、怯えさせず喜んでりのから千歳のもとへと来てくれることがベストなのは変わらない。
 それが無理なら、どんな手を使ってでも絡め取るつもりだ。絡め取って、あとは幸せにしたらいい。

 幸せにするには、やっぱり怯えさせることはよくないとわかっているから、どこまで積極的にいっていいのかを迷いはする。
 だけど、逃がさないってことは絶対で。
 結局は自分の要望を押し通す気満々なことには変わりなく、あとは少しでもりのに寄り添えるようにと思うばかり。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

セーブポイントに設定された幸薄令嬢は、英雄騎士様にいつの間にか執着されています。

待鳥園子
恋愛
オブライエン侯爵令嬢レティシアは城中にある洋服箪笥の中で、悲しみに暮れて隠れるように泣いていた。 箪笥の扉をいきなり開けたのは、冒険者のパーティの三人。彼らはレティシアが自分たちの『セーブポイント』に設定されているため、自分たちがSSランクへ昇級するまでは夜に一度会いに行きたいと頼む。 落ち込むしかない状況の気晴らしにと、戸惑いながらも彼らの要望を受け入れることにしたレティシアは、やがて三人の中の一人で心優しい聖騎士イーサンに惹かれるようになる。 侯爵家の血を繋ぐためには冒険者の彼とは結婚出来ないために遠ざけて諦めようとすると、イーサンはレティシアへの執着心を剥き出しにするようになって!? 幼い頃から幸が薄い人生を歩んできた貴族令嬢が、スパダリ過ぎる聖騎士に溺愛されて幸せになる話。 ※完結まで毎日投稿です。

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

喚ばれてないのに異世界召喚されました~不器用な魔王と身代わり少女~

浅海 景
恋愛
一冊の本をきっかけに異世界へと転移してしまった佑那。本来召喚されて現れるはずの救世主だが、誰からも喚ばれていない佑那は賓客として王宮に留まることになった。異世界に慣れてきたある日、魔王が現れ佑那は攫われてしまう。王女の代わりに攫われたと思い込んだ佑那は恩を返すため、身代わりとして振舞おうとする。不器用な魔王と臆病な少女がすれ違いながらも心を通わせていく物語。

十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】

藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。 そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。 記憶を抱えたまま、幼い頃に――。 どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、 結末は変わらない。 何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。 それでも私は今日も微笑む。 過去を知るのは、私だけ。 もう一度、大切な人たちと過ごすために。 もう一度、恋をするために。 「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」 十一度目の人生。 これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。

元大魔導師、前世の教え子と歳の差婚をする 〜歳上になった元教え子が私への初恋を拗らせていた〜

岡崎マサムネ
恋愛
アイシャがかつて赤の大魔導師と呼ばれていた前世を思い出したのは、結婚式の当日だった。 まだ6歳ながら、神託に従い結婚することになったアイシャ。その結婚相手は、当代の大魔導師でありながら禁術に手を出して謹慎中の男、ノア。 彼は前世のアイシャの教え子でもあったのだが、どうやら初恋を拗らせまくって禁忌の蘇生術にまで手を出したようで…? え? 生き返らせようとしたのは前世の私? これは前世がバレたら、マズいことになるのでは……? 元教え子を更生させようと奮闘するちょっぴりズレた少女アイシャと、初恋相手をもはや神格化し始めた執着男ノアとの、歳の差あり、ほのぼのありのファンタジーラブコメ! ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

とんでもない侯爵に嫁がされた女流作家の伯爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
面食いで愛人のいる侯爵に伯爵令嬢であり女流作家のアンリが身を守るため変装して嫁いだが、その後、王弟殿下と知り合って・・

処理中です...