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2-My goddess-【千歳SIDE】
59お願いだから④
しおりを挟むりのが手に入らないなら、いろんな我慢とかも意味がないし。りのがいないなら、自分が何をしたいとかわからなくなる。
それだけ、もうりのしか見えないのに。
こんな時なのに、身体の奥底がすぅっと冷えていくのに、怖いと言われたから怖がらせまいと慣れたように顔だけは笑みを作れるなんて俺すごいな。
「ねえ、俺のフルネーム知ってる?」
「知ってるけど」
「そ。なら、俺の名前言ってみて」
「……高塚千歳くん」
「ふーん。知ってるんだね」
ちゃんと知っててくれたんだ。だけど、呼ばなかったのには意味がある? それとなく促してきたけど、気付いていなかったのかあっさりとスルーされてきた。それはどうして?
「次は下の名前だけで呼んで」
ああ、こんな風に距離を詰めるつもりじゃなかったのにな。
昨日の男の姿がずっと目に焼き付いて、どうしても言わせたくなってしまう。
「ち、とせくん?」
おずおずと名を呼ばれたが、ちっとも嬉しくなかった。やっと呼んでくれたのに、何も感じない。
「呼び捨てで」
「えっ? 何で?」
「何でって。俺はいつそう呼んでくれるかなって思ってたけど、いっこうに呼んでくれそうにないし? いつまでも高塚くんだし」
こんなこと言うなんて余裕なさすぎだろ、俺。だけど、昨日の男は下の名前で呼んでいたくせにと思うと、むかむかして。
「…………」
「りのは俺が何を考えているかわからないっていうけど、俺はいつも態度で示していたつもりだ。だけど、いつまで経っても近寄らせなかったのはりのの方」
「そんなつもりは……」
そんなつもりはなかったって? なら、どんなつもりで俺と一緒にいてくれたんだろうか。
そんな言葉では納得しないと、千歳は肩を竦めて首を振った。
「でも、それはいいんだ。俺がしたくてしてるから。りのがそれに付き合ってくれるだけで良かったし」
「………」
「でも、それをやめろと言われたら話は別だよ。誘いもメールも俺から、いつまでも名前だって呼ばれない。最初に俺は言ったよ。りのと一緒にいたいって。そのために動いてたつもりだけど、その手段を奪われるなら俺も言わせてもらう」
「……高塚くん?」
りのは困惑している。
やっぱり自分の気持ちは伝わってなかったんだ。好きになるってことが初めてで、自分なりにアピールと相手の気持ちの尊重をと思って動いてきた時間は一体なんだったのだろうか。
「りのはわかってない。俺がどんな思いでいたか……。りのは俺が信じられないからそういうこと言うんだよね? 俺のなにが信じられない? そんな俺が言葉にしたところでりのはそれを信じてくれた?」
すぐにでも手を出しそうになるのを我慢しているのを。
少しでも警戒心を減らして俺しか見えないように好印象を抱かせようと頑張っていたのに。
少しでも触れてもいい関係になれば、すぐに求めてしまいそうになる。
でも、そんな千歳の気持ちはりのには関係ないとわかっている。千歳が我慢すればいいだけで、千歳の問題だということも。
だけど、それだけりのへの溢れる気持ちはどうすればいいのか。
「……っ」
「りの。何か言って」
愛してるって今すぐ言ってしまいたい。だけど、今はもっと伝わらないんだろう。きっと、今のりのに言ってもこの言葉は軽くなる。
そんなことは望まない。俺の気持ちは軽いものじゃない。
どうすれば伝わるのだろうか。どうやったらりのを繋ぎとめられるのか。とっくに俺はりのだけなのに────。
「………ごめん。高塚くんと一緒に帰ったりするのは楽しかったけど、やっぱりもうこういうのやめたい。連絡もしないで欲しい」
再度の拒絶に、千歳は今度こそすべての機能が停止した。耳が、音が、遠くなる。
「じゃあ」
走り出したりのを追いかけなければと思うのに、身体が動かない。りのが離れていってしまう。
────お願い。りのじゃないと俺は俺でいられないんだ。だから、戻ってきて。
千歳の切実な思いは届かず、りのの姿は簡単に遠ざかっていった。
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