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ご褒美③
しおりを挟むその後、男を治安部隊に預け、もろもろの手続きをする際に、今回やたらと私にこだわったのはイーサンの親戚に唆されたからとのことだった。
彼らは自分たちが金もなく苦労しているのに伯爵家にうまく取り入ってのうのうと過ごしているイーサンに腹が立ち、イーサンが目に入れても痛くないほど大事にしている伯爵令嬢、つまり私を手込めにすれば溜飲が下がるといった理由で自分たちも借金している商家に情報を売り込んだらしい。
とことん腐った親戚である。
完全に縁が切れたこと、彼らも爵位があるから増長するのだと、彼らの罪を暴き返還に踏み切ったと言っていた。
あと、後にわだかまりが残らないように借金の返済はしたが、そもそも商家の男が無用な圧力をかけて借金を背負うことになったようで、そのうち取り戻すことになる手はずだという。そもそも逃げた男が返済すべきで、その男が見つかるのも時間の問題だろうとのこと。
だから、ミラは何も気にすることなく安心してくれていいと言われた。
事情聴取の間、イーサンは私のそばをべったりと離れず、しまいには治安部隊の人に呆れられさっさと帰れと追い出されるほどで、そんな怒濤の展開を迎え私たちは屋敷に帰り今イーサンの部屋にいた。
帰宅した私たちを見た両親はほっと息をつき、それから私の腰を手を添えて一向に離れる気配のないイーサンに「くれぐれもミラの気持ちを無視するような行動は控えるように」とだけ言って、イーサンと私が部屋にこもることを許した。
あっという間のことで、現実感が追いつかないままベッドに押し倒され逃げないようにのしかかられ、自分よりも大きな身体のイーサンを見上げる。
ひやりとしたシーツの感触と、上から放たれる熱気にぞくぞくしそれが吐息とともに現れる。頭の芯は冴えているのに周囲がほわほわと熱に浮かされていく。
「イーサン……」
ここまで来ると、私もさすがにどんな状況なのか気づく。そして、イーサンの気持ちも。
曇りのない瞳は情念の炎で揺れ、口元に浮かぶ酷薄な笑みが獲物を狙う獣のようだ。
「ミラというご褒美ちょうだい」
「ご褒美……」
そう言えば、そういう話だったと思い出す。
日常に刻まれた私たちの約束を忘れていたわけではなかったけれど、いろいろありすぎてあちこちに思考が飛んでいく。
「僕はずっとミラしか見えない。ミラしかいらない。ミラの全てが欲しい。だから、僕の幸せを願うならほかの男のことなんて考えてはダメだよ」
かけ過ぎないように体重を乗せ動きを封じられ、逃げ道をなくすように両手を拘束される。
大きな手は指を回すだけで簡単に私の腕の動きを封じた。その上、足を挟まれ下半身を擦り付けるように押しつけられる。
「あっ」
直接的な行動に思わず声が出た。
反応してしまうことが恥ずかしくて、私の反応ににっと笑むイーサンの姿にどくんと鼓動が高鳴る。
――これは誰だ?
こんな雄くさいイーサンを私は知らない。
べったりくっつかれていたけれどそれは常に上半身のみで、熱を帯びた双眸とともにひどく扇情的な行動もイーサンの気持ちの表れのようで顔が茹で上がる。
「ミラがいるから僕は頑張れるし毎日が楽しい。ミラがいない日常に幸せなんてないから。たとえ、ミラが僕の幸せのためだとしても離れようなんて考えること自体僕には耐えられない」
「……一緒に居すぎて愛情をはき違えている可能性は?」
率直で情熱的な告白に胸が疼く。
それでもあまりにも長く近くにいすぎたため、それを疑わずにはいられない。
私自身がずっとそう思ってきて、そして明確にイーサンへの気持ちを自覚し認めたのも先ほどで今までの考えが抜けきれない。
「それこそ今更だよ。もうとっくに僕はミラを女性として好きなのに? その上でミラがほかの男を見ないようにずっとべったりくっついて寄せ付けないようにしてきたのに? それでも僕のこの思いが刷り込みだとでも言うの?」
「…………」
あまりにも堂々と語られ、不安を抱いていたこと自体がおかしいような気がしてくる。
見つめる眼差しは熱を含んでいるけれど、窺い甘える姿は私の知るイーサンでもあって、この双眸に見つめられると無条件でイーサンのことを受け入れたくなる。
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