死に役はごめんなので好きにさせてもらいます

橋本彩里(Ayari)

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好きにしよう①

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 さて、やめることを決めたら今度は暇になった。
 改めて、私の日常はデュークに始まりデュークで終わっていたのだと痛感した。

 常にデュークのことを考えて動いていたので、スケジュールもデューク仕様。
 そこにデュークとの濃密な交流があるわけでもないのに、少し言葉を交すだけでも、見られるだけでも幸せだと感じていた。
 報われないのに……、と思うと泣けてくる。

 学園での授業と淑女教育以外ですることがない。
 全く何もないのだ。

 何をするにもデューク。勉強も刺繍やマナーもすべてデュークに釣り合うために頑張ってきた。
 それらが決して無駄になったわけではない。貴族子女である限り身につけておいて損はないので、これからは自分のために頑張ればいい。
 けれど、それ以外がすべて空白になってしまった。

「うう~ん。暇ね」

 マナーの先生が帰った後、本来ならデュークに手紙を書くかデュークを想い刺繍していたがそれらはもうやめた。
 デュークの予定を気にして動いていた私は、かなり自由な時間ができた。

 空いた時間も暇だと感じるのは、前世は好きなものがたくさんあったようで、それらの時間を楽しんでいたためもあるのだろう。
 のんびりするのもいいけど、もっと有意義に過ごそうよと内側から急かしてくる。

 あとはデュークのことを考えようものなら、ほかの女性とくっつく相手に時間を割くなんてといきどおっている。好きだからこそ、報われない想いに泣いている。
 今まで幸せに感じてきたことも、前世の記憶と性格がちょっと交ざって感じ方が変わってきた。

「私も何か好きなことをみつけなきゃ」

 そうすれば、デュークのことを考える時間は減るだろうか。
 この好きの気持ちもなくなっていくだろうか。

 デュークに振り回されず好きにしたい。
 自分のために好きな時間を使いたい。

 そう思って一週間。
 前世の記憶は私にとって衝撃的で大きな変化をもたらすものであったけれど、世間は変わらず過ぎていく。
 婚約者であるデュークも何も気づくことなくいつも通りだった。

 その事実を突きつけられるたびに悲しんでいたけれど、次第に心が疲弊してデュークを見るのも嫌になった。
 姿を見るとつらいだけなので、食堂にも行かず教室で食べるようになった。
 授業が始まるまで本を読んでいると、クラスメイトのジャクリーン・モンティス公爵令嬢に声をかけられる。

「ここ最近、オルブライト様はお一人で食事されていますが、ウォルフォード様と何かあったのでしょうか?」
「いえ。何もありません。そもそも学園で一緒に食事をしたことはありません。ただ、自分の行動を変えてみようと思いまして」

 びっくりするほど何もない。
 デュークにとって、私の行動はあってもなくても困らない認識だと突きつけられただけだった。

 自分の今までの行動は何だったのかと悲しくなったけれど、はっきり無駄だとわかったならばこれから変えていけばいいだけのこと。
 何度も何度もそう自分に言い聞かせてきたけれど、ちくちくする胸は痛くて私はそっと目を伏せた。

「えっ? 嘘ですよね? 常に一緒にいる印象なのですが……。確かに言われてみると一緒に食事をしている姿は見たことがないかも」
「はい。今まではデューク様に頑張っていただけるよう、少しでも栄養があるものやリラックスできるものを届けていただけでしたので。その後は食堂の片隅で一人で食べていました」

 少しでも役に立ちたくて、何より会いたくて、毎日会いに行っていた。
 ほんの少しの逢瀬であったけれど、私がデュークの後を追いかけていたのが目立ち常に一緒にいる印象が強いようだ。

「なんとまあ! そんな扱いを!? 私でしたら耐えられません」
「私が好きでしていたことですので。ですが、デューク様は殿下のことを含め非常に忙しい方で。今まではそのサポートができればと考えていたのですが、よく考えたら私がしてきたことは知れているのです。むしろ、邪魔になっていたかもしれなくて」

 実際は渡すだけ渡して会話もあまりないので、一人の時間のほうがかなり長い。
 屋敷にいる間にデュークのためになるものを考えて、学園ではデュークの邪魔にならない時間帯を見計らって追いかけて、昼時だったら少ない残り時間でご飯を急いで食べる。

 少しでも会えて、支えになれたらとの行動だった。受け取ってもらい、少し話せるだけで幸せだった。
 本当、健気だったなと音沙汰のない日々を思い苦笑する。

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