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誤算と決意④
しおりを挟む気持ちはまだデュークにある。けれど、もう疲れたのだと正直に告げた。
一か月の連絡のなさ、ヒロインとの出会い。
自分ばかりが好きで追いかけてきたけれど、気持ちの糸がぷつりと切れたと正直に話した。
貴族社会で恋愛結婚は難しい。ましてや好きな人と結ばれるなんて奇跡なのに、好きすぎてつらいとは贅沢なことだとわかっている。
だけど、今までと感じ方や考え方が変わった今、結婚生活はかなり苦しいものになると思った。自分が勝手に期待し失望して、その感情ゆえに日常に影響を及ぼすくらいなら離れるほうがいい。
迷惑をかけることを謝ると、家族はものすごく悲しそうな顔をしながら理解してくれた。
ただ、勝手に決められない。解消してしまえばもう縁は戻ることはできない。
そのため、二人でしっかり話し合ってから、それでも私が婚約破棄を望むのならその気持ちを尊重しようと最後には言ってくれた。
両親は私の気持ちが変わることを期待しているようだけれど、デュークと話し合っても変わらないだろう。
今はよく視線を感じそこに熱が含まれているような錯覚を受けるものだけれど、私がそうしたいと言えばそうかとデュークは了承するに決まっている。話し合いというよりは、報告会で終わるのではないだろうか。
この婚約は私の好きがあったから進んだのもあるので、気持ちがないと告げたら案外あっさりと解消されるのではないかと思っている。
家門としても政治的な関係で利点はあったけれど、なければないで構わない。
どちらも安定している家門なので、私たちが破談になればまた違う先でさらに政治的な意味合いが強いところや事業として有効な家と関係を結ぶという手もある。
デュークは誰でもいいというわけではないけれど、どうしても私がいいわけでもない。
次期公爵の立場からしても引く手数多で、私が嫌だと言ったらデュークは気持ちを尊重してくれるはずだ。
「デューク様との婚約は両親の仲が良いことから始まり、私のデューク様への好意がきっかけで進んだので、私たち本人の意志を尊重すると言われています。諦めると決めた以上、いつまでも幼馴染だからと縛っておくのは酷でしょう。出遅れた感はありますが、新たな候補を探すにはまだ間に合う時期かと」
「確かにフェリシアなら婚約が白紙になったらたくさんお話がくると思いますが」
実際、デュークと婚約してからもその手の話が全くないわけではない。もちろん婚約は公に発表されているので、先方ももしもがあればと思ってくらいのものだ。それはデュークも同じだろう。
それらを断りそのまま婚約関係を続けていたのが答えだと、だから未来は明るいと信じていたのもあった。
「ええ。まだ先方には破棄したい旨を伝えていませんが、最後はしっかり向き合ってお話ししてからできればわだかまりを残さずと思います」
両親が仲がいいので、その辺はしっかりしておきたい。
あと、兄たちは嫁がなくても養うと言ってくれているが、お荷物のように過ごすのは嫌なので、できれば家門に少しでも役に立てる家柄と心穏やかに過ごせる人のもとに嫁ぎたい。
それよりもまず生き残ることが先だ。
情報は集めてはいるけれど、それらが役に立たない可能性だってある。
火種があるのか、これから私個人が恨みを買ってしまうのか、デュークとベリンダに関わることなのか、ただの偶発的なイベントなのか。
とりあえず人気のないところで一人の行動は避け、男性とは二人きりにならないくらいしか対処しようがないので心許ない。
定かではないことが多く手探り状態だ。
ほかに情報がないかと頑張って思い出そうとするけれど、なにせ復讐してからもイベントがあってさらに絆を深めていく恋愛物語なので情報不足にもほどあがる。
デュークはずっと後悔していたとあったから、今回の交流の後にベリンダとその犯人は本格的に留学してきてからの話だったのかもしれない。
物語上の私の扱いを考えるとやっぱり腹が立ってくるけれど、そこに怒りをぶつけている場合ではない。
「フェリシアたちが婚約を解消すれば喜ぶ殿方も多いでしょうね。でも、私は以前からお二人の姿を拝見するのがとても好きだったのです。クールですが頼もしい、……まあ、女心はわかってなくて疎いですが浮気男よりマシなウォルフォード様と愛らしいフェリシアが一緒にいる姿は一枚の絵のようにしっくりきて素敵だと思っていたのですよ」
「ありがとうございます」
私もデュークが好きだった。今もやっぱり好きだと心が訴えている。
お似合いだと言ってもらえるとやっぱり嬉しかった。
その晩、詳しい資料が届いた。
その中で、この一か月の様子を含め怪しいと思う三人を絞り出す。
一人目は、ローマン・メイヒュー侯爵令息。
本人がというよりは、十年前の交流再開の際に事業を持ちかけられてオルブライト侯爵家は断ったことがあった。本人が実際のところその件をどう思っているのかわからないけれど、接点がある以上除外はできない。
二人目はシオドア・クロンプトン子爵令息。
女性に気安く私たちにも話しかけてくる。特に何もないように見えるけれど、積極的に接触してくる相手はやっぱり気になった。
ほかにも調子がよい人物はいるけれど、デューク一筋だった物語の私がこのようなタイプで話したことがない人についていくのはありえない。
そして、三人目はコーディー・アドコック伯爵令息。
ベリンダの友人で常に彼女の横にいる男性で、私が二人を視界に捉えると常に彼もいて、気のせいで済ますには次第に彼に観察されるように見られることが増えていた。
情報と現状と自分の性格も考えて、可能性はこの三人。
まだ見えていないものがあるかもしれないけれど、警戒する対象が絞られて全方向に向けられていた緊張が多少緩和されると同時に気が引き締まる。ぐるりと赤ペンで囲い込んで机の奥にしまい込んだ。
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