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魔力検証
魔力検証と隊長①
しおりを挟む伯爵領に到着し、天気も良いしさっそくとばかりに魔力検証を行うことになり、青空が広がる天気のもと、私、フロンティア・ロードウェスターは、こっそり視線を下げた。
伯爵家の屋敷からそこまで離れていないのに、しっかりとアンドリューに手を繋がれている。
しかも、エスコートとしてそっと手を置くような軽いものではなく、恋人繋ぎの指絡めである。さりげなく手を外そうと何度か試みたけれど見事に叶わなかった。
対外的に爽やかな王子としてそれでいいのかと、こちらが心配になる。
父は微妙な顔をしていたが、母や使用人にはまぁっと妙に晴れやかな笑顔で見送られた。どうやら両親に話は通っているようだ。どのような話をして、これがスルーされているのか不安すぎる。
女性陣のテンションの高さはなんともわかりやすくて、私は眉をしかめた。
本当にどんな話がなされているのか。この流れは、姉のときと似ていて非常に追い詰められた小動物のような気分になる。
道中の馬車でぐいぐいくる王子にあたふたさせられながら、出迎えてくれた野菜たちにほっこりし、シュクリュやカブ隊長の姿に気持ちは弾みと、伯爵領に帰ってくるまで私の心臓は休まることはなかった。
馬車にこもったまま到着したことに気づかずしばらく待たせることになってしまったので、居心地が悪いと思うのは私だけだろうか。
いつまでも気にしていては始まらないと気分を入れ替え、今ではずいぶんと広くなった畑であるが、一番最初に与えられた一角へと王子を案内することになった。
機嫌良さそうに笑みを浮かべながら歩くアンドリューを仰ぎ見ると、すぐに視線に気づいた王子は柔らかに目元を緩めて私を見下ろしてきた。
鮮やかな蒼海の瞳に、少し間の抜けた自分の顔が映り込んでいる。
凝視しきれず視線を下げると、先ほど散々重なった形の良い唇が笑みをかたどっていく。
思わず注視してしまい、うわぁーんと慌てて視線を外した。甘い空気が恥ずかしくて耐えきれず、誤魔化すようにやや早口で話しかける。
「あの、両親に何を話したのですか?」
「ん? 内緒だ」
「内緒……」
内緒となとうむむと考え込むと、くすりとアンドリューが笑った。
「うそ。別に内緒でもなんでもない。要約するといずれティアをもらうよって話してあるだけだ」
「……婚約もしていないのに」
「本来そこまで持っていけたら良かったが、切れるカードがまだ少ない。ただ、これから話を詰めるからティアは心配しなくてもいい」
非常に心配なんですけど。
相手はこの国の王太子殿下だし、こちらの伯爵家というよりは王族側に様々な問題が出てくるのではないのだろうか。
姉とオズワルドのとき以上に容易ではないことは簡単に想像がつく。あと、
「私の意志は?」
「だって、ティアはもう俺のものだろ? 誰にも渡す気はないからな。いずれティアの気持ちすべてを俺のものにするなら、今から準備しておくべきことはしておかないとな」
すごい自信だ。さすが俺様。
微笑みながらの宣言は顔だけ見ると爽やかだけど、アピールすることに遠慮しないアンドリューのせいで一気に周囲がお祝いムードである。
攻めると宣言されているが、了承もしていなくて、でもはっきりと拒否もしていない現実。
アンドリューが示すほど明確な形はまだ見えていない好きだけれど、異性として一番気になって仕方がない相手。
キスされても嫌だと思えなくて、むしろとろけてしまって……、ひゃー、思い出しては駄目だ。
とにかく、どこかでこのまま流されていつか捕まってしまうのだろうなと思っている自分もいて、その事実と周囲の歓迎具合に顔から火が吹きそうだ。
馬車でのことを思い出すと表情に出てしまいそうだし、今は考えまいと魔力、魔力と心の中で唱える。
歩いている道中、野菜たちが徐々に増え始め、その姿を見て気持ちは落ちついてくる。
ぴょこぴょこ飛び跳ねたり、手を振ってきたり、大きく重い野菜を下にして、順番に野菜が積み上がっていたりと楽しげだ。
メロンやスイカのぽよんぽよんの上を、ラディッシュたちがトランポリンみたいに利用して次々と跳びながら移動している。
それを心配そうについて行くナルシストナス。
あのナスが出てきたときは、ふっ、とばかりにヘタをかきあげる仕草ばかりで一向に手伝いもせずで周囲からもずいぶん浮いていた。「おまえの手はヘタをかきあげるために生やしてきたのか」と、えいやぁって放り投げたくなるくらいナルシストであった。
だが今は、ラディッシュたちに懐かれておかん気質が身についたようで、すっかり野菜たちの仲間として溶け込んでいる。
「ふふっ」
この光景は愛おしく、私はやはり伯爵領がとても好きだと心から思う。
畑はもう目の前で、待機するカブ隊長とシュクリュの姿にさらに笑みが浮かんだ。彼らのためにも、王子にしっかり見てもらって対策検討していくのだと気合を入れる。
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